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子供達の“将来のきっかけ”になってほしい――21世紀型の小学生向けPG学習サービス「QUREO(キュレオ)」なら,ゲーム感覚でゲームを作れる
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印刷2018/03/06 12:00

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子供達の“将来のきっかけ”になってほしい――21世紀型の小学生向けPG学習サービス「QUREO(キュレオ)」なら,ゲーム感覚でゲームを作れる

 サイバーエージェントは2018年2月19日,小学生向けオンラインプログラミング学習サービス「QUREO(キュレオ)」の提供の開始に伴い,事業者向けの導入説明会を行った。同社のグループ会社,アプリボットとCA Tech Kidsが手掛けるこの共同事業は,一体どのような未来を見通しているのだろう? 今回はそれを知るべく,説明会に足を運んできた。

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 アプリボットと言えば,「神式一閃 カムライトライブ」「グリモア〜私立グリモワール魔法学園〜」といったスマホゲームを提供しているゲーム企業であるが,もう片方のCA Tech Kidsについては聞き慣れない人もいるかもしれない。こちらはプログラミング(以下,PG)を教えるスクール「Tech Kids School」の運営をはじめ,2020年から小学校で必修化されるPG教育の導入に向けて,政府や自治体との連携および活動といった教育事業に携わっている企業だ。

 ちなみに4Gameでは昨年末,CA Tech Kids 代表取締役社長の上野朝大氏“小学校PG教育はゲームクリエイターを生む原動力となるか”をテーマに,インタビューを行っていた。本稿の背景にある同社の企業理念や,下記で紹介するゲーミフィケーションな切り口からプログラミングを学ぶという「QUREO」のスタンスにも大いに関わっているので,長大な記事ではあるが,興味を持った人は下記リンクからあわせて読んでもらえると幸いだ。

CA Tech Kids 代表取締役社長の上野朝大氏
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小学校プログラミング教育はゲームクリエイターを生む原動力となるか。CA Tech Kidsが語る,PG教育は理念ではなく“武器”にすべきという話


「QUREO(キュレオ)」公式サイト



ゲーム感覚でPGを学び,自分でゲームを作る


 本題のQUREOだが,これは有料オンラインアプリケーションとして,個人,学校,学習塾,PG教室の事業者などに提供される。利用料金は無料体験,プレミアムプラン 1か月,6か月,12か月とあるが,最もリーズナブルなのは1人あたり月額1240円(税込・12か月プランの場合)での申し込みとなる。

 内容をかみ砕いて説明すると,本サービスは「ゲームのように物語を体験しながらPGを学び,ゲームを作る」というものである。利用にあたって必要なPC設定などはとくになく,QUREOに申し込みのうえ,PCブラウザからサイトにアクセスすればいつでも体験可能だ。ちなみにスマートフォンには未対応であるが,タブレットには随時対応していくとしている。

 なお,QUREOには計480レッスン(※基礎が300レッスン。復習が180レッスン。2018年2月19日時点で実装済みなのは計154レッスン)が収録されるが,これをPG教室に週1〜2回通うことに換算すると,約2年分のカリキュラムに相当するという。このうち1-20レッスンなら無料で体験できるので,ちょっとだけ試してみたいという人はさっそく調べてみてほしい。

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 QUREOの物語の舞台は,モノを創る人(キュリエイター)が集まる,2200年の近未来都市キュレオシティだ。ユーザーは悪(バグ)によって機能を失った世界を救うべく,悪にマスコットキャラクターのような姿にさせられてしまった相棒のアルゴとともに,“ビジュアルプログラミング”を駆使して,さまざまな悪をやっつけて(レッスン)いく。

 大人の“リアルな現場”なら,青白くなってしまった顔をさらに引き攣らせてしまいそうな絶望的な世界観と言えるが,そこは子供が対象(※小学2年生以上)のQUREOである。物語を彩る可愛らしいキャラクター達の活躍もあって,痛ましさなどは当然,微塵もない。まあ,QUREOで育って技術者となる子供が出てきたら,そのころには現場を知り,キュレオシティの優しい欺瞞に苦笑いを馳せるようになっているかもしれない。


