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印刷2021/03/01 00:00

業界動向

Access Accepted第677回:Blizzard Entertainment設立30周年記念に寄せて(後編)〜「World of Warcraft」でゲーム市場を左右するメーカーに

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 2021年2月8日に設立30周年を迎えたBlizzard Entertainmentは,設立から10年ほどの短い期間で「Warcraft」「StarCraft」,そして「Diablo」という3つのIPを生み出しただけでなく,他社に先駆けてオンライン配信サービスやeスポーツに乗り出し,さらに独自のファンイベントを開催するなど,常に時代の先端を進んできた。先週に引き続き,そんなBlizzard Entertainmentの過去を振り返り,未来を眺めてみたい。


「World of Warcraft」とBlizzConに見る,ファンとの深い絆


 先週の本連載(第676回)では,1991年2月8日にUCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)の同窓生だったアラン・アドハム(Allan Adham)氏マイケル・モーハイム(Michael Morhaime)氏,そしてフランク・ピアース(Frank Pearce)氏の3人がBlizzard Entertainmentの前身となるSilicon & Synapseを設立し,わずか10年程度の短い期間で「Warcraft」「Diablo」,そして「StarCraft」という現在も高い人気を誇るIPを次々に生み出しただけでなく,無料のオンラインサービス「Battle.net」や,やがてeスポーツに発展していくオンラインゲームへの取り組みを行ってきたことなどを紹介した。

Blizzard Entertainment本社にそびえるオーク像「オークスタチュー」のプレートには,「Dedicated to Creating the Most Epic Entertainment Experience…… Ever!」(かつでないほど最高のエンターテイメント体験の創造に献身する)と刻まれている。現在の同社は,世界9か所にオフィスを構え,4000人を超える従業員を抱える大企業だ
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 「World of Warcraft」誕生の経緯については,2月24日に掲載したアドハム氏へのインタビュー記事で語られているので,詳細についてはこちらも合わせて参照してほしいが,全社をあげて「EverQuest」にのめり込みつつ,「Warcraft」の世界を拡張するために自分達もMMORPGを作ってみようと思ったのがきっけだったという。

 「World of Warcraft」のβ版がリリースされたのは2004年3月で,4Gamerにもプレビュー記事を掲載している。筆者はテストには参加していなかったが,当時の「EverQuest」コミュニティでは,「World of Warcraft」に手応えを感じたゲーマーが多かったようで,「ギルドごと乗り換えよう」などと盛んに話し合っていたことを記憶している。
 プレイヤー数が頭打ちになりつつあったMMORPGジャンルに新風を巻き起こした「World of Warcraft」は,雪だるま式にプレイヤー数を増やしていく。2004年11月の正式サービスが開始されると,翌2005年3月には150万,同年8月には400万と,驚くようなスピードで登録アカウント数を伸ばし続けた。MMORPGジャンルを確立したとされる「Ultima Online」のアカウント数が,最盛期で25万,「EverQuest」が55万だったとされているので,「World of Warcraft」の人気ぶりがよく分かる。
 第1弾の拡張パック「The Burning Crusade」がリリースされた2007年にはアカウント数900万,年間の収益が10億ドルに達しており,すべての月額課金型MMORPGの62%におよぶ市場占有率を獲得した。「World of Warcraft」のアカウント数がピークに達したのはサービス開始から6年後の2010年で,その数は1200万だった。

もはや,海外ですら見つけるのは難しい第1回「BlizzCon 2005」のバナーが4Gamerには残っている
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 この時期,Blizzard Entertainmentは,もう1つの革新をゲーム業界にもたらしている。2005年10月28日と29日,第1回となるファンイベント「BlizzCon 2005」を開催したのだ。最大のトピックは,「World of Warcraft」を使ったPvP大会と「StarCraft: Brood War」の招待マッチ,そして「The Burning Crusade」の制作発表であり,さらに開発者によるパネルディスカッションや,伝統行事となるコスプレ大会も第1回から行われている。
 来場者は,2019年に行われた「BlizzCon 2019」の10分の1程度の約4000人で,広すぎるコンベンションセンターを埋めるため,ピンポン台があちこちに置かれていた。これまで,ゲーム作品ごとのイベント開催はあったが,自社IPの総合的なイベントや開発者との交流が行われたイベントはBlizzConが初めてだろう。

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 2021年2月に設立から30周年を迎えたBlizzard Entertainmentは,「World of Warcraft」や「Diablo」「オーバーウォッチ」,そして「ハースストーン」など,次々にヒット作を生み続ける日本でも有名なゲームメーカーだ。今週は,そんな同社の30年の歩みを,前後編に分けて振り返ってみたい。

[2021/02/22 00:00]


