ビッグウェーブ到来なレトロゲーム新時代を生き残るための連載企画
「レトロンバーガー」。第2回は2018年5月にコロンバスサークルから発売された
スーパーファミコンおよび同互換機向けソフト
「魔獣王」を紹介します。
オリジナルの「魔獣王」は1995年にケイエスエスから発売されたタイトルで,開発はカネコ系列から独立したイレブンが担当していました。緻密なドット絵で描かれたグロテスクなビジュアルや,難度の高さで有名ですが,出荷本数が極端に少なかったことからプレミアが付いており,箱&取説完備ならば中古市場では
10万円クラスの価格も珍しくないレベルです。TV番組「ゲームセンターCX」ではソフトを購入できず,保有ショップに貸してもらっていました。
復刻版。カセットのシェルはコロンバスサークルのロゴが入った新造のもの
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そんな魔獣王が発売から22年を経た今年,カセットそのままで,しかもたったの6998円(税込)で再販されたというわけですね。素晴らしい。それではやってみましょう。ちなみに今回のスクリーンショットは,サイバーガジェットの「レトロフリーク」を使って撮影しています。
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取扱説明書に掲載されている,アベルさんのイラスト
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主人公の
アベルさんは
「キングオブストリートファイター」の異名を持つおじさんで,普通に空中二段ジャンプをしたり,覇王翔吼拳的な気を放てたりします。さすがキングオブストリートファイター。でも通常攻撃は格闘技でなく拳銃を撃ちます。キングオブストリートファイターとは。
そんなアベルさんの奥さんと娘さんは,かつてアベルさんの親友だった
ベイヤーさんにさらわれてしまいました。実はベイヤーさんは魔王を信奉する
狂信者で,生贄にするため2人をさらったらしいのです。それにしても,どういう経緯でキングオブストリートファイターと魔王の狂信者が親友になったんでしょうか。居酒屋での飲み友達とか,堤防での釣り仲間とかでしょうか。
ファンタジーRPGではありがちな「かつて魔王が封印された経緯の説明シーケンス」などはなく,メチャクチャになった街へアベルさんが駆けていくところから本編がスタートします。街は明らかに危険地帯ですが,アベルさんは赤いハチマキ+タンクトップ+ジーンズ+拳銃といった「ちょっとランボー入ったマクレーン」風の軽装です。
そんな装備で大丈夫か。高架橋らしき場所を急ぐアベルさんの前に,ウルトラ怪獣のドラコみたいな魔獣となったベイヤーさんが立ちはだかります。
全体的に背景グラフィックスが非常に美しいんですよ
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ドラコもといベイヤーさんの体当たりでアベルさんは即死。でも,
ここで死ぬ運命ではないのがアベルさん。奥さんと娘さんと猫に思いを馳せることで,なんだか復活してベイヤーさんを撃退します。ちなみに猫はこのシーン以外では出てこない(取扱説明書にすら),割と謎の存在です。
ネーミングセンスがすごい
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その後,アベルさんは奥さんの魂と再会。よく分かりませんが奥さんは妖精に変化して,シューティングゲームで言うところのオプションになります。この
奥さんには攻撃判定があり,触れた敵は死にます。こんな文言をタイプすることは今後の人生で二度とないと思うので,せっかくだからもう一度打ちますが,
奥さんには攻撃判定があり,触れた敵は死にます。あとアベルさんの体力が尽きたときに一度だけ全快させる効果もあります。
「R-TYPE」のフォースに似た「それ自体に攻撃判定がある」タイプのオプションなので,ザコなら触れただけで死ぬ奥さん。アベルさんの攻撃にあわせて敵に突撃します
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冷静に見ていくと前時代的な「無茶な設定の盛り込み」に満ちていて,シュールにシュールを重ねた
シリアスな笑いの権化みたいな冒頭ですが,ド真剣に畳み掛けられるので大抵のプレイヤーは「そういうものなのか」とすんなり受け入れてしまうでしょう。昔の誰かが言っていた「大きな嘘ほどバレにくい」みたいなことかもしれません。
勢いって大事だなあ。
1面は巨大ワームの巣穴や下水道らしき場所を通っていきます。背景には檻に閉じ込められた人がいたり,天井から吊り首のクリーチャーがぶら下がっていたりと,
「スプラッターハウス」のオマージュが感じられますね。飛んでくるザコ編隊とか上半身が女性型のボスとか,
「悪魔城ドラキュラ」っぽさも入ってます。
1面は生身で進んでいくことになりますが,各ステージのボスが倒れた後に出現する“呪いのクリスタル”を取ると強力な魔獣に変身するので,2面以降はその姿で進んでいけます(呪いのクリスタルは時間経過で消滅するため,生身縛りプレイも可能)。基本の魔獣姿は3種類あり,ラスボス撃破までにすべての形態になっているとトゥルーエンドへと進みます。
魔獣はデビル風・昆虫風(?)・ドラゴン風・トゥルーエンド専用の全4種
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魔獣に変身していると,2面以降で登場する
女性型クリーチャーの死骸を食べて回復できます。アベルさん,敵を体当りで殺す妖精になった妻の前で,魔獣姿になって女性クリーチャーを貪り食らうって,どんな気分なのでしょうか。シチュエーションが独特すぎます。
体力が少ない……そんなときは |
生肉ムシャムシャ |
そのほか,エログロの挑戦は「スーパーファミコン用ソフト」ということを考えると,かなり攻めています
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難度は確かに高めながら,一定のスコアを獲得するたびに残機が増えるエブリエクステンド仕様なうえ,その回転は早め。さらにコンティニュー回数は無制限で,ボスはパターン化が楽だったりもするので,「無理ゲー」ではありません。
「1990年前後にアーケードゲームで出ていたら,けっこう人気になっていたんじゃないかな」と思うくらいの難度調整です。
ボリュームの物足りなさは否めないものの,程よい緊張感の続く設計はなかなかうまい |
回復ポイントの設置など,レベルデザインはよく考えられています。ムシャムシャ |
トゥルーエンドでは,娘さんが正気を取り戻して……ところで娘さんは猫っぽい魔獣になっているわけですが,「ザ・フライ」的に猫と合体したのでしょうか
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キャラクター設定のハチャメチャさやゴア演出のインパクトが強いものの,本作をプレイした感想は,遊びやすさと適度な難度を兼ね備えていて
「手堅い佳作」といったところ。中古ショップのショーケースを飾るに留めるのはもったいないタイトルなので,リバイバル版で比較的手軽にプレイできる(ROM媒体がカセットなので,ハードの用意が必要ですが)ようになったことに感謝です。
それにしても「現代社会にダークファンタジーがやって来て大惨事! ときどきエログロ!」なノリには,時はまさに世紀末な1990年代の流行が感じられます。有名どころでは
「真・女神転生」とか,マイナーどころでは
「サイコドリーム」とかでしょうか。冒険者が異世界に転生しがちな昨今からすると,異世界自体が現世に来るのは逆に新鮮な感じですね! 日本テレネットのタイトルにそういうのが多かった気がするので,ちょっとProject EGGを漁ってきます。では,また来世。