 本サービスは,世界で2000万人以上のユーザーが利用しているPG学習ソフト「Scratch」のオープンソースを利用して開発されている。Scratchといえば,キーボードを用いたテキスト入力は最小限に,マウス中心の操作で楽しめる,子供向けのビジュアルプログラミングの先駆けである。

 そしてQUREOは,Scratchの良さはそのままに,さまざまな独自の改良が施されている。まずは前述したとおり,本サービスではカリキュラム全体に,ゲーム性およびストーリー性が付加されている。これにより,子供達は多彩なキャラクターと一緒にステージをクリアしていくゲーム感覚で,自発的な学習を促されるようだ。ゲーム屋が作る学習教材ならではのアプローチと言える。

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 ユーザーが学習していくレッスンでは「If」「乱数」「リスト」「条件分岐」といった,全60のPGに関する基礎的な概念を学べる。いわゆるストーリーモードに該当する「プログラミングをまなぶ」では,各チャプターに存在する複数のレッスンを攻略しつつ,物語を楽しみながらPGの勉強をしていける。トーゴーいせきでは等号不等号を学ぶなど,子供にも分かりやすい細かな気配りが見てとれた。

 レッスンで特筆すべきは“約15分の1レッスンで1つのゲームを作る”というところだ。もちろん,序盤はキャラクターを歩かせる,喋らせるといった初歩的な挙動のみが取り扱われているが,後半になると往年のFlashゲームのような作品を,ガイドに沿って手掛けていく。ただし,所要時間はあくまでも目安で,序盤ほど短く,後半ほど長くなる傾向にあるらしい。

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 レッスンをクリアすると経験値が手に入る。これを一定値まで溜めるとユーザーレベルが上がり,「素材」を獲得できる。素材はフリーモードにあたる,「プログラミングをつくる」で自由に使えるようだ。なお,素材にはオリジナルのほかにも,“CAグループがこれまでにサービスを終了したゲームのキャラクター素材など800点以上”が収録されている。人によっては,懐かしの再会もあるかもしれない。

 なお,現段階ではQUREOのプロジェクトデータは,Scratchとの共有・互換に対応していないという。また,Scratchの一部の高機能も,QUREOでは未対応とのことだ。会場では機能面に関するアップデートについては言及されなかったが,今後はコミュニティの実装,コンテストの開催などに取り組み,PGの学びの先にある導線を作っていくとしていた。

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 こういった学習系のサービスでは,ゲーム性をフレーバーに留めた結果,勉強の匂いを感じ取った子供が退屈するという事例をよく聞くが,QUREOはスタートからゴールまで“ゲーム感”を忘れさせずにプレイさせてくれるため,結構珍しい。大元にScratchの威光があるとしてもだ。また,各レッスンでは必ず,文章,ボイス,動画,スライドによる説明が挿入される。極論ではあるが,講師を必要とせずに子供1人でもPGを学べるのだ。

 聡い人には,QUREOとScratchはつまるところ,あまり変わり映えしない環境に見えるかもしれない。しかし,大事なのは“ScratchはPG環境であってPG教材ではない”という点だ。Scratchではいろいろなことをできるが,いろいろなことを教えてくれる機能は備わっていない。その点,QUREOはあくまで学習教材として,ユーザー単独で学べる,進められる仕組みになっている。これは個人の家庭でもありがたい話だが,最も効果的に作用するのはTech Kids Schoolを含む,全国のPG教室だという。

 PG教育業界は現在,2020年の小学校PG教育の必修化の影響に伴い,全国各地でPG教室が開校されていたり,親が通わせたい習い事ランキングの上位に「プログラミング」の名が挙がってきたりと,その注目度が高まっている。実情として,市場が膨れているのも嘘ではない。しかし,現状は2つの課題点が浮かび上がってきていると,上野氏は指摘した。それは「教材・指導のノウハウがない」「教えられる人材が少ない」というものだ。

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 上記2点はそのまんま“日本でPGを学ぶ,教える環境はあまりない”という,根本的な問題にもつながる話だ。揚げ足を取るなら,専門学校や個人活動などはいくつか挙げられるが,それらはもとから興味関心が向いているターゲット層への訴求であり,日本全国の小学生を対象とする今後のPG教育とは,数も質も比べられるものではない(※小学校PG教育の学びがPG技術ではなく,あくまで論理的思考の育みであるとしても)。

