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広井王子氏が語るキャラ作りや制作してみたいゲームとは? 広井氏原作のドラマ「コードネームミラージュ」の発表会でインタビューしてみた
会場には,広井氏や主演の桐山 漣さん,同作に出演する要 潤さん,佐野ひなこさん,武田真治さんが登場。作品への意気込みを語った。
「コードネームミラージュ」は,現代日本を舞台に,凶悪犯罪を密かに解決する特殊部隊「k-13」の活躍を描くアクションドラマだ。k-13に所属するのは,経歴を抹消されたプロフェッショナル達。事故の影響で感情と引き換えに,たぐいまれな運動能力を手に入れたエージェント,ミラージュ(桐山 漣さん)を筆頭に,かつてサイバー犯罪を起こし,今は警察に協力する美人ハッカーのドブネズミこと木暮美佳子(佐野ひなこさん),そして曲者揃いの部隊をまとめる冷徹なリーダー,御崎蔵人(要 潤さん)といったメンバーが揃う。
彼らの敵となるのは,あくどい商売で巨万の富を築いた鯨岡憐次郎(武田真治さん)。犯罪者を手足のように操る鯨岡とk-13の対決,そして警察権拡大を目論む者たちによる陰謀の行方は? といったところが本作の概要となる。
k-13のリーダー御崎蔵人 |
美人ハッカーの木暮美佳子 |
犯罪者を操る鯨岡憐次郎 |
まずは広井氏,桐山さん,要さん,佐野さん,武田さんがステージに登壇し,制作秘話を語るトークコーナーがスタートした。本作が生まれたきっかけは,広井氏がエグゼクティブ・プロデューサーの二宮清隆氏から「リアルなアクション物の原作を書いてほしい」とオファーを受けたことだという。
現代版忍者物というコンセプトで執筆が進められたものの,現代日本には表だった諜報組織がないことからスパイ物は成立しないし,警察も犯人を容易には撃たないため,制作は難航。何度もリテイクが行われた末,広井氏が「断崖絶壁に犯人を追い詰めるような,典型的な刑事ドラマに飽き飽きしていた」ことや,銃を撃つプロフェッショナルは寡黙であるべきなのではないかという考えから,寡黙なミラージュが,法で裁けない悪をスピーディに抹殺していく現在の形に落ち着いたのだという。
キャラクター達を創作していくうえでは,画面に出ない生い立ちの部分から緻密な設定が行われ,1人あたり20ページにもなる資料が作られたそうだから徹底している。
とにかく無口なミラージュだが,演じる桐山さんは「目の演技でミラージュを表現したい」と意欲満々。クランクインの1か月前からアクションの特訓を行い,銃さばきや生身の格闘に磨きをかけたという。
そんなミラージュに指示を出すのが,k-13のリーダーである御崎。演じる要さんは,「自分は指揮官なのでアクションは関係ないだろう」と思っていたら,いきなり銃を持たされたそうで,改めて気を引き締めたとのこと。
ハッキングなどでミラージュを支援するのが,天才ハッカーの“ドブネズミ”こと木暮。コンピューターを操作するシーンではリアリティを出すため,ハッキングコンテストの優勝者から直接指導を受けたという。ハッキングと言えばすごい勢いでキーボードを叩きまくるイメージが一般的(?)だが,実際にはあらかじめセットしたコマンドを実行するためキータイプは少なく,そのことに驚いたそうだ。
k-13と敵対するのが地上げ王の鯨岡。演じる武田さんにも物語の行く末は知らされていないそうで,本当にラスボスなのかと不安を抱きつつ,「役者としてアドベンチャーだと思っている」とかなり入れ込んでいる様子だった。
最後に広井氏は「僕らの仕事は物語の土台を作ることですが,魅力的な役者さん達が乗ってくれたことでワクワクしています。回を重ねるごとに濃密になる物語で,最終回がどうなるかも3つあるプロットから選んでいる最中です。放送を楽しみにしてください」と語り,制作発表会を締めくくった。
広井氏に独占インタビュー。新作ゲーム制作の可能性は?
