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2012年に搭載製品が登場予定のQualcomm製次世代SoC「Snapdragon S4」。明らかになったその概要を確認する
開発コードネーム「Krait」(クライトもしくはクレイト)で知られるSnapdragon S4のホワイトペーパーには,デュアルコアCPUを統合したモデルの概要が記載されており,CPUの性能や省電力性,そしてWindows 8のサポートも謳われるなど,なかなか興味深いものになっていたので,公開から少し時間が経ってしまったが,今回はホワイトペーパーの内容を紹介してみたいと思う。
「Cortex-A15コアの採用で,デュアルコアでも速い」
ARMプロセッサ対応版のWindows 8のリリースが計画されている2012年を間近に控え,ARMプロセッサをベースとしたSoCの競争が激しさを増している。そんななか,Qualcommが公開したホワイトペーパーからもその激しさは伝わってくる。SoCメーカー各社はOEMを獲得すべく自社製品のアピールに余念がないが,今回公開されたMSM8960のホワイトペーパーはなかなか面白い。というのも,先にホワイトペーパーが公開されたNVIDIAの「Project Kal-El」(プロジェクトカルエル,開発コードネーム,以下 Kal-El)を意識したような記述が,ところどころに見られるのである。
Kal-Elは「クアッドCPU+シングルCPUコア」という特殊な仕様で,広義にはクアッドCPUコアのSoCだ。なので,「なぜデュアルCPUコアのMSM8960でQualcommが意識するの?」という疑問を持つ人もいるだろう。実はそこにこそ,Qualcommのアピールしたいポイントがある。
Kal-Elが統合するCPUコアは「Cortex-A9」。それに対してSnapdragon S4では,一世代新しい「Cortex-A15」コアの改良版を採用しているのだ。
Cortex-A15は,3命令デコード8命令同時発行のOut-of-Orderパイプラインで,Cortex-A9の2命令デコード3命令同時発行のOut-of-Orderパイプラインから規模がかなり拡張されているのだが,Qualcommは,Snapdragon S4の採用する改良版Cortex-A15コアがオリジナルのCortex-A15よりもさらに20%性能が向上していると謳っているので,動作クロックレンジが1.5〜2.5GHzということも加味するに,CPUコア1基あたりの性能は,Cortex-A9と比べて相当速くなっていると見ていいだろう。
「コンパニオンチップを使わずに」省電力を実現する「aSMP」
さて,ホワイトペーパーでは,MSM8960のブロックダイアグラムも以下のとおり明らかになっているのだが,それを見ると,Snapdragon S4では,CPU部「Multicore Subsystem」とGPU部「Multimedia Subsystem」,そしてモデム部「Modem Subsystem」が,システム基盤やデュアルチャネルメモリコントローラ,省電力機能を提供するブロックと一体になっていることが分かる。
CPU部は,CPUコアごとにL1キャッシュが組み合わされ,さらに共有L2キャッシュも用意されるという,ARM系のマルチCPUコアで一般的なもの。ブロックダイアグラムで「Krait CPU」へ食い込むように置かれている「VeNum」は,Qualcomm独自のマルチメディアエンジンである。
GPU部に関しては後述するが,Qualcomm独自のGPUコア「Adreno」(アドレノ)を搭載するのは見て取れよう。モデム部はLTE(Long Term Evolution)対応が特徴だ。メモリコントローラは32bitの低電圧版DDR2に対応しているという。
そして,ある意味で今回のホワイトペーパーにおける最大の見どころとなるのが,「aSMP」(asynchronous Symmetrical Multi-Processor)と名付けられた,省電力関連の技術である。
aSMPの原理はそれほど複雑なものではなく,「負荷に応じて動的に,CPUコアごとの電圧とクロックを制御する」というもの。「asynchronous」(非同期)というのは,CPUの電圧およびクロックの制御が同期しないことを指しているようだ。Qualcommは,一般的なSMP制御と比べて,aSMPでは消費電力を25〜40%も削減できるとアピールしている。
Windows 8はSnapdragon S4のGPUをサポート
ここからは,上で後述するとしていたGPUの話をしていこう。
QualcommのGPUは,かつてATI Technologies(AMD)が開発していた組み込み向けメディアアクセラレータ「Imageon」から派生したものだ。「Imageon W100」がシャープ製のZaurusに搭載されていたりもしたので,懐かしいというモバイルマニアもいるかもしれない。
Adreno 200シリーズは統合型シェーダを採用しているため,ピクセルシェーダと頂点シェーダが分離しているGPUに比べ,処理量に応じて演算器を使い分けられる点で有利だという |
Adreno 200シリーズは,2本のレンダリングパイプで画面をタイル状に分割して描画を行う。Adreno 225ではメモリ帯域幅が広くなるため,高解像度にも対応できるとされている |
Adreno 200シリーズは,統合型シェーダを採用することで低消費電力かつ高性能を実現している点が特徴。Adreno 225ではメモリ帯域幅が向上しているなど,Adreno 200比で6倍,Adreno 220比で1.5倍の性能向上を果たしているそうだ。
ところで,今回のホワイトペーパーでは詳細が明かされなかったが,クアッドコアCPUを採用するAPQ8064は,GPUに「Adreno 300」が採用される予定になっている。
Adreno 300については,アーキテクチャの大幅なリファインが行われ,PlayStation 3やXbox 360に匹敵する性能を備えるなどという情報が伝えられていたりもする。まだ詳細は明かされていないが,Adreno 300がどのようなGPUなのかも興味深いポイントとして覚えておきたい。
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