インタビュー
天野喜孝氏や古代祐三氏らゲーム業界のビッグネームも参画するアニメ「ジビエート」とは。クリエイターインタビュー&鼎談を掲載
ゲーム関連のクリエイターも多く,「FINAL FANTASY」のイラストレーター・天野喜孝氏(キャラクターデザイン原案),「コミック版バイオハザード」を執筆した漫画家・芹沢直樹氏(モンスターデザイン),「イース」や「アクトレイザー」などのゲーム音楽を産みだしたサウンドクリエーター・古代祐三氏(劇伴音楽)が名を連ねている。
今回4Gamerでは,古代氏と監督を務める小美野雅彦氏,そして原作者であり企画・製作総指揮を務める青木 良氏に,「ジビエート」のプロジェクトがスタートした経緯や概要,本アニメに懸ける意気込みなどを聞いてみた。
また記事後半には,天野氏と古代氏,青木氏によるクリエイター鼎談も掲載するので興味のある人はぜひご一読を。
左から小美野雅彦氏,青木 良氏,天野喜孝氏,古代祐三氏 |
アニメ「ジビエート」公式サイト
もう一度,優れた日本のアニメを世界の人々に届けたかった
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。「ジビエート」プロジェクトには,天野喜孝さんや古代祐三さん,そして芹沢直樹さんらを筆頭に,日本のアニメ,ゲーム,漫画,音楽におけるビッグネームが参加しています。そもそも,どのような経緯でこのプロジェクトが始まったのでしょうか。
日本のアニメは,世界で受け入れられているというイメージを抱いている人は多いと思うのですが,実は2000年以降に作られたものが世界でヒットしているケースはわりと少ないんです。ピクサーやマーベルにキャッチアップされて,押されているのが現状と言えます。
そうした状況の中,もう一度「日本のアニメはすごいな」というタイトルを全世界に届けたいと考えました。基本的に全世界同時配信,同時公開で行きたいと。その次に考えたのは,「世界を視野に入れたときにどういう戦い方をするべきか」でした。そこで世界で評価されている日本のクリエイターをオールスターで集め,総力戦ができないかと考えたんです。そしてその旗頭は,アーティストとして世界的に知られる天野喜孝さんしかいないだろうと。
4Gamer:
それで天野さんに白羽の矢が立ったわけですね。
青木氏:
ただ天野さんの世界的な代表作「FINAL FANTASY」は,どちらかと言えば洋風のイメージですよね。天野さんに「FINAL FANTASY」的なテイストを求めてしまうと,すでにヒットして多くの人が知っている景色になってしまいます。そこで“和”でいきましょうと。
また,普通なら天野さんが参画するだけで満足してしまいますが,このプロジェクトでは天野さんに人間のキャラクターを描いていただいて,さらにモンスターはほかの方にお願いしようと芹沢直樹さんにオファーしました。これで,プロレスでいう“夢の対決”みたいなイメージが出せるんじゃないかと。
そして僕がこの30年,ずっと「BGMと言えば」と考えていたのが古代祐三さんでした。古代さんと言えばゲーム音楽というイメージが強いんですけれど,それ以外の音楽ジャンルへの興味についてはずっと分かりませんでした。またアニメファンに古代さんの魅力を伝えたいという思いもあったので,直接コンタクトを取ってお話をしたところ,二つ返事で快諾していただけたんです。
4Gamer:
古代さんはオファーを受けたとき,どう思われましたか。
ビックリしました。アニメの劇判をオファーされたのは今回が初めてで,しかもいきなり壮大なお話だったので,「何で?」というのが正直なところでしたね。アニメ業界もそんなに縁遠いわけではなかったのですが,私自身はずっとゲームを中心にやってきたものですから。ただ青木さんに直接お話を伺って,大変光栄に思いました。
青木氏:
最初のPVで使った曲は,プロトで作っていただいた主人公・千水のテーマなんですが,すごく良くて。そのPVを発表したときに,僕はアメリカでたくさんインタビューを受けたんですが,あるインタビュアーの付き添いがゲーム担当の人で,最後に「あの曲は素晴らしい。古いようで新しく,新しいようで古い。あんな曲をアニメに使ってくれて本当にお礼を言いたい」と言ってくれたんです。そのとき,古代さんにお願いして間違っていなかったことを確信しました。
4Gamer:
小美野監督は,「ジビエート」が初監督作品ですよね。
僕はキャラクターを活き活きと描くのが好きなので,最初にオファーをいただいたときは絵描きとして参加することになると思っていたんです。その一方で,絵描きとして続けてきた中でいろんな作業がルーティンになってしまっていて,僕自身が苦しくなって何か新しいことにチャレンジしたいとも思っていました。
