業界動向
Access Accepted第680回:光り輝く欧米ゲーム業界のネガティブな話題
かつてないほどの好調な業績を謳歌する欧米のゲーム業界だが,以前から,雇用問題やビジネスモデルに対する批判など,暗い部分がたびたびクローズアップされてきた。最近も,経営者と従業員の関係,セクシャルハラスメント,そしてルートボックスに絡む問題などが伝えられている。今週は,輝きを増す欧米ゲーム業界で起きた,ネガティブなニュースをまとめておきたい。
急激な成長で,さまざまな軋轢も生じやすいゲーム業界
これまでの40年間,右肩上がりで成長を続けてきた欧米ゲーム業界。2019年こそ,新世代コンシューマ機市場を見すえたと思われる縮小傾向がわずかにあったものの,2020年は在宅需要の増加などから再び拡大に転じ,かつてない活況を呈している。
そんな欧米ゲーム業界には,さまざまな問題も存在する。例えば,海外で「クランチタイム」と呼ばれる,とくにゲームの完成直前に起きる超過労働の慣習だ。クランチタイムは肉体や精神面に悪影響を与えるだけでなく,パートナーがあまりにも家に帰ってこないために離婚訴訟に発展した事例もある。ゲームはクリエイティブな思考と作業を必要とする創作物だが,同時に商品でもあり,デッドラインやマイルストーンを守ることは必ず求められる。その結果として,雇用主と従業員の間に避けがたい軋轢が生じることになるのだ。
中でも有名なのは,Electronic Artsの従業員が2007年に起こした,俗に「EA Spouse事件」と呼ばれる集団訴訟だろう。最終的に企業側が合計3000万ドルの慰謝料を払って決着したが,もちろんこれは「過去の出来事」ではなく,引き続きあちこちで起きている「今のゲーム業界の問題」でもある。例えば2020年9月には,「サイバーパンク2077」の開発をめぐって,CD PROJEKT REDの上層部が開発者達にクランチタイムを強要していたことが内部告発され,批判に晒された。
ゲームをプレイするファンに影響があるものとしては,欧米で「ルートボックス」と呼ばれる,いわゆるガチャの問題が依然として尾を引いている。この問題については,本連載でも過去に何度か紹介しているので,詳しくは本連載の第574回「欧米各国で加速するルートボックス規制」などを参照してほしい。
最近では2020年7月,ドイツ政府がルートボックスの仕組みを備えたゲームのレーティングをより高くして未成年者がアクセスできないようにする青少年保護法を可決し,2021年の施行を目指している。また,北米で起こされた「フォートナイト」のルートボックスについての集団訴訟は2021年2月に和解が成立し,Epic Gamesは2650万ドル相当のV-Bucksをプレイヤーに還元すると共に,ルートボックスの廃止に向かう姿勢を見せている。
個人的な話になってしまい恐縮だが,ゲームジャーナリストを生業とする筆者は,同時に熱心なゲーマーであり,またゲーム業界の発展を喜ぶ応援団でもある。それだけに,記事を書くのにあたって「あまりネガティブなことは書きたくないなあ」としばしば考えるし,実際問題として,読者の最大の関心事はゲームそのものであり,ゴシップと紙一重の業界話をテーマに据えて面白い記事になるのかとも思える。
とはいえ最近は,人ごとではない,ゲーム業界のネガティブなニュースが聞こえてくることが増えた。他業種では見られないほど急速に成長し,その内部は実に多彩多様で,同時に変化も早い欧米ゲーム業界だけに,さまざまな軋轢が生じるのは避けることのできないものだろう。以下に,関連する話題をさらに3つ紹介したい。
■eスポーツ部門で大規模レイオフを行ったActivision Blizzard
ゲーム産業でCOVID-19の影響を最も直接的に受けたのが,eスポーツジャンルだろう。アジア地域などではようやく小規模イベントが開催されるようになったが,感染拡大の終息が見えない欧米では依然としてトーナメントのオンライン中継がメインで,多くのファンが詰めかけるイベントは再開の目途さえ立っていない。
そんな中,ゲーム関連企業の中で最もeスポーツに投資してきたと思われるメーカーの1つ,Blizzard Entertainmentで,少なくとも50人の従業員がレイオフされたというニュースが聞こえてきた。いずれも「Overwatch League」や「Call of Duty League」のイベントに携わる社員で,昨年(2020年)は大きな事業を行うことができなかったための措置だと見られている。解雇後90日間は失業保険が適応されるが,現在のアメリカの雇用情勢では再就職は難しいだろう。
