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眠れぬ魂 RESTLESS SPIRIT公式サイトへ
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  • 発売日:2017/04/17
  • 価格:1000円
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謎に包まれたPS VR向けホラー作品「眠れぬ魂」についてwise代表取締役の尾小山氏にインタビュー。ゲームとも映画とも違う新しい表現方法とは
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印刷2017/04/15 00:00

インタビュー

謎に包まれたPS VR向けホラー作品「眠れぬ魂」についてwise代表取締役の尾小山氏にインタビュー。ゲームとも映画とも違う新しい表現方法とは

 wiseが2017年4月17日にリリースする,PlayStation VR専用のPS4向けホラーコンテンツ「眠れぬ魂 RESTLESS SPIRIT」(以下,眠れぬ魂)は,「映画の再発明」をコンセプトに制作された作品だ。4Gamerでは便宜上「アドベンチャーゲーム」と表記しているが,厳密に言うとゲームではなく,プレイヤーの視点や行動によって展開が変化するインタラクティブシネマである。


 360度全方位からの情報量や視点移動によるVRならではのインタラクティブ性は,ゲームや映画といった既存のどのコンテンツにも当てはまらない先進性を感じるものだ。
 とはいえ本作自体の情報が少なく,その全貌を捉えきれていない。そこで今回は「眠れぬ魂」を制作したwiseにお邪魔し,同社代表取締役であり本作のディレクターでもある尾小山良哉氏に話を聞いてきた。


ユーザーと一緒に,スタンダードになっていくものを作る


4Gamer:
 本日はよろしくお願いします。まず「眠れぬ魂」を開発することになった経緯を教えてください。

画像集 No.008のサムネイル画像 / 謎に包まれたPS VR向けホラー作品「眠れぬ魂」についてwise代表取締役の尾小山氏にインタビュー。ゲームとも映画とも違う新しい表現方法とは
尾小山良哉(以下,尾小山)氏:
 うちはもともと映像制作をメインに活動している会社ですが,「眠れぬ魂」は,映像コンテンツの新たなアプローチとして作りました。我々はゲーム業界をメインフィールドにしているわけではありません。ですから,PS VRの中では「眠れぬ魂」は異色な存在だと思います。非常に実験的な作品でもありますし。

4Gamer:
 では「眠れぬ魂」を制作するうえで,とくにこだわったポイントはどこでしょうか。

尾小山氏:
 やはりストーリーテリングですね。「眠れぬ魂」は主観映像なので,VRでストーリーテリングをするなら,「誰が主役になるべきなのか」といったことは,かなり試行錯誤しました。

4Gamer:
 先ほど実際に体験させていただきましたが,すごくメッセージ性の強い作品ですよね。終わったあとも,しばらく考えこんでしまうような。ちなみに,VRの映像系コンテンツと一口にいっても,いろいろなジャンルがあると思うのですが,なぜホラーを題材にしたのでしょうか。

尾小山氏:
 まず,VRとホラーの相性がすごくいいこと。もう1つは,ローバジェット(低予算)でどこまで出来るかを意識しているということです。ジャパニーズオカルトホラー(以下,Jホラー)の場合,撮影バジェットとクオリティは比例しないんですよ。また,本作はアメリカでの発売も考えているので,Jホラーが世界的なブランド力を持っているということも大きな理由の1つですね。

尾小山氏が説明してくれた「眠れぬ魂」の4つの特徴。「イベントトリガー」「ムービートリガー」「インタラクショブシーン」「マルチエンディング」。画像は公式サイトから
画像集 No.003のサムネイル画像 / 謎に包まれたPS VR向けホラー作品「眠れぬ魂」についてwise代表取締役の尾小山氏にインタビュー。ゲームとも映画とも違う新しい表現方法とは
4Gamer:
 確かにアメリカでは「リング」や「呪怨」といったJホラーの人気が高いですよね。もし次回作を作るとしたらホラーでしょうか。

尾小山氏:
 いえ,次はホラー以外のものを作りたいなと思ってるんです。まだ詳細はお話できないのですが,準備は進めていますよ。
 僕らはまだまだやりたいことがたくさんあるし,「眠れぬ魂」を作ってから分かったこともある。ユーザーさんと一緒に,今後スタンダードになっていくものを作るみたいなイメージですね。ドヤ顔で「これどうよ?」みたいな感じではなくて,「これ,どう思う?」みたいな。なので,フィードバックはとても気になります。