そんな中で青木さんとお話をして,今まで僕がいたフィールドとは違う場所で戦えると考えたんです。また十代の頃の海外生活なども活きてくるんじゃないかと。正直なところ,「ジビエート」を作りながら,先んじてここを作っておけば良かった,先にオーダーしておけば良かったと,監督として足りない部分を自分に感じていますけれども,そこは気合いと根性とパワーで乗り切っていきます。
青木氏:
小美野さんは,自分(小美野氏)が初監督を務めることで,僕(青木氏)の世界に向けて発信するという気持ちに応えたいとおっしゃってくださったんです。それがすごく印象的で,“粋に感じる”とはこういうことなのかと思いました。
おそらく古代さんも同じ気持ちでオファーを受けてくださったんだと思います。こうして参加してくださったクリエイターの皆さんに感じることは,「ここまでやるか」ということです。すべてにおいて120%のものに仕上がってきているんですね。己の限界を顧みず,死ぬ気でやろうと考えて1年間走り続けて,これからも走り続けなければならない「ジビエート」プロジェクトですが,皆さんがそんな僕の気持ちに応えてくださっているんです。
「ジビエート」は主人公の侍・千水の生き様を描いたドラマ
4Gamer:
それでは「ジビエート」の物語について教えてください。
青木氏:
平たく言うとサバイバルアクションです。「ジビエート」のモンスターは,ウィルスに感染した人間がDNAの変化により独自の進化を遂げたものですから,すごく強いんですね。それを倒していくからには,主人公も強くなければならない。ただ日本では拳銃がポピュラーではありません。日本を舞台にして,拳銃を使ってバシバシ倒していくようなモンスターものを作ると,すごく嘘くさくなるんです。
またこのプロジェクトでは,“生きる”をテーマに掲げています。僕個人は,“生きる”ということが日本の中で一番強く出ていた時代とは,戦国時代だと考えています。
そんなことを整合性を踏まえて考えていった結果,戦国時代からタイムスリップしてきた強い侍の生き様を描いてはどうだろうかと。つまり,ここでも“和”であることが必然だったわけです。よく世界では「サムライ,ニンジャ,ハラキリ」と言われますが,それは生き様を問われていると思うんですよね。その意味では「ジビエート」は千水の生き様を描いたドラマだと言えます。
4Gamer:
物語の舞台を2030年の日本に設定した理由は何でしょう。
青木氏:
東京オリンピックが終わって10年,日本がどのようになっているか想像して,“それ”を壊したかったからです。あとは,僕自身がしっかり想像できる世界を舞台にしたかったという理由もあります。今から10年後なら想像できますから。
4Gamer:
それでは,主要なキャラクターがどのようにして生まれたのかについても教えてください。
青木氏:
主人公の神崎千水(CV:柿原 徹也)は,日本刀と西洋刀を持った二刀流という,非常に珍しい侍です。刀を2本持つということは,すなわち示現流などにある構えがないとも言えます。自由奔放な戦い方ができるので,「千人斬り」の異名を持つこととなりました。
船田キャスリーン(CV:藤井 ゆきよ)は,最初から西洋人とのハーフにすると決めていました。またステレオタイプな日本アニメのヒロインにしたくなかったので,ちょっと暗い部分があります。
4Gamer:
真田兼六(CV:東地宏樹)はどうでしょう。
青木氏:
兼六は,狂言回し的な存在として考えました。千水が“生きる“を教えるキャラクターですから,それに対するツッコミ役ですね。
また声優のアテンドとも密接なつながりがあって,千水役の柿原徹也君は明るい役,ともすればチャラい役やニヒルな役を演じることが多いんですけれども,今回は重々しい侍を演じてもらおうと。古くは神谷 明さんが「北斗の拳」のケンシロウを演じたようなイメージを,柿原君がやったら面白いんじゃないかと考えたんです。
その一方で東地宏樹さんは,「プリズン・ブレイク」のマイケル・スコフィールドなど重苦しい役が多いので,普段とは違う兼六を演じてほしいと考えました。
4Gamer:
最後の1人,鬼倉雪之丞(CV:羽佐間道夫)についても教えてください。
青木氏:
ストーリーを描いていく中で,千水と兼六だけでは埋め切れないキャラクターの部分が生じたんです。どんな人物だったら埋まるのか考えていった結果が雪之丞だと(笑)。
また3人目のタイムスリップキャラということで,千水や兼六と同じ時代ではなく,少し前の時代から来ているところがポイントですね。
4Gamer:
今回作曲される楽曲のイメージはどうでしょう。
古代氏:
本格的な作業はこれからで,今はまだその前段階です。ただ,どういう曲を作りたいかという気持ちの根底は青木さんをはじめとするクリエイターの皆さんと一緒です。変わらず,「アニメってこういう感じだよね!」という部分を踏まえつつも,ちょっと違うものを出していきたいと考えています。もちろん,自分が今まで培ってきたものは存分に出していきますよ。