 しかし,QUREOはその2点の解決を示唆している。生徒の実習・予習・復習は各種ナビゲーション機能がフォローしてくれるし,法人向けの進捗・成績管理システムを使えば,PG教育では個々人でバラつきが出やすい進捗も一括してまとめられる。そして,これらの仕組みがとくに恩恵をもたらすのが,PG教室の現場の負担軽減なのだという。

サービスの説明を,アプリボット QUREO開発責任者の高橋悠介氏(左)が。事業者向けの説明を,CA Tech Kids パートナー事業部の斎藤千秋氏(右)が行った
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 会場で上野氏が口にした「書店には参考書があるので,学生はそれで勉強すればいいはずです。しかし,ほとんどの人は自習よりも塾を選びます。結局,学ぶ場がないと動けないことが多いんです。そのため,QUREOはオンラインサービスではありますが,まずは個人を主な対象とはしていません。私達はPG教室でQUREOを活用してもらい,その流れが各家庭に波及していくことを目指しているんです」というコメントにも,頭を捻らされた。

 QUREOがいかに自習用途に優れているとはいえ,いきなり「子供にやらせてみよう」となる家庭は確かに想像できない。また,QUREOはゲーム性が強く,(Tech Kids Schoolの)現場のノウハウが取り込まれた学習カリキュラムであるため,先進的な取り組みを検討している一部の自治体を除いて,学校教育で利用されるケースも当面は様子見のようだ。つまり,説明会が事業者向けであったとおり,本サービスは現状,民間のPG教室での導入を見込んでいるらしい。

会場で上野氏と対談した,伸芽会の利倉常高氏(右)。利倉氏が携わる「伸芽’Sクラブ学童」では今後,QUREOを使った新たなコースを開校するという。利倉氏は期待や課題や懸念も含めて,当面のPG学習は「教える人の熱量がすべて」と捉えているようだ
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 上野氏は「先生がいなくてもとは言いませんが,先生がいればよりスムーズな学習環境を整えられるはずです」とも語った。それだけ聞くと,なんて素晴らしいんだQUREOとなりそうだが,当面はTech Kids Schoolが新たに開設するという,QUREOを中心とした学習コース「キュレオ・ラボ」といった,自社活用の範囲に留まるのではとも思っていた。

 ……と,思ってはいたものの,会場に詰め掛けた100人以上もの教育関係者の姿を見ると(※その数は急遽,会場に椅子を追加するほどだった),子供達の学習に寄与したいと,多くの人が早くもQUREOに期待していたのだから,野暮な考えというものであろう。もしかしたら1年後,2年後。当たり前のようにQUREOが普及している未来もあるかもしれない。

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 なお,今回は会場にてアプリボットのQUREO開発責任者である,高橋悠介氏に話を聞くことができた。以下,本稿ではその様子をお届けする。PG教育の延長線上にある職種の1つ,ゲームクリエイター達から見て,このサービスはどのように見られ,どのように作られてきたのだろう。


私達がQUREOに託しているのは――


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4Gamer:
 説明会の登壇に,関係者との挨拶にと,お疲れのところ恐縮ですが,少しお話を聞かせていただければと思います。よろしくお願いします。

高橋悠介氏(以下,高橋氏):
 こちらこそ,よろしくお願いします。

4Gamer:
 私は会場に来るまで,QUREOがどこまで学習っぽいのか,どこまでゲームっぽいのかを捉えあぐねていましたが,率直な感想としては想像以上にゲームナイズされていた印象でした。それこそ,アプリボットの持ち味を活かしているんだなと。

高橋氏:
 ありがとうございます。アプリボットは7年ほど前からゲーム制作をしており,中にはリリースから4年以上の運用を続けているサービスもあります。そして,このゲーム制作で培ってきた開発力と運用力をうまく合わせられたらと思い,これまでQUREOを開発してきました。

4Gamer:
 まずは根本の質問ですが,アプリボットには「教育事業をやる」という目的が最初からあったんでしょうか。

高橋氏:
 最初から……ではないですね(笑)。スタートラインにあったのは,アプリボットがゲームのノウハウを活かせる新規事業を立ち上げようと考えていたことです。その後,アプリボットも所属している,サイバーエージェントのゲーム・エンターテイメント事業部(通称,SGE)の新規事業プランコンテストで私が提案し,優勝した学習系サービスの案を元に,海外の事例などをチェックしながらブラッシュアップして,オンライン上でPGを学んでもらうサービスにたどり着きました。そこで同じグループ内に,PG教育事業を専門としているCA Tech Kidsがあったので,両社で相談した後,共同事業として約1年かけて制作してきました。

