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Access Accepted第588回:eスポーツはオリンピックの競技種目になり得るか(その2)
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印刷2018/09/10 12:00

業界動向

Access Accepted第588回:eスポーツはオリンピックの競技種目になり得るか(その2)

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 インドネシアで開催された第18回アジア競技大会では,6つのゲームを使ったeスポーツ競技がデモンストレーションとして採用された。日本でも話題になり,もしかしたらマイナーな正式種目よりもスポットライトを浴びていたかもしれない。そこで今週は,本連載の第549回「eスポーツはオリンピックの競技種目になり得るか」に引き続き,果たしてeスポーツがオリンピックの種目になれるのか,という疑問について考えてみたい。


IOC会長がeスポーツの正式種目採用に懐疑的な意見


 2018年8月18日〜9月2日,インドネシアのジャカルタおよびパレンバンで開催された第18回アジア競技大会(以下,アジア大会)。6つの金メダルを獲得して大会MVPに選ばれた競泳の池江璃花子選手など,日本選手の活躍が話題となったが,我々ゲーマーにとっては,「eスポーツが国際スポーツ大会で初めてプレイされた」というニュースのほうが気になったのではないだろうか。

 アジア大会には「Arena of Valor」「クラッシュ・ロワイヤル」「ハースストーン」「リーグ・オブ・レジェンド」「ウイニングイレブン 2018」,そして「StarCraft II」の6種目が登場し,そのうち5種目に日本選手が参加。「ウイニングイレブン 2018」では,杉村直紀選手相原 翼選手のチームが金メダルを取っている。現時点で正式種目ではないため,「日本の獲得メダル数」にカウントはされないものの,日本のeスポーツ界にとって1つのマイルストーンにはなったはずだ。

インドネシアで開催された第18回アジア大会で,公開競技としてeスポーツの大会がが開催された。ダウンタウンの松本人志さんはテレビ番組で「サッカーゲームがオリンピックの種目になったら,本物の選手はどう思うのか…」と話していたそうだ。ポスターにあしらわれている,リオネル・メッシ選手にその点を聞いてみたい気もする
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 eスポーツとオリンピックの関係は,2017年9月11日に掲載した本連載の第549回「eスポーツはオリンピックの競技種目になり得るか」で紹介している。パリオリンピック誘致委員会の副会長,トニー・エスタンゲ(Tony Estanguet)氏の発言を発端として,2024年のパリオリンピックでの正式種目化,または公開競技としての採用が検討され始めたのだ。
 背景には,ゲーム産業に深く関わる中国の大手IT企業アリババが,2020年の東京オリンピック以降3大会の公式スポンサーになったことや,若者層のオリンピックへの関心の薄さ,テレビ視聴率の低下を憂慮する国際オリンピック委員会(IOC)の思惑などがある。

モバイルゲームを使った競技。やや派手さに欠けるのは仕方がない
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 前回の記事を掲載した段階では前向けな話が多く聞こえてきたものの,ここへきて変化が起きているようだ。9月1日付けのAP通信のインタビュー記事でIOC会長のトーマス・バッハ(Thomas Bach)氏が,「いわゆる“殺人ゲーム”は,(暴力や差別に反対する)オリンピックの価値観とは相容れないものであり,受け入れられない」と語ったのだ。
 7月にスイスで開催されたIOCの会合にeスポーツ関係者が多数招かれ,議論が行われたことは,7月27日に掲載した「Overwatch League」の取材記事でお伝えしたとおり。この会合で最も問題視されたのが,バッハ氏が“killer games”と評した人気ゲームの暴力表現であったようだ。

 オリンピックの競技種目には相手を直接的に倒すことを目的にしたものがあり,バッハ氏自身,剣で相手を突くフェンシングの金メダリストだ。このことについて,バッハ氏は「確かに多くの種目は実際の戦いを起源としている。しかし,スポーツとは戦闘の文明的表現の1つであり,誰かを殺すことそのものでポイントを稼ぐビデオゲームを,(オリンピックの価値感から考えて)ほかの種目と同列に置くことはできない」と述べており,譲歩の余地はないように見える。

