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「大人のためのゲーム音楽会Vol.3」レポート。伊藤賢治氏,篠田元一氏,岩垂徳行氏,そして古代祐三氏が制作秘話と共に演奏を披露
作曲家の伊藤賢治氏と篠田元一氏が中心となって企画されたこの公演は,ゲーム音楽をハイレベルなミュージシャンによる質感高い生演奏で届けることをコンセプトとしたもので,今回で3回目。
伊藤氏,篠田氏に加え,古代祐三氏と岩垂徳行氏がゲストで参加するという,ゲーム音楽ファンにはたまらないメンバーで行われたこのライブの模様をレポートしよう。
「大人のためのゲーム音楽会Vol.3」セットリスト
M1. 眠らずの戦場 (「世界樹の迷宮」「新・世界樹の迷宮」)
M2. ゴドー 〜暗闇は珈琲の薫り(「逆転裁判3」)
M3. 終幕より 王泥喜法介のテーマ(「逆転裁判6」)
M4. alone(「サガ フロンティア」)
M5. 愚者の舞(「聖剣伝説4」)
M6. Town(「新創世記ラグナセンティ」)
M7. Rafflesia Training Grounds(「新創世記ラグナセンティ」)
M8. 戦場 明日を掴むは死闘の先(「世界樹の迷宮V」)
U1. Urban#2(篠田元一)
U2. CHAMELEON(ハービー・ハンコック)
出演者(敬称略)
篠田元一[Keyboards]
伊藤賢治[Keyboards]
古代祐三[Keyboards]
岩垂徳行[Keyboards / Trombone]
miz[Violin]
山本真央樹[Drums]
小栢伸五[Bass]
ライブ開演前には,主要メンバーによるプレトークも行われた。篠田氏のようなプロのミュージシャンが,ゲーム音楽をライブ演奏したらどんなふうになるのか? という伊藤氏の興味が発端となり,2016年から開催されているこのライブ。古代氏は第1回から続けて参加しているが,岩垂氏は今回が初参加のメインゲストという位置付けだった。
篠田氏は,古代氏や岩垂氏とも古くから交流があって,とくに岩垂氏とは,1994年にメガドライブで発売された「新創世記ラグナセンティ」というアクションRPGで,篠田氏が作曲し,岩垂氏がそれをゲーム用にモディファイするという,ゲームでの共同作業をしたことがあるそうだ。
篠田氏が「テトリス」のアレンジアルバムに参加したことをきっかけに,同作のコンポーザーに起用され,岩垂氏も著名な篠田氏との初めての共同作業にかなり緊張したという。
篠田元一氏 |
伊藤賢治氏 |
トークの中で伊藤氏が,曲をどう作り始めるのかについて問いかけると,篠田氏は「まずはピアノ曲を書くイメージで始めるけどね」と即答。例えば「朝」というタイトルの曲を書いたら,その流れで「昼」と「夜」という曲を作って後のためにとっておくとか,1曲をいくつかのパターンで作って,残ったものは別の機会に使うなど,必ずストックを置くのだという。
古代氏の場合は,オーダーを出すディレクターがイメージする音楽がどういうものなのかを,事前に必ず提示してもらうことから始めるそうだ。もしそれが言葉で説明できないなら,参考になる動画サイトなどのリンクを張ってもらって,それが作られているのかを分析し,必要な素材などをすべて探し終えてから,一気に作るという。
「古代さんは,煮詰まったことがないんですって?」という伊藤氏の問いに,「確かに最近は煮詰まることはない」と即答。篠田氏は「キャリア30年でしょ? もう引き出しはできてるよね」と讃えるが,「それでも,どんどん出てくる新しい音楽についていくために,日々研究しています」と,語っていた。