4Gamer:
 両者の役割はどんな感じですか。

高橋氏:
 アプリボットは開発および運営です。CA Tech Kidsは主に,法人向け営業をはじめ,導入企業へのサポート,QUREOを使った直営教室「キュレオ・ラボ」の運営などをしています。

4Gamer:
 本日の会場ですが,私の第一印象は「想像していた以上に参加者がいるなー」というものでした。業界からの注目度はだいぶ高いようですね。

高橋氏:
 私もすごいと思いました。ただ,皆さんに注目していただけるサービスにするのも大事なことだったので,狙いどおりでもあります。

4Gamer:
 といいますと。

高橋氏:
 まず前提なんですが,CA Tech Kidsが運営しているTech Kids Schoolを含め,今ある全国のPG教室は,Scratchを使っていることが多いです。だから,Scratchを補完するような,子供達により教えやすいサービスがあったら,皆さん興味を示してくださるのではと考えていました。QUREOがどれほどの教室に使ってもらえるのかはまだ未知数ですが……QUREOによって教室同士のつながりが生まれたら,教育業界の活性化にもつながると思います。

4Gamer:
 当のQUREOはすでに体験会が行われたとのことですが,そのときの感触はいかがでしたか。

高橋氏:
 体験会には30人くらいの子供達が参加してくれました。手応えはかなりありました。Scratchを使った教室の場合だと,まず最初に「〜〜を作る」という設計図を子供達に考えてもらい,作業に入ったあとも細かなサポートが必要となるため,子供数人あたりに1人のメンターが求められることが多いです。でも,QUREOはそのあたりの問題をすべて画面上で解決してくれるので,子供達は1人でPGの学習をできてしまうんです。

4Gamer:
 すると,QUREOを使ったときのメンターの役割はどうなるのでしょう。

高橋氏:
 生徒の誰かが詰まっているときはメンターがサポートに入りますが,つきっきりでサポートをする必要はなくなりました。もはや「僕達は見守ってるだけでもいいかもね……」ってくらい,生徒達が自ら,どんどん学習を進めていくんです。だからといってTech Kids Schoolがサポートを疎かにすることは絶対にありませんが。とにかく体験会のときも,普段よりも少ない人数のメンターで教室を実施することができたので,QUREOは初歩的なビジュアルプログラミングを学ばせる教材として,各教室さんの負担を大分軽減できるはずです。

4Gamer:
 素晴らしい。QUREOはゲーム的な側面も強いですが,これは当初から引かれていた設計図のとおりに来れたものですか。

高橋氏:
 いえ,最初はサービスをアプリでやるか,ブラウザでやるかも決まっておらず,内容にしても「単発のイベントで楽しんでもらうもの」と「継続的な運営でサービスするもの」とで,大きく2つを考えていました。

4Gamer:
 単発というと,1時間や2時間くらいで触りを体験する,みたいな?

高橋氏:
 そうですね。Tech Kids Schoolの「Tech Kids CAMP(短期体験コース)」で,その日限りで触ってもらうような教材です。どちらの方針にするべきかは,じっくりと練りました。結論としては,CA Tech Kidsの5年間のノウハウを活かし,教材や教える人が不足しているという現状の課題解決につなげるため,後者を選びました。

4Gamer:
 アプリボットではゲーム以外の開発も手掛けているとはいえ,PG学習サービスの開発となると,おそらくこれまでなかった案件ですよね。

高橋氏:
 はい。開発中はいろいろと問題が噴出しましたが,基本的に開発中のQUREOを実際に子供に遊んでもらうことで,調整を重ねてきました。例えば,ガチガチな説明文を組んでしまうと,子供の集中力が切れてしまい,子供が退屈して「面白くない」と言い出すんですよね。

