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ゲーム好きの少年が考えた世界観が「ロードス島戦記」へ。日本のファンタジーシーンに大きな影響を与えた水野 良氏にインタビュー
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印刷2018/12/29 00:05

インタビュー

ゲーム好きの少年が考えた世界観が「ロードス島戦記」へ。日本のファンタジーシーンに大きな影響を与えた水野 良氏にインタビュー

「ロードス島戦記リプレイ」がTRPGの楽しみ方を広める


4Gamer:
 コンピューターゲームの雑誌でTRPGの記事が,人気投票1位を取るというのもすごいことなんですが,あの頃にTRPGに入門した人は,みんなロードス島戦記のスタイルを真似したと思うんです。

画像集 No.012のサムネイル画像 / ゲーム好きの少年が考えた世界観が「ロードス島戦記」へ。日本のファンタジーシーンに大きな影響を与えた水野 良氏にインタビュー
水野氏:
 読み物にする上で,ある程度編集しているので「あんなにうまくプレイできるわけがない」という声はありました。

4Gamer:
 学校の友達とTRPGをやりながら「なかなかロードス島戦記のようにうまくいかない。プロはすごい」なんて話し合っていた記憶があります(笑)。

水野氏:
 それはそうですよね(笑)。例えば,戦闘で全滅してしまうと,そこでリプレイが終了になってしまいますから,さすがにやり直すことになりますし。

4Gamer:
 ダイスの目が悪いと,どうにもなりませんね。

水野氏:
 一方,リプレイでの出来事(プレイヤーの判断)については,ほぼ脚色はないと思っていただいて間違いありません。ウッド・チャックはサークレットを持ち逃げしましたし,スパーク君は不幸でした。
 ただ,リプレイを脚色することに関してはグループSNEでも考え方が分かれていて,「リプレイは,その場で起こったままのことを書くべし」派の人が多かったです。僕は少数派でしたね。

4Gamer:
 とはいえ,ロードス島戦記の影響を受けたプレイヤーは,やはり多かったと思うんですよ。

水野氏:
 ありがとうございます(笑)。あれは,みんながまだTRPGやファンタジーについて知らないなか,目標となるスタイルがあったほうがいいのではと考えて書きましたからね。それが伝わったのならなによりです。

4Gamer:
 目標となるスタイルですか。

水野氏:
 それまでは,一部だと思いますが,仲間が死んだ時に遺体から装備を剥ぎ取って大笑いするような,ひどいプレイがまかり通っていました。だから,「そういう非常識なことをするんじゃなくて,みんなで協力してシナリオを解いていくほうが楽しい」ってことですよね。ある卓でこうしたプレイを率先したら,ゲームマスターが「ありがとうございます」と泣いて喜んでくれました。

4Gamer:
 なるほど。キャラクターの属性が混沌/中立だったみたいな,ある種の小悪党をロールプレイしていたというわけではないんですよね?

水野氏:
 みんな単純に,遊び方が分からなかったのだと思います。もちろん,剥ぎ取りのようなプレイも許されているのがTRPGですが,その世界における常識や,キャラクターがどう振る舞うかを,もっと考えようということですね。
 こうした光景は黎明期ならではのもので,今のTRPGは“みんなで解決してシナリオを解いていこう”といった目的は,初めからルールブックで明言されています。ただ,プレイヤー側が,ゲームマスターが用意したシナリオに合わせすぎるのもどうかと思いますね。

4Gamer:
 話を聞いていて,MMORPGも同様の歴史を辿っていたなと思っていました。例えば「ウルティマ オンライン」では,黎明期はとにかく自由と混沌に満ちていて,それゆえにPKや追いはぎが多く,そのうちに自警団的なものが組織され,プレイヤーの意識も混沌から秩序へと移り変わっていったように思うんです。最終的には,それがゲーム内,ひいてはMMORPGのシステムに影響を与えていったのだろうと。

水野氏:
 そうですね。そうした自警団的な活動を見ると「これが王国の成立なのか」と感慨深くなります。
 僕が「ファイナルファンタジーXI」で遊んでいた時も,外国人が狩りに参入してきた際,最初は順番を守らなかったんです。でも,そのうち日本人の文化を吸収したのか,列に並ぶようになってくれて(笑)。
 振り返ってみれば,TRPGやプレイバイメールなど,ゲームというのはそういった側面を持つものなのでしょうね。


