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フィンランドの人材育成システムを超えるためにポーランドは何をすべきか。街をあげての取り組み「ヘルシンキ・モデル」とは?
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印刷2019/10/23 16:26

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フィンランドの人材育成システムを超えるためにポーランドは何をすべきか。街をあげての取り組み「ヘルシンキ・モデル」とは?

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EDGFのチーフ・オペレーティング・オフィサーであり,自ら政策事務所Neo Gamesを率いるヤリ=ペッカ・カレヴァ氏
 欧州17か国のゲーム業界団体をまとめる組織・EGDF(European Game Developer Federation)のCOOを務めるヤリ=ペッカ・カレヴァ(Jari-Pekka Kaleva)氏がポーランド・ポズナンで開催されたGIC 2019(Game Industry Conference Poznań 2019。関連記事)の壇上に立ち,ゲーム開発人材育成システム「ヘルシンキ・モデル」の紹介を行った。その名のとおり,現在本部のあるフィンランドの首都ヘルシンキで行われている取り組みである。

 EGDFは,欧州各国のゲーム業界団体をまとめる目的で2011年に設立された組織だ。日本であればCESA(コンピュータエンターテインメント協会),アメリカであればESA(Entertainment Software Association)のような業界団体が機能しているように,欧州地域のそれぞれの国も同じような団体があるが,EU圏内においてはさらにEUそのものとのやり取りを行う窓口が必要になってくる。

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 その状況でEGDFは,オーストリア,ベルギー,チェコ,デンマーク,フィンランド,フランス,ドイツ,マルタ,オランダ,ノルウェー,ポーランド,ルーマニア,スペイン,スロバキア,スウェーデン,イギリスと,さらにトルコまでにおよぶゲーム会社4000社と,5万5000人もの業界雇用者の声を汲み上げる機関として存在しているという。
 そんなEGDFは現在,産業が少なく失業率の高いバルト海周辺の8か国で,ゲーム産業向けの優れた人材を育成するためのBGI(Baltic Game Industry)というプロジェクトを展開している。これがカレヴァ氏の語るヘルシンキ・モデルだ。

 SupercellやRovio,Remedy Entertainment,Frozenbyteなどの名の知られたメーカーを抱えるフィンランドだが,人口がたったの550万人であることから人材の確保が追いついていないという。すでに同国のゲーム業界では,雇用者の30%を外国籍保持者に頼っているとカレヴァ氏は話す。

 カレヴァ氏らはこれまで,外国籍の人が就職しやすい環境作りのための移民法改正などを政府に求めてきたが,現実的には,申請から許可の可否が分かるまでに4か月もかかってしまったりするという。このような状況で安定した人材確保を行うためには,国内はもちろんバルト海周辺の地域で人材を育てるという長期的な視点が必要だと力説していた。
 おそらくポーランドはこのBGIプロジェクトには参加していない様子で,今回の講義でカレヴァ氏は「2018年度には,ポズナンの街に0歳から9歳までの子供は5万5458人いました。一番下の子が20歳になるとき,つまり2038年,このうち何人がゲーム業界で働いているでしょうか?」と問いかけると共に,「まだまだ十分ではないフィンランドの政策を超えるために,ポーランドは何をすべきか?」と訴えかけていた。

 カレヴァ氏が自身で運営しているサイトで公開している図表(関連リンク※PDFファイル)をじっくりと見れば分かると思うが,ヘルシンキ・モデルでは,早くも0歳からゲーム教育が始まる。ゲームを,「音楽を聞いて一緒に踊る」や「ビデオを見て生態系を学ぶ」といったメディア教育の一つとして捉えており,教育ソフトを中心としたラインナップが図書館ネットワーク「Helsinki Metropolitan Area Libraries」(通称:HelMet)でレンタルできるような仕組みが出来上がっている。さらに,ゲーム事情に詳しくない親世代のために,専属のキューレーターが何を買い求め(与え)るべきかを解説してくれる。コンシューマゲーム機やVRヘッドマウントディスプレイの貸し出しを行うことによって,低所得者層との間に生まれる“デジタル・ギャップ”の改善にも取り組んでいるという。
 この年齢層で大切なのは,「世界を数学的な観点で見る目を養う」ことにあるが,このあたりはまだ保育園などの現場が追いついておらず,さらに教育ソフトも限定されているため,まだまだ改善の余地はあるとのことだった。

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HELMETという愛称で現地の人に親しまれているHelsinki Metropolitan Area Librariesは,青少年向けゲーム教育の中心となっている

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HELMETの公式サイト(リンク)を検索してみると,図書館内にはVR専用ルームも設置されているようだ。ページにリンクされているYouTube映像を見ると,教育プログラムではなく普通のシューティングゲームを遊んでいるようだが……

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人材育成プログラム「ヘルシンキ・モデル」の詳細は細かすぎるので,気になる人はPDFファイル(リンク)をチェックしておこう

 7歳以上の義務教育では,フィンランドではコーディングが科目の1つとして認可されている。まずは“ビジュアルプログラミング”から始め,中学校以上で実際のコーディングを始めるための下準備を行う。ゲーム開発に興味を示す子にはプログラミングを主体とするサマーキャンプを行うほか,HELMETではゲーム開発のための小学生グループを組織するようなことも実験中であるという。

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 ヘルシンキ・モデルの図表の上部を見ると分かるように,こうしたゲーム教育は高等教育へと続いていくが,すでにかなりの合理化が進められているようだ。大学レベルでは,即戦力になれるだけの実力を養うプログラム作りの整備が進んでいるが,今後は「卒業前に起業する」ことを念頭においた改革も行われるとのこと。プログラミングやアートといった特定分野への訓練だけに捉われない,総合的なプロフェッショナルの育成を目指すわけである。「卒業後2年間,大学の宿泊施設を借りられる」といった施策も検討されているとカレヴァ氏は説明する。
 もちろん,すべての人材が大学機関から育つわけではなく,在野で育っていく才能もある。今後の課題は,政府や業界のサポートをより強固なものにして,リスクが高いため銀行やインベスターから敬遠されがちな起業者向けのファンドを設立したり,インキュベーターやアクセラレーター・プログラムを作ったりすることも重要になるという。さらに,進化を続けていくゲーム開発のノウハウを維持するために,休職して能力を高めたり,学校へ戻りやすくしたりするような環境作りまでも視野に入れて,政府との協議を続けていくとのことだった。

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 日本においても,学習指導要領の改訂により,2020年度から小学校でのプログラミングの教育が必修化となる。ヘルシンキ・モデルはポーランドが学ぶべきものであるのかどうかはともかく,まだまだ人材育成の環境が整備され始めたばかりの日本も,学べることはあるかもしれない。

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 ゲーム開発の新ホットスポットとして注目を集めているポーランド。その古都であるポズナンにおいて,ゲーム開発者会議「Game Industry Conference Poznań 2019」と,ゲーム博覧会「Poznań Game Arena」が10月17日から20日にかけて開催されていた。両イベントのオーバービューをお届けしていく。

[2019/10/23 14:26]

「Game Industry Conference Poznań 2019」公式サイト

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