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日本市場への進出や中国展開に必要な審査など,中国のスマホゲーム事情が語られた「黒川塾 六十八(68)」聴講レポート
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印刷2019/04/30 16:00

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日本市場への進出や中国展開に必要な審査など,中国のスマホゲーム事情が語られた「黒川塾 六十八(68)」聴講レポート

 トークイベント「エンタテインメントの未来を考える会 黒川塾 六十八(68)」が,2019年4月26日に東京都内で開催された。このイベントは,メディアコンテンツ研究家の黒川文雄氏がゲストを招いて,ゲームを含むエンターテイメントのあるべき姿をポジティブに考えるというものである。

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 今回のテーマは「中国的電子遊戯 一帯一路の中国スマホゲーム事情」。会場では,中国から日本を含むアジア圏で成功を収めたスマートフォンゲームパブリッシャの代表5名が,現在の中国でのゲーム開発や,日本を始めとした海外での展開事情,そして日本のコンテンツが中国で成功するために必要なものは何かといったトピックについて語った。

 登壇したのは,アリババクラウド インターナショナルグループ ビジネス・ディベロップメント・マネージャーの邱 兆鋒氏,Yostar 代表取締役の李 衡達氏,ピタヤゲームス 代表取締役COOの劉 俊氏,IGG Japan マーケティングマネージャーの森岡夢信氏,SHIFT 社長室 ビジネスプロデューサーの森 昭生氏である。

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黒川文雄氏
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森 昭生氏

 最初の話題は,「中国産のスマホゲームが日本のセールスランキング上位に入るようになった理由」について。森氏によると,中国のゲーム開発は日本の状況とは異なっており,活気のある経済状況のもと,出し惜しみなく予算が注ぎ込まれるそうだ。
 またゲーム開発者は高収入であるため優秀な人材が集まりやすいこと,開発初期段階からプレイヤーの意見を取り入れること,優れたゲームであればTencentやアリババといった大手パブリッシャがマーケティングまで含めた運用を手がけてくれることも,日本とは異なる点だという。

 劉氏もまた優れた人材が多いことを挙げ,2018年にはスマホゲームのデベロッパが1万社に上ったことを紹介した。現在は規制などによりデベロッパの数は減少傾向にあるが,大手パブリッシャに認められるためや,経済状況に伴い売上が伸びているといった理由から,優れたゲームを開発するというモチベーションは依然高いそうだ。

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劉 俊氏
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森岡夢信氏

 また森岡氏は,中国ではゲームがヒットしたときに,パブリッシャからデベロッパや開発者へ与えられるインセンティブが極めて大きいと述べる。世界的にヒットしているタイトルの開発者たちは,今後仕事をしなくても生活できるくらいのインセンティブをもらっているのではないかと噂されているそうで,中国ではゲーム開発者になってヒットを出すことが一種のドリームになっているという。

 李氏は,日本のデベロッパやパブリッシャにはもともとコンシューマゲームの基盤があり,例えスマホゲーム事業から撤退しても,コンシューマゲーム事業に戻れることを指摘した。
 その一方で,中国は2000年以降のオンラインゲームからゲームビジネスが盛んになり始めたため,オンラインゲームやスマホゲームに取り組むほかないという背景から,必然的に多くの予算が投入され,洗練されていったのではないかと持論を語った。

 そうした状況を受け,アリババグループは現在,ゲーム関連への投資を拡大していると邱氏。これまでアリババグループはあまりゲーム市場に積極的ではなかったが,その急成長する様や将来性は,見過ごせなくなっているそうだ。

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李 衡達氏
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邱 兆鋒氏

 「優れたゲームを作るためのモチベーション」を問われると,李氏と劉氏は,予算とヒットしたときのインセンティブを挙げた。
 関連して劉氏と森岡氏は,中国ではゲームをクリエイティブというよりもビジネスと捉え,より多くのリターンを求める人が多いと話す。また森氏も,日本では収入が伸び悩んだが,中国にわたって現地のゲーム企業に就職したところ収入が2倍になったというエピソードを披露し,中国のゲームビジネスが勢いに乗っていることを示した。

 ここ数年,中国産のゲームが世界的にヒットしていることについて,劉氏は機能性やバランス,ゲームサイクルといったロジカルな部分で優れたものを作り出しているからだと持論を展開。その背景には,上記のとおり質の高い教育を受けた優れた人材が集まっているという理由があるとのこと。加えて,中国のデベロッパが得意とするジャンルは,RTSなどのストラテジーが多いという。

 李氏は,現在世界でヒットしている中国産のゲームは,すでに中国でヒットした質のいい一部のタイトルに過ぎず,必ずしも中国産ゲーム全体のクオリティを保証するものではないことを指摘した。
 また「恥ずかしいことだが」と前置きしつつ,中国のコアゲーマーたちは,ときに違法な手段を使ってでも世界中のメジャーなタイトルをプレイしており,目が肥えているので,生半可な内容のゲームには見向きもしない状況があるのだという。そんなコアゲーマーを対象にゲームを開発するため,必然的にゲームのクオリティが上がっていったというわけである。
 加えて李氏は,大手パブリッシャはビッグデータを活用して中国の膨大な数のプレイヤー動向を分析し,ゲームに反映できることも挙げていた。