“和”をアピールするというのもポイントです。“和“をアピールした劇判の名作も多数存在しますが,もっと新しいものを出したいので,いくつかアイデアを考えています。それらを盛り込んで,「『ジビエート』と言えば,こういう曲」ということを世界に印象づけたいですね。
4Gamer:
ゲームのBGMとアニメの劇判とで,作曲における違いはあるのでしょうか。
古代氏:
基本は一緒です。ボリューム感の出し方や引き算の部分など細かい違いは当然ありますけれども,楽曲構成が変わるくらいですね。場を盛り上げたり静めたりという役割に関しては変わらないので,大きな隔たりは感じていません。あとはゲームのBGMだと,ループを入れる入れないという話がありますけど。
4Gamer:
小美野監督にお聞きします。今回のアニメーション制作のコンセプトを教えてください。
小美野氏:
グローバル展開をメインに据えているので,海外市場に刺さる映像を作れるか模索中です。僕自身,十代の頃にヨーロッパとアメリカにいたので,その感覚を思い出しながら,当時の友達と会話するような感じでイメージを作っています。
4Gamer:
天野さんのキャラクターをアニメ用のデザインに起こすにあたり,留意したポイントはありますか。
小美野氏:
僕自身,「FINAL FANTASY」やタツノコアニメのドンピシャ世代なので,天野さんの作風を遺伝子レベルで刷り込まれていると感じています。ただ,それをそのまま出力してはいけないだろうと。「ジビエート」のテーマや世界観などいろいろな部分に融和させるべく,今まで当たり前のように接してきた天野さんの作品と意識的に向き合い,深いところから何かを引っ張り上げるような作業をしている最中で,それが正解かどうかも分からず四苦八苦しているところです。
4Gamer:
それではグローバル展開について,具体的にどのような施策が用意されているのか教えてもらえますか。
青木氏:
通常,アニメは放映や配信を開始する3か月前に広報活動を始めます。しかし「ジビエート」は,関わってくださる皆さんこそ有名ですが,IPとしては無名です。そこで1年かけて,多くの皆さんに知っていただこうと考えました。
しかしその中では,ストーリーをほとんど公開しません。実を言うと,ストーリーは第1話から最終話まで観ないと分からないようになっているんです。アニメ誌にはあらすじが書かれていたりもしますが,書き手の方が想像で補完しているんですね。でも僕はそれを敢えて訂正せず,皆さんの好きなように想像してもらうスタンスを取っています。
4Gamer:
イメージだけでも教えていただけると。
青木氏:
うーん、そうですね,「悲しい話」とだけ言っておきます。
4Gamer:
なるほど、イメージが膨らみます。世界へ向けての活動はどうのように?
ワールドツアーで,さまざまな国や地域を回っています。スピーチ,トークショー,PVの上映,インタビューを繰り返すことにより,多くの人に「ジビエート」を身近に感じていただこうと。これだけのクリエイターがそろっていますから,それだけでも「この人が,こんなプロジェクトに関わっているのか」と注目されます。
そして幸いなことに,僕らがワールドツアーで訪れた国やイベントはすべて先方が招待してくださったんです。まだ「ジビエート」の中身を見ていないのに,「招待するから来ませんか」と。これは,今の日本のアニメにはないパターンじゃないかと捉えています。
あとはビジネスを原作の僕自身が決めているので,ほかと違った部分を出せているんじゃないでしょうか。
4Gamer:
最後に,「ジビエート」に注目する人に向けてメッセージをお願いします。
青木氏:
そもそもこのプロジェクトでは,エンターテイメントを作ろうと考えていました。幸いなことに,心強いクリエイターの皆さんが参加してくださったことにより,「ジビエート」という形になったんです。ですから「ジビエート」は,エンターテイメントが好きな全世界の方々に贈りたいと考えています。
その中にはクリエイターそれぞれのファン,例えば柿原君のファン,古代さんのファン,小美野さんのファン,SUGIZOさんのファン,吉田兄弟のファン,そして天野さんのファンがいることでしょう。でも,そうした個別のクリエイターのファンが観たとしても,「エンターテイメントとして忘れかけていたものを思い出した」と言っていただけるようなものを作りたいですね。
青木氏:
「ジビエート」は古代さんにとって初めてのアニメですよね。どんな気持ちで臨んでいますか。
古代氏:
