業界動向
Access Accepted第553回:SIEの新サービス「PlayLink」は,巨大市場にアピールできるか
E3 2017でアナウンスされたSony Interactive Entertainmentの新サービス,「PlayLink」。発表は地味で,大きな反響もなかったという印象だが,このたび,「PlayLink」対応タイトルの「Hidden Agenda ―死刑執行まで48時間―」が欧米でリリースされ,さらにはハリウッド映画並のストーリーやCG映像を満喫できる新しいコンテンツが登場するなど,活気を帯びてきた感がある。PlayStation 4とスマートフォンを連動させるという新たな試みからは,いったい何が生み出されるのだろうか。
PlayLinkを使った本格的なゲームがいよいよ登場
Sony Interactive Entertainment(以下,SIE)が欧米でリリースした「Hidden Agenda ―死刑執行まで48時間―」(以下,「Hidden Agenda」)は,PlayStation 4とスマートフォンを連動させてプレイする新たな試みに挑戦したサスペンスアドベンチャーだ。日本では2017年11月22日の発売がアナウンスされており,日本人プレイヤーも近いうちに新たなゲーム体験を楽しめるようになる。
「Hidden Agenda」は,連続殺人事件の真犯人を追う警官ベッキー・マーニーと,検事フェリシティ・グレイプスの視点で描かれる刑事ドラマだ。犠牲者の死体に罠を仕掛けて第一発見者の命も奪うという猟奇的な快楽殺人犯,トラッパーことジョナサン・フィンが逮捕され,あと48時間で死刑が執行されるというギリギリのタイミングで,真犯人がほかにいることを知った2人が,真実を暴くために奔走するストーリーが繰り広げられる。
ゲームの詳細については,9月21日に掲載されたTGS 2017レポートなどを参照してほしいが,特徴的なのは,スマホを持った最大6人のプレイヤーがゲームに参加できるところだ。スマホをコントローラ代わりに,タッチ操作でプレイができるのだ。
1人でもプレイできるストーリーモードと対戦モードが用意されており,ストーリーモードを複数で遊んだ場合,意見が分かれることもある。そのため,話し合ったり多数決を取ったりしてゲームを進めていくという,ソーシャルな体験ができる。対戦モードなら,誰か1人が自分のスマホに表示されるメッセージやヒントを使い,ほかプレイヤーが真犯人にたどり着けないように混乱させるという人狼ゲームのようなプレイが可能だ。
そんな「Hidden Agenda」の技術的なベースになっているのが,今年6月に開催されたE3 2017で発表された新たなコンセプト「PlayLink」だ(関連記事)。SIEのカンファレンスでは,次々に登場する大作のデモやトレイラーに混じって,なんとも地味な初公開が行われ,ゲーム機とスマートフォンをつなぐというコンセプトがさほど目新しいものではなかったためか,大きな反響もなかったように記憶している。
「PlayLink」の最大の魅力は,1つのディスプレイを複数のプレイヤーが見て楽しむというコンセプトを追求したところにある。
SIEは,「Hidden Agenda」だけでなく,スマートフォンで自撮りをしつつ,1000以上の問題に答えるクイズゲーム「That’s You!」を7月にリリースしており,同じくクイズゲームの「Knowledge is Power」と,PlayStationプラットフォームで高い人気を維持するカラオケゲーム「SingStar Celebration」を発売している。さらに,4人のプレイヤーが楽しめるミニゲーム集「Frantic」が,2018年3月に発売される予定で,「PlayLink」をベースにしたタイトルを次々に市場に送っている。
「Eye Toy」「Wonderbook」「Buzz!」,そして「SingStar」などで,さまざまな操作系の開発経験を積んできたSIEだが,「PlayLink」の強みは,世界中で6000万台という普及台数を誇るPlayStation 4のコントローラとして,おそらくPS4ユーザーのほぼすべてが日常的に利用しているスマホを選んだ点だ。ユーザーは新たなデバイスを購入する必要がなく,またスマホのタッチ操作は,例えば3歳の子供にプレイさせても直感的に理解できると言われるほど容易だ。デュアルショックほど緻密な操作はできないかもしれないが,より大きな市場にアピールできるだろう。
ハリウッドとのコラボで
PlayStation 4が新たな次元へ?
「Hidden Agenda」がリリースされたその日,北米のゲームメディアであるIGNが「PlayLink」対応の新作ゲーム「Planet of the Apes: Last Frontier」のトレイラーを独占公開した。タイトルからも分かるように,映画「猿の惑星」の新シリーズをモチーフにしたゲームで,開発したImaginati Studiosはパフォーマンスキャプチャー技術の第一人者で,俳優として映画のシーザー役も務めているアンディ・サーキス(Andy Serkis)氏らが立ち上げたスタジオだ。ちなみにこの「Planet of the Apes: Last Frontier」の制作発表は,欧米で7月に公開された「猿の惑星: 聖戦記」についてのインタビューで,サーキス氏がポロリと語ったというものだった。
掲載したトレイラーからも分かるように,「Planet of the Apes: Last Frontier」のゲームシステムは他愛がない。画面を見ながら,数分に一回ほどセリフをチョイスする画面が表示され,2つのうち1つをスマホで選ぶと,それに合わせてストーリーが進んでいくというものだ。「インタラクティブムービー」という少し古めかしい言葉が思い浮かぶが,サーキス氏らは「ナラティブアドベンチャー」と呼んでいるようだ。
果たしてこれを“ゲーム”と呼んでいいのかも疑問だが,考えてみれば,メジャーなタイトルでも使われているクイックタイムイベント(QTE)も,最初はゲームらしくないと言われたし,Telltale Gamesの「The Walking Dead」や「Batman」,あるいは「ライフ イズ ストレンジ」や「Firewatch」のように,「ドラマを見る」ことに主眼を置いたタイトルも増えてきた。YouTubeやTwitchのゲーム配信により,ゲームを遊ぶのではなく見るエンターテイメントなのだと捉える層もかなりの数いるだろう。
「Planet of the Apes: Last Frontier」は,大予算を投じたハリウッド映画とのコラボと最低限のインタラクティブ性,そして使い慣れたスマホによる簡単な操作という点で,カジュアルゲーマーや非ゲーマーにもアピールするのではないだろうか。
かつてプラットフォームホルダーが,「ゲーム機はゲームだけをするものではない」と発言してコアゲーマー達に冷笑されたことがあったが,PlayStation 4と「PlayLink」の組み合わせは,ゲーム機がゲーマー以外の,より大きな層へ広がっていく可能性を見せてくれるようにも思える。
モバイルゲーム市場への参入でもなく,また,Nintendo Switchのようなファミリー路線でもないSIEの新たな試みが,今後どのように発展していくのか,期待して見ていきたい。
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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