そして岩垂氏は「散歩しながら鼻歌で」とさらっと答えたものの,古代氏と同様に事前に先方から資料をたくさんもらい,とくにビジュアルイメージは必ずもらって,そこから浮かぶインスピレーションを大事にしているとのこと。散歩をしているときに作るというのは本当で,その都度,浮かんだものをメモしたものをたくさん溜めることで作っているそう。
岩垂氏は煮詰まることが多いそうで,古代氏とは逆にキャリアを積んだことで,作ったあとに「これはダメかも」と分かるようになってしまって,そこで煮詰まってからの試行錯誤の繰り返しが続くのだという。
古代祐三氏 |
岩垂徳行氏 |
4人のトークが進む中,バンドのメンバーが舞台へと登場し,いよいよライブがスタート。その1曲目は,古代氏が手掛けた「眠らずの戦場(いくさば)」。
この曲は当時「世界樹の迷宮」1作目の制作時に渡された資料の中に,伊藤氏が手掛けた「ロマンシング・サガ」の楽曲があり,それをかなり聴き込んで作ったらなんとボツに。その後,時を経て「新・世界樹の迷宮」にて復活させることができたという逸話がある。ここではそんないわく付きの曲を,伊藤氏がリードを担当して演奏するということで,古代氏も「夢のような企画です」と感激していた。
1曲目からかなり激しい演奏が展開されたが,2曲目からは「大人のためのゲーム音楽会」にふさわしい,「ゴドー〜暗闇は珈琲の薫り」「終幕より 王泥喜法介のテーマ」という,「逆転裁判」シリーズからジャズナンバーを披露。楽曲を手掛けた岩垂氏は,担当楽器をキーボードからトロンボーンに持ち替え,時折スキャットなども交えながら,メロディをしっとりと聴かせた。
続いては伊藤氏の手掛けた曲のパートで,「サガ フロンティア」より「alone」と「聖剣伝説4」より「愚者の舞」の2曲。「イトケンの楽曲はやっぱりメロディ」と篠田氏も絶賛する自身の楽曲について伊藤氏は,「作る時点で何もないことが多いので,どんなところで使われてもいいように,万能なものを作る」とのこと。
さらに本人は「王道中の王道」と思って作っているものの,篠田氏いわく「聴くと簡単そうだけど,実はそうでもない,彼にしか作れない曲」と,オンリーワンであることを強調した。
今回演奏された「愚者の舞」は,miz氏によるヴァイオリンの旋律が美しく,原曲よりもかなりスローなテンポでアレンジされていて,聴きなじみのあるファンでも,新鮮に楽しめたのではないだろうか。
本人はゲーム内容も含めてほとんど忘れていたが,ここ数年とくに海外のファンからSNSのメッセージなどで問い合わせがあるそうだ。岩垂氏のところにも同じように連絡が来ていて,インドネシアやブラジルのファンが多いそうである。
「Rafflesia Training Grounds」は,1980年代のアイドルを意識したという篠田氏。ともにポップで明るい内容で,客席の全員が自然にリズムを刻んでしまうような,気持ちのいい演奏が繰り広げられた。
そしてラストの曲は「世界樹の迷宮V」より,古代氏の「戦場 明日を掴むは死闘の先」をチョイス。ライブ1曲目と同様バトルの曲となるが,よりメロディアスな楽曲で,キーボード奏者4人の演奏が光る,締めにふさわしいナンバーとなった。
篠田氏もそれも同調して「イトケンもライブをやるようになって,顔が優しくなった」と語り,家に籠もりがちの作曲家は「外に出たほうがいい」と,能動的にライブをやってほしいと伝えている。
アンコールは「Urban#2」と「CHAMELEON」のメドレーで,前者は篠田氏オリジナルでJ-WAVEの「Traffic Information(交通情報)」のBGMにもなっている曲,後者は往年のジャズピアニストのハービー・ハンコックさんの名曲で,共に一度は耳にしたことがある来場者も多かったはず。出演者全員のソロ演奏に客席はオフビートの手拍子で応え,すべての演奏が終了となった。
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