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IPを使ったビジネスにおける戦略とは。バンダイナムコの小山順一朗氏とスクウェア・エニックスの橋本真司氏が語ったセッションをレポート
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印刷2020/01/23 18:05

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IPを使ったビジネスにおける戦略とは。バンダイナムコの小山順一朗氏とスクウェア・エニックスの橋本真司氏が語ったセッションをレポート

 モバイルアプリやWeb向けのプラットフォーム開発・提供を行うReproは2020年1月22日,企業のコミュニケーション戦略に関するカンファレンス「Customer Engagement Conference TOKYO」を,東京・渋谷ヒカリエホールで開催した。

 本稿では,バンダイナムコアミューズメント ニュークリエイティブディビジョン クリエイティブフェロー 小山順一朗氏と,スクウェア・エニックス 専務取締役 橋本真司氏が登壇したセッション「IPがもたらすエンゲージメント・パワーとファン育成のメソッド」をレポートする。

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「Customer Engagement Conference TOKYO」公式サイト


セッションのモデレーターを務めたメディアコンテンツ研究家の黒川文雄氏
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 セッションの最初のテーマは,「ファンに愛されるタイトルにするために,どのようなことを意識しているか?」。橋本氏の回答は,「地域ごとのマーケティングを行い,国内だけでなく世界でも愛されるタイトルを生み出す」というものだ。
 例えば「FINAL FANTASY」シリーズの場合,「VI」までは国内中心のセールスで,社内では「どうすればグローバルに展開できるか」という議論がなされたとのこと。そこで橋本氏が大手代理店とともに北米市場をリサーチしたところ,フォトリアルな表現が受け入れられると判明したため,「FINAL FANTASY VII」に3DモデルやCGムービーを採用したという。同時にプラットフォームも,3D表現に強いPlayStationへと移行。その結果,「FINAL FANTASY」シリーズは「VII」以降,世界から注目される存在となったのである。

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小山順一朗氏
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橋本真司氏

 一方,バンダイナムコグループでは,版元から預かったIPをファンに向けていろんな形で商品化するために専用の事業会社を用意し,さまざまな領域の事業を展開している。こうした体制のおかげで,もしその作品(IP)がすでに完結していたとしても,商品展開によってはファンを永続的に楽しませることができ,場合によっては世代を超えてファンが増えていくこともあり得る。さらには好きが高じて二次創作を始めるファンも少なくない。

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 小山氏は「単なる消費財たる商品とは異なり,作品(IP)にはすでにファンがいる」「IPを扱うゲーム・アニメ産業は,形のない感情を商品化して販売している。例えばキャラクターをフィギュアやフードサービス,音楽など,さまざまな形に商品化できるのは,まさにIPがもたらすエンゲージメント・パワー」とし,バンダイナムコグループがやっているのは「感情を販売し,ファンの心に存在させるビジネス」であると説明。さらに商品を作品にするためには,「何ができるのか」だけでなく「誰が作ったのか」も重要になっていると語った。
 また橋本氏も「とくに日本のファンは,自分のハマったIPの商品なら何でも欲しがる傾向が強い。それを踏まえてコンサートやグッズ,書籍などの形にして展開していく」と話していた。

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 2つめのテーマは,「ファンに愛されるタイトルとそうでないタイトルの違いはどこにあるか。エンゲージメントする要素とは?」だ。
 橋本氏はゲーム開発に投資した分のリターンを求める企業的な側面と,可能な限り作り込みたいというディレクターの思いがあるとし,「クリエイターのフィロソフィー,つまりこだわりの密度がゲームに反映され,それが触れた人の心に響いたとき,そのタイトルは10年20年と一人歩きしていく」と回答した。また,ディレクターがいくらこだわっても,それがセールスにつながらなければ意味がないので,プロデューサーは開発予算や機材の確保,世界に流通させる仕組みについて考えなければならないと語っていた。

 小山氏はアーケードゲーム「機動戦士ガンダム VS」シリーズの変遷を紹介し,「ファンと作り手の思いがすれ違う10年間を経て現在(「機動戦士ガンダム EXVS」シリーズ)の活況がある」と説明。
 そもそもの始まりは2001年の「機動戦士ガンダム 連邦vs.ジオン」で,このタイトルはそれまでゲームセンターに来なかったようなサラリーマン層を獲得し,大ヒットを記録。使用機体やステージを追加した「機動戦士ガンダム 連邦vs.ジオンDX」も登場した。

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 続いて2003年の「機動戦士Zガンダム エゥーゴvs.ティターンズ」シリーズには,プレイヤー2人の連携を強化するシステムを導入。しかし前作から移行したプレイヤーは全体の3分の2前後で,3分の1は引き続き前作をプレイしていたとのこと。

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 2005年には「機動戦士ガンダムSEED 連合vs.Z.A.F.T.」が登場。それまでよりもスピード感が強調され,サラリーマン層がついていけなかったため,図らずも中高生向けのゲームになった。サラリーマン層は前作または前々作に残ることとなり,全体のプレイヤー層は3つに分断された。
 そして続く2006年の「機動戦士ガンダムSEED DESTINY 連合vs.Z.A.F.T.II」では,さらに競技ゲームとしての側面を強めていく。

