日本野球機構(以下,NPB)は,2019年3月23日と24日に
「NPB eスポーツシリーズ スプラトゥーン2」の出場チームによる
育成キャンプを開催した。
©Nippon Professional Baseball / ©2017 Nintendo
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「NPB eスポーツシリーズ スプラトゥーン2」は,NPBが主催する「
スプラトゥーン2」のeスポーツ大会だ。
3月3日には,出場チームを決めるドラフト会議が開催され,プロ野球12球団が「第4回スプラトゥーン甲子園」に参加したチームの中から,球団の旗を背負う選手たちを指名した。
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今回行われたキャンプには,ドラフト会議で選ばれた12チームに加え,育成枠の2チームも参加。3月23日には,東京ミッドタウンにあるBase Qで
座学研修や
ユニフォームのお披露目会などを,3月24日には
野球殿堂博物館の見学や,東京ドームでの
オープン戦観戦などを行った。本稿では,23日の模様をレポートしていこう。
プロの選手として自覚を持つために
キャンプの冒頭では,NPBの
高田浩一郎総合企画室長による挨拶が行われた。開口一番に「おはようございます!」と挨拶するも,会場からの返答はやや小さめ。それを見た高田氏は「プロ野球の世界では,挨拶が大事です。もう1回いきますね」と,さっそくプロの自覚を促す。
その後も「選手にはプレイの質はもちろんのこと,メディアでの一挙手一投足,ファンに対してのサービスや模範であることも求められる」「素晴らしいことや楽しいことも多くあるが,誰か思いを背負ってプレイすることは楽しいばかりではない」と先日引退したイチロー選手の言葉を交えながらプロであることの難しさを説いた。
キャンプに参加した選手の年齢は10代前半から30歳まで。小学生の選手もいるが,高田氏は,年齢に関係なく一人一人にプロとしての自覚を促していた
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その後は,SNSやメディア対応の研修へと移る。高田氏は「対応やルールを間違えるとプレイ環境に影響が出たり個人が傷ついたりすることもあるので,注意が必要である」と語るが,確かに昨今はSNSの情報発信絡みのニュースが世間を騒がせることが多くなっている。
研修では,講師が登壇し,自身の個人情報をさらさない事はもちろん,写真をアップするだけでどこまで個人を特定されるかという危険性が語られた。また,悪ふざけのつもりが大問題へと発展した回転寿司チェーン店の事件や,熊本地震のデマツイートなど,注目を集めるためにSNSを利用するリスクが紹介されていた。
また,ゲームやインターネットとの付き合い方についても触れられた。eスポーツ選手は,ゲームのプレイが練習になるが,プロスポーツ選手と同じように練習と休養のメリハリをしっかりつけて,健康維持と自己管理を怠らないよう注意が促されていた。
ゲームやネットとの付き合い方について説明するスライド。これは若い選手が多い事からの配慮だろうか
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メディア対応の研修では,対応を学ぶことのメリット,取材やインタビューのポイント,注意点などが教えられた。
ここで重要なキーワードとして挙げられたのは
「品位」だ。冒頭の高田氏の言葉に繋がるが,プロはその一挙手一投足が注目されること,そのために規範となる行動をとること,それらを意識し日々を積み重ねることが重要だと語られた。
また,会場を驚かせたのは,
参加チームの言動やSNSでの発言が,ドラフト会議での選出前から調査班によってチェックされていたことだ。一例として見せられた報告書には,日々の配信やSNSでの発言に関して問題のありそうなものが,詳細に記されていた。
今までの言動や過去の内容については不問とし,選手としての期待を優先するということだったが,ここまで見られているというのもまた12球団の旗を背負っている厳しさの表れだろう。
選手の言動が細かくチェックされた報告書
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最後には「世界に良い影響を与えるためにSNSをどう使っていくか」をテーマに,15分間,各チームでディスカッションが行われた