ファンタジーの知識を教えてくれたコレクションシリーズ


4Gamer:
 ロードス島戦記はD&Dからスタートし,途中からオリジナルのシステムに変わりましたよね。

水野氏:
 単行本を出す段階でD&Dの当時の権利元であるTSRとコンタクトを取ったところ,「待った」がかかりました。そのため,パソコンゲーム「ロードス島戦記〜灰色の魔女〜」(※20)を転用したオリジナルシステムを作ることになったんです。これが後に「ロードス島戦記コンパニオン」として発売されました。

4Gamer:
 D&Dのシステムで単行本を作る以上,TSRのD&D関連の書籍でなければいけないわけですか。

水野氏:
 だからといって,彼らの基準が厳しいとは思いませんでした。むしろ明快でしたね。ロードス島戦記の権利が我々に帰属することを認めてくれたわけですから。彼らは「D&Dのシステムで展開された物語だから,別システムへ移行するなどまかりならん」ということもできたはずです。しかし,そんなことはしなかった。「D&Dのシステムさえ使わなければ自由に展開してもいい」というスタンスでした。

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4Gamer:
 同時期に出版された「ソード・ワールドRPG」は,文庫本かつ買いやすい値段だったので,学生の身としてはありがたかったです。TRPGのルールブックは数千円するものが珍しくなかったですから。

水野氏:
 「本屋で買える」「サイコロは普通のものを使う」というのが,システムデザインを担当した清松みゆき氏(グループSNE所属のゲームデザイナー)の信念でした。子供でも遊べるものを作りたいと願っていたようです。

4Gamer:
 そもそも6面体を超えるダイスをどこで買えるのか……と。

水野氏:
 6面ダイスでバランスを取るのは大変じゃないかと思いましたが,そこはさすがに京都大学の数学科でしたね。

4Gamer:
 当時手がけられていた「モンスター・コレクション」「スペル・コレクション」「キャラクター・コレクション」といったファンタジー世界を紹介する読み物も面白かったです。

画像集 No.014のサムネイル画像 / ゲーム好きの少年が考えた世界観が「ロードス島戦記」へ。日本のファンタジーシーンに大きな影響を与えた水野 良氏にインタビュー
水野氏:
 富士見書房から出版を依頼されたモンスター・コレクションですが,ただの解説ではなくモンスターに血肉を与えてあげたかったんです。それで,最初にねっとりとした文章でゴブリンのエピソードを書いたところ,すんなり企画が通りました。
 売上も好評だったのでスペル・コレクションの出版が決まりましたが,スペルはモンスターと違い,どうしても解説文になってしまうので,頭と末尾に小説をつけて,スペルを使うシーンをイメージしてもらった上で解説するという形式にしました。
 さらに,次はアイテム・コレクションを書いてくれと頼まれて。題材がどんどん無機的になっていくので困りました(笑)。

4Gamer:
 魔法もそうですが,それ単体では動きがないですから(笑)。

水野氏:
 そこで,1人の剣闘士にフィーチャーしたスタイルを考案し,剣匠(ソードマスター)ルーファス(※21)の設定ができあがりました。剣闘士ならあらゆる武器に熟達していて,いろいろな状況で戦うってイメージがあるじゃないですか。
 鎧に関しては,洋の東西を問わず,材質で分類することをしました。例えば,日本の鎧なんかは小札を重ねているので,西洋でいうところのラメラー・アーマーだろう,と。おかげさまで,ゲーム業界の方からアイテム・コレクションは評価されることが多かったですね。

4Gamer:
 ファンタジー関連の本を書くにあたって,何かしらの資料を参照されていた思うのですが,やはり苦労が多かったのでは。

水野氏:
 いろいろな本を買いましたね。専門書がほとんどなくて,歴史の資料を調べて細かな記述を拾い集めたり。日本語版があっても,翻訳の際に貴重な記述が削られていることもあるので原本も参照しないといけなかったり。

4Gamer:
 当時の日本にはファンタジーの資料があまり存在していませんでしたから,いろいろと曖昧だったところがありますよね。例えばある本では,リングメイルを“巨大な魔法の指輪(リング)をたすき掛けにした鎧”と紹介されていて,僕は長らくそれを信じていました。本当は革鎧を金属の輪(リング)で補強しているものなのに。「鎧なのにリングってどういうこと?」という戸惑いから,魔法の指輪という設定が出てきたのではと思うのですが。