4Gamer:
 勉強とゲーム,恐ろしく難しいバランスですよね。

高橋氏:
 子供により楽しんでもらえるのはどのような内容なのか。それを模索するには,子供達に実際に遊んでもらわないと分からないんです。ストーリー動画を挿入して興味を掻き立てられるようにしたのも,レッスン自体を“ゲームを作ってもらう”ことにフォーカスしたのも,すべては子供に継続して利用してもらえるようにしたかったからです。これを根幹に開発を進められてきたのは,非常に良かったと考えています。

4Gamer:
 そういうのは心掛けていても,中々できないことも多いですもんね。ちなみに,子供向けコンテンツを作るということで参考にしたものはありますか。絵本などの児童書だったり,いろいろあるかと思いますが。

高橋氏:
 ドラえもんのキャラクターが算数を教えてくれる本(※小学館発刊「ドラえもんの学習シリーズ」)があるのですが,こちらを参考にしました。この本では日常のちょっとした困った場面で,「こういうときに算数の勉強が活きるんだ」みたいな,身の回りの概念を用いて,分かりやすい例え話をしてくれるんです。

4Gamer:
 へー,面白そうですね。

高橋氏:
 この本からは“子供に分かりやすくPGの概念を伝える設計”を教えてもらいました。

4Gamer:
 その具体的なプロセスなどはありますか。

高橋氏:
 まずは子供に作りたいモノを想像させ,それを見様見真似で作ってもらい,その後に動画や注釈で理解を定着させる,そういった一連の流れです。最初に公式を与えて,それを使って計算させても,子供達の意欲はあまり湧かなくて……。

4Gamer:
 最初の公式の時点で躓いていた人間としては,よく分かります。

高橋氏:
 最初に「〜〜みたいなモノを作りたい」とイメージさせることが大事だと考えています。こういう前提を作るうえで,QUREOのカリキュラムを考えてくれた4人のプランナーが皆,子供への指導経験があったのも大きかったですね。

4Gamer:
 それはまた心強い。私もこの題材を扱ううえで「実際に子供と接しているのか」は,とても重要になるだろうと考えていましたので。

高橋氏:
 その4人は「子供にこのゲームは面白くない」「子供にこのゲームは難しい」というのが肌感で分かるんですよね。開発チームでは日々,コンテンツのラフを作って,それを叩き上げて,より面白さを付加していくという制作工程を踏んでいますが,“漢字を使わずにより分かりやすく”といった最低限のルール作りが素早く済んだのは,この4人のおかげです。

4Gamer:
 子供と接した経験の有り無しは,やはり大きいですか。

高橋氏:
 大きかったです。プロダクトのイメージを共有しきれていなかった当初は,本当に壁にぶつかった気分でした。QUREOは子供が利用するサービスなので,子供目線に寄り添えていないと,ズレたものになってしまいます。当初は私も含め,誰も子供の気持ちが分からずで……。

4Gamer:
 子供の吸収力はすごいと言いますが,実際に遊ばせてみたとき実感できましたか。

高橋氏:
 本当にすごいんですよ。一通り触った後はスルスルと進めていってしまうんです。これが子供ならではの感覚なんだろうなと思いました。

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4Gamer:
 逆に高橋さんは大人として,ユーザー目線でQUREOを体験しましたか。

高橋氏:
 開発者目線とユーザー目線とで行ったり来たりではありますが,私自身はPGを学んでこなかった身なので,新鮮な気持ちで体験できましたね。4Gamerさんはいかがでしたか?

4Gamer:
 私もPGのことを一切知らない身で体験しましたが,分かりやすくもあり,なぜか躓きもありで。

高橋氏:
 おっ,どんなところがですか?

4Gamer:
 いやー,具体的なフィードバックにならなそうで申し訳ありませんが,説明どおりにイチからやろうとせずに,結局「で,これはなんなんだっけ?」みたいに硬直して固まるという,チュートリアルを飛ばしてしまうゲーマーの性みたいなケースがあって。子供のように体当たりで,手当たり次第にパパッと試してみればいいものを,失敗を恐れたのか考えた振りをしつつ,指が止まってしまったりも。これが頭の固さですかね……。

高橋氏:
 大人に体験してもらった意見も貴重なんですよ。QUREOの主な対象は子供ですが,PGについてこれから学ぶという,学校の先生方などにも利用していただければと考えているので。

