レビュー
Bay Trail-T世代のAtomを搭載するWindowsタブレットはゲーム用途で使えるか?
Lenovo Miix 2 8
これらは,SoC(System-on-a-Chip)として開発コードネーム「Bay Trail-T」こと「Atom Z3000」シリーズを搭載し,タブレット端末でWindowsを真に実用的な性能で動かすことが可能とされて注目を集めた。そのうえ,価格も4万円前後が主流と手頃なのだから,一気に人気製品となったのも道理といえよう。
Bay Trail-T搭載のWindowsタブレットは,従来のWindowsアプリケーションをそのまま動かせるのが利点だ。そのため,「ゲームにも使えるんじゃないか?」と考えた読者も少なくないだろう。
Bay Trail-T搭載Windowsタブレットで艦これが快適に動作するのは間違いないとして,それ以外のゲームはどれくらい動作するものだろうか? そこで今回は,筆者が購入したLenovo製品「Miix 2 8」を使って,ゲーム用途におけるBay Trail-T搭載Windowsタブレットの実力を検証してみたい。
軽さと薄さがMiix 2 8のジャスティス
Miix 2 8については,2013年11月掲載のファーストインプレッションでも触れているが,あらためて外観の特徴から仕様面までをおさらいしておこう。
Miix 2 8は,8インチサイズの液晶パネルを搭載するタブレット端末である。現在日本で販売されている8インチ液晶パネル搭載タブレットの中でも,Miix 2 8は軽さと薄さでトップクラスにあるのが特徴だ。実測値で352gの重量は,8インチクラスで最軽量。本体サイズは215.6(W)×131.6(D)×8.35(H)mmで(実測値),薄さが8mm強というのはとくに注目すべきポイントだ。この軽さと薄さは,とりわけ手に持ったときのインパクトが大きく,実際,軽さと薄さが気に入ってMiix 2 8を選んでいる人もいるようである。
8インチタブレットであるMiix 2 8は,成人男性が片手持ちできるぎりぎりの大きさだ(左)。あくまで持てるだけで,操作するにはやはり両手が必要になるが(右) |
本体前面は,ベゼルの上部に200万画素のインカメラ,下部にタッチセンサー式の[Windows]キーが配置されている。一方,本体背面には,500万画素アウトカメラとスピーカーがあるだけだ。
本体前面。オーソドックスなタブレット端末の形で,[Windows]キーはタッチ式だ |
本体背面。左上に500万画素アウトカメラ。右上にはスピーカーがある |
本体背面にあるスピーカーはモノラル出力だ。最近はステレオスピーカー搭載のタブレットも珍しくないので,ちょっと残念かも |
背面の大部分は滑り止め加工されており,かなり持ちやすい。本体下部だけは金属的な質感のパーツが使われていて,デザイン上のアクセントになっている |
ボタンやインタフェース類は,[Windows]キーを下に置いた縦位置状態での右側面にほとんどが配置されていた。[電源/スリープ]ボタンと音量調節ボタン,カバーに覆われたmicroSDカードスロット,電源入力も兼ねたUSB Micro-B端子といった,Windowsタブレットでよく見られるものは基本的に全部この面に置かれているという理解でいい。それ以外のインタフェースは,本体上側面にヘッドセット端子があるだけである。
液晶パネルの発色はやや青寄りでSurface 2似
バックライトはかなり明るい
Miix 2 8が採用する液晶パネルは,8インチサイズで解像度800×1280ドットのIPS液晶パネルである。色味の傾向はやや青寄りに傾いているが,発色そのものは良好だ。赤が少し弱めに見えるという程度の認識でいい。ちなみにこの発色傾向は,筆者が以前にレビューした「Surface 2」とよく似ている。
液晶パネルのバックライト輝度は,数値が公表されていないのだが,実機で見る限りでは,かなり明るめとなっている。室内で使う場合,最低輝度,あるいは輝度10%程度でも問題がないほど明るい。
むしろ就寝前に薄暗い部屋で使っていたりすると,正直いってまぶしく感じるほど。明るすぎる液晶パネルは苦手という人は,光の透過度が80%程度の液晶保護フィルムを貼って使うのがよさそうだ。
日中の室内で輝度をチェックしてみた。左写真が最低輝度で,右写真は最大輝度の状態だ。輝度が低い端末では,最低輝度ではまったく画面が見えなかったりするものだが,写真のようにMiix 2 8ではある程度視認できる。最大輝度の明るさなら,晴天の屋外でも良好な視認性が得られるという認識でいい |