4Gamer:
 なるほど。ところで「眠れぬ魂」を体験してみて感じたのですが,ムービーで進行していく部分と,インタラクティブな部分では,怖さの質が全然違う気がしました。やはりインタラクティブな部分のほうが,プレイヤー自身が介入するだけあって圧倒的に怖い。この辺りは意識して作られたんですか。

画像集 No.007のサムネイル画像 / 謎に包まれたPS VR向けホラー作品「眠れぬ魂」についてwise代表取締役の尾小山氏にインタビュー。ゲームとも映画とも違う新しい表現方法とは

尾小山氏:
 映像の編集の妙だと思うんですけど,VRだと結局「プレイヤーは誰になるのか」っていう問題が付いてきちゃうんです。一番大事なのは,どのように体験型のストーリーテリングを作るか。
 自分が誰なのか,そういう話がどうやって見えてくるのかというところを重視した結果,通常の映像とインタラクティブな部分をミックスすることにしたんです。ただ,僕らも実験段階ではあるので,これが正解かどうか分からないところもあります。

4Gamer:
 個人的には満足しましたが,あれでもまだ実験段階なんですね。

尾小山氏:
 そうですね。出来たものを見返すと「ここを直そう」とか「次はこういうことをやりたい」といった欲求がすごく出てくるんですよね。

4Gamer:
 というと?

尾小山氏:
 一番大きいのは,企画そのものですね。やっぱり,果たしてプレイヤー自身が主役になるのがいいのかどうか。それとも,俯瞰で観ているのがいいのか。プレイヤーが「誰か」としてその世界に入るのがいいのか。そして,その目線はどうあるべきなのか。そういった,話の構造のほうが重要だと思います。

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4Gamer:
 VRは主観視点の作品が多いですし,そうなると,主人公イコール自分という考えになりがちですよね。

尾小山氏:
 「眠れぬ魂」はPS VRというハードでリリースする作品ではありますが,ゲームではありません。映画は,思い入れのあるキャラクターが成長していく様子を,視聴者が見守っていくというロジックです。でもVRは,プレイヤーと作品の距離感が,映画ともゲームとも違う。そこが面白いところでもあり,難しいところでもあるんです。

4Gamer:
 立ち位置がふわっとしてますよね。ゲームではない,とはいえ,既存の映画とも違う。

尾小山氏:
 「眠れぬ魂」は「映画の再発明」を謳ってるので,インタラクティブシネマが一番近い表現なんですよね。「映画に体験を入れる」ということですから。
 その一方で,はっきりと「『眠れぬ魂』はゲームではない」と思っています。4Gamerさんに言うのも何なんですけどね(笑)。これをゲームだって言っちゃうと,話法的に,絶対ゲームに負けちゃうんですよ。

4Gamer:
 具体的にお聞きしてもいいですか。

尾小山氏:
 たとえばゲームの場合だと,ミッションをコンプリートする気持ち良さがありますよね。ゲームの場合はそれが主軸になっているし,コンプリートするという行為にカタルシスがある。行為に理由がついてくるんです。
 なので,「眠れぬ魂」のような作品がゲーム寄りの方向に行った瞬間,僕らは違う土俵に上がらなくてはいけなくなる。それは,本作でやりたいことではないんです。

4Gamer:
 ターゲットが難しいですよね。映画と銘打ってはいるけど,プラットフォームはPS VRだから,どうしてもゲーム好きの人が集まってきやすいですし。

尾小山氏:
 正直,マッチしていないとは思います。ゲームユーザーの目線で見たら物足りないものになるけど,映像好きな人が観ると新しく感じる。既存の映画にはない良さがありますから落としどころが難しい。なので先ほども言いましたが,これで正解とは僕らも思っていません。

画像集 No.011のサムネイル画像 / 謎に包まれたPS VR向けホラー作品「眠れぬ魂」についてwise代表取締役の尾小山氏にインタビュー。ゲームとも映画とも違う新しい表現方法とは

 ただ,「体験」でストーリーを語っていくという本作の方向性は,VRの進む道と合致していると思います。なので,これからも体験にスポットを当てたストーリー作りをしていきたいですね。
 今のVRはハードがヘッドマウントディスプレイですけど,これは単なるハードの話ではないと思っています。こういった手法や表現方法は今後も掘り下げていければいいなと。なので記事には,「野心的な作品」と書いておいてください(笑)。

