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印刷2016/04/11 12:00

業界動向

Access Accepted第494回:医療現場で成果を発揮するゲーム

画像集 No.001のサムネイル画像 / Access Accepted第494回:医療現場で成果を発揮するゲーム

 日々,我々を楽しませてくれるゲームだが,娯楽だけでなく,ゲームをさまざまな分野で活用しようという取り組みもあちこちで行われている。その1つが医療現場で,HopeLabという非営利団体が制作したゲーム「Re-Mission 2」が,小児がんの患者に対して大きな成果を挙げているという。今回は,そんなHopeLabの活動と「Re-Mission 2」を紹介し,「医療向けのゲーム」という未開拓のジャンルにスポットを当ててみたい。


治療の重要性をゲームで教えようという試み


「Re-Mission 2」は,PCブラウザ版だけでなく,Android版やiOS版などが用意されている。企業からの寄付で運営されるHopeLabだが,こうしたゲームが,1人でも多くの子供達の治療に役立つなら素晴らしいことだと思う
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 日本では,毎年2000人〜2500人ほどの子供達が小児がんと診断されるという。日本の年少人口(0〜14歳)が1600万人ほどなので,およそ8000人に1人が,がんを宣告されることになる。
 小児がんにはさまざまな種類があるが,最も多いのが白血病で,そのほか,脳腫瘍や悪性リンパ腫,神経芽腫など,大人ではかかりにくいがんが多いようだ。また,人口3億2000万のアメリカの年少人口は約6000万人で,そのうち,約1万人が毎年がんを発症するという。

 がんの治療には,抗がん剤を使ったキモセラピー(化学治療)が不可欠で,治療の20%を怠ると,がん悪化のリスクは2倍になるというデータがある。しかし,まだ幼い子供にとって抗がん剤による目眩や吐き気,体調不良などの副作用はつらく,治療を続けられなかったり,薬剤の服用を拒否する子供達も少なくない。医療現場においては,厳しいがん治療を続けることの重要性を認識してもらうことが前提になっているが,小児にそれを理解させるのは難しい。

 カリフォルニアにある非営利の研究組織HopeLabは,ゲームを使って小児がんの子供達に治療の重要性を学んでもらうという取り組みを,15年前から行ってきた。2014年には,最新作となる「Re-Mission 2」をリリースしており,これは6種類のブラウザゲームが無料で遊べるというもの。

HopeLab公式サイト


 それぞれ,「Nanobot's Revenge」(ナノボットの復讐),「Stem Cell Defender」(幹細胞ディフェンダー),「Feeding Frenzy」(エサやり大狂乱)と,名前を聞いただけでもなんとなく内容が分かりそうなゲームだが,いずれも人体の内部を舞台にした2Dアクションで,悪いがん細胞をやっつけたり,白血球を増やしていくというような内容になっている。子供達は,これらのゲームを遊ぶことで治療の必要性を理解していくというわけだ。


医療向けゲームというジャンルの可能性


 2006年にリリースされた前作「Re-Mission」は,ミクロ化した女性キャラクターが体内を旅しつつ,がん細胞と戦う3Dアクションゲームだった。HopeLabは,アメリカ国内外の病院と提携し,このゲームを使った心理研究を繰り返してきた。その結果,見えないものに自分の体調が左右されることに子供達は無力感を覚え,やがてキモセラピーのつらさをがんそのものと一体視して,そうした心理状態が治療や服薬の拒否につながっていることが分かったという。

 当初は,ゲームを使って子供達の心理を研究することの意義を「保護者達に理解してもらうこと」さえままならなかったようだが,HopeLabはさらに,治療意欲とゲームの関係を探るため,アメリカ,カナダ,オーストラリアの小児がん患者375人に,「Re-Mission」で少なくとも3か月間プレイしてもらい,その効果を検証したという。

 結果として,ゲームによって子供達の理解が改善し,治療に対してよりポジティブなイメージを持つようになった。もちろん,治療の効果も大きく上がったという。ゲームが,自分ががんに勝てるという意識を芽生えさせるのに貢献したわけだ。
 「Re-Mission 2」は,そうしたデータをもとに,プレイヤーの心理的効果を増大させるため改良された。すでに,20万回ものアクセスを記録しているという。

HopeLabのゲームは,病院や医療関係者,そして患者の保護者からの理解を得て,ゲームが子供達に与える心理的な影響を研究している。左側にいるのが,設立者のパメラ・オミディア(Pamela Omidyar)氏
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 こうしたゲームはこれまで,「教育ゲーム」あるいは「シリアスゲーム」と呼ばれていたが,さらに絞った「医療ゲーム」(Medical Video Games)というジャンル名も生まれているようだ。
 HoloLabは「Re-Mission」シリーズ以外にもいくつかの医療ゲームを公開しているが,そのほかでは,例えば,血管内を移動するナノロボットを操作して貪食細胞(マクロファージ)や好中球(白血球の一種)による免疫の仕組みを理解するブラウン大学の「Immune Attack」(2008年)や,インフルエンザがくしゃみによって広がる様子をシミュレートしたChannel 4の「Sneeze」(2009年)などが医療ゲームとして挙げられるだろう。娯楽性を重視した作品なら,「Theme Hospital」(1997年)や「Plague Inc.」(2012年)などが浮かんでくる。

 また,もはや完全なエンターテイメントだが,おバカ系手術シム「Surgeon Simulator」のBossa Studiosが,SteamVR向けに「Surgeon Simulator VR: Meet The Medic」を無料公開している。「Vive」を使ってプレイするためゲーム性は大きく変わり,オブジェクトを正確につかんだりできるようだ。「Surgeon Simulator」を医療ゲームとは呼べないが,VR対応のデバイスが普及すれば,医療分野での利用価値も高まるかもしれない。

 病気そのものは治せないかもしれないが,ゲームを使って医療に貢献するというHopeLabの活動。それがどのように発展していくのか,医療ゲームというジャンルの進展を含めて,今後も気にしていきたい。


著者紹介:奥谷海人
 4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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