規模が大きかったために話題になったが,こうしたリストラや配置転換は,大なり小なり,各ゲームメーカーでも行われているはずだ。
その一方,冒頭にも書いたようにゲーム企業の業績はどこも好調であり,Activision Blizzardは昨年1年で株価を65%ほど伸ばしている。GamesIndustry.bizによれば,そのボーナスとして,同社のCEOであり大口株主でもあるロバート(ボビー)・コティック(Robert A. Kotick)氏が,最大で2億ドルの報酬を受け取る可能性があるとのこと。リストラとは直接的に関係のない話とはいえ,これを読んで不公平感を覚える欧米のゲーマーは多いようだ。
■業界で続くセクシュアルハラスメントの告発。Riot GamesのCEOは潔白の報告
「League of Legends」や「VALORANT」などで知られるRiot GamesのCEOであるニコロ・ローレン(Nicolo Laurent)氏が,セクシュアルハラスメントで告発されたのは2021年2月のことだった。オンラインミーティングで秘書に対して女性蔑視とも取れる発言をしたことが問題視されていたが,同社が設立した独立委員会が行った調査によれば,そのような証拠は見つからなかったとのこと。公式サイトに掲載された報告書が述べている。
欧米ゲーム業界では,セクシュアルハラスメントの告発や疑惑報道が相次いでおり,2020年6月には,「Vampire: The Masquerade - Bloodlines」や「Dying Light 2」のシナリオコンサルタントを務めたクリス・アヴェロン(Chris Avellone)氏が,複数の女性に告発されて辞職。同年7月には「アサシンクリード ヴァルハラ」のクリエイティブディレクターだったアシュラフ・イズマイル(Ashraf Ismail)氏が,セクシュアルハラスメントを理由に解雇されている。
白人男性が圧倒的に優位を占める欧米のゲーム・IT業界だけに,こうした告発は依然として続いているが,ローレン氏のようなケースもあり,一朝一夕に解決することはなさそうだ。
■超レアカードを社員が不正販売か
ルートボックスによるマネタイズで,よく取り上げられるのが,「FIFA」シリーズの「FUT」(FIFA Ultimate Team)だ。購入したカードパックの中には,FIFA(国際サッカー連盟)に登録されている有名選手が複数枚含まれており,プレイヤーはそれを購入しては一喜一憂し,理想のチームを作るために買い続ける。その仕組みが中毒性の高い要素だと指摘されており,2020年10月にはオランダ政府が「ギャンブル」だと認定した。しかし,こうした政治レベルでの批判を受ける一方,多くのゲーマーに愛されているのも事実で,Electronic Artsにとっては重要な収入源でもある。
「FIFA 20」以降は,ペレ,ジダン,ティエリ・アンリといった能力の高い伝説的な選手の超レアカード「Prime Icon Moments」(PIM)が導入され,ファンのコレクター魂をさらにかきたてているが,今年3月,そんなPIMカードをElectronic Artsの社員が不正に販売しているという疑惑が持ち上がり,同社が調査を開始したことが明らかになった。
Twitterなどを見ると,PIMカード2枚で1000ユーロ(約13万円),PIMカード3枚とTOTY(チーム・オブ・ザ・イヤー)2枚で1700ユーロ(約22万6000円)と,驚くような価格になっているが,ゲーマーの中には「安い!」というコメントも見られ,需要はあるようだ。
Electronic Artsは以前,EUに対して「FUTは現金化できない(のでギャンブルではない)」と説明していたため,もし社員が絡んでいるなら大きな問題になってくるはず。
— EA SPORTS FIFA (@EASPORTSFIFA) March 10, 2021
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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