制作発表会の後,短い時間ではあるが広井氏に単独でインタビューを行う機会が得られたので,「コードネームミラージュ」や現在のゲーム業界などについて,気になるところを聞いてみた。
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。まずは「コードネームミラージュ」でこだわった部分を教えてください。
広井王子氏(以下,広井氏):
現代の日本で撃ち合うことにリアリティを持たせた設定作りと,リアルなアクションですね。銃撃戦の最中に事情を説明するようなドラマにウンザリしていたので,エグゼクティブ・プロデューサーの二宮さんから賛同を得られて嬉しかったです。現場も熱量高く取り組んでくれていますし。
4Gamer:
そもそも日本だと,警官ですら人を撃つというのは,ごく稀な出来事ですよね。
広井氏:
そんなシチュエーションはなかなか成立しませんから,リアリティが持てません。だから,現代日本は痛快なアクションがやりづらい社会なんです。以前,台湾の若い人達と話をしたときに,日本の刑事ドラマがほとんどギャグのように捉えられているのに驚いたことがあります。なにしろ,犯罪者を止めるのに空へ向けて銃を撃つわけですから。
4Gamer:
あー,「威嚇するにしても空じゃないだろう?」と(笑)。
広井氏:
ええ(笑)。そんな中で犯人を撃つことにリアリティを持たせるため,経歴を抹消された者達が集まったk-13という秘密部隊が生まれました。k-13は警察のコンピューターにも侵入するような非合法ハッキングなど,いろいろな手段を駆使します。
また,犯罪者を抹殺して終わりではなく,彼らの死体を人知れず処分する処理班が登場するあたりもリアリティへのこだわりですね。これまでのドラマなら敵側がやるようなことをするのが,k-13なんです。
4Gamer:
悪と戦ううえで,自らも悪に手を染めるというのは,なかなかに尖っていますね。
広井氏:
犯罪者を撃つというのは,行きすぎた正義ではあるのですが,ドラマの中ではそうした部分を描いていきます。後半では警察の暴走などもポイントになりますね。
4Gamer:
以前,「サクラ大戦」に関して「街の平和を維持するのは軍隊ではなく,最小の警察でいいんだという願いが込められている」というお話をされていましたが,そうしたテーマは広井さんの中で一貫しているわけですね。
広井氏:
そうですね。同じテーマを現代でやっているということです。
4Gamer:
では,アクション面での見どころも教えてください。
やはりリアリティですね。プロフェッショナルが,どのように銃弾を数えつつ銃撃戦を行い,撃たれている中で素早くリロードするのか。銃弾が尽きたときに,どのように接近戦をするのか。プロの方に参加していただいてリアリティを持たせています。ミラージュの技はロシアの軍用格闘技「システマ」をベースにしたスピーディなものになっていますので,そこも見どころですね。
4Gamer:
現代ならではの設定として,過去にサイバー事件を起こした天才ハッカーも登場して味方になるということですが。
広井氏:
ハッキング関連の描写は,ネットセキュリティの会社に協力していただいてかなりリアルにしています。こうしたプロフェッショナルの人達が,僕らの目に見えないところでネット戦争をしているんだと思いましたね。
4Gamer:
一般人のネットセキュリティなんて,簡単に破れてしまうんでしょうか。
広井氏:
破られてしまいますね! 実際に僕らの目の前でPCに侵入されて,ビックリしました。だから,「コードネームミラージュ」の作中でも,公安のPCはネットにつないでいない,スタンドアロンになっているんです。USBメモリも新品の封を破って使い,用が済んだらそれは破棄するという描写をしています。
4Gamer:
実際にPCに侵入されたのを見て,ネットセキュリティ意識に変化はありましたか?
