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eスポーツリーグの存在意義や課題,そしてビジネスとしての可能性が語られたパネルディスカッション「日本におけるe-Sportsリーグの未来」をレポート
本稿では,会場にて行われた特別講演「日本におけるe-Sportsリーグの未来」の模様をお伝えしよう。
本講演はパネルディスカッション形式で行われ,パネリストとしてライアットゲームズ パブリッシング統括部/統括ディレクター 藤本恭史氏,Jリーグマーケティング 代表取締役社長 窪田慎二氏,カプコン 常務執行役員 eSports統括本部長 荒木重則氏の3名が登壇した。
改めて説明しておくと,ライアットゲームズは「リーグ・オブ・レジェンド」(以下,LoL),Jリーグは「FIFA 19」(PC / PS4 / Xbox One / Nintendo Switch)および「ウイニングイレブン 2019」,カプコンは「ストリートファイターV アーケードエディション」(PC / PS4)(以下,SFV)と,それぞれeスポーツの公式リーグを展開している。
ディスカッションの最初のテーマは「なぜeスポーツ大会に取り組むのか」。藤本氏は「LoLというゲームの中で“最高の技術”と“最高の競技性”を具現化しているのがeスポーツの大会」と表現し,大規模な大会を定期的に開くことはプレイヤーに還元するという意味合いが強いと説明した。とくにLoLは2週間ごとにさまざまな調整が加わるため,一度頂点に立ったチームがずっと勝ち続けることは難しく,その最高峰のチームプレイを多くのプレイヤーに届けたいという思いがあるとのこと。
またLoLは2009年にリリースされたが,当時20歳だったプレイヤーは2019年現在,社会人となり,家庭を持っていてもおかしくない。そうなるとゲームに対する関わり方が変わり,以前ほど頻繁にプレイすることはできなくなる人もいる。
しかし大会を開催していれば,どんな人でも観戦という形で長い期間ゲームを楽しめる。そうした意味でも,大会の開催は重要だと藤本氏は語った。
カプコンは現在,3人1組のチーム戦「ストリートファイターリーグ powered by RAGE」を展開しているが,その理由は,従来の個人戦では見られなかったチームならではの「人間ドラマ」が生じることにより,SFVひいては「ストリートファイター」シリーズの存在を多くの人にアピールできると考えたからだと荒木氏は説明した。
さらに各チームは,プロプレイヤー1人とアマチュアプレイヤー2人の組み合わせとなっているが,そこにはプロのノウハウをアマチュアに伝授するラーニングコンテンツとしての意味合いがあるという。
そしてもちろんビジネス面では,興行収入という意味がある。
窪田氏は,国際サッカー連盟(FIFA)が,2004年より「FIFA」シリーズを用いたサッカーゲームの国際大会を行ってきたこと,また2018年からは「FIFA eワールドカップ」に名称を変更し,リアルのワールドカップと横並びの存在になったことを紹介。
さらにJリーグにeワールドカップ参加への打診があったとき,「ワールドカップなら,参加しないわけにはいかない」「参加するからには勝たなければならない」と考え,即座にeJリーグ発足の意思決定をしたというエピソードを明かした。
また,「FIFA」シリーズが,老若男女や障がいの有無,国や地域の違いを問わず誰でもサッカーを楽しめるコンテンツであることも,eJリーグ発足の重要なポイントだったという。
2019年からは,スマートフォンゲームの「ウイニングイレブン 2019」でもeJリーグを展開するが,こちらも多くの人にサッカーを楽しんでもらうという意味合いがあるとのことだ。
そうした大会の開催に対する手応えを問われた窪田氏は,2018年中の試合配信の総視聴数が90万におよんだことを報告し,「大会を始めたことで,いいことも悪いことも含め,それまで以上にさまざまな情報が入ってくるようになった」と回答。
そうした中で,ドーピングコントロールを筆頭に,eスポーツの選手にもリアルのサッカー選手と同じような強化・育成の環境を作っていかなければならないと実感したと話していた。
荒木氏は,チーム戦の「ストリートファイターリーグ」を開催・配信したことにより,それまで勝負の場での真剣な表情しか見せていなかったプロプレイヤー達の意外な素顔を多くの人に届けられるようになったとコメント。また個人競技だった格闘ゲームに,チーム競技の枠組みを加えられたことも大きなポイントだったそうで,ゆくゆくはこの取り組みをパッケージ化し,海外展開することも視野に入れていると語った。
藤本氏は,大会配信の視聴数や,実際に会場へと足を運ぶ観戦者の数が増えていることを理由に,LoLの認知度は日本においても着実に高まっているとした。
その一方で,LoLの視聴者層はプレイヤー,元プレイヤー,観戦専門と分類できる。藤本氏は「数値的なデータではなく,肌感覚だが」と前置きしつつ,会場へと足を運ぶ観戦者の状況から,日本でも観戦専門層が増えているという実感があるとし,それはリアルスポーツが普及・浸透していく過程をなぞっているからではないかと期待を語った。
また藤本氏は,LoLの世界大会「2018 League of Legends Worlds Championship」に,日本代表としてDetonatioN FocusMeが出場し,視聴数を大きく伸ばしたことを例に挙げ,「そのチームのファンであるかどうかにかかわらず,日本の代表に声援を送る人は多い。そうした機運を,いかにして作っていくかが大きなポイントになるのでは」と話していた。
ディスカッションのテーマは,「eスポーツが抱える課題」にもおよんだ。荒木氏は,「ストリートファイター」シリーズプレイヤーの高年齢化に言及し,親子や家族連れで参加できるようなイベントなどの企画・開催をしていることを紹介した。
また窪田氏は,「ビジネスモデルの拡大」を課題に挙げた。現在は,放映権や興行収入,パートナーシップといったJリーグと同じビジネスモデルを想定しつつ,eスポーツならではの価値を見出している段階だという。
加えて,チームワークやルールの遵守といった面で,eスポーツがリアルスポーツと何ら変わりないことをアピールしていくことも必要だと語っていた。
ディスカッションの最後の話題は,「今後のeスポーツに対する取り組みと展望」。窪田氏は,「FIFA 19」および「ウイニングイレブン 2019」の公式リーグを展開していくことを改めて紹介しつつ,「ゆくゆくは,リアルサッカーの聖地だった国立競技場を満員にするくらいの人気コンテンツにしていきたい」と意気込みを見せた。
藤本氏は,LoLにはまだまだ成長の余地があるとし,「とくに国内での認知と,世界で戦える土壌を作っていきたい」と展望を語った。具体的には,2019年の国内プロリーグ「League of Legends Japan League 2019」の試合形式をBO3(2試合先取)から世界大会基準のBO1(1試合先取)へと変更したり,ファンと直接触れ合う機会を増やしプロプレイヤーの意識を高めたりといった施策を行っている。
そして荒木氏は,eスポーツを成功させる手段を「集客して盛り上げ,拡散していく」ことだとし,それを仕組み・パッケージ化して地方創生や地域活性化,雇用創出につなげていきたいと語った。また,それらを実現するには“人”にフォーカスし,人材を発掘・育成していくことも重要だと話していた。
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