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[Unite 2018]リアルパックマンの開発期間はわずか2か月。軽いフットワークでゲームを作る,「とても楽しい!HoloLensとUnity,テーマパークのMRゲーム開発について」聴講レポート
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印刷2018/05/08 20:59

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[Unite 2018]リアルパックマンの開発期間はわずか2か月。軽いフットワークでゲームを作る,「とても楽しい!HoloLensとUnity,テーマパークのMRゲーム開発について」聴講レポート

 東京国際フォーラムで2018年5月7日〜9日,Unityの開発者向けフォーラム「Unite Tokyo 2018」が開催されている。そこで,「とても楽しい!HoloLensとUnity,テーマパークのMRゲーム開発について」と題された講演が行われた。内容は,東京・池袋のテーマパーク「ナンジャタウン」向けにUnityで開発されたMRタイトルについて語るというものだった。開発のキーワードは,「MRは現場が主役」

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「Unite Tokyo 2018」公式サイト


写真左から,バンダイナムコスタジオ メカニカルエンジニア/ゲームデザイナーの市野塚 朝氏,同リサーチエンジニアの岩田永司氏,同クリエイティブディレクター/ゲームデザイナーの本山博文氏
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スタートアップ企業を参考に,軽いフットワークでゲームを作る


 2月13日に掲載した記事でお伝えしたようにバンダイナムコスタジオは,マイクロソフトのMRデバイス「HoloLens」を用いたMRゲームをナンジャタウンで提供している。これが「ナンジャタウン×MRプロジェクト」だ。
 1月には現実世界で「パックマン」が楽しめる「PAC IN TOWN」が,そして2月には,ナンジャタウンのライド「爆裂!蚊取り大作戦」を利用し,襲い来る蚊を叩く「一網打尽!蚊取りパッチン大作戦」が稼働して話題を呼んだ。

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 新技術を使ったゲームの開発には時間がかかるというイメージがあるが,本山氏によれば,どちらの作品も少人数かつ短期間で制作されたとのこと。
 「一網打尽!蚊取りパッチン大作戦」は内部スタッフ5人と委託のアートスタッフによって約3か月で完成。このノウハウを活かした「PAC IN TOWN」は内部スタッフ3人でプロトタイプ制作に1か月,そして改良に1か月の計2か月で稼働にこぎ着けたというから驚きだ。

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 このようなスピードで開発した理由は,MRやVRの世界は変化が非常に早く,従来のゲーム開発のように数年もかけていたのでは陳腐化してしまうからだ。そのためバンダイナムコスタジオは,スタートアップ企業でよく見られるプロトタイピングの手法を参考にしたという。
 「PAC IN TOWN」ではまず,オーストリアのアートイベント「アルス・エレクトロニカ」での発表を目標として開発を進め,現地の反応を見てから継続するかどうかを決めたというが,これはまさにスタートアップ企業の手法だ。

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 この高速の開発については,MRならではの特性も寄与したと本山氏は語った。MRとは「Mixed Reality」(複合現実)の略で,ざっくり言うと,現実の風景にコンピュータで作った画像を合成してプレイヤーに見せる技術。VRでは仮想世界をゼロからすべて作らなければならないが,MRでは現実の風景をそのまま活かせることが特徴だ。ナンジャタウンにはテーマパークとして作り込まれたセットがあったため,これを背景として使うことで,低コストかつ短期間での開発が可能になったという。

本山氏は,始まったばかりであることや短期間でのプロトタイピングにMRタイトルの大きな魅力を感じているという
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アトラクション職人の「一期一会」の魂に,MRを組み合わせて新体験を作る


 続いて市野塚氏が,「一網打尽!蚊取りパッチン大作戦」「PAC IN TOWN」のレベルデザインについて語った。
 開発にあたって市野塚氏は,バンダイナムコグループでテーマパーク向けのアトラクションを20年以上作り続けているスタッフの心構えに感銘を受けたという。それは,「お客さんがテーマパークでアトラクションを体験するのは一生に一度。すべてのお客さんに気持ち良く家に帰ってもらう」というものだった。自宅で遊ぶゲームなら,多少のクセや難があっても慣れてくるが,テーマパークのアトラクションはそうはいかない。まさに一期一会なのだ。