 森岡氏は,中国では昔から「真似る」ことが戦術を展開するうえでの最大の武器とされており,それを続けてきた結果,世界的にヒットするようなクリエイティブの感覚が身に付いたのではないかと語る。

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 話題は,中国の新たなゲーム審査機関「State Administration of Press and Publications」(SAPP)が,表現規制内容の明示化を行ったという先日の報道にもおよんだ。劉氏は従来の審査機関が明確なルールを示さずに審査を行っていたとし,この新たな審査機関が本当に登場するのであれば歓迎するという。

 関連して,中国でゲームを展開するために必要な「版号」の審査も話題に。劉氏は,本来であれば版号審査には中国産のタイトルで3か月,国外タイトルは半年の期間が設けられているが,現在は国外タイトルが優先されているように見えるなど,そのときどきでコロコロ変わるとのこと。中には,ジャンルやコネで審査が通りやすいかどうかが決まることもあるそうで,リスクを避けるために情報収集が欠かせないという。
 また現在は,審査に通ったという通知があっても,肝心の版号が届かずにゲームを配信できないケースや,実際に版号が届くまでに1年近くかかったケースも珍しくないそうだ。

 せっかく完成したタイトルの配信を1年も止められてしまったのでは,ゲームとしての旬を逃してしまうし,またその間の収入源もなくなり事業の継続が難しくなる。
 李氏と森岡氏は,そうした背景から,中国のデベロッパが日本のパブリッシャと接触し,日本でスマホゲームを展開するケースが増えたと説明。また邱氏も,30〜40社のデベロッパから「日本でパブリッシングできないか」という相談を受けていることを明かした。

 そのように日本で展開するタイトルの代表作が,Yostarの「アズールレーン」iOS / Android)である。李氏は,このタイトルの日本展開を任されたとき「中国産ということでマイナスイメージがあるだろう」と予想する半面,「イケる」という確信もあったそうだ。そして何より,会社の経済事情により「やるしかない状況に追い込まれていた」ことが,ヒットにつながったと話していた。

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 逆に日本のタイトルを中国でヒットさせる要因を問われた劉氏は,アクティブなゲームプレイヤーが3億人にもおよんでいることを挙げ,「母数が多いので,何でもヒットになり得る」と説明。したがって,展開しようとするタイトルのコンセプトやゲーム性を正しく分析し,それを受け入れるターゲット層を絞り込むことが重要であるとした。

 また「ローカライズのためのローカライズをしない」ことも重要だと劉氏。これも上記の考え方と基本的に同じで,中国でウケるように作り替えるよりも,そのままを受け入れてくれる層を探したほうがヒットにつながりやすいそうだ。
 森氏も,中国のプレイヤーがすでに日本版をプレイしていることが多いため,中国展開にあたってローカライズで内容を変えてしまうとクレームが来ると話していた。

 森岡氏は劉氏の発言を受けて,ヒットするジャンルが多様化しているとコメント。また日本の声優を起用すればヒットにつながりやすいという側面もあるため,日本のデベロッパにはチャンスがあると語った。加えて重課金プレイヤーを満足させるインセンティブを提供するようなVIP施策や,大手パブリッシャとのパイプも重要だという。

 日本のゲーム動向が中国にフィードバックされているかという質問には,劉氏が「求められるゲーム像が異なるため,ほとんどない」と回答していた。また李氏も,「日本のゲームのいい部分は,すでに吸収している状態」としつつ,「ただ中国では矛盾のない世界観の設計などが未熟なので,まだ日本から学ぶことはある」と語った。
 森岡氏は,日本企業のカスタマーサポートの手厚さを例に挙げ,「中国なら2行で返答する問い合わせも,日本では10行必要」というようなことを中国本社に伝えているとした。

 最後の話題は,「これからも中国産ゲームは続々と日本に進出してくるか」というもの。劉氏は,中国のデベロッパがストラテジーゲームを得意としていることを再び挙げ,「このジャンルは海外でもヒットしやすい。日本に限らず中国産ゲームの世界展開は今後も続く」と予想した。
 邱氏は,上記の中国から日本に進出したいという相談だけでなく,日本から中国に進出したいといった相談も増えているとし,どちらもサポートしていきたいと意気込みを語った。

 李氏は,中国にて起きた「二次元」と称されるアニメ系キャラクターのブームに言及し,「その本場である日本に展開しないわけがない」と断言。また森岡氏は,ここ半年くらい日本に拠点を置く中国のデベロッパが増加していることを,森氏は日本向けローカライズの問い合わせが増えていることをそれぞれ明かし,今後も中国産ゲームの日本進出は続くという満場一致の結論でトークは締めくくられた。

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