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吉田修平氏と水口哲也氏が,ロボット研究者の石黒 浩氏とともにVRやAIを語ったシンポジウム「テクノロジーとエンターテイメントのスリリングな未来」聴講レポート
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印刷2016/04/30 18:21

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吉田修平氏と水口哲也氏が,ロボット研究者の石黒 浩氏とともにVRやAIを語ったシンポジウム「テクノロジーとエンターテイメントのスリリングな未来」聴講レポート

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 日本科学未来館にて開催中の企画展「GAME ON 〜ゲームってなんでおもしろい?〜」において,2016年4月29日,特別記念シンポジウム「テクノロジーとエンターテイメントのスリリングな未来」が行われた。このシンポジウムには,ロボット研究者/工学博士/大阪大学教授である石黒 浩氏と,クリエーター/ゲームデザイナー/慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科特任教授の水口哲也氏,そしてソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE) ワールドワイド・スタジオ プレジデントの吉田修平氏が登壇し,ゲームをはじめ,人工知能,ロボティクス,VR(仮想現実)などをテーマにトークを繰り広げた。

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シンポジウムの当日,企画展「GAME ON 〜ゲームってなんでおもしろい?〜」は来場者10万人突破を記録した
 トークの最初の話題は,ここ1〜2年で大きく話題になった感のあるVRについて。まず水口氏が,そもそもVRとは25年ほど前に登場した言葉であり,技術の進歩により,最近になってようやく実現できそうな雰囲気が出てきたと説明した。
 吉田氏によると,PlayStation VRの開発がスタートしたのは2011年だったとのこと。当時のSCE(現SIE) ワールドワイド・スタジオ内では,PS3とヘッドマウントディスプレイ,そしてPS Moveを組み合わせることで,すでに簡易なVRを実現していたという。吉田氏も,VRで自身の身体が「ゴッド・オブ・ウォー」の主人公・クレイトスとなる体験をし,非常に驚くとともに,PS3よりも高性能なPS4であればもっと本格的なVRが実現できるのではないかと考えたそうだ。

 石黒氏も1996年にVRの研究開発に取り組んでいたが,それは被験者が360度ディスプレイで構成された空間の中に入り込むタイプで,コストがかさむため残念ながら普及には至らなかった。今でも石黒氏は,ヘッドマウントディスプレイを使うVRより自然だと考えているという。

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ソニー・インタラクティブエンタテインメント ワールドワイド・スタジオ プレジデント 吉田修平氏
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ロボット研究者/工学博士/大阪大学教授 石黒 浩氏

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クリエイター/ゲームデザイナー/慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科特任教授 水口哲也氏
 水口氏はVRの登場により,映像系のクリエイターが映画のスクリーンやテレビの画面といった制限から解放され,抱いたイメージをそのまま再現できることを示した。もちろん,そうした制限があることで生まれた演出手法もあるが,たとえば水口氏自身が「Rez」を手がけたときは,頭の中にある壮大なイメージを画面の枠内に押し込めるために苦労したそうだ。
 また水口氏は近い将来,解像度8Kのテレビなどが登場すると,人間は実写とリアルなグラフィックスとの差をほとんど認識できなくなるなるため,VRもより自然な表現が可能になるだろうと展望を語った。

 人間がVRを自然に感じるかどうかについて,石黒氏はNINTENDO64用ソフト「スーパーマリオ64」を例に説明。それによると,3Dグラフィックスを使った三人称視点のゲームは,人間の脳内表現を再現しているとのことで,だからこそプレイヤーは自然に反応できるのだとか。たとえばドライビングシミュレーターで,ドライバー視点よりも少し引いた視点のほうが操作しやすいケースがあるのは,そのように身体感覚を観察するほうが自然に近いからだそうだ。


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 そんな石黒氏は現状のVRコンテンツについて,提示すべき情報と脳の中で再構成される情報とを,体験している人の脳がどのように折り合いを付けているか,常に疑問を抱いているという。石黒氏は,VRによって100%リアルな体験を提供するには,脳に直接刺激を与えるなどの手法が必要となるので,その実現はまだまだ先の話だろうと語った。
 またVRを使ったゲームについても,現状でSIEなどが提供しているものは楽しめると前置きしつつ,より脳内表現とのズレを埋める手段を実現できれば,爆発的にヒットするのではないかと語っていた。