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 この傾向はマズいと考え,2008年の「機動戦士ガンダム ガンダムVS.ガンダム」はサラリーマン層にアピールするべく,登場する機体を歴代ガンダムのみとし,ゲームのスピードも落とした。しかしそれが裏目に出て,中高生がまったく寄りつかず,売上を大幅に落とすこととなる。
 少しスピードを上げた「機動戦士ガンダム ガンダムVS.ガンダムNEXT」も登場したが,結果は奮わなかった。小山氏はこの事例を「作を重ねるごとにプレイヤー層が分断されていった。『機動戦士ガンダム 連邦vs.ジオン』が作り上げたエンゲージメントが粉々になっていく8年間だった」と表現した。

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 どうしてこんな事態になってしまったのかというと,そこにはシリーズ各タイトルに込められたディレクターの思いがあると小山氏。すなわちゲームを含めた娯楽には,飽きとの戦いがあるのだが,それはプレイヤーだけでなくディレクターも同じだ。今のシステムに飽きたディレクターは,新作を開発するに当たり新システムを導入したくなる。その後押しをするのが,「新システムが欲しい」というプレイヤーの意見である。

 ところが,実は意見を表明するプレイヤーは少数派であり,大多数は新システムに不満があっても声を出すことなく離脱していく。そこで2010年に登場した「機動戦士ガンダム エクストリームバーサス」の開発初期には,声なき声を拾うためにグループインタビューを行ったという。その結果,大多数のプレイヤーが求めているのは「シリーズ全タイトルの戦法と機体が使えたうえで,対戦バランスを成立させるゲーム」だということが判明した。

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 とてつもなく難しい課題ではあったが,さらに精査したところ中心的なプレイヤー層は「2人で協力して楽しみたい」といった軽いモチベーションでゲームをプレイしている人達で,「どんどん上達してトップを目指す」というプレイヤーはほとんどいないことも分かったという。
 それを受けて「機動戦士ガンダム EXVS」シリーズは「2人で協力して楽しむこと」を中心的価値として守り続けており,2018年の「機動戦士ガンダム エクストリームバーサス2」はバンダイナムコアミューズメントの屋台骨を支える存在にまでなったという。
 小山氏は「作品(IP)の中心的価値が何であるかを見誤ると,クソゲーという声が上がりやすくなる。作品を自分の子どもだと勘違いしてしまうと,ファンとの乖離が始まる」と話していた。

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 最後のテーマは「ファンに長く愛されるために,まずは何からスタートすべきか?」。橋本氏は,それは「確固たるフィロソフィーを持ったオリジナルIPの創出」であるとし,そのためには才能の見極めも必要であると語った。すなわち,「FINAL FANTASY VII」で言えば,野村哲也氏の描くキャラクターが世界中に受け入れられるということを,それこそ企画段階で見極めなければならないというわけである。
 なぜそうした目利きができるのかを問われた橋本氏は,学生時代に「アニメージュ」編集部に在籍し,たくさんのIPに触れたこと挙げつつ,「一番の秘訣は,どれだけ自分がミーハーでいられるか。常に新しいものや違う業界の人と触れ合い,それらを融合することで新しい何かを作れないかを考えている」と説明した。

 一方,小山氏は「鉄拳」シリーズが紆余曲折ありつつも長く愛されていることについて,「大きな冒険をせず,基本を守って早いタイミングでナンバリングを出し続けたから」と説明。つまり中心的価値を変えずに作り続けてきたからというわけで,それは「太鼓の達人」シリーズなども同じだという。
 さらに小山氏は,「釣りスピリッツ」のNintendo Switch版がとくにプロモーションをしなくとも40万本セールスを記録したことに言及。「2012年のアーケード版登場以来,コロコロコミックさんとキャンペーンをやってきたことが宣伝になっていた。すでに子ども達は『釣りスピリッツ』をIPだと捉えている。そうなるとアニメ化なんて話も出てくるのが,バンダイナムコグループ」と話していた。

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 セッションの最後には,小山氏が改めて「IPを扱うゲームやアニメは,作品ありきなので最初からファンがいるという魅力がある」とし,「エンゲージメントという点では,世界観やキャラクターをさまざまな商品にしてファンに提供できるのがIPビジネス」とコメント。さらに「ただファンの心には,その作品の世界観などが形成されているので,それを変えるのは難しい。たとえ変えることができても反感を買うことが多いので,作品の持つ中心的価値を守りつつ,ブラッシュアップしていく」と続けた。

 そして橋本氏は,「ビジネス面で言うなら,ディレクターは数字で締め上げると萎れてしまうので,プロデューサーはどうやって彼らの才能を見極め育成していくかがテーマ」「IPタイトルのディレクターは,IPの良さを見極めてどう商品に反映するかが重要。またオリジナルタイトルを手がけるディレクターは,中途半端なものを出して叩かれるくらいなら,フィロソフィーを持って全力でやったほうがいい。ときには,プロデューサーや会社にかけ合う覚悟も必要」とコメント。そして「いずれにしても百発百中はない。ディレクターは切磋琢磨すべきだし,プロデューサーも会社や組織にもの申せる立場にならないと,なかなかプロジェクトはまとまらない」としてセッションを締めくくった。

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