4Gamer:
 分かりました(笑)。ところで,VRといえば,Oculus RiftやHTC Viveなども市場にはあるわけですが,PS VRにした理由はなんでしょうか。

尾小山氏:
 インフラなどもふまえて,ユーザーにきちんとリーチできるハードというと,やはりPS VRになるのかなと。

4Gamer:
 VRといえば,スマホ関連のデバイスもたくさん登場していますよね。その辺りはどう考えていますか。

尾小山氏:
 「眠れぬ魂」は今のところマルチプラットフォーム対応を考えています。ただ,我々は今回初めてパブリッシャとして作品を作るので,分からないことが多すぎるんですよ。すべてが手探りです。
 でもすごく勉強になりますよ。今の段階でそれほど多くを求めているわけではなく,映像を使ってストーリーテリングするという挑戦がユーザーさんに伝わればいいのかな,とは思っています。

4Gamer:
 ちなみに,「眠れぬ魂」の制作期間はどのくらいですか。

尾小山氏:
 1年です。本当は半年くらいで終わると思っていたのですが,試行錯誤してたら,思ったよりもガッツリかかっちゃって(笑)。

4Gamer:
 撮影中は役者さんがお芝居をするわけですが,「VRを使った作品です」と説明するのはなかなか大変だったのでは。

尾小山氏:
 役者さんに説明するのも大変でしたが,撮影中にプレビュー出来ないのが一番大変でしたね。撮影中は僕らが直接動いて横から見るしかないんですよ。撮った内容が分からないんで,いざ確認したら目線が来てないとか,ありえるわけですからね。

4Gamer:
 VR作品ならではの苦労ですね。リテイクも大変だったのでは。

尾小山氏:
 逆ですね。リテイクが出来ないんですよ。なので,カメラというよりは芝居を見るほうが重要になってくるんです。あとはライティングがすごく大変でした。森のシーンでは懐中電灯を照らしているように作ってますけど,実際はものすごく大きいライトを焚いています。懐中電灯の光量では,あんな風には映らないですから。

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4Gamer:
 そろそろお時間が迫ってきているので,最後に読者へメッセージをお願いします。

尾小山氏:
 先ほども言いましたが,「眠れぬ魂」は僕らの挑戦の第一歩です。かなり新しいことをやっているので,ぜひいろいろな方の意見を聞いてみたいですね。あまり酷いことを言われちゃうとヘコんじゃいますけど(笑)。
 ただ,僕らはインタラクティブシネマがVRのスタンダードになっていくと思っていますし,映画を観るという体験にも変化を加えられたらいいなと思っています。この記事が掲載されるころにはリリース直前になっているので,気になる方はぜひ購入してみてください。



 最後に,「眠れぬ魂」を体験した感想を簡単に書き記しておきたい。序盤は映画を観ている感覚そのものだったのだが,とある場面に切り替わると,突然,すべての行動がプレイヤーに委ねられる。辺りを見渡す程度のささやかなインタラクションではあるが,俯瞰で観ている時とは比べ物にならないほどの緊張感と圧迫感を感じた。

 また,ネタバレを避けるため詳しくは書けないが,ホラー映画の様式もしっかりと踏襲されており,Jホラー特有のジメッとした不気味さも高いクオリティで表現されている。急にガラスが割れたり,不気味な少女が突然現れたりといったお約束事が,ヘッドマウントディスプレイを通しただけでここまで怖いものに感じるとは思わなかった。また本作はマルチエンディングになっており,とある条件でストーリーが分岐する。この辺りは非常にゲーム的であり,前とは違うエンディングに到達したときは,一種の達成感を覚えた。

 体験し終わって感じたのは,本作が非常に挑戦的であるということと,わずか数年後には,その挑戦的な映像表現がスタンダードになっているのではないかという,期待にも似たビジョンだ。VRはまだまだ研究段階にある分野であるが,「眠れぬ魂」のような作品を見ると楽しみになってくる。今後もVRおよびWiseの挑戦に注目していく必要があるだろう。VRがもたらす革命のストーリーは,まだ始まったばかりなのだから。

「眠れぬ魂 RESTLESS SPIRIT」公式サイト

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    眠れぬ魂 RESTLESS SPIRIT

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