水野氏:
 それは極端な例だとは思いますが,さすがにアイテム・コレクションのほうで訂正させていただきました(笑)。ただ,当時の乏しい資料ではリングメイルの正体が分からなかったことも確かです。僕も最初は「チェーンメイルの目が荒いやつかな?」と思っていたんですが,いろいろな資料を漁ったところ,それらしい図版に行き着くことができました。

※20:「ロードス島戦記〜灰色の魔女〜」
 1988年にハミングバードソフトから発売されたPC-9801用ゲーム。副題のとおり,小説第1巻である“灰色の魔女”のストーリーをベースにしており,パーンやディードリットら,原作のメンバーも仲間にして冒険できる。

※21:剣匠(ソードマスター)ルーファス
 「ロードス島戦記」の登場人物。後のカシュー王。



時代に合わせて,自分らしさを出していくほかない。作家・水野 良の覚悟


4Gamer:
 今まで小説を書かれてきた中で,一番大変だった作品はどれでしょうか。

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水野氏:
 いつも大変で,同時にいつも楽しいですね。書いてる時はしんどいし,いいアイデアが出ないとイライラもしてくる。だけど,いい文章ができたときはやはり楽しいんです。いつも一喜一憂していますね。

4Gamer:
 昔と今の読者を見て,求めているものの違いを感じる事はありますか?

水野氏:
 ありますよ。時代が違うわけですから,求められるものが変わるのも当然です。そこは時代に合わせていくしかないでしょうね。
 ただ,それができないなら,そこは無理して合わせるのではなく自分の書きたいものを書くのがいいと思っています。できるだけ時代に合わせるようにはしますけど,それで僕らしさがなくなってしまったらお終いですし。そのあたりのバランスにはすごく気をつけるようにしてます。

4Gamer:
 では,ご自身で考える“水野 良らしさ”とはどういったものでしょうか。

水野氏:
 やはり,設定にこだわるところじゃないでしょうか。世界設定だけじゃなく,キャラクターが現在の姿になった原因などは自然と考えてしまいますね。
 昔なら設定を垂れ流す“設定語り”をやっても良かったのですが,今それをやると面倒くさいと思われてしまいます。僕ですら,指輪物語を初見したとき「トールキン先生,タバコ草の話は要らないんじゃないでしょうか?」と思ったくらいですから(笑)。ですので,僕は物語の中に設定を小出しにして織り込む工夫を意識的にやっています。やらざるを得ないし,やるべきだと思いますね。

4Gamer:
 設定という意味だと,最近はゲームの世界観などをベースにしたファンタジーが多くなっている印象があります。

水野氏:
 僕は研究者ではないのであくまで感覚的に話をしますと,ゲーム系のファンタジーが多く生み出されている「なろう系」()は素晴らしいシステムなんじゃないかと思います。

※小説投稿サイト「小説家になろう」から書籍化や映像化,コミック化された小説の総称。いわゆるライトノベル的な特徴を持つものが多く,そうした小説に対しても使われる

4Gamer:
 それはどういったところが?

水野氏:
 「ドラゴンクエスト」をはじめとする,皆が持っているファンタジーゲームの世界のイメージをベースに,それぞれの作品で独創性を加えていく,というやり方なわけですが,これだと読者の持っている知識がそのまま使えるので,設定の説明が少なく物語に集中しやすい。設定関連をアウトソーシングしているわけですよね。

4Gamer:
 なるほど。世界観は知っているわけですから,初めから読む側としても読みやすいということですか。

水野氏:
 そして,あの形式では読者の評価をすごく意識することになります。書き手としてうまくなるかどうかは分かりませんが,みんなに育ててもらえる仕組みではあるので,ラノベというフィールドにおいては非常に正しい姿だと思います。

4Gamer:
 読者が提示するアクセス数という物差しで,ニーズに応えられるように育てられていくと。

水野氏:
 そう考えると,編集部も要らないんじゃないかと思います。アクセスの多いものから本にしていけばいいなら,編集者が選ぶ必要もないわけで。プロモートやプロデュースをするための編集部や編集者は必要でしょうけど。