ゲームを考慮すると内蔵ストレージが32GBでは不足
Windowsタブレットでは64GB以上を選ぶべし
Miix 2 8が採用するSoCは「Atom Z3740」で,定格クロック1.33GHz,最大クロック1.86GHzとなっている。メインメモリ容量は2GBだ。
余談だが,Atom Z3740のメモリコントローラは,デュアルチャネルLP
それにも関わらず,筆者が購入したのは32GBモデルだ。もちろん初めは64GBモデルを買おうと思っていたのだが,うっかり予約を忘れてしまい,気がついたときには,どの店でも64GBモデルは完売状態になってしまっていたのである。
そんな理由で買った32GBモデルを購入後1か月ほど使用しているが,実のところアプリケーションをあまりインストールせず,ドキュメントや画像ファイルはSkyDriveか,microSDカード側に保存するような運用を心がければ,ストレージ容量で困るシーンは少ないと感じている。
ただし,それはMiix 2 8にゲームをインストールしない場合の話だ。ゲームをあれこれインストールしようとすると,32GBモデルの空き容量ではとても足りない。内蔵ストレージの少なさを,microSDカード側にアプリケーションをインストールすることで補うという手もないわけではないが,結論から先に述べると,Miix 2 8のmicroSDカードスロットは速度面の問題を抱えている。
ストレージ性能ベンチマークプログラム「CrystalDiskMark 3.0.3」を使い,内蔵ストレージとmicroSDカード側の読み出し/書き込み性能を計測してみよう。使用したmicroSDカードは,記録容量32GBのSandisk製「SanDisk Extreme PLUS mi
その結果がグラフ1だ。今回は内蔵ストレージとmicroSDHCカードでそれぞれ3回計測した平均値をスコアとして採用しているが,快適に使える性能の内蔵ストレージに対して,microSD側はまったく振るわないのが分かる。使用したmi
※1 国内での製品名は「サンディスク エクストリーム microSDHC UHS-I カード」
この結果を見る限り,microSDカード側にアプリケーションをインストールして運用するというのは厳しい。Miix 2 8に限った話ではないが,内蔵ストレージ容量が32GBでは茨の道にもなりかねないので,やはりWindowsタブレットを選ぶときには容量64GB以上の製品を選んだほうがいいだろう。
他社製のUSB−ACアダプターやUSBケーブルを使うと正常に充電されないことも
Miix 2 8を使っていて少し気になったのが充電に関する挙動だ。Miix 2 8の充電は,USB Micro-B端子に付属のUSB−ACアダプターを接続して行うのが基本である。しかし,USB Micro-B端子につながるものであれば,ほかのスマートフォンやタブレット用のUSB−ACアダプターや,モバイルバッテリーを流用することも理論的には可能だ。
左の写真はiPad Air付属のACアダプターを,右の写真は担当編集の私物であるモバイルバッテリー「TI-MB001WH」を使い,それぞれの出力を確認しているところ。どちらも2Aで出力できるはずなのだが,0.46Aしか出力されていないのが分かる。なお,どちらもUSBケーブルにはMiix 2 8の付属品を使用した |
供給が0.5A程度に限られるものの多くは,iOS対応機器であることをAppleが認証した証の「MFiロゴ」を取得した製品である。一方,単に「Androidタブレット対応」とだけ記載されているものの場合,2A出力を謳っているもので1.5〜1.8Aを出力できる場合が多い(※ダメな場合もあるのだが)。
ややこしいのは,Miix 2 8とUSB−ACアダプターの接続に使うUSBケーブルを変えただけでも,供給される電流が異なるケースがあることだ。手持ちのUSB−ACアダプターをMiix 2 8に流用しようというときは,こうした現象があることも記憶に留めておこう。必要に応じて,今回筆者が使ったようなUSB電源チェッカーで確認するのもアリだと思う。
ソニーのモバイルバッテリー「CP-F10LSAVP」に付属していたUSB−ACアダプターとMiix 2 8付属USBケーブルを使ったところ,1.61Aを出力していた(左)。ところが,USBケーブルを私物の汎用品に変えただけで,1.23Aまで下がってしまった(右) |
Windowsタブレットの性能はDPTFで変動する?
