レビュー
小型軽量,左右対称デザイン採用,光学センサー搭載の最新モデル
Razer Abyssus
中国の「Warcraft III」プロゲーマーである,XiaoFeng “Sky” Li氏の協力を得て開発されたSalmosaは,小型軽量を志向した,光学センサー搭載のワイヤードマウスだった。そして,その後継として,市場から消えゆくSalmosaを置き換える格好で登場してきたのが,「Razer Abyssus」(以下,Abyssus)である。
アリゾナ砂漠に棲息するガラガラヘビの一種「Crotalus Oreganus Abyssus」からその名が取られたと思われるAbyssus(アビサス)。その外観はSalmosaを踏襲しており,小型軽量,左右対称デザインといった基本仕様に違いはない。実勢価格も4700円前後と,Salmosaと同等の手頃さを維持している。
一方,搭載するセンサーは,最大解像度1800DPIの「Razer 3G Infrared Sensor」から,同3500DPIの「Razer 3.5G Infrared Sensor」へと置き換えられた。最新世代の光学センサーを搭載してきたわけだが,それにより,使い勝手はどう変わったのか。今回は,Salmosaとの比較を交えつつ,Abyssusの実力を明らかにしてみたい。
ゲーマー向けマウスとしては突出して小さく軽い
Salmosaと同様にクセは少なく,多くの持ち方に対応
また,重量もケーブル込みで実測108g,ケーブルを秤からどかした参考値で同72〜75gと,一般的なゲーマー向けマウスの中にあって,最軽量クラスである。ローセンシで激しく振り回しても疲れを感じづらいというのは,地味ながらもはっきりしたメリットだ。
この形状と,つるつるした表面素材とが相まって,指で側面を力一杯挟み込む持ち方をした場合に滑ってしまう恐れがあるのは確かに心配のタネだが,ただ,よほど手に汗をかきやすい体質でなければ問題ない。また,軽くつまむ程度の力の入れ方をする人なら,フィット感の弱さと操作のしにくさは直結しないだろう。いずれにせよ,この形状が操作面で不利に働く印象までは受けない。
USBケーブルは(いい意味で)特筆すべき点がない印象。最初に軽くクセを付けてやれば,不満なく利用できる |
本体底面。テフロン加工済みのソールは,ケーブル側に小型のものが二つ,手首側に大型のものが一つ用意される |
両サイドが奥側(=ケーブル側)に近づくにつれてねじれ,底面に向かって切れ込んでいくような形状になっているため,メインボタンの“下”に指を潜り込ませるような感じになって,結果,軽々と持ち上げられるのがうれしい。
ただ,指がマウスパッドに触れて,摩擦が生じやすい状況になりがちなのが,気になる点ではあった。また,本体に人差し指と中指,薬指の3本を乗せるスタイルだと,メインボタン端の角張ったあたりに指が来てしまい,収まりが悪いというのもある。
かぶせ持ちでも無難に使えるAbyssusだが,人によっては合わないと感じられるかもしれない。
メインボタンとホイールの感触は満足できるレベル
サイドボタンがない点はやはり割り切りが必要
そのため,クリック感はSalmosa比で多少重くなっているのだが,今思えばSalmosaのメインボタンは軽すぎた感もある。むしろAbyssusで,ちょうどいい押し具合になったともいえるだろう。また,メインボタンを,最もケーブル寄りのところで押下したときと,スクロールホイールよりやや手前側の位置を押下したときとで,重さに大きな違いはなく,指先を立てて持つ場合でも,メインボタンの重さに悩まされたりせず済むのはいい。
ちなみに,Salmosaのレビュー時にあった,クリック時に「キコキコ」と異音がする問題も,筆者が入手して試したAbyssus,計2台に関しては,一切ない。
ボタン類に関して不満があるとすれば,それはサイドボタンやチルト機能がないため,割り当て可能なボタン数が少ないことくらいだろう。筆者個人は,サイドボタンやチルトに重要な機能を割り当てることはまずないので,ボタンが少ないこともとくに気にならないのだが,サイドボタンなどを積極的に使う人からすると,この点は大きなマイナスポイントだろう。Salmosa同様,サイドボタンは不要と言い切れる人向けのマウスであり,その点では割り切りが必要だと思われる。
DPI設定にかかわらず追従性はほぼ完璧
ただし1000Hz時の挙動には一抹の不安も
Abyssusは,「Razer DeathAdder 3500」とも呼ばれる新型「Razer DeathAdder」(以下,DeathAdder 3500)に続き,Razer 3.5G Infrared Sensorを搭載する二つめの製品になる。DeathAdder 3500のレビュー時には,特定のトラッキング解像度設定において追従性が低下する結果が得られたが,同じセンサーを搭載するAbyssusはどうなのか。