広井氏:
もともとそうしたものをあまり信じていないので,情報伝達にはできるだけ紙のメモを使い,ネットにつながないPCを1台用意するなどしていました。日本はネットセキュリティだけでなく,犯罪に対する備えも脆弱ですからね。
4Gamer:
「コードネームミラージュ」では,キャラクターを設定するうえで1人あたり20ページもの資料を制作されたそうですね。これまで手がけられたゲームやアニメでも同様の手法を使われているんですか。
広井氏:
そうです。ただ,今回は実写ドラマなので資料の量が多くなっています。ゲームなら開発現場にいて,何かあっても設定をその場で修正できますが,実写ドラマだとそうはいかないので。
4Gamer:
その設定では,ミラージュの好物がアジフライ定食だったり,ドブネズミがお取り寄せスイーツを食べていたりと食の描写があるそうですね。広井さんの作品では,「サクラ大戦」シリーズの食事シーンや,「天外魔境II」の主人公・戦国卍丸の初登場シーンがご飯をかっ込んでいるところだったりしますが,食事という部分に,何かこだわりがあるのでしょうか。
広井氏:
食べ物は自分を彩る文化史なんじゃないかという考えがありますね。例えば,朝ご飯ひとつをとっても,納豆なのかクロワッサンなのかで生まれ育ちが伝わってきますし。こうしたところを書くのが,やっぱり大好きなんでしょうね。
4Gamer:
ちなみに,設定を作ったけれど出せなかったキャラクターはいますか。
広井氏:
「元競輪選手で,日本刀をひっさげて自転車に乗り,すれちがいざまに首を落とす」というキャラクターを作ったんですが,これは出せなかったですね。ここまでヘンなキャラクターを作るのは「天外魔境」シリーズ以来ですよ(笑)。例えばデューク・ペペですよね。主人公を愛するからこそ殺しに来る。
4Gamer:
確かにデューク・ペペは印象的でした。憎しみが転じて愛になり,凄まじい狂気を叩きつけてくるんですよね(笑)。
広井氏:
こうした愛憎劇を描くのは大好きですけど,ゲームではなかなか表現できないところがあります。なので,「コードネームミラージュ」の鯨岡も多分に狂気をはらんだ男になると思います。演じる武田さんもキャラクターを作り込んでくれましたから,出番も増えましたし。実写ならではのいい経験になりましたね。
4Gamer:
では,こうした経験が新たなゲーム作りにフィードバックされるようなことはあるんでしょうか。最近では乙女ゲームの「十三支演義 〜偃月三国伝〜」を手がけておられますが,新作を待っている男性ファンも多いと思います(※インタビューは3月10日収録)。
僕はスマートフォンのゲームがすごく好きなんですよね。どんどん話を足していけるので,水が合っているんじゃないかと思います。最近ではNintendo Switchにも興味がありますし。
ただ,「サクラ大戦」シリーズのせいか女性主人公の依頼が多くて。それに,いまの人が好きそうな萌えには,あまり意識が行かないんです。女の子でも,どうしても熱血になってしまうから(笑)。
4Gamer:
でも,時代に求められるジャンルは,ゲームに限らず繰り返すような気がしますし,また熱血の時代が来てもいいんじゃないでしょうか。
広井氏:
いやー,そう思いますね。本当は男の子を主人公にした,冒険活劇をやらせてほしいんですけど,「じゃあ男の子だけで」と言われて(笑)。
4Gamer:
ああ(笑)。
広井氏:
でも,それもなかなか通らないですし,やるとしたら世界観を含めて,壮大な予算が必要になりますから。依頼があれば……という感じですね。
4Gamer:
ぜひ期待したいところですが,広井さんが企画して,ということはないのでしょうか。
広井氏:
僕は基本的にオファーを待つタイプなんですよ。それ以外は遊んでいるというか(笑)。ですから,自分で企画書を作って話を持ち込んだのは「サクラ大戦」の歌謡ショウくらいですね。
4Gamer:
2次元コンテンツを3次元の役者が演じたり,声優がライブをしたりといった活動が流行になっていますよね。2次元原作の舞台は,古くから宝塚歌劇でもありましたが,2次元界隈でのムーブメントの始まりは,「サクラ大戦」の歌謡ショウからではないかと思っているんです。
広井氏:
ありがとうございます。あれは,若い人達が楽しめる舞台は何なのかと考えた結果なんです。かつては「南総里見八犬伝」や「忠臣蔵」といった誰もが知っている読本があり,これを原作にした舞台である歌舞伎が上演されていたじゃないですか。でも,今の若い人達は,こうした共通言語,テキストがありません。
だから,みんなが知っているゲームなら原作にできるんじゃないかと考えました。その意味で,「ONE PIECE」はすごいですよね。歌舞伎が原作として採用したわけですから。あれこそが「サクラ大戦」の目指していたところなんです。
4Gamer:
まさに誰もが知る作品を原作とした舞台ですからね。さて,まだまだお話をうかがいたいところですが,時間ですので最後にメッセージをお願いします。
広井氏:
「コードネームミラージュ」はキレっキレの作品に仕上がっていますので,ぜひ見てみてください。
4Gamer:
ありがとうございました。
「コードネームミラージュ」公式サイト
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