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Access Accepted第644回:ダン・ハウザー氏が引退したRockstar Games。その歴史を振り返る
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印刷2020/04/20 00:00

業界動向

Access Accepted第644回:ダン・ハウザー氏が引退したRockstar Games。その歴史を振り返る

画像集#001のサムネイル/Access Accepted第644回:ダン・ハウザー氏が引退したRockstar Games。その歴史を振り返る

Rockstar Gamesのゲームデザイナーとして数々の作品を生み出してきた,同社の設立者にしてクリエイティブ担当副社長だったダン・ハウザー氏が,20年以上のキャリアを終えて引退した。数年前にはRockstar Northでゲーム開発を率いてきたレズリー・ベンジー(Leslie Benzie)氏が退職しており,いろいろな変化の見えているRockstar Games。その歴史を簡単に振り返ってみよう。


Rockstar Gamesの大躍進に貢献した
希代のストーリーテラー


 北米で「グランド・セフト・オート III」がリリースされた2001年のことだと思うが,(記事にはならなかったものの)筆者はRockstar Gamesの設立者の1人,ダン・ハウザー(Dan Houser)氏に話を聞いている。最近は新作が発売されてもインタビュー記事が出るかどうかという,メディアに登場することが少ないハウザー氏だが,当時はまだ20代後半(もう30歳になっていたかもしれないが)で,ついに大ヒット作を生み出したことで意気軒高とした雰囲気を醸し出していたことを記憶している。

ダン・ハウザー氏
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 そんなハウザー氏が2020年3月11日,Rockstar Gamesを退社した。これまで同社のクリエイティブ担当副社長として,「グランド・セフト・オート」シリーズや「レッド・デッド・リデンプション」シリーズの開発に多大な功績を残したハウザー氏だが,本社のあるニューヨークが新型コロナウイルス感染拡大の中心地となったこともあり,ハウザー氏がRockstar Gamesを去る様子はまったくと言っていいほど報じられていない。
 Rockstar Gamesの親会社であるTake-Two Interactiveが2月4日,アメリカ証券取引委員会に提出した報告書によれば,ハウザー氏は2019年の春以降,長期休暇を取っていたとのことで,そのまま会社に戻ることなく静かに引退したようだ。

 映画女優を母に持つロンドン生まれのハウザー氏は,兄のサム・ハウザー氏と共に1995年,ドイツ系メディア企業BMG Entertainmentに入社した。欧米ではまだ新しかった音楽用メディアCD-ROMの担当を経て,新設されたゲーム部門,BMG Interactiveに移り,スコットランドのDMA Designというメーカーが開発を進めていた「Race‘n”Chase」というゲームのデモを見つける。このゲームが,やがて名を変えて1997年にリリースされた「Grand Theft Auto」だった。

 ゲームパブリッシャとしてスタートしたBMG Interactiveだったが,ハウザー氏が在籍していた頃の業績はあまり良くなかったようで,1998年にニューヨークのTake-Two Interactiveに売却されてしまう。時を同じくしてハウザー兄弟は,子会社としてゲーム開発の一翼を担うため,Take-Two Interactiveと共にニューヨークでRockstar Gamesを設立した。

 最初の仕事は,後にRockstar Northに改称される,DMA Designの買収だったようだ。1999年の「Grand Theft Auto 2」の成功と,2001年の「グランド・セフト・オート III」のメガヒットにより,Take-Two InteractiveとRockstar Gamesは欧米ゲーム業界でも不動のブランドに成長していった。

3人の主人公が「見ざる,言わざる,聞かざる」のポーズをとった「グランド・セフト・オート V」
画像集#003のサムネイル/Access Accepted第644回:ダン・ハウザー氏が引退したRockstar Games。その歴史を振り返る

 「グランド・セフト・オート」シリーズで描かれたハウザー氏のストーリーは,勧善懲悪な物語が多いゲーム業界において,闇の部分を描き出した内容が高く評価された。娯楽作品でありながら,人間の内面にある破壊的な衝動を生々しく取り出して見せ,プレイヤーは,潔癖とは言えない主人公を操り,ときとして非道な判断をゲームの中で行われなければならない。
 とくにハウザー氏の最後の作品となった「レッド・デッド・リデンプション 2」は,自由度の高いオープンワールドの世界でありながら,かつてないほど完成度の高いストーリーを実現したと評価されている。


2000人規模の開発チームが生み出す超大作


 Rockstar Gamesは現在,カリフォルニアのサンディエゴやカナダのトロント,インドのバンガロールなどに9つのブランチを抱え,2000人ほどの従業員がいるという。しかし,Rockstar Gamesからリリースされているシリーズ作品といえば,「グランド・セフト・オート」と「レッド・デッド・リデンプション」ぐらいで,寡作なメーカーでもある。
 かつては「マックス・ペイン」「Midnight Club」「Bully」「L.A.ノワール」などもあったが,最近ではリマスター版が公開される程度で新たな展開はほとんどなく,新作の発表も行われていない。こうしたことからは,Rockstar Gamesの1つのゲーム作品に対する職人的な完璧主義が見えてくるようだ。