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続いての各チームと球団関係者による交流会では,厳しい研修から一転し,軽食を取ったり,球団マスコットと記念撮影が行われたりと終始和やかな雰囲気で進行した。
さらに,交流会後半では元日本ハムファイターズの投手で,引退後は社会人チームの監督や小中学生への野球指導を行っている
今関 勝氏が登場。メンタルコントロールやチームメイトへのフォロー,スランプの脱し方や集中力の高め方など,選手からのさまざまな質問に対して元プロ野球選手の視点から答えていた。
今関 勝氏
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ユニフォーム姿をお披露目。袖を通して感激する選手たち
交流会の後は,各球団からチームメンバーへのユニフォーム贈呈と質疑応答が行われたので,その模様とコメントをそれぞれお伝えしていこう。
■読売ジャイアンツ所属「SpRush!!」
ジャイアンツの知名度は全国トップと言える球団のためか,ユニフォームに袖を通したメンバーは興奮気味。周りの影響についての質問された際にも,その知名度ゆえに誰に話しても伝わるし,反響も大きかったという。
またキャプテンの「ぱーく」さんは,意識をしているチームについて聞かれると,先日の「第4回スプラトゥーン甲子園」にて決勝で敗北を喫した,福岡ソフトバンクホークス所属の「GGBOYZ」の名前を挙げていた。
■東北楽天ゴールデンイーグルス所属「-閃華裂光-」
球団所属となった影響を聞かれると,東北出身の「ろんつ」さんは「地元の友達から連絡が来て,応援にも行くと激励を受けて嬉しかった」と答えた。
また,ユニフォーム贈呈で登壇したマスコット「スイッチ」は,選手に向けて応援のダンスを披露し,選手と記者から拍手が起こった。そして「第4回スプラトゥーン甲子園」の全国決勝大会では初戦敗退と辛酸をなめたため,今回のリーグでは優勝しますと改めて決意を述べていた。
■福岡ソフトバンクホークス所属「GGBOYZ」
ユニフォームの格好良さと重みを実感し大興奮の選手たち。「GGBOYZ」は「スプラトゥーン甲子園」2連覇の王者で,先日行われたドラフト会議でも3球団から指名されるなど,期待は大きい。
自分たちのどんなプレイを見てほしいかと質問されると,キャプテンの「たいじ」さんは,「楽しくプレイする事を心がけているので,自分たちのプレイを通してこのゲームの楽しさを知ってもらいたい」と語った。また,試合の注目ポイントを聞かれると,終盤での追い上げや捲りという意見がメンバーから多く上がっていた。
■東京ヤクルトスワローズ所属「ウルトラリベンジャーズ」
プロ野球球団の所属になったことによる影響を聞かれると,「かよたそ」さんは「友人にも名前に選手とつけて呼ばれるようになったのが嬉しかった」という。
また「はんじょう」さんは,記者の1人から指名され,メンバーの特徴の紹介を促されると,ゲーム実況者としても有名でメディア慣れしているためか,抜群のトーク力を発揮し,答えていた。はんじょうさんがどんなリーダーかと質問された「りうくん」さんが,「頼りになるリーダーです!」と力強く答えると,はんじょうさんは「うれしいなあ,ありがとう!」と答えるなど微笑ましいやり取りも交わされていた。
■北海道日本ハムファイターズ所属「ばぼにゃんず♰」
全員が大学に通う学生のため,記者からは学業との両立について聞かれると,「どちらも手を抜かずに両立する」と各メンバーが意気込みを語る。キャプテンの「ばぼ」さんは家族そろっての日ハムファンであり,自分自身も小,中学校時代に野球部所属でピッチャーとして活躍した経験を持つ。背番号はプロ野球のエースナンバーにちなみ「18」を選んだそうだ。
メンバー3人が北海道出身ということで,球団関係者からは「文武両道,模範的なプレイヤーとして活躍を見せてもらうことで,北海道を盛り上げてほしい」と期待が寄せられた。
■広島東洋カープ所属「やのっち監修【メロンの海苔塩風味Mild仕立て】」
ドラフト会議では一番最後の指名となったチームで,メンバーはそれぞれ最後まで気が抜けない状況でハラハラしていたそうだ。球団関係者は,「全員が10代のチームで『育てて勝つ』というカープのスタイルとマッチした伸びしろのある人たち」とドラフト会議での選出理由を語っていた。
