
業界動向
Access Accepted第732回:Googleの2022年度版報告書から見えるゲーム開発に求められるもの
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Googleのゲームイニシアチブである「Google for Games」が,最新レポートとなる「2022 PC & Console Insights Report」を公開した。ゲーマーの動向から開発者たちが何を目標に新しいプロジェクトを企画していくべきなのか。ゲームがエンターテイメントとして確立されていく中で,多様性のあるゲームとゲームコミュニティ,開発者のクリエイティビティを両立させることが重要になっているようだ。
Googleが示すゲーム市場の現状
モバイルアプリの販売やクラウドサービスでゲーム産業にも大きな影響を与えるGoogle。欧米では2019年に鳴り物入りでサービスがローンチしたにもかかわらず,結局アジア地域にまで拡張しないまま方針転換が計られているクラウドゲームについては,半年ほど前に掲載した「第714回:ゲーム市場で存在感をなくしつつあるGoogle Stadiaの現在」(関連記事)にもあるとおりだが,それを別にしても,ほぼ全てのゲームトレイラーは傘下のYouTubeで配信され,キーワード検索からバックボーンテクノロジーまで,ネットユーザーなら当たり前のようにGoogleのサービスを享受している。
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そんなGoogleは,ゲーム開発者向けの情報サイト「Google for Games」(外部リンク)を運営し,ゲームデベロッパに対してソリューションやリソースを紹介し,コミュニティの育成などにも努めている。まだそれほど情報量が多いわけではないものの,今年からアジア太平洋,ヨーロッパ・中東,北アメリカ,そしてメキシコとブラジルのユーザー1万4,000人あまりからの意見を統計化した白書を公開しており,その1つが「2022 PC & Console Insights Report」(外部リンク)というレポートだ。
これは,ゲーム開発者が新しいプロジェクトを企画する際に参照すべき,「現在のゲーム市場の動向はどうなっているか」という統計データをまとめたものだ。その名称どおり,「2022 PC & Console Insights Report」はPCおよびコンシューマ機向けゲームの動向についてのレポートであるが,「熱狂的なゲーマーも,最高のゲーム体験を楽しむために有用になる」と記載されている。全部で4つが公開予定の白書のうち2つ目であり,すでにモバイルゲーム市場に関するレポートである「2022 Mobile Insights Report」(外部リンク)は公開済みだ。
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このレポート(regionのセレクトはGlobal)によると,「ゲームをプレイし始める動機」については,複数回答方式で56%の人が「リラックスするため」と答えており,続いて「退屈だから」(55%),「時間を持て余しているから」(55%),そして「学業や仕事の合間」(43%)などが上位に挙がっている。“リラックス”とは正反対の概念である「心を刺激するため」(35%)という意見もあるものの,いずれにせよ,ここしばらくは新型コロナウイルス感染症(COVID-19)での自粛機運により,ゲームで気分転換や暇つぶしを行う人が多いようだ。
また,「常時プレイしているゲームの数」は,1本(16%)よりも2本(38%)や3本(25%)の方が圧倒的に多く,その日の気分や状況で遊ぶタイトルを変えているゲーマーが多いことがうかがえる。
「ゲームが翻訳されていることは重要か」という項目では,「非常に重要」(30%)と「とても重要」(32%)が3分の1近くを占めているが,面白いのは「とくにアジア太平洋地域とブラジルで高い傾向がある」というコメントが付けられていることだ。アジア地域やラテンアメリカでは,まだまだ言語の壁は大きく,しっかりと多言語化しなければ大きな機会を逃してしまうことが示唆されている。
多様性とソーシャル性を求めるゲーマーコミュニティ
当連載の読者の皆さんであれば,PCおよびコンシューマ機でプレイするゲーマーの70%以上が,ゲームに「多様なキャラクター」や「多様なストーリー」が登場することが「非常に」,または「とても重要である」と考えていると回答していることは気になるところだろう。「第724回:Activision Blizzardの“多様性”を示すゲームキャラクター評価ツールが炎上」(関連記事)で紹介したとおり,ゲーマーコミュニティは多様性の無理強いに対して拒否反応を示す傾向あるが,それとは反対の結果だ。
もっとも,「Life is Strange: True Colors」や「The Last of Us Part II」のように,設定やテーマに沿ったキャラクターやストーリーであれば問題視されるようなことは少ない。そもそも,このところの傾向として主人公は肌の色から体型までプレイヤーキャラクターを自由にカスタマイズできるゲームが増えているので,そういう意味での“多様性”であればすでに多くのゲーマーが享受するところであるし,実際にゲームにおける重要な要素としてみなされているのもわかる話だ。
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同レポートによると,ゲーマーの半数以上(55%)が何らかの形でゲーム関連のコミュニティに属しており,40%近くが家族や友人と交流する機会がプレイし続ける理由であると感じている。また,プレイヤーはゲーム内のテキストチャット (41%) やボイスチャット (32%) を介して他のプレイヤーとやり取りするというソーシャル嗜好を強めている。ゲームはライブサービス化する中で非常に複雑で相互に接続されたデジタルサービスへと進化し続けており,こういったコミュニティの育成と持続がゲーム成功のカギを握っている。
「プレイしたいゲームをどのように見つけるのか」という“ディスカバラビリティ”においても,「YouTube」(40%),「ソーシャルメディアの広告」(39%)と続く一方,僅差でそのあとに僅差で「友人や家族からのおすすめ」(38%)が続きトップ3を形成する。本誌のような「ゲーム系サイトの情報」(31%)が少し差を付けられて続くのは寂しいところだが,ここでもソーシャル性がクローズアップされているのがわかるだろう。
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ゲームは,クリエイターの個性を投影したものであるから,彼らの作品に対する思いはリスペクトされて当然だが,そうした“パーソナルなアート”であるとともに“グロバールなエンターテイメント”であるという側面も持つ。多様な個人で構成されるゲーマーコミュニティには,ソーシャル化が進んだ現在ではクリエイターの想定外の地域や層から参加していく人もいるはず。つまり,自らのクリエイティビティと,あるべきゲームやコミュニティのデザインを両立させるためには,そうした想定外に対する理解とゲーム市場の洞察が不可欠であるわけだ。
「2022 PC & Console Insights Report」のレポートでは,「挑戦したい未来のゲーム」について「メタバース」や「VR/AR」「NFT」といった業界のトレンドが上位となる一方で,「プレイし続けるために重要なファクター」では,「ゲームプレイが楽しい事」「熱中できるストーリー」「良い程度のチャレンジ」といった,ゲームについての価値観に変化は見られない。多様性のあるゲームコンテンツとコミュニティを,そこにどのように組み込んでいくのかが,“今のゲーム”の在り方なのだ。
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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