動画共有の時代に生まれた新たな文化と「World of Warcraft」


 「BlizzCon 2005」が開催された直後の2006年1月,巨大化しつつあった「World of Warcraft」の開発・運営チームにプロデューサーとして参加したのが,アドハム氏,モーハイム氏に続く三代目社長となるジェイ・アレン・ブラック(J. Allen Brack)氏だった。Origin Systemで「Wing Commander」シリーズを担当していたブラック氏は,「Ultima Online」にも携わり,その後,多くの仲間と共にSony Online Entertainmentに移籍し,同社で「Star Wars Galaxies」のチーフプロダクトマネージャーを務めた経歴を持つ,大型プロジェクトの開発に豊富な経験を有する人物だ。最初の仕事は,「The Burning Crusade」の開発グループを率いることだったという。

初期の「World of Warcraft」に現れたリーロイ・ジェンキンス(Leeroy Jenkins)というプレイヤーキャラクターは,やがてNPCとしてゲームに登場したほか,「ハースストーン」のカードにもなっている。これだけを見ても,Blizzard Entertainmentはファンとの一体感を築くのが巧みだ
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 そんなブラック氏は,「BlizzConline 2021」で筆者の質問に対して,「『World of Warcraft』がここまで大きくなったのは,多くのプレイヤーが集まったことの相乗効果だけでなく,動画共有が始まった頃に話題になったゲームであることも大きいかもしれない」と答えている。

 2005年,「World of Warcraft」のファンが動画を共有する専用サイト「WarcraftMovies.com」に1本の動画が投稿された。これは,10人ほどのプレイヤーが,1時間ほどかけて到達したダンジョンの難関エリアをどのように攻略するか相談している最中,チキンを温めるために離席していたLeeroyというプレイヤーが,戻るやいなやいきなり「リーローイー!ジェンキーンス!」と叫んで突撃したため,作戦が一気に無駄になるという様子を収めた映像だった。
 この無鉄砲キャラ“リーロイ・ジェンキンス”の動画は,いわゆる「バイラルビデオ」の走りだと言われるが,MMORPGプレイヤーなら誰もが経験したであろう身勝手な仲間の単独行動をユーモラスに表現したことでインターネットミームとして大人気になり,ブラック氏も「動画共有時代の象徴的な出来事だった」と回想する。

 YouTubeが公開されたのが同じ2005年5月で,初期のYouTubeでは,芝居や自作のラップソングなど,「World of Warcraft」に関するファンコンテンツが量産され,それがほかのゲーマー達に波及していくという,SNS時代の幕開けを告げる新たな現象が生まれたのだ。

今から15年前となる2006年1月に入社した,現社長J.アレン・ブラック氏の初仕事は,拡張パック第1弾「The Burning Crusade」だった。「飛行マウント」の登場などファンの議論を呼ぶ内容だったが,このDLCでさらにプレイヤー数を増やしたことは間違いない
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 ここで,ビジネスに目を向けてみよう。2005年というのは,Vivendi傘下でBlizzard Entertainmentと兄弟会社の関係にあったActivisionがようやく赤字続きの業績から抜け出し,「Call of Duty」と「Guitar Hero」が大ヒットシリーズに育ちつつあった時期だ。Activisionは2007年12月,経営を悪化させていたVivendiからゲーム部門を買い取り,Blizzard Entertainmentと合併したうえで,持株会社のActivision Blizzardを発足させる。本連載の第158回で詳しく紹介したように,この段階では,Activision Blizzard株式の3分の2を保有することになったVivendiが依然として経営権を握っていたものの,人気メーカー2社の合併はゲーマー達の大きな注目を集めることとなった。

 合併にあたってモーハイム氏がActivisionのCEOであるロバート・コティック(Robert Kotick)氏と取り交わした約束が,「中国市場への本格参入」だったという。2008年8月にBlizzard Entertainmentは中国のNetEase Gamesとの提携を行い,2009年以降,NetEase Gamesが「World of Warcraft」の中国国内での運営を行っている。現在NetEase Gamesは「ディアブロ イモータル」の開発を行っており,現在に至るまでの両社の関係は非常に深い。

Blizzard EntertainmentのJ.アレン・ブラック氏。MMORPG市場ではライバルとなるSony Online Entertainmentのほか,Origin Systemにも在籍経験のある人物
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第4のIP作りの成功と,いくつもの試練