ニュース記事でもお伝えしているように,Abyssusの場合,選べる選択肢が3500/1800/450DPIの三つだけなので,すべての設定で,ゲーマー向けマウスパッド上で動作させたときの挙動をチェックすることにした。
テストに用いたPCは表1のとおり。その下には,テストに当たっての諸条件と方法をまとめてある。
●Abyssusの基本設定
- ドライババージョン:v1.00
- ファームウェアバージョン:未公開(※2010年5月10日時点でファームウェアに関する情報は公開されていない)
- トラッキング解像度設定:3500/1800/450Hz
- ポーリングレート:1000Hz(※選択肢が1000/125Hzのため)
- Abyssus側設定「感度」:10(※デフォルト)
- Windows側設定「マウスのプロパティ」内「速度」スライダー:中央
- Windows側設定「ポインタの精度を高める」:オフ
●テスト方法
- ゲームを起動し,アイテムや壁の端など,目印となる点に照準を合わせる
- マウスパッドの左端にマウスを置く
- 右方向へ30cmほど,思いっきり腕を振って動かす「高速動作」,軽く一振りする感じである程度速く動かす「中速動作」,2秒程度かけてゆっくり動かす「低速動作」の3パターンでマウスを振る
- 振り切ったら,なるべくゆっくり,2.の位置に戻るようマウスを動かす
- 照準が1.の位置に戻れば正常と判断可能。一方,左にズレたらネガティブアクセル,右にズレたら加速が発生すると判定できる
なお,Abyssusの場合,トラッキング解像度とポーリングレートは,本体底面のスライド式スイッチで設定できるのだが,前者は先ほど述べたとおりの3段階,後者に至っては1000Hzまたは125Hzという,かなりざっくりした2段階からの選択式になっている。
正直なところ,トラッキング解像度設定で,1800DPIの下が450DPIというのは,さすがにざっくりしすぎではないか。3段階しか選べないなら,3500/1800/900DPIでよかったのではないか。また,ポーリングレートについては,せめて500Hz設定は用意されてしかるべきではないかと,ツッコミどころは豊富なのだが,ともあれ,選択できないものは仕方がない。筆者のマウスレビューでは,ポーリングレート500Hz固定が基本なのだが,今回は1000Hzに設定しているので,この点はあらかじめお断りしておきたい。
というわけで,テスト結果をまとめたのが表2である。トラッキング解像度設定にかかわらず,まったく同じ挙動を示したため,今回は表を一つにまとめた。
ポーリングレート1000Hz環境下においては,いずれのトラッキング解像度設定でも,ほぼ完璧な追従性を発揮したといえる。一部の布系パッドと組み合わせたとき,腕を思い切り振って高速動作させた場合に限り,画面が一瞬逆方向へと動いてから止まることはあったので,高速動作時のテスト結果に△,▲,×が散見されるものの,より現実的なスピードで動かす限り問題はなかった。
なお,「SteelSeries QcK mass」における高速動作時に,テスト環境1で△,テスト環境2で▲となったため,ここのみ「△/▲」と表記している。
さて,ここで指摘しておきたいのは,1000Hzでの動作が安定しないことがあったことだ。
二つのテスト環境で,「Direct Input Mouse Rate」からポーリングレートをチェックしてみた結果が下のスクリーンショットだが,低スペックのPCを想定したテスト環境2では,1000Hz前後のポーリングレートを維持できていない。
表2で示したとおり,ゲーム中にこの事象を体感できたわけではないのだが,低スペックなPCでAbyssusを使用する場合、高ポーリングレートでの動作に不安が残るのも確かである。
追従性の良さと軽さは間違いなく魅力的
弱点は機能とカスタマイズ性の乏しさか
もちろん,ボタンが左右メインボタンとスクロールホイールのみという点や,トラッキング解像度およびポーリング設定の選択肢が少ないなど,機能面で見劣りする部分は確かにある。ゲーマー向けマウスに,充実したカスタマイズ性を求めるならほかの製品を検討すべきだ。
これら明らかなマイナスポイントにこだわらず,純粋に基本性能と小ささ,軽さ,操作のしやすさにこだわるのであれば,Abyssusは検討に値する存在である。
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