「逆転裁判オーケストラコンサート2019」レポート。演奏と映像，そして下野 紘さんによる生アフレコをシンクロさせた演出が披露された

　カプコンは2019年3月30日，「逆転裁判オーケストラコンサート2019」を東京・Bunkamura オーチャードホールにて開催した。
　「逆転裁判オーケストラコンサート2018」に続き，約1年ぶりに開催された今回の公演では，演奏と映像，そして声優による生アフレコをシンクロさせる新たな試みが披露されたほか，新曲や新アレンジの演奏もなされた。本稿では当日行われた2公演のうち，昼公演の模様をレポートしよう。


　コンサートのオープニングを飾ったのは，「逆転裁判1〜3 法廷組曲」だ。ゲーム中の法廷パートにおける尋問，そしてムジュンを見つけて証拠を突きつけ，流れを変える展開を，静謐さと壮大さのメリハリが効いた緊張感のある演奏で表現していた。

　続いて，コンサートのMCを務めた声優の近藤孝行さん（成歩堂龍一役）と竹本英史さん（御剣怜侍役）が登壇。御剣をイメージさせる赤いスーツを着用していた竹本さんは，「地方裁判所から直行だったので，こんな仕事着で申し訳ない。このコンサートのために，5分ほどで有罪を勝ち取ってきました」と，御剣になりきったコメントで会場を沸かせた。

竹本英史さん（左），近藤孝行さん（右）

　ステージにはスクリーンが設置されており，楽曲の展開に合わせてゲームの画面が映し出される。アルトサックスをフィーチャーした新曲の「逆転検事 推理と追求の組曲」でも，御剣や美雲ら主要人物の名シーンが次々に披露され，個人的な話で恐縮だが，筆者は久しぶりに「逆転検事」プレイ当時の頃を思い出し，懐かしさを覚えた。

　「逆転裁判4」の「王泥喜 法介 〜新章開廷！〜」の演奏後には，「逆転裁判」シリーズの生みの親である巧 舟氏と，「逆転」シリーズの楽曲を多数手がけており，本コンサートの編曲も手がけた岩垂徳行氏が登壇した。

岩垂徳行氏（左から2人め）と，巧 舟氏（左から3人め）

　岩垂氏によると，「逆転検事 推理と追求の組曲」は当初17分ほどの長大な楽曲だったが，カプコンからダメ出しを食らったのだとか。そののち12分バージョンを提出したところ，これまたダメで，泣く泣く今回演奏されたバージョン（約9分）に仕上げたという。
　そのほかに岩垂氏は作曲において大変だったこととして，「無機質に」と毎回指示される尋問のBGMや，とある楽曲において，「テンポを上げてほしい」という指示が3回繰り返され，2週間ほど時間を浪費したことを挙げた。
　一方，それらの指示を出した（はずの）巧氏は涼しい顔で岩垂氏の言葉を受け流しており，会場の笑いを誘っていた。

　また，岩垂氏が楽曲のフレーズを思いつくのは，愛犬の散歩中とのこと。その場でスマートフォンなどを使って録音し，のちほど聴いてみても，なぜかうまくいかないことが多いらしく，ずっとそのフレーズを歌い続け，帰宅してからすぐ演奏する，もしくは譜面に起こすそうだ。
　ちなみに岩垂氏も巧氏もスランプとは無縁だという。「明日が締切」となれば，否が応でも仕事を仕上げるモードに入るそうで，さすが往年のシリーズを手がけるプロといったところだろうか。

　壇上でのトーク後，コンサートの前半を締めくくったのは「逆転裁判1〜6 麗しの組曲」と「悪漢組曲 2019」の2曲だ。前者はシリーズに登場する歴代女性キャラ，後者は歴代悪役キャラをフィーチャーしており，流れる映像と相まって「いたいた，こんな人達」と，これまたプレイ当時の記憶が蘇ってくる。筆者としては，「こんなに際立った個性のキャラばかりなのに，よく話をまとめているよな」と，改めて「逆転裁判」シリーズの魅力を認識させられた次第だった。

　コンサート後半の冒頭には，下野 紘さん（成歩堂龍ノ介役），「大逆転裁判」シリーズ 企画担当の児玉信佑氏，同じく作曲担当の北川保昌氏が登壇した。
　北川氏によると，「大逆転裁判」シリーズの楽曲で一番最初に作ったのは，主人公の成歩堂龍ノ介の曲ではなく，シャーロック・ホームズの前のめりな性格を8分の7拍子で表現した「共同推理」だったという。そこにはゲームの新要素であり，核となる部分を確立してから，主人公の曲を作ろうという意図があったそうだ。

左から2人めより，下野 紘さん，児玉信佑氏，北川保昌氏

　また，これらの楽曲を作るにあたって，北川氏は多数のバージョン違いを作ったと語っていた。当然，採用されるのはいずれか1つのバージョンだけだが，没バージョンに使われていたアイデアが，ほかの楽曲に活かされているという。
　会場では，「共同推理」のさまざまバージョンの中から，アコーディオンをフィーチャーする前のものが披露された。