 VRゲームで現在主流の一人称視点であっても,プレイヤー自身の手足がどうなっているのかを示すと,より自然さを出せるのではないかと石黒氏が話すと,水口氏は視覚以外にも触覚などほかのフィードバックも欲しくなると同意。
 それらの課題に対する回答の一つとして,吉田氏はPS VRにはPS Moveを両手に持って楽しむコンテンツを用意していることを挙げ,さらに抽象的な映像であっても感覚的なフィードバックがあると,VRの世界で比較的容易に存在感を得られるとまとめた。


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 日本科学未来館には,「アンドロイド ― 人間って,なんだ?」と題したコンテンツが常設展示されているが,その中では成人女性型アンドロイドの操作を体験できる。監修を務めた石黒氏によると,アンドロイドの操作はPS VRとは逆にヴァーチャルな存在をリアル世界にもたらしたものとのこと。そのため,両者をうまく組み合わせてPS VRでアンドロイドを操作するといったようなことが可能になると,現実世界と仮想世界の双方向性を実現できるかもしれないと展望を語った。

 実際にアンドロイドの操作を体験した吉田氏が,「新しい自分を表現できる」と感想を述べると,石黒氏は水口氏がアンドロイドを操作したときのエピソードを披露。ボイスチェンジャーこそ使ったものの,水口氏は普段どおりにしゃべっていたそうだが,石黒氏にはまったく知らない女性としか思えなかったという。

 そうした研究について,アンドロイドではなくCGを使っても再現できるのではないかとの疑問を水口氏が口にすると,石黒氏は,人間同士の会話は視線のズレなどの本当にちょっとした仕草を敏感に感じ取ることで成立していると考えられるため,現状のCGやVRの技術でそこまで再現するのはまだ難しいだろうと回答していた。

 今後AIの技術が進歩することで,アンドロイドがどうなっていくのかワクワクすると同時に,不安もあると水口氏が語ると,石黒氏は,人間が頭の中でどのように自分の世界を作り上げているかの違いを説明。それによると,人間は実際に見たものよりも,想像によって世界を作り上げているとのことで,現在のAIやアンドロイドの研究も想像がキーワードになっているという。

 さらに石黒氏は,ゲームもまた遊んだ人に何を想像させるかが重要であるとし,そのためにVRに代表されるようによりインタラクティブな方向に進んだり,ストーリーが複雑化したりしてきたとする。
 とくに後者に関しては,そもそも大半の人間は,自由にストーリーを作れと言われても自分からはほとんど何もできない。しかし,たとえばゲーム内で選択肢を与えれば想像が働き,あたかも最初から自分でストーリーを作ったかのような満足感が得られるという。石黒氏は,そこに人間の本質のようなものがあるのではないか,だからこそ多くの人がゲームにのめり込むのではないかと持論を語った。

 またAIといえば,吉田氏は最近,マイクロソフトがLINE上で公開した女子高生AI「りんな」とのチャットを楽しんでいるという。吉田氏が,りんながとんちんかんな返答をするとすごく冷めてしまうと感想を述べると,石黒氏は勘違いした言葉でも,その裏に意識を感じられるのであれば白けることはなくなるだろうとし,りんなはそこまで下地ができていないのではないかと解説した。

 関連して石黒氏は,自身の研究室の学生の取り組みを披露。それは石黒氏が開発した自律対話アンドロイド「ERICA」に,「何よアンタ,何しに来たの」「どうせロボットだと思ってバカにしてるんでしょ」といったような,ネガティブな会話をさせるというものなのだが,理想的な会話をさせるよりも人間らしさが出るという。

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 またゲームも盗みを働く,人を殺すといったような,普段の生活の中ではできない,ある意味でネガティブな体験をすることが可能だ。石黒氏は,そうしたネガティブな体験について,普段起こらないからこそプレイヤーが解釈(ストーリー)を付けやすくなり,ひいてはのめり込みやすくなると解説。つまり,しょっちゅう起こっていることであれば,「現実と違う」となって冷めてしまうというわけである。