DPTFの詳細は,2013年11月27日掲載の記事を参照してもらいたいが,簡単に説明すると,ハードとソフトを連携させて,タブレット端末の発熱をコントロールしようという仕組みである。タブレット内部に複数用意された温度・電力センサーから得られた情報をDPTFのソフトウェアが集中管理し,発熱が設定ラインを超えないように各デバイスの動作を制御するというものだ。
こうした仕組みであるため,タブレット端末でゲームやベンチマークプログラムのように高い負荷状態(=大きな発熱)が一定時間持続すると,DPTFが働いて,SoCの動作クロックが落とされることもある。Windowsタブレットでゲームをプレイする場合,そういった挙動が生じ得るということは押さえておきたい。
なお,DPTFはアプリケーション別に挙動を変えることも可能とのことなので,ソフトウェアアップデートなどによって,プレイ中の動作クロック低下が抑制される可能性もある(※ユーザーが任意に調整することはできない)。Miix 2 8でもそうした対応が後日行われる可能性はあるので,その点はあらかじめお断りしておきたい。
Miix 2 8の実力をベンチマークとゲームで検証
それでは,ベンチマークソフトとゲームによるMiix 2 8の性能検証を始めよう。
なお,艦これについてはすでに快適に動作することをファーストインプレッションでも検証済みであるため,今回は取り上げない。艦これはブラウザゲームの中でもとりわけCPU負荷の高いゲームなので,これが快適に動く以上,ほかのブラウザゲームもプレイに支障はないはずだ。
まずはグラフィックス性能のチェックとして,Windowsストアアプリ版の「3DMark」によるテストを実施。以前のレビューで同じテストを実施したSurface 2での計測結果とも比較してみることにした。なお,Surface 2同様,Miix 2 8でも3回計測した平均値をスコアとして採用している。
結果はグラフ2のとおり。最も負荷の低いIce Stormプリセットで計測上限を意味する「Maxed out!」に達してしまうのは当然として,Ice Storm ExtremeではSurface 2が,Ice Storm UnlimitedではMiix 2 8のほうが高いスコアを記録した。
3DMarkの公式ランキングで確認してみると,Miix 2 8のスコアはTegra 4搭載のAndroidタブレット端末に近いレベルにあるようだ。
次に,4Gamer.netのベンチマークレギュレーションにも加わった,「ファイナルファンタジーXIV: 新生エオルゼア ベンチマーク キャラクター編」(以下,新生FFXIVベンチ キャラ編)も実行してみた。
グラフ3がその結果で,すべてのテスト条件において「設定の変更が必要」と通告されてしまった。カスタム設定だと多少改善されるとはいえ,平均フレームレートは10fps程度が精一杯。さすがに最新世代のMMORPGを動作させるというのは荷が重いようだ。
ただ,Miix 2 8でドラクエXベンチを実行しようとしたところ,いくつかの問題があった。まず,表示方法に「フルスクリーン」を選ぶと,ベンチマークプログラムの強制終了が連発し,完走することさえできない。そのため今回は,表示方法「ウインドウ」でのみ計測を行っている。問題の原因は不明だが,担当編集者によると,同じAtom Z3740を搭載するASUSTeK Computerの「ASUS TransBook T100TA」ではフルスクリーンモードで動作したとのことなので,Atom Z3740だからダメというわけではないようだ。
テストはグラフィックス設定を「低品質」とし,ウインドウ表示の解像度1280×720ドットと640×480ドットの2パターンで,それぞれ2回計測ずつを行った。結果は以下に掲載した画像のとおりで,解像度1280×720ドットのスコアはかなり低い。Frapsでフレームレートを表示させながらドラクエXベンチの動作を見てみたところ,テスト序盤では20fps程度で描画できているものの,表示するキャラクターが増えると,10fps以下にまで落ち込んでいた。
解像度640×480ドットでは,かろうじてプレイ可能といえる水準のスコアが出ているものの,快適なプレイにはほど遠いだろう。
解像度1280×720ドットでの計測結果。この設定でプレイするのは正直厳しすぎる |
こちらは解像度640×480ドットでの計測結果。なんとか遊べる程度のスコアではある |
MMORPG 2タイトルは厳しい結果となったが,ほかのゲームではどうだろう。次に「信長の野望・創造」のPC用ベンチマークデモを試してみることにした。
下の画面がテスト中のものだが,フレームレートは10〜15fpsと低く,こちらもかなり厳しい。
PC用ベンチマークデモをテスト中の画面。左下にフレームレートが表示されている |
なお余談になるが,PC用ベンチマークデモでは,マップの移動や拡大縮小がタッチ操作でも行えた。タッチ操作だけでゲームを完全に操作できるわけではないようだが,キーボードを用意しなくても遊びやすくなるように設計されているようだ。Miix 2 8よりもスペックの高いタブレットや2-in-1デバイスでなら,タッチ操作で快適にプレイできるかもしれない。
以上,比較的最近の3DゲームをMiix 2 8をプレイするのはかなり厳しいことが分かった。では,昔のゲームならどうだろう?