IOCが7月に開催したEsports Forumのラウンドテーブルセッション。写真中央手前はAsian Electronic Sports Federationの会長ケニス・フォック(Kenneth Fok)氏 (画像:AESF公式Twitterより)
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 アジア大会でのeスポーツトライアルについて情報を集めてみると,「成功だった」と評価する向きがある一方で,懐疑的な意見も少なくなかった。
 ジャカルタの日刊オンライン新聞Jakarta Globeは,「2022年の杭州アジア大会で正式種目にするための弾みをつけた」などとし,ゲーム文化に寛容なアジア系メディアの多くが好意的に捉えている。しかし欧米メディアでは,「Madden NFL 19」の大会で殺傷事件が起こった(関連記事)こともあり,バッハ氏の発言とゲームの暴力表現,そしてそれに由来する暴力の助長を論じるものが多いようだ。個人的には,アメフトのゲームと「暴力の助長」は関係ないだろうと思うのだが。


競技としてのゲームの理想の姿とは


 eスポーツのオリンピック種目化については,よく「eスポーツはスポーツなのか?」という声が,(どちらかといえば否定的なニュアンスで)聞かれる。この点について文部科学省の外局であるスポーツ庁は公式サイトで,「Sports」の語源となったラテン語の「deportare」(デポルターレ)がもともと「義務から離れて,気分を晴らすために別のことをする」を意味したことを挙げて解説を行っている。
 詳しくはスポーツ庁の公式サイトをご覧いただきたいが,スポーツは行うだけでなく,見ることや応援することにも価値があるとしており,それに従えばビデオゲームも十分にスポーツと呼べるはずだ。事実,今回のアジア競技大会ではトランプのブリッジも正式競技として採用されており,従来の「フィジカルスポーツ」に加えて,「マインドスポーツ」としてチェスやポーカーをオリンピック競技に組み込もうという動きもあるという。

公式種目ではないのでメダル数にはカウントされないが,選手らにとっても,国の威信をかけてゲームで戦うというのは,めったにない経験だったろう。画像:Asian games 2018公式YouTubeチャンネルより。以下同じ
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 とはいえ,ビデオゲームがオリンピック種目として認められるかどうかという点について筆者は懐疑的だ。
 スポーツのルールはパブリックなものだが,すべてのゲームは企業の所有物であり,この点がほかのオリンピック種目に比べて異なる。どのような経緯があってジャカルタのアジア大会に上記の6タイトルが選ばれたのか,調べた限りでは分からなかったが,アジア大会やオリンピックで採用されることは宣伝としての効果がきわめて大きく,それだけに,いろいろな事情があったであろうことは想像に難くない。

 仮にオリンピックの価値観のために著作権をあきらめてIOCに管理を委託するというメーカーが現れたとしても,IOCがそのゲームのバグフィックスやサーバー運営などを行うことはあり得ない。さらに,2022年の杭州アジア大会や2024年のパリオリンピックの段階で,上記タイトルが現役であるかどうか,あるいはどのようなゲームがeスポーツ界で人気になっているのかさえ予測不能だ。各国のオリンピック委員会は,どのタイトルの選手に予算を配分して育成していけばいいのかなど,まったく分からないはずだ。

会場には,わざわざ国外から見に来た人も少なくはなかったようで,その意味ではIOCにとって意義のあるイベントだったかもしれない。ただ,公式が配信した動画の視聴者数はそれほど多くなく,世界中のゲーマーの注目を集めていたというわけでもないようだ
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 長くゲームを遊び,これまでeスポーツイベントの観戦・取材を行った筆者として,これは理想的だと思える海外のeスポーツ大会を思い起こすと,「League of Legends World Championship」「Overwatch League」「Call of Duty World League」「The International」「QuakeCon」,そして「The Evolution Championship」は,いずれもゲームを開発したメーカー自身や,専門会社とタッグを組んで運営を行い,ファンサービスの延長という視点を外していない。これがイベントを成功に導いているように感じられる。

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 今年3月に開催されたゲーム開発者向けカンファレンスGame Developers Conference 2018では,長年ゲームトーナメントの運営に携わってきたTwitchのプログラムマネージャー,リチャード・シアー(Richard Thiher氏)氏が,「eスポーツはマーケティングである」と断言していた(関連記事)。ゲームメーカーが自社タイトルのマーケティングの一貫としてトーナメントを主催したときこそ,競技スポーツとしてのビデオゲームの存在価値が発揮されるというわけだ。
 言うまでもなく,「オリンピックの種目にならないので,eスポーツはダメ」などということはなく,むしろ,上記の大会に理想のeスポーツの有り様を見るのは筆者だけではないはずだ。

 ちなみに中国では現在,ゲームトーナメントの中継が禁止されており,今回のアジア大会でも中国の盛り上がりは欠けていたという。アジア大会でいよいよスタートを切ったeスポーツだが,果たしてどのような着地点を見出すのか,今後も注目していきたい。

著者紹介:奥谷海人
 4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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