 「Warcraft」「Diablo」,そして「StarCraft」という3つのIPで世界をリードし,ゲーマーからも愛されるゲーム企業に成長したBlizzard Entertainmentだったが,「World of Warcraft」の開発に多数の人員を用意したため,開発段階によっては仕事を終えて余剰になるスタッフも出てくるようになった。そこで,ゲーム市場で存在感を高めていたインディーズゲームにならい,約20人のチームを編成して開発したのが,「Warcraft」の世界観を使ったデジタルカードゲーム「ハースストーン」だ。
 2008年頃には,次世代MMORPGになるはずだった「Project Titan」の開発を,40人ほどの開発者を選んで始動させている。これに加えて2010年には,もともと「ウォークラフトIII:フローズン・スローン」のMODだった「DotA」(Defense of the Ancient)の商標をValveに持って行かれたことから,対抗目的で自社IPのすべてを使ったMOBA,「Heroes of the Storm」の開発に着手するなど,今後をにらんだ動きが活発になる。

 「Project Titan」について多くは発表されていないが,近未来を舞台に「World of Warcraft」と共存できる作品,つまり,Blizzard Entertainmentにとって第4のIPとすべく計画が進められていたと言う。しかし,2013年までに上層部を納得させられるプロトタイプを作ることができず,企画を練り直してオンラインのチーム対戦型ゲームに切り替えることになった。これが,2016年5月にリリースされた「オーバーウォッチ」である。

「オーバーウォッチ」は,開発だけでなくプロモーション,運営やコミュニティマネジメントに至るまで,Blizzard Entertainmentの過去のノウハウが詰め込まれた作品だ
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 こうした事情もあってか,「オーバーウォッチ」の開発を率いたゲームディレクターのジェフ・キャプラン(Jeff Kaplan)氏は当初,「もし,ファンが求めるようなら,eスポーツ化することもあるだろう」と遠慮がちだった。ところが,フタを開けてみると,サービス開始から1か月で全世界/全機種累計1000万アカウントを獲得し,PC向けとしてはその年,最も売れたゲームとなっている。
 2016年夏には「Overwatch World Cup」を開催し,秋の「BlizzCon 2016」では世界的なプロリーグ「Overwatch League」が発表されるなど,Blizzard Entertainmentは同作のeスポーツ化を着々と進めていく。2017年にはロサンゼルス近郊に常設施設として「Overwatch Arena」を建設し,公式リーグをスタートさせたことも記憶に新しい(関連記事)。

 まさに順風満帆という雰囲気のBlizzard Entertainmentだが,現在は1つの局面に差しかかっていると感じるファンも少なくないはずだ。“歴史”として語るには最近すぎる話だが,本連載の第593回で詳しく書いたように,「BlizzCon 2018」で発表されたスマートフォン向けRPG「ディアブロ イモータル」が,来場者の大きなブーイングを受けてしまったのだ。
 あのときもし,「ディアブロ IVを開発中です」と合わせて発表していれば,あれほどファンの不興を買うことはなかったように思われる。誰もがスマートフォンを使っているのは事実だが,「Diablo」のルーツがPCにあるとするファンは多く,現在でも,Blizzard Entertainmentが公開する同作の映像動画にネガティブコメントを書いたり,低評価をクリックしたりするといったことが起きており,問題はまだ尾を引いている印象だ。

 さらに,翌年の「BlizzCon 2019」直前,香港の民主化運動に言及したプロゲーマーに対する処置により,Blizzard Entertainmentは批判に晒された(関連記事)。
 ブラック氏がモーハイム氏から社長の座を引き継いだのは2018年だったが,振り返ってみると,この3年間に,新型コロナウイルス感染症拡大への対応を含めてブラック氏が非常に難しい舵取りを迫られてきたことが改めて分かる。「私はゲームオタクなんで,本当は人の前に立つのが得意ではない」と語ったこともあるブラック氏だが,ことあるごとに謝罪に追われ,ファンの理解と信頼回復を呼びかけることになった。

「ディアブロ III」のローンチ時の技術的トラブルやオークションハウス問題,さらに「ディアブロ イモータル」に対する批判など,考えてみれば「Diablo」は,現在のBlizzard Entertainmentにとって鬼門なのかもしれないが,それを乗り越えることで成長したのも確かだろう。今後,短いスパンで新作が次々に登場することになるが,ファンの「評価」には注目を払うべきだ
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 2016年には,アドハム氏がシニア副社長という肩書きでブラック氏を補佐するために復帰したが,2018年にはモーハイム氏が,そして2019年にはピアース氏がBlizzard Entertainmentを離れ,創設時のメンバーはアドハム氏だけになってしまった。今年,Blizzard Entertainmentは30年の歴史を持つ成熟した大企業に成長したが,会社が大きくなるにつれて,今後もさまざま試練に直面することになるかもしれない。
 「World of Warcraft: Shadowlands Chains of Domination」「ディアブロ II リザレクテッド」「ディアブロ イモータル」,さらに「オーバーウォッチ 2」「ディアブロ IV」といった期待作を抱えるBlizzard Entertainmentだけに,さらなる飛躍を期待したい。

著者紹介:奥谷海人
 4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。


※2021年3月1日16:30 画像に誤りがありましたので,修正しました。
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