ストーリー,キャラクター,世界観,アクション,どれをとってもカッコ良さが光った「レッド・デッド・リデンプション 2」の広大で美しいゲーム環境は,Rockstar Gamesのアートディレクター,アーロン・ガーバット(Aaron Garbut)氏の主導する数百人のチームで制作されたという
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 実際,独自開発のゲームエンジン「RAGE」(Rockstar Advanced Game Engine)の大幅なチューンナップを含めて,「レッド・デッド・リデンプション 2」は,約1600人の開発者が約7年かけて生み出したという。リリースにあってハウザー氏はニューヨーク・タイムズ系メディアのインタビュー記事に答えており,「50万行を超えるセリフからなる2000ページの脚本や,700人の声優による2200日にわたる録音セッション」など,気の遠くなりそうなプロダクションだったことを語っている。
 同作のエンドクレジットを見れば,ハウザー氏以外に,共同執筆のマイケル・アンスウォース(Michael Unsworth)氏ルパート・ファンフリース(Rupert Humphries)氏など,脚本だけで約20人の大所帯だったことが分かるはずだ。

 一方,このインタビューで,「脚本チームが,1週間に100時間以上も作業していたことは何回もある」とハウザー氏が語ったことが問題視されることになってしまった。ゲームメディアのKotakuが,Rockstar Gamesの在籍経験のある34人の開発者へのインタビューを行い,同社の過酷な「クランチタイム」の慣習が暴かれ,そのためTake-Two Interactiveの株価が一時的に下がり,ハウザー氏は怒った投資家達から非難されたという。

 少し話は逸れるが,ゲーム業界でよく話題になる「クランチタイム」とは,ゲーム開発中やラストスパートで発生する過密な時間の過酷な労働を指すもので,クリエイティブな仕事では避けて通れないという意見もある反面,雇用者の家族を含む日常生活の破壊や,精神面での悪影響が指摘される。
 2004年にElectronic Artsで起きた「クランチタイム」問題を,本連載の第380回「2年連続で『アメリカ最悪の企業』に選ばれたElectronic Arts」で紹介しているので,気になる人は参照してほしい。

2014年に「グランド・セフト・オート V」でイギリスのBAFTAアワードを受賞したRockstar Games黄金期のメンバー。右から,レズリー・ベンジー氏ダン・ハウザー氏,アート・ディレクラーのアーロン・ガーバット氏,そしてサム・ハウザー氏。ちなみに,このときプレゼンターを務めたのは小島秀夫氏だった
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 「レッド・デッド・リデンプション 2」の発売に先立つ2016年には,Rockstar Northで「グランド・セフト・オート」シリーズの開発チームを実質的に率いていたレズリー・ベンジーズ(Lezlie Benzies)氏が,不当解雇と1億5000万ドルの賃金の未払いを求めて訴訟を起こしている。ベンジーズ氏は,「グランド・セフト・オート V」のリリース後,2014年9月から2年以上にもおよぶ長期休暇を取っていたが,2016年1月に戻った際にはオフィスに入ることもできない状態だったという。何が起きたのか,詳細はよく分からないものの,2019年2月に両者の和解が成立している。

 ベンジーズ氏が2年,ハウザー氏が1年という長期休暇後に退職が発表されるというところに,Rockstar Gamesの貢献者に対する処遇が見られるようだが,いずれにせよこの2人がいなくなったことの意味は大きいだろう。
 Rockstar Gamesの次回作が「グランド・セフト・オート 6」になりそうなことは,多くのゲーマーの予想するところだが,ハウザー氏は以前,ファッション雑誌GQとのインタビュー「今,GTA6の開発をやってなくてありがたい。我々がやりたいことに怒る人も今のご時世では多そうだし,いったい何をしていいのか分からない」とコメントしている。

数週間前にGrand Theft Onlineに掲載された謎のアート。「Project America」というコードネームで知られる,次世代機向けの「グランド・セフト・オート」シリーズ最新作に関係があるのではないかという噂が流れている
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 これは,ハウザー氏がもはや,「グランド・セフト・オート V」と「 レッド・デッド・リデンプション 2」以上のストーリーを描けないように感じているとも取れるし,職人気質な彼の姿勢がTake-Two Interactiveの方向性とそぐわなくなったことを暗に意味しているのかもしれない。
 Rockstar Gamesが次の世代に移行するのは避けようもないことであり,ハウザー氏が去ったあと,まったく新しい作品の開発が進められている可能性もあるだろう。次の作品をもってRockstar Gamesの新時代が到来することになるはずだが,どのような新作となるのだろうか。

著者紹介:奥谷海人
 4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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