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VRのこれまでとこれから。施設向けの展開を中心に語られた「黒川塾 六十六(66)」聴講レポート
黒川塾は,黒川氏がゲストとともに,ゲームを含むエンターテイメントのあるべき姿をポジティブに考えるというトークイベントだ。今回のテーマは,「『バーチャルリアリティの展望 2018年-2019年』バーチャルリアリティの未来へ6」。黒川氏を司会に,エクシヴィのGOROmanこと近藤義仁氏,CAセガジョイポリスの小川明俊氏,バンダイナムコアミューズメントの小山順一朗氏と田宮幸春氏というゲスト4名が,2018年の振り返りや2019年の取り組みについて語った。
エクシヴィ代表取締役社長で,Oculus Japanチームの立ち上げにも従事したVRエヴァンジェリストの近藤義仁氏。現在も「GOROman」としてVRの普及に努めながら,自身もVRの企画やコンテンツ制作に関わっている |
CAセガジョイポリス エグゼクティブ・プロデューサー兼チーフ・クリエイティブ・アドバイザーの小川明俊氏。セガ入社から国内外の施設事業に従事し,現在は同グループでVRLBE(VRロケーション・ベースド・エンタテインメント)を推進している |
2つの大型VR施設での取り組みを中心に語られた
“VRのこれまでとこれから”
JOYPOLIS VR SHIBUYAは,2018年10月に渋谷のスクランブル交差点前にあるファッションビル「MAGNET by SHIBUYA109」にオープンしたVR特化型施設だ(関連記事)。アメリカやドイツ,韓国など,自身が実際に足を運んで交渉しVRコンテンツを導入してきたという小川氏は,3ルームのうち1ルームが未だに稼働できていない「TERMINATOR SALVATION VR」など,VR施設の環境整備に苦労していると話した。
“VR CITY SHIBUYA”というイメージを作り上げ,インバウンド(外国人旅行者)を意識したリニューアルを進める同ビルの一翼を担う施設にもしていきたいという小川氏が,大きな期待を寄せているコンテンツが「TOWER TAG」だ(関連記事)。国内およびアジア圏の数か国における独占販売権の最終調整を進めており,多くのプレイヤーを集めてグループ化し,いわゆるeスポーツ競技のような形でも発展させたいという。
ゲームセンターと同じく,得点やランキング,勝敗といった競い合う要素があるコンテンツは風営法の対象となる。体験型アトラクション施設として運営していくうえで,コンテンツの内容や敷地面積,設備などの調整には細心の注意が必要となり,JOYPOLIS VR SHIBUYAのオープンの際も管轄警察署と事前に相談を重ねたそうだ。
VRアニメーション制作ツール「AniCast」の開発や「東雲めぐ」のプロジェクトなど,「会社(エクシヴィ)としてはVTuberづくしな1年だった」という近藤氏。2018年は「ソーシャルVR」の盛り上がりについて関心を持っていたようで,数年前に比べてツールを個人で導入しやすくなった状況を踏まえながら,「これまでやっていなかった層がVR Chatに興味を持ちだした。自分が始めた2014年ごろには思ってもみなかったムーブメントが起きている」と話した。
続いて資料を交えながら届けられたのが,VR開発者向けのカンファレンス「Oculus Connect 5」のレポートだ。海外のVRテーマパーク「THE VOID」のブースでの体験を踏まえつつ,近藤氏は「これまで施設向けのものには前向きではなかったOculusが,ここにきてそれに注力し始めていると感じた」と感想を述べた。
とくに利用者の安全面については多くの学びがあったようで,同社の品質保証部と話し合って生み出されたノウハウは,事業として成立するほどの蓄積となったという。
業界内でもかなり進んでいると自負する田宮氏は,「『絶対ここから出ません。絶対に転びません』という保証はどうやってもできない。そういった中で折り合いをつけながら築く“安全の領域”が見えてきたので,今後は作りやすくなっている」と話した。
「楽しいものを作る」だけではなく,「安全に楽しんでもらう」という知見も得られたことで“できることの自由度”が見えてきたことが,VR ZONE SHINJUKUでの大きな収穫だったようだ。
VRデバイスの課題も言及された。全員が共通して挙げたのが,セッティングの手間だ。伸び悩んでいる家庭用VRについて聞かれた近藤氏は,「普段はケーブル1本や単体で使用でき,ハイエンドコンテンツを体験したいときはPCにつないで使える」デバイスや,「モデリングや作曲といった作業がVRでできる」ツールの発展が,家庭用VRの普及につながるのではと話した。
小山氏も「近未来制圧戦アリーナ 攻殻機動隊 ARISE Stealth Hounds」を例に「(体験時間の)30分のうち,機器の装着や取り外し,説明などで15分くらいかかってしまう。この手間をどうにかできれば,体験を倍にもできる」と,VR施設における機器の装着の問題点について話した。
田宮氏は「例えばメガネやネックレスの形であれば,説明がなくてもすぐに使い方を理解してもらえる。VRヘッドマウントディスプレイはまだその認知がない。初期に比べて装着しやすくなったが,まずは皆が知っている『道具』にまでならないと」と,あらためてVRの認知を広めることの重要さを述べた。
最後に語られたのは,2019年の取り組みについて。近藤氏は注力していく事業として,エクシヴィも関わっているという人型3Dアバター(3Dモデル)のファイルフォーマット「VRM」の共通化を挙げた。いずれはVR施設のコンテンツにも,自身のアバターデータを利用できるようにしたいそうだ。
小山氏が今後の取り組みとして披露したのが「8bitフリーローム」だ。一体型VRヘッドマウントディスプレイ「Oculus Quest」を体験し,その可能性の高さを感じつつも,VR施設向けのHMDとしてはグラフィックスに難があると思った小山氏は,それを逆手に取った「8bitゲームの世界を体験できるVRコンテンツ」を考えたという。
田宮氏は,VR ZONE SHINJUKUの営業終了後の詳細はまだ話せないとしたものの,「すでに“面白いもの”作りに取り掛かっているので,期待してほしい」と話した。アトラクションとしての楽しさはもちろん,運営コスト面を考慮した,ビジネスとして成立しやすい方法を考えながら取り組んでいるという。
「(セガは)この2年間,ソフトやハードという面だけではなく,サービスとしてのパッケージを意識したスキーム構築を行ってきた」という小川氏は,2019年はこれまで築いたものを実行する年になると語った。施設のVRアトラクションとしては,先に触れた「TOWER TAG」以外に「ZERO LATENCY VR」(関連記事)の展開にも注力し,さらに春からは,カラオケなど既存のエンターテイメントと結びついたVR事業も計画しているという。
最後に小川氏は「体験しないと分かりにくいVRの魅力をどう伝えるか。利用者の参加意欲やリピーター意欲をどう維持させるか。やらなければならないことはたくさんある」と話し,トークイベントを締めくくった。
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