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アニメ「機動戦士ガンダム THE ORIGIN」の作り方とは。AnimeJapan 2018で開催されたクリエイションセミナーをレポート
「機動戦士ガンダム THE ORIGIN」(以下,THE ORIGIN)は,安彦良和氏の原作コミックを映像化したアニメシリーズで,初代「ガンダム」とそれ以前のエピソードを,安彦氏独自の視点で描いている。全4章構成で,シャアとセイラの少年少女時代から一年戦争開戦までを描いた「シャア・セイラ編」が2016年に終了。2017年には「ルウム編」となる第5話「激突 ルウム会戦」が公開され,2018年5月5日に第6話「誕生 赤い彗星」が上映される。
セルアニメとCGアニメを併用して制作している本作が,どのような連携を経て作られているのか。本稿では,このセミナーの内容をレポートする。
「THE ORIGIN」の雛形となったトヨタのCM
この日の司会者はサンライズの中島幸治氏。中島氏が「THE ORIGIN」の内容を簡単に説明した後,本作のプロデューサーの谷口 理氏とCGプロデューサーの井上喜一郎氏が登壇し,セミナーがスタートした。
まず,先日第6話の制作が無事終了したことを明らかにした谷口氏は,本作の制作体制について言及した。「THE ORIGIN」は,メカニックやエフェクトなどをCGで作り,キャラクターをセルで起こしているのだが,これまでの「ガンダム」シリーズでも,これほどモビールスーツにCGを作ったことはあまりなかったという。
2013年に制作がスタートしたときに,谷口氏は監督の今西隆志氏と相談し,セルルックのCGをこれまで以上に使用した作品を作ろうと決めたそうだ。今西氏はフルCG作品「機動戦士ガンダム MS IGLOO」を手がけた人物。彼に相談しなければ,「THE ORIGIN」でCGがこれほど使われることはなかったと,谷口氏は語った。
CGで制作すると決まった後,その分野に明るいスタッフを集め,「革命機ヴァルヴレイヴ」(2013年放送)でメカニカルアニメーションデザインを務めた鈴木卓也氏と,デジタル作画に詳しい西村博之氏が参加。いきなりCG作品を作るのは不安だったので,トヨタとコラボした「シャア専用オーリスII」のCMでその効果をテストしたそうだ。
ところがその後,すっかりCGに目覚めてしまった安彦氏が,ことあるごとにCGを使いたいと言い出し,周囲を困惑させたと語り,会場の笑いを誘っていた。
また,谷口氏は,安彦氏が板野一郎氏にアバン(OP前に入るプロローグシーン)を依頼したときのエピソードを語った。板野氏といえば“板野サーカス”と呼ばれる演出方法を生み出した,メカアクションの第一人者。いきなり,独断で板野氏に依頼してしまった安彦氏にスタッフ一同は驚いたが,板野氏の参加でCG作品についていろいろ学べたので,結果的には大成功だったとのこと。
CGと作画と美術の連携
続いて,井上氏によるCGチームとの連携が説明された。アニメ制作は,大きく分けると作画とCG,美術の3セクションに分けられる。この3つで連携しているのだが,カットによってはCGと作画の連携が強くなる場合もあるという。
CGの作業として,まずは物のサイズ感を決定する。例として補給艦「パプア」では,モビールスーツが何機積めるかを検証し,デザイナーと煮詰めていく。実際に計算してみると,24機積載できることが計算でき,こうして初めてパプアのデザインが作られ,CGのモデルが作られるわけだ。
原画マンが起こしたラフをもとに,CGでキャラクターを作成。その後,作画チームから頭のサイズを変えてほしいとか,胸の周りを調整してほしいといった指示が入る。それを修正したものが実際の画面で使用されるという。
3つ目は,絵コンテからCGを起こす場合で,本作の第5,6話ではこの手法が増えたとのこと。CGで作ったものを作画がチェックし,最終的に美術のほうでCGに絵を張り込んでカットを完成させる。3つのチームが連携する,なかなか高度な制作手順になるそうだ。
そのほかにも作画のエフェクトをCGに混ぜるなど,さまざまな手法が本作では使われているが,こうしたCG制作にはメカ打ち(メカニックチームの打ち合わせ)での緻密なすり合わせが必要になる。
実際のメカ打ちでは,「THE ORIGIN」の原作コミックスを大量に用意し,整合性を取りながら話し合うと,谷口氏は語った。
第6話「誕生 赤い彗星」は戦闘シーンに注目
ここで,本作に参加しているデザイナーのカトキハジメ氏が,作業者の指示用に用意したムービーが流された。ムービーでは,カメラの位置やカットのタイミングなどをカトキ氏が細部にわたって説明し,そのこだわりぶりを披露していた。
そして,いよいよ5月5日に公開される第6話「誕生 赤い彗星」の予告PVも公開された。
PV終了後,谷口氏は「とにかく戦闘シーンが長いです」とため息交じりに語り,もう少し散りばめればよかったと,制作の苦労を告白。物語としては,これまでシャアが主役だったものが,ついにアムロへと変わるターニングポイントになると,シナリオの見どころを語った。
最後に質疑応答のコーナーが設けられ,参加者からの「今後のアニメにおいてCGの描写はどう変化していくのか」という問いに,谷口氏は「予算としては,2Dのほうが安く済むんですよ。時間はかかりますが。でも,あくまでもCGはツールのひとつ。面白ければ手書きでもCGでもいいと思います。どちらも共存していくのではないでしょうか」と語り,セミナーを締めくくった。
「機動戦士ガンダム THE ORIGIN」公式サイト
『機動戦士ガンダム THE ORIGIN 誕生 赤い彗星』
2018年5月5日(土)〜全国35館にて劇場上映
原作:矢立 肇・富野由悠季(「機動戦士ガンダム」より)
漫画原作:安彦 良和(KADOKAWA「機動戦士ガンダムTHE ORIGIN」より)
キャラクターデザイン:安彦良和、ことぶきつかさ
オリジナルメカニカルデザイン:大河原邦男
メカニカルデザイン:カトキハジメ、山根公利、明貴美加
脚本:隅沢克之
音楽:服部隆之
総監督:安彦良和
企画・製作:サンライズ
(C)創通・サンライズ
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