4Gamer:
 ある種の変革ではあります。

水野氏:
 編集者から「こういうものが売れるんじゃないでしょうか」と作家に発注するスタイル自体が,もう古いのかもしれません。
 そうした意味では,自分の作る世界を見せたいという,僕のようなスタイルは古いですね。汎用的な世界には興味がないから「グランクレスト戦記」のような,自分にしか作れないような世界で物語を作るのが好きですし。
 でも,設定を語ると同時に,インパクトのあるシーンを演出する苦労を考えると,汎用な世界観で「モンスターを狩ってたらレベル300になりました!」というほうが楽だと思うんですよね(笑)。

画像集 No.022のサムネイル画像 / ゲーム好きの少年が考えた世界観が「ロードス島戦記」へ。日本のファンタジーシーンに大きな影響を与えた水野 良氏にインタビュー

4Gamer:
 そうなると,どうしても話題性や売れ筋といったテーマを選択したくなりそうです。

水野氏:
 書き手のプロ意識が高くなりすぎて,自分の書きたいものではない,例えば“売れるもの”を書いてしまうことにはなるかもしれませんね。個人的には多様性が好きなので,その人にしか書けないものをもっと読みたいと言う気もしますが。おそらく,そういう作品もあるのだろうけど,話題になってこないのが問題なのかもしれません。

4Gamer:
 そこを水野さんに,ぜひ打破してもらえれば。ということで,2019年4月1日には,いよいよ新しい「ロードス島戦記」が発刊されますね。やはり,プレッシャーはありますか。

水野氏:
 ありますね。濃いファンが多いシリーズですから,何を書いても「これはロードスじゃない」と言われてしまう気がして,とにかく緊張しています。だからといって,そこを意識しすぎると何も書けなくなってしまいますから,僕の考える“ロードス島戦記らしさ”を出していきます。

4Gamer:
 では,新作のテーマと,ご自身が考える“ロードス島戦記らしさ”について改めて教えてください。

水野氏:
 うーん,“ロードス島戦記らしさ”と言えば,エルフが華奢でダークエルフが豊満ってことですかね(笑)。
 冗談はさておき,ディードリットとパーンの物語がロードス島戦記であり,新作はパーンの伝説をめぐる物語になると思います。もちろん,パーン自身が出てくるわけではありません。パーンという人間が一種の概念としてあって,それをめぐる戦いになる……と言えばいいのかな。

4Gamer:
 パーンの残した伝説がロードス島に大きな影響を与えていくと。

水野氏:
 パーンという人間――カーラもそうでしたが,このふたりがロードス島戦記らしさなんじゃないかなと思っているんです。
 “灰色の魔女”カーラがやったことは価値観の相対化であり,正義と悪のハッキリした世界ではなく,バランスの取れた世界が重要なんだよということです。ロードス島戦記が日本人に受け入れられた1つの理由は,西洋的な善悪ではなく,日本的に曖昧なところを示したからではないかと思いますね。
 一方,バランスを尊ぶ“灰色の魔女”に異論を唱えたのがパーンです。最初は絶対的な正義を持っていたけれど,戦いの中で変わっていった部分もあるんじゃないでしょうか。そして王になることを選ばなかった。僕自身,絶対的な“正義”なんてものはなく,ただ規範のようなものがあるんじゃないかと考えています。それは法とも宗教とも違う,人間の生き様なんじゃないでしょうか。

4Gamer:
 なるほど。先ほどの倒れた仲間の装備を笑いながら剥ぎ取る話にも通じるところがあるように感じられました。
 法(ゲームのルール)ではなく,人間としての生き様を考え,規範に基づいて行動(ロールプレイ)しようと。もしかすると,“灰色の魔女”という理念は,水野さんご自身の深いところに根ざしたものかもしれないですね。では,最後に新作を楽しみにしている読者にメッセージをお願いします。

水野氏:
 ロードス島戦記を支えていただいてありがとうございます。新作を出せるのはみなさんのおかげです。
 シリーズ30周年ということで,角川さんが頑張ってくださっていて,僕もそれに応えたいと思い,新作を引き受けました。ですが,僕自身にやりたいことができたからというのも間違いありません。それを言葉にしていく過程を,みなさんとリアルタイムで共有できればと思いますので,ぜひとも応援をよろしくお願いします。

4Gamer:
 本日は,ありがとうございました。

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