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印刷2017/04/17 12:00

業界動向

Access Accepted第533回:アウトソーシングと欧米ゲーム業界の現状

画像集 No.001のサムネイル画像 / Access Accepted第533回:アウトソーシングと欧米ゲーム業界の現状

 20年前のゲーム会社では,アートワークやオーディオ,さらにバグチェックまで,すべて社内で行うことが当たり前だった。しかし,最近の欧米ゲーム業界ではアウトソーシングが広く利用され,市場規模750億ドルといわれる巨大産業を裏から支えている。今回は,「オーバーウォッチ」「Rocket League」といった作品を取り上げ,そうしたアウトソーシング的な側面から欧米ゲーム業界の現状を紹介したい。


数々の人気作品に関わる,誰も知らないゲーム会社


 Blizzard Entertainmentの人気タイトル「オーバーウォッチ」について調べているとき,とあるゲーム企業のサイトに行き当たった。会社の名前はSuperGeniusで,サイトのトップページには,「オーバーウォッチ」のなじみ深いアートワークがどーんと掲載されている。それだけではない。2K Gamesの「Mafia III」や,Kabamのモバイルゲーム「Marvel Contest of Champions」,さらには独立系デベロッパDouble Fine ProductionsのVR向けタイトル「Psychonauts: In the Rhombus of Ruin」まで,メーカーもジャンルもプラットフォームもバラバラなタイトルの画像が並んでいたのだ。

SuperGeniusのオフィス(公式サイトより)。ほとんど聞いたことのないメーカーだが,ゲーム産業における縁の下の力持ちだ
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 オレゴン州オレゴンシティに本拠を置くSuperGeniusは,「ゲーム雑誌を開けて,我々の手掛ける作品を見ないことはない」と豪語するアートスタジオだ。その言葉どおり,上記のタイトル以外にも,Telltale Gamesの「The Walking Dead」や2K Gamesの「Skylanders」,Gearbox Softwareの「Borderlands」など,現在まで多数の有名タイトルに携わってきた,驚くほど立派な経歴を持ったスタジオなのだ。

 ゲームのクレジットをじっくり読めば,こうしたメーカーの名前は見つかるが,果たしてそれがどういう作業を行ったのか,そこまでチェックする人は(ゲーム開発者でもない限り)まずいないだろう。
 「コール オブ デューティ アドバンスド・ウォーフェア」に関わった約2000人の開発者のうち300人は社外スタッフだし,「ファイナルファンタジーXV」では70社近いメーカーの名前がクレジットロールに出てくる。このように,アウトソーシングは,現在のゲーム産業になくてはならない存在になっているのだ。

 アメリカでは,SuperGeniusのようなメーカーは“ホワイトレーベル開発”などとも呼ばれる。同社の公式サイトには,「ゲームを開発する皆さんにとって,アウトソーシングとは異なるオプションになれるように,このスタジオを起業しました」という理念が書かれている。「アウトソーシングというコンセプトは好きではない」という文言もあり,彼らは単に,頼まれたアートワークやアニメーションを制作するだけでなく,開発チームの「拡張」的な存在として,アイデアやサポートまでもを提供し,差別化を図っているという。彼らの手掛けた作品の中には,契約によって公言できず,ゲームのクレジットロールにさえ載らないものも多い。そのことがホワイトレーベル開発や“ゴースト開発”,あるいは“シークレットチーム”などと呼ばれる由縁でもある。


開発チームは小さいほど良い


 2017年4月10日に「The Wall Street Journal」(電子版)に掲載された記事「In the $75 Billion Videogame Industry, Hiring People Is a Last Resort」では,アウトソーシング化の進む欧米ゲーム産業の現状が綴られている。記事で取り上げられているのは,「Rocket League」を開発したPsyonixだ。

 2015年にリリースされた「Rocket League」は,バギーで相手のゴールに大きなサッカーボールを押し込むという単純明快なチーム対戦型アクションゲームで,PlayStation Networkの無料ゲームとして多くのプレイヤーに注目され,PS4以外のプラットフォームを含んだDLCのセールスなどで約5000万ドルの売り上げを記録する大ヒット作になった。現時点で2900万のアカウントを誇り,2017年1月には同時接続者数が22万人を記録するなど,その人気は衰えることを知らない。

「Rocket League」を開発したPsyonixはもともと,Epic Gamesの近くにオフィスを構え,「Unreal Engine」の開発に協力していたというアウトソーサーであり,THQとKaos Studiosの「Homefront」や,Electronic ArtsとBioWareの「Mass Effect 3」などにも彼らの名前はクレジットされている
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 そんなPsyonixには,正規雇用の社員が81人おり,このほかバグチェックや翻訳,移植やカスタマーサービスなどを担当する40人〜50人ほどがアウトソーシングだという。記事中,同社CEOのデイブ・ヘイジウッド(Dave Hagewood)氏は,「開発チームは小さいほど良いのです」と述べており,スケジュール管理や一定の品質を保つことが難しいというリスクを承知しつつ,企業運営の観点からアウトソーシングに頼っていると語る。

 「The Wall Street Journal」の記事タイトルにもあるように,ゲームエンターテイメントは映画や音楽を超える750億ドルという市場規模に成長した。そのビジネスモデルは映画産業や音楽産業を受け継ぎ,多くの労働を非正規雇用者に頼るようになっている。異なるのは,ハリウッドならどんな分野にも存在する労働組合がなく,保険や年金などもすべて自己管理で行う点だろう。

 また,映画や音楽と異なり,ゲーム開発では同じ場所にいる必要がない。結果として,インドや中国,南アメリカなど,労働単価の安い国や地域でアウトソーシングを専門とする企業が育ち,やがて自分達でオリジナルのゲームを作り出すほどの腕と技術を備えるようになっている。

インドのゲーム関連企業といえば,Starbreeze Studios傘下のDhruva Interactiveが有名だろう。3Dアートのアウトソーシングを主軸に,これまで100作以上に携わってきた。学生を呼んでゲームジャムを開催したりなど,新たな人材の発掘・育成も盛んに行っている
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 インドのゲームといっても,なじみのない人がほとんどだと思うが,2016年の市場規模は8億9000万ドルに達し,アウトソーシングを主力にしたゲーム企業が100社以上存在しているという。規模そのものはまだ日本の10分の1以下といったところだが,ゲームデザインや3Dアートを学べる大学や専門学校がいくつも生まれており,官民一体でこの産業を育成していこうという様子が強く感じられる。これはインドに限った話ではなく,世界の多くの国がゲーム産業に将来性を見出し,投資を行うようになってきている。

 すでにチリ,コロンビア,タイ,セルビア,さらに南アフリカなど,ゲームの開発はさまざまな国や地域で行われており,こうした多様性によってゲームの世界がさらに豊かになれば,ゲーマーとしては嬉しい話だ。


著者紹介:奥谷海人
 4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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