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東京ヴェルディeスポーツチームと名古屋OJAに関わる片桐氏が語る「チーム運営とビジネスについて」講演レポート。キーワードは「選手を家族のヒーローに」
東京ヴェルディ eスポーツチーム:育成に優れた伝統を活かし,若年層へアプローチ
プロサッカーチームである東京ヴェルディ1969(以下,東京ヴェルディ)が2016年にeスポーツ部門を立ち上げた(関連記事)ことを覚えている読者も多いだろう。
チームが2019年に50周年を迎えることをきっかけに,総合スポーツクラブとしてeスポーツを含む14種目16チームを創設している。グローバル化と価値観の多様化にあわせ,全年齢層へいかにアプローチするかがテーマになったという。
東京ヴェルディは1969年に作られた読売サッカークラブを前身とし,1992年の初開催となるJリーグカップで優勝し,その後1993年にスタートしたJリーグの初代年間王者になるなど,長い歴史を持っている。しかし,2005年にはJ2リーグに降格,2009年には親会社であった日本テレビが経営から撤退するなど苦難もあった。
成績が下がるにつれて若年層への露出度も落ち,現代の10〜20代が東京ヴェルディというチームに触れていない可能性もあった……と片桐氏は語る。
こうした中で,eスポーツ部門を立ち上げたことは大きな話題を呼んだ。もともと東京ヴェルディは自前の育成機関を持ち,日本代表に多くの選手を輩出するなど「育成クラブ」として定評があった。eスポーツ部門もこうした伝統を受け継ぐものになっており,ビジネスにおける戦略策定を手がけるPwCコンサルティングと協業,データ解析を活用したチーム強化が行われている。
また,片桐氏は,選手のコンディションを向上させるため,睡眠や栄養などにも研究範囲を広げていく構想を持っているという。こうした研究から得られた成果をビジネスの生産性向上へと還元することは,F1の技術が大衆車に活かされるようなものであり,eスポーツができる社会貢献だと考えている,と片桐氏は語った。
名古屋OJA:選手を家族のヒーローに。eスポーツの地位向上への取り組み
片桐氏が代表取締役社長を務める名古屋OJAは,愛知県名古屋市をホームタウンとするプロeスポーツチーム。醤油メーカーであるヤマモリと,「ベビースターラーメン」が有名なおやつカンパニーをオフィシャルパートナーに,「Shadowverse」「FIFA」「BLAZBLUE」といったゲームで活動している。
名古屋OJAを立ち上げるうえで,片桐氏には“eスポーツのビジネスを活性化させ,選手が生活できるようなエコシステムを作りたい”という願いがあった。そのために,“選手を家族のヒーローにする”をキーワードに,地位の向上に励んだという。
具体的には有名な写真家に選手を撮影してもらい,名古屋では知らない人がないほどの企業であるヤマモリをオフィシャルパートナーとし,愛知県知事の大村秀章氏を表敬訪問するといった取り組みを行った。
これは,片桐氏が恩師から学んだ「見られることが最大の教育である」という言葉を実践したものでもあり,選手たちのモチベーションも非常に高いものになったとのこと。
片桐氏は「今後は中国圏へeスポーツやメディアビジネス,日本系ゲームの販促などを取り組んでいきたいです。eスポーツはスポーツにおけるインターネット革命であり,5G回線の普及に伴って視聴体験も深まり,破壊的なイノベーションになるという可能性があります。今後の広がりもぜひ期待していただきたいです」と語り,講演を締めくくった。
リアルスポーツのチームが参入するなど,話題の多いeスポーツ界隈。参入すること自体が若年層へのアピールとなるが,一般層へ定着させていくためには選手の地位向上が不可欠というわけで,チーム運営者の立場からeスポーツの現状を総括した興味深い講演だった。
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