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 レベルデザインを進めるうえでは,HoloLensの特性である視野の狭さも考慮しなければならなかった。視野が狭いと,視野の外から攻撃を受ける状況がどうしても生まれて,プレイヤーに理不尽だと感じられてしまう。そこで両作品では,頭を上下にあまり動かさなくてもゲームに必要な情報が得られるようにした。
 「PAC IN TOWN」では,迷路の壁やパワークッキー(パワーエサ),ゴーストの高さを揃え,また,「一網打尽!蚊取りパッチン大作戦」では,ターゲットとなる蚊の動きを工夫して,近づいてくるにつれて上下の動きを小さくし,さらに,3Dサウンドによって次に頭を向けるべき方向をナビゲートしたという。

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 その3Dサウンドを使うにあたって問題となったのが,周囲の音だった。ほかのアトラクションの音や,プレイヤーが搭乗するライドのモーター音などで,HoloLensからの音が聞こえにくくなったという。
 これについては,周囲の音は聞こえるがプレイを阻害せず,かつHoloLensの音は外に逃がさない耳カバーを作るという物理的な方法で解決したそうだ。

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 「一網打尽!蚊取りパッチン大作戦」では,ベースとなるナンジャタウンのライド「爆裂!蚊取り大作戦」をHoloLensの「Spatial Mapping」(空間マッピング)機能でスキャンし,これをUnity上で再現することで開発が進められた。さらに,現地でテストを行って調整したという。「ライドの速度が8台それぞれに異なるため,どれに乗っても同じ体験ができるように演出のタイミングを工夫する」「MRの蚊がより自然に見えるよう,実際にライドに乗った上で位置を微調整していく」といった作業が必要になったとのことだ。

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MRは現場が主役。現場を支え,現場を信じる


 市野塚氏に続いて登壇した岩田氏は,今回の制作において得られたさまざまな知見について説明を行った。
 上記のように「一網打尽!蚊取りパッチン大作戦」では「爆裂!蚊取り大作戦」をUnity上に再現したため,ライドがある場所に来ると天井が崩れるなど,現実に合わせた演出をあらかじめUnityで作れ,このことが大きく役立ったという。

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ベースとなる「爆裂!蚊取り大作戦」の地形をHoloLensの「Spatial Mapping」(空間マッピング)機能でスキャンし,Unity上に再現した
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 MRコンテンツ制作で気をつけなければならないのが,座標の取扱いだ。取り扱う座標系は,施設の座標や視点の座標,ライドの座標とさまざまあり,開発が進むにつれて,ここにいろいろな変更が加わっていくのだからややこしい。複数のスタッフが制作に関わる場合,こうした座標系を共有していなければ,現場で大きな混乱が生じるという。

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 例えば「オブジェクトを空間上に配置したはずが,画面上に何も表示されない」「複数のスタッフがいろいろと調整しているうちに,特定条件下でのみオブジェクトが妙な位置に行き,原因の切り分けに時間がかかった」などのトラブルが起こったという。

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 「一網打尽!蚊取りパッチン大作戦」では,座標に関して意思決定を行うのを「座標系エンジニア」1人に絞り,その人だけがプログラマーに指示を出すという体制で乗り切ったとのこと。2人なら意思疎通も楽に思えるが,それでも混乱したというから,座標の取扱いはMRコンテンツを作る上での大きなテーマと言えそうだ。

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 また,「PAC IN TOWN」では,「Audience View」が思わぬ効果を発揮したという。最近のアーケードゲームで見られる「観戦ディスプレイ」のようなもので,プレイしている光景をMRキャラクター含めて眺められる。本来は観客が楽しむための設備だったが,スタッフがMRマーカーの調整やゲームの実況,HoloLensの動作チェックなどに活用したのだ。

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 こうした体験から岩田氏は,現場スタッフに「Audience View」のような情報を提供することの重要性を痛感したという。「オフィスではMRコンテンツは完成しない」と岩田氏は述べ,「MRは現場が主役」であるとして講演を締めくくった。

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「Unite Tokyo 2018」公式サイト


 「VR元年」と呼ばれた2016年からすでに2年が経過し,個人利用だけでなく,ゲームセンターなどで稼働するアーケードVR(ロケーションベースVR)がクローズアップされるようになってきた。それに加えて,「PAC IN TOWN」や「一網打尽!蚊取りパッチン大作戦」のように,既存のテーマパークや施設にMRを組み合わせる取り組みにも大きな可能性があるように感じられた講演だった。
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