　一方，児玉氏は，ボイス収録時に下野さんがグレグソン警部のとある顛末を知り，ショックを受けていたエピソードを披露し，「この人はきちんとゲームをプレイしてくれている」と感動したことを明かした。
　これに対し，下野さんは「自分の演じる役に関しては，可能なかぎり研究するようにしている。また『逆転裁判』シリーズは，個人的にずっとプレイしてきた」と話していた。

　トーク後，再開されたコンサート後半では，「大逆転裁判」シリーズの楽曲を新アレンジで演奏した「続・大逆転裁判組曲 2019」と，「大逆転裁判2 −成歩堂龍ノ介の覺悟−」の「相棒の復活」が続けて披露された。
　この演奏では，オーケストラとボイス入りの映像，そして下野さんによる成歩堂龍ノ介のセリフの生アフレコをシンクロさせるという試みがなされ，ゲーム中の名シーンが見事に再現された。


　「逆転裁判5」および「6」の楽曲を披露した「逆転裁判 革命と継承の組曲」の演奏後には，下野さんと岩垂氏，「逆転」シリーズプロデューサーの江城元秀氏がステージに登場。生アフレコを終えた下野さんは，「セリフを際立たせるために演奏が止まるので，1人にされた感じがして緊張したけれど，気持ちよかった」とコメントを残した。
　また岩垂氏は，原曲がフェードアウトで終わるので，編曲にあたって今回のコンサートのためにエンド部分を作ったことなどを明かしていた。

　続いて江城氏からは，「逆転裁判 LIVE 2019」が，7月14日に東京・Shibuya O-EASTにて開催されることがアナウンスされた。これは2018年6月に開催された 「逆転裁判LIVE OBJECTION！2018」が好評だったことを受けたもので，前回同様に「岩垂徳行 SUPER BAND『ジャスティス』」が出演するそうだ。
　なお，こちらのチケット販売だが，4月1日より「逆転通信」会員限定先行抽選がスタートするとのこと。そのほかの詳細は「逆転裁判」シリーズ公式サイトにまとめられているので，興味がある人はチェックしてほしい。

江城元秀氏（中央）。最後の挨拶において，「『逆転裁判』シリーズを展開していけるのも，ファンの皆さんのおかげです。今後も楽しいゲームを作ろうと考えてますので，引き続きよろしくお願いします」とコメントを残した

　発表後，コンサート最後の楽曲として演奏されたのは，「逆転裁判3 終幕」だ。最後を締めくくるにふさわしい曲調に合わせて，映像中のテキストを介してシリーズの主要人物達が来場者に呼びかけるという演出が披露された。
　また，コンサートではおなじみとなっているアンコールタイムでは，鳴り止まない拍手の中，近藤さん演じる成歩堂と竹本さん演じる御剣の掛け合いに続き，「大いなる復活 〜 御剣怜侍」が披露された。


　さらにアンコール2曲めに披露された「大江戸戦士トノサマン」では，客席から手拍子が起こり，会場全体が文字どおり1つとなった。演奏終了後には，MCおよびゲスト全員が再び登壇。巧氏，近藤さん，下野さんの掛け声のもと，会場全体の「異議あり！」のコールで，「逆転裁判オーケストラコンサート2019」は閉幕となった。

逆転裁判オーケストラコンサート2019

●指揮：栗田博文
●演奏：東京フィルハーモニー交響楽団
●ゲスト：近藤孝行（成歩堂龍一役），竹本英史（御剣怜侍役），下野 紘（成歩堂龍ノ介役），岩垂徳行（作編曲家）
●開発ゲスト：江城元秀（「逆転」シリーズプロデューサー），巧 舟（「大逆転裁判」シリーズ監督），児玉信佑（「大逆転裁判」シリーズ企画），北川保昌（「大逆転裁判」シリーズ作曲）

●セットリスト

＜昼公演＞
1. 逆転裁判1〜3 法廷組曲（昼公演のみ）
2. 逆転検事 推理と追求の組曲（新規）
3. 王泥喜 法介 〜新章開廷！〜（昼公演のみ）
4. 逆転裁判1〜6 麗しの組曲
5. 悪漢組曲 2019（新アレンジ）
6. 続・大逆転裁判組曲 2019（新アレンジ，昼公演のみ）
7. 復活の相棒（新規）
8. 逆転裁判 革命と継承の組曲（新規）
9. 逆転裁判3 終幕（新規）

アンコール
10. 大いなる復活 〜 御剣怜侍（昼公演のみ）
11. 大江戸戦士トノサマン

＜夜公演＞
1. 逆転裁判4 法廷組曲（夜公演のみ）
2. 逆転検事 推理と追求の組曲（新規）
3. ゴドー 〜 珈琲は闇色の薫り（夜公演のみ）
4. 逆転裁判1〜6 麗しの組曲
5. 悪漢組曲 2019（新アレンジ）
6. 大逆転裁判組曲（夜公演のみ）
7. 復活の相棒（新規）
8. 逆転裁判 革命と継承の組曲（新規）
9. 逆転裁判3 終幕（新規）

アンコール
10. 成歩堂龍一 〜 異議あり！（夜公演のみ）
11. 大江戸戦士トノサマン