 ゲーム内でのネガティブな体験といえば,水口氏は先日,VRのFPSをプレイしたという。水口氏が敵を撃ったところ,血しぶきなどがリアルに飛び散り「ウワッ」と思う瞬間があったという。
 それと同時に,これまでごまかしてきた部分をごまかせない領域に入ったと感じたとのことで,何を表現するべきかについて,作り手のモラルや社会的な議論が今まで以上に重要になると考えさせられたそうだ。

 逆に考えると,そうしたネガティブ体験はリアル世界でやっていいことと悪いことの違いを表現することもできる。吉田氏は,ゲーム内で人を殺す過程が克明に描写されるとなれば,銃の引き金を引くのを躊躇するようなケースも出てくるだろうと例を挙げると,水口氏は同意。また石黒氏は自身の経験から,かつての子ども達は遊びの中で昆虫や小動物を殺してしまうことにより本能的に生命の尊さを知ったとし,今後はゲームがそういった部分を担うようになるのかもしれないと語った。
 さらに吉田氏は,身体の不自由な人などの立場を体験できるVRコンテンツがあることも紹介していた。

 トークの終盤で話題となったのは,10年先の未来がどうなっているかについて。吉田氏は10年といわず数年後には,VRを使った「Google ストリートビュー 」のようなコンテンツが登場すると予想。つまり,VRで世界各地を疑似的に歩き回れるようになるというわけである。

 水口氏は,リアル世界とVR,AR(拡張現実)の融合により,人々が各自の本当に好きな時間,本当に好きな場所で他者と情報や空間などを共有できるようになると予想した。たとえば実際には温泉に浸かっている人が,VRやARを駆使して同時に会議へと出席するといったことが可能になるのではないか,というのだ。水口氏は,それを「無理をしなくても済むような世界」とまとめた。

 そんな水口氏の発言に対し,石黒氏は「人間は何か無理をしないとストーリーを作れない」とし,たとえばこのトークにしても,わざわざ会場に来て聴講するからこそ情報として記憶に残るのであって,同じ内容が普段ダラダラしているときにテレビから流れてきても自分のものにならないと指摘。したがって10年先は,無理をしない世界ではなく,「無理を無理と思わない世界」「誰に言われたからではなく,自分でストーリーを作っていると思える世界」になると望ましいとし,そのストーリー作りの助けとしてVRやAR,あるいはアンドロイドやAIが機能するようになってほしいと展望を述べた。

画像集 No.009のサムネイル画像 / 吉田修平氏と水口哲也氏が,ロボット研究者の石黒 浩氏とともにVRやAIを語ったシンポジウム「テクノロジーとエンターテイメントのスリリングな未来」聴講レポート
会場では「クラブMiraikan」会員の子ども達からの質問に答えるコーナーも設けられた

 トークの最後には,登壇者達がそれぞれコメント。水口氏は,自身のこれまでを振り返り,誰かが作った何かを楽しむよりも,自分のクリエイティブで他人を喜ばせたほうが幸せだと考えたとし,これから将来を担う子ども達もよく考えて人生を楽しんでほしいと語った。
 また石黒氏は,吉田氏と水口氏に向け,体験した人が自分なりのストーリーを見つけられるようなVRコンテンツを作ってほしいとあらためて呼びかけた。

 そして吉田氏は,VRの研究を進めれば進めるほど,人間が現実だと捉えている事象とは,視覚や聴覚などの情報を頭の中で再構成したイメージであると感じるようになったという。さらにVRを使って体験したことも実体験と同じく自分の糧になるとし,これまで時間などの物理的な制限やコスト的なハードルがあった分野においても,VRが普及することによって多くの人が体験できるようになり,それがひいては楽しい世界,人の気持ちが理解できる優しい世界になっていくのではないかと述べて,イベントを締めくくった。

「GAME ON 〜ゲームってなんでおもしろい?〜」

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