4Gamer:
 私の意見が全国の先生を救うかもしれないと信じて。それともう一点,知見が足りずで聞いておきたいことがあります。QUREOはScratchのオープンソースを使用し,商用利用するんですよね。このあたりに権利的,あるいは技術的な問題はないんですか。

高橋氏:
 もちろん,QUREOはScratch側の規約にしっかりと準じた形で,商用利用可能なオープンソースのみを使用させてもらっています。それらに違反することはないですし,これまでも権利面での問題はとくにありませんでした。その一方,技術的にはいくつか問題がありまして……。

4Gamer:
 教えてもらえますか,そのいくつか。

高橋氏:
 会場でもちょっとお伝えしましたが,QUREOは基礎部分がScratchと同様の作りになっていますが,公式的な互換性はまだ持たせていないんですよね。

4Gamer:
 たしか,現状はプロジェクトデータの共有ができないとか。

高橋氏:
 はい。QUREOは現在,Scratchのすべての機能を搭載しているわけではありません。これは子供により分かりやすくするために,機能を絞ったコンセプトの結果でもありますが。そしてこのあたりの問題を含めてですが,QUREOは現在「Scratchのオープンソースをどう活用する」「どこまで独自性を目指すか」を検討中にあります。

4Gamer:
 どちらが優勢かもまだ分かりませんか。

高橋氏:
 どちらとも言えない程度に検討段階です……。

4Gamer:
 “Scratchっぽくなさすぎる”のも,それはそれで課題になりそうですが。

高橋氏:
 そのとおりです。Scratchは日本でも多くの子供に使われているサービスです。それを活用しているQUREOが,Scratchではできないことを追求し過ぎると,子供達にとって「新しく覚えなければいけないこと」を無駄に増やしてしまいます。その結果,自分達で自分達のハードルを高くしてしまうことにもなりかねません。

4Gamer:
 互換性もあって,高機能もあって,QUREOにしかできないこともあれば,生臭いものの「取って代わる可能性」も生まれるのでは。

高橋氏:
 そうするのが難しいくらい,Scratchは本当に良く出来ています。

4Gamer:
 となると,「オープンソースを使ってるんでしょ」なんて素人考えほど,実情は簡単ではなさそうですね。

高橋氏:
 QUREOの制作の割合は実のところ,オープンソースを使っていると言えど「Scratchの10のうち2を使っている」くらいのものですから。残りの8を自分達で手掛けているので,想像されているよりは簡単ではないですね。

4Gamer:
 なら機能ではなく,内容はいかがでしょう。QUREOは現在480レッスンをとおして,全60のPGに関する基礎的な概念を学ばせるという触れ込みですが,将来的にさらなる発展は予定されているのか。言ってしまえば,「QUREO Pro」みたいな感じで。

高橋氏:
 今日から提供が始まったばかりですし,まだまだやりたいこともあります。現時点ですべてのレッスンを体験できるわけではないので,まずは全レッスンを実装したいと考えています。レッスンのその先としては,ブロックで組んだプログラムを,ボタン1つでJavaScriptなどのコードに変換できるようにすることなども構想しています。

4Gamer:
 その機能の意図とは。

高橋氏:
 「君がブロックで作ったそのプログラムは,プログラミング言語に変換するとこういう風になるんだよ」ということを知ってもらうためです。ビジュアルプログラミングとテキストプログラミングの垣根には隔たりがあるので,こういった機能をきっかけにして,より実践的なPGに興味を持ってもらえればと考えています。

4Gamer:
 なるほど。ビジュアルプログラミングだけに終始していると,その先にある,より実践的なPG言語に進み辛いんですね。だからこそ架け橋を作りたいと。

高橋氏:
 今なら「じゃあ,Tech Kids Schoolに通ってみたら?」と声をかけるのもいいんですけどね(笑)。

4Gamer:
 手っ取り早いことで(笑)。

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高橋氏:
 あと,さまざまな子供達にPG技術を高め合ってもらうための施策として,コミュニティの実装や,コンテストの実施も予定しています。作ったモノのアウトプット先をたくさん作ることで,サービス内で子供達により多くの道筋を提示していきたいんです。