新生FFXIVは荷が重いというならば,「ファイナルファンタジーXI」(以下,FFXI)だと,公式ベンチマークソフトである「Vana'diel Bench 3 Ver1.00」を実行してみた。
各モードで3回計測した平均値を算出したところ,Lowモードでは「3874」,Highモードでも「2582」と,十分プレイに耐えられそうなスコアとなった。さすがに10年以上前のゲームなので,10年間のプロセッサ性能向上を考えれば当然といったところか。
もっとも,かつては単体GPU必須だったMMORPGが,8インチサイズのWindowsタブレットでちゃんとプレイできる程度になったというのは,なんとも感慨深いものがある。
ものは試しと実行してみたVana'diel Bench 3。Lowモードでは平均3900前後,Highモードでも平均2582を記録した |
さすがにFFXIは古すぎるかと思い,タッチ操作でも遊べそうなゲームとして,
画質設定は標準のまま,1280×720ドットのフルスクリーン表示でプレイしてみたところ,ゾンビが少ない状態では34fps前後,ゾンビが増えても25fps前後で表示できており,問題なくプレイできた。
Nation Redプレイ中の様子。左上にFrapsでフレームレートを表示している。軽快とは言い難いが,これくらい表示できれば十分遊べる。プレイしているところを直録りムービーでお伝えしてみるが,まずまず滑らかに動いているのが分かると思う。 |
キーボードやマウスがないと遊べないゲームはともかく,2010年以前のグラフィックス負荷が低いゲームならば,Miix 2 8でもプレイできるのではないだろうか。
SoCの性能は合格点だが
タッチ最適化のゲームが全然足らない!
ただ,ここで注意しなければならないのは,タッチ操作に最適化されたゲームタイトルがまったくもって不足しており,従来型のデスクトップPCやノートPC向けに作られたゲームをもって,プレイできるとかできないとかいった話をせざるを得なかったという点だ。Surface 2のレビューでも触れた「Windowsストアアプリの少なさ」が,x86プロセッサを搭載するMiix 2 8でも結局は問題になってしまう。
Windowsストアアプリが少ないのであれば,既存のPCゲームをプレイしたくなるのだが,タッチ操作だけでまともにプレイできるものがほとんどない。いわゆるノベルゲームくらいしかないのだ。そんな現状では,Windowsタブレットをゲーム用途に使おうとしても,艦これ専用機になってしまうのは無理もないだろう。
ゲーム以外の使い道ならいくらでもあり,“提督用”としても有用なAtomベースのWindowsタブレットだが,それ以外のPCゲームをプレイしようとしたときには,残念ながら,活躍できる場所がほとんどない。それこそ往年の名作をタッチ操作用にリメイクしてもらうなど,タッチ操作でプレイできて,iOSやAndroid端末ですでにリリースされているタイトルとは一線を画すような「Windows用ゲームタイトル」の拡充が,Microsoftには求められているのではないか。
十分な性能を持った端末は出てきた。必要なのはソフトなのだ。
レノボジャパンのMiix 2 8製品情報ページ
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