また球団はユニフォームだけではなく,チーム名,名前,背番号と似顔絵が入ったタオルを選手のために作成してくれていた。ほかの球団にはない特別なプレゼントに感動したキャプテンの「YuMild.」さんは「メンバー全員のモチベーションがあがったので,球団にも貢献したい」と意気込みを語った。
■オリックス・バファローズ所属「Libalent Calamari」
キャプテンの「くろすっω・)つ」さんは小学生のころ,プロ野球選手を夢見て挫折した経験があり,別の形でユニフォームを着る事ができて感動したと語った。
また,今大会最年長となる「2438学園」さんは,チームメンバーからも頼りにされており,背番号も4人が2438学園さんにちなみ,それぞれが「2」「4」「3」「8」を背負うという。これは「くろすっω・)つ」さんが提案し決まったそうで,「2438学園」さん以外は即決だったという。「2438学園」さんは,「若い子たちって騙されやすいんだなー(笑)」と答え,笑いを誘っていた。
■阪神タイガース所属「ぽぽじろう学園高等部3年A組」
近畿大会の優勝者であり,関西出身者が3人いる「ぽぽじろう学園高等部3年A組」。メンバー全員が阪神タイガースからの指名を希望していたため,選ばれたときには感動し,周囲の反響や祝福も非常に大きかったという。背番号を決めた理由を聞かれると「きのこ」さんは,「野球漫画『おおきく振りかぶって』の好きなキャラクター,栄口勇人と同じ『4』にした」というエピソードを披露してくれた。
■中日ドラゴンズ所属「私を闘会議に連れてってネオ」
ドラフト会議に指名された際には感動のあまり男泣きしたというメンバーの「のすけ」さん。「ポチ産」さんは,「スプラトゥーン」はプレイしていたが「スプラトゥーン2」はプレイしていなかったという友人が自分の活躍で,また興味を持ってくれて嬉しかったと語る。
メンバーの真面目さが選考理由と球団関係者が答えるとおり,メンバーは受け答えが明るくハキハキと,かつ丁寧に答えている印象があった。囲み取材後も「きょう」さんが「ありがとうございました!」と声をあげ,全員で一礼する姿にも真面目さがにじみ出ていた。
■埼玉西武ライオンズ所属「Cool&Cool」
ドラフト会議では,最後から2番目に決まったが,第一希望のライオンズに無事指名された「Cool&Cool」。チームの強みを聞かれると,キャプテンの「ばぐちゃん」さんをはじめとしたメンバー全員が「攻撃を主体として相手を倒す戦術で,アグレッシブなスタイル」と回答した。球団関係者も「彼らを選んだ理由はやはり攻撃力だった。攻撃を主体とするライオンズに相応しい」と期待を寄せていた。
■千葉ロッテマリーンズ所属「5年☆組〜あしんとらず学級〜」
「5年☆組〜あしんとらず学級〜」は,小学生プレイヤー2名が所属しており,メンバー内で年齢差がかなり大きいチームだ。小学生選手の「ほのか」さんは「最初はベイスターズに選んでほしかった」と答え記者から笑いを誘ったり,「背番号は苺が好きなので『15』」と可愛いコメントをしたりと個性を輝かせていた。
そんな「ほのか」さんを含めたメンバー全員は「ドラフト会議の際にクジを引いた里崎氏のガッツポーズに感動した。今はマリーンズでよかった」と思いを語った。
■横浜DeNAベイスターズ所属「ハイパービーム」
全員が10代の若手チーム「ハイパービーム」。キャプテンの「けいとぅーん」さんは13歳の中学生で,全チームの中で最年少のリーダーだ。ドラフト会議では自分たちが選ばれたときは「あまりにも大きな話で状況が把握できず,現実感がなかった」と語る。ほかのメンバーも1巡目で選ばれず,ほぼ諦めかけており,名前が出たときには非常に驚いたという。
球団関係者は「全員が10代でありながら,しっかりした考え方を持って競技に臨んでいる姿勢が選考理由である」と語った。
10代の選手は交流会でマスコットとはしゃいでいたり,年相応に子供らしい面も見せたりしていたが,ユニフォームに袖を通すと一様に背筋がピンと伸びていた。若い選手を引っ張るリーダー,20代の先輩プレイヤーの面々も感動や嬉しさを語りながらも,プロ野球団を背負うという重みを改めて感じ取っていたようだ。4月に控えるオープン戦では,プロとしての第一歩を踏み出した彼らがどんなプレイを見せてくれるのか期待したい。
2日目はチームの選手たち全員で,野球殿堂博物館の見学や東京ドームでのオープン戦観戦などを行った
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