4Gamer:
 コンテストとは,どのような形式を想定しているんでしょう。

高橋氏:
 最初はオンライン上で実施してみたいと考えています。例えば,2月のイベントに参加した子には「雪」というオブジェクトを配り,それを使って作品を作ってもらい,私達で受賞作品を選定し,それをサイト上で表彰するなどの仕組みでやりたいです。さらに受賞者には特別な称号やトロフィーなどを授与できたらとも思っています。

4Gamer:
 まさにスマホゲームのイベント的な発想ですね。

高橋氏:
 コンテンツにハマる要素というのは,大人も子供もそう変わるものではないと思うので,それらのエッセンスを取り入れていきたいと考えています。

4Gamer:
 そういえば,ゲーム内で獲得できる素材は“これまでにサービス終了してきたスマホゲームのリソース”とのことですが。

高橋氏:
 サイバーエージェントの各タイトルのゲーム素材を使わせてもらえることになったのは,非常に大きいなと感じています。

4Gamer:
 素材数も800点以上と,開発的にも大助かりな気がします。しかし,この思い切った発想はどのように生まれたんでしょう。

高橋氏:
 Scratchは世界中で利用されていることもあり,収録されている画像や音楽などの素材については,必ずしも日本向けではないのかなと感じる部分もあります。そのため私達がここで,サイバーエージェントのゲーム素材という資産を利用できれば,方向性は同じでも,クリエイティブの部分で違いを見せれるのではと考えました。

4Gamer:
 QUREOは現在PCのみの対応で,タブレットにも随時対応とのことですが,スマホへの対応は予定されていないとか。

高橋氏:
 iPadへの対応は,早期の実現を目指していきます。しかし,スマホについては専用アプリの制作も検討していたものの……やはり画面のサイズに無理がありまして。

4Gamer:
 PC/タブレットと比べて,スマホではUIをスマートに納めきれないと。各端末の対応・未対応の違いは“画面のサイズだけ”ということですか。

高橋氏:
 その問題が大きいですね。スマホでは指でブロックを移動させることだけを取っても,現状のレイアウトではいろいろと難があります。PC/タブレットでの知見が溜まり,アプリでもいけると確信を持てたら,挑戦したいとは思っていますが……。ただ,QUREOで制作したゲームをスマホで遊べるようにできたらいいなとは考えています。PCで作ったゲームをスマホに出力し,スマホで友達に遊んでもらう,みたいなスタイルです。

4Gamer:
 おお,それは面白そう。PCでFlashゲーム相当のものを遊んでも,マウス操作だけだとどうしてもチープと言いますか,勧められたほうも反応しづらいですからね。スマホならもっと手近で,体感的で,子供達もはしゃぎやすいと思います。

高橋氏:
 それで,その子の友達の輪が広がっていったら私達も嬉しいです。

4Gamer:
 では,最後にもう1つだけ。私はQUREOなどを使ったPG教育の延長線上にある1つの職種が,高橋さん達のようなゲームクリエイターだと思っています。実際にそちら側にいる人達から見て,PG教育やQUREOはどのようなモノとして捉えられているのでしょうか。

高橋氏:
 QUREOの開発チームは現在15名ほどいて,ビジネスサイドに立つことが多い私を除いて,残りは全員エンジニアやクリエイターです。そして彼らからは「自分も子供にPGを教えたい」という声をよく聞いてきました。それに皆,エンジニアになるまでに「なにかのゲームにハマった」「どこかできっかけに出会った」と,開発中に盛り上がっていました。彼らにとってPGにハマったタイミングというのは,ある種の共通言語になります。このQUREOも“誰かの最初のきっかけになってくれたら良いよね”という私達の想いを込めています。

4Gamer:
 子供達の将来のきっかけになるかもしれないサービス,それがQUREOであると。

高橋氏:
 オンライン上でPGを学ぶというスタイルは,都道府県を問わず,学習環境の地域格差をなくせるはずです。それに私は「教育」という概念を,万国共通の課題として捉えています。だからこそ,教育を扱ったプロダクトは世界で通じやすいと考えています。今後はQUREOをより磨いて,Scratchのように2000万人以上に利用してもらえるグローバルサービスにしていきたいです。1人でも学習できて,その子の速度で進められるQUREOは,新世代の学習様式になると思っています。私達がQUREOに託しているのは,“全世界で使われる21世紀型の教育サービスに”という想いですから。

「QUREO(キュレオ)」公式サイト

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