私はかれこれ30年以上ゲーム音楽に携わっていますけれど,アニメはご縁がなかったんです。近い業界のはずなのに,なかなか接点がなくて。でも,やっぱり「初めて」というのは感慨深いことですね。私が音楽を教わった師の一人が久石 譲先生なんですけれども,彼はアニメではビッグな存在ですよね。私はその影響を強く受けているのに,これまで一緒に仕事をしたことはなかったんです。いよいよそのフィールドに足を踏み入れることになって,端的に言うとすごく燃えています。その中で,自分にしかできないことをやりたいですね。
青木氏:
天野さんとも初なんですよね。
古代氏:
もう言葉がないですね。私はまさに「タイムボカン」で育った世代なんです。ゲームでは「FINAL FANTASY」がありますし,ありとあらゆる面で天野先生の影響を受けている世代ですね。最初に青木さんからプロジェクトの説明を受けたとき,「ええっ!」と驚きました。
青木氏:
天野さんと古代さんは,ゲームで一緒にお仕事をしていてもおかしくないんですけれども。
古代氏:
そうですね。ただ「FINAL FANTASY」の音楽を手がけている植松伸夫さんとは何度もお会いしているんです。同じ業界なんで,コンサートなどでご一緒したり。
天野喜孝氏(以下,天野氏):
ゲーム以外の音楽をやろうとは思わなかったんですか。ジャンルを問わずに。
古代氏:
もちろん,ずっと思い描いているものはありました。自分の恩師である久石 譲先生がアニメ音楽をやっていますし,また私自身ゲームよりも先にアニメがあって,ずっとアニメ音楽を聴いて育っているわけですから。それで,いつかはアニメ音楽をやりたいと思っていました。あとは映画の音楽ですね。
天野氏:
実際にアニメの音楽を作ってみて,ゲーム音楽との違いを感じますか。
古代氏:
劇判ということで,基本は一緒だと思います。ただゲームはインタラクティブなもので,常にリアルタイムで変化するので制約が多いんです。また,飽きさせないようにしたり,盛り上げたりと要求されることがたくさんあります。
アニメ音楽にも当然,制約はありますが,1シーン1シーンがハッキリしていることですね。ゲームは,そのシーンだけ見て曲を作ってくれと言われても無理なんです。アクションゲームなら,背景よりも動きを中心に考えたりする。どういう感情を込めればいいのかという問いに,ゲームの場合はなかなか答えが出ないんです。アニメはそこがハッキリしているのでありがたいです。
その意味では,アニメは映画とほぼ同じだからね。
古代氏:
そうなんです。映像ありきというところは,とてもうれしいです。
青木氏:
まだ「ジビエート」の仕事は終わってないけれども,またアニメの音楽をやってみたいですか。
古代氏:
ぜひやりたいです。何か題材がハッキリしているほうが私には向いているんですよ。
青木氏:
古代さんに最初にお渡ししたのは僕が書いたシナリオの粗書きと,それを元に天野さんが描いた絵の2つだったと記憶しているんですが,それらを見てどんなイメージを抱いたんでしょうか。
古代氏:
最初に思ったのは,「さすが天野先生だな」ということです。その時点で世界観が構築されているんですよね。パッと見てパッと入ってくる。あとは硬派だと思いました。キャラクターを見て,硬派だなと。
天野氏:
青木さんが硬派だからね。
古代氏:
最近,硬派なアニメが少ないですよね。私も硬派寄りなので,自分に合ってるなと。これが萌え系のオファーだったら,結構悩んだだろうなとも思います。
青木氏:
萌え系の話が来たら断ると。
古代氏:
いえいえ(笑)。そこは頑張りますよ。
青木氏:
天野さんに萌え系を描いてもらうのもいいかもしれませんね。(笑)
天野氏:
昔描いていたアニメの絵が,そっち系かもね。萌えとかそういう言葉がなかっただけで。
古代氏:
話を戻すと今回の天野先生の絵は,月並みな表現ですが「アートだな」と思いました。
青木氏:
その古代さんの感想を聞いて,天野さんはいかがですか。
ありがたいですね。僕はテレビアニメで少年少女のキャラクターを描いている中で,もっと大人っぽいものをやりたいと思ってイラストを描き始めたんです。それまでにやったことのない,リアルなイラストをやりたいと。「ジビエート」もそっち寄りですから,古代さんの感想は嬉しいです。
青木氏:
天野さんは以前どこかのインタビューで,「仕事で絵を描いて,その息抜きに自分の絵を描く」とおっしゃっていましたけれど。
天野氏:
振り幅のあることをやるのが気分転換になるんです。
青木氏:
古代さんが「ジビエート」のオファーを受けてくださったのも,一部にそういったニュアンスがあるんでしょうか。ずっとゲームをやっていて,アニメで息抜きをしてみたい,楽しくやりたいといったような。
古代氏:
楽しさはありますけれど,息抜きという感じはないですね。
天野氏:
そもそもゲームの音楽をやり始めたきっかけは何だったんですか。
古代氏:
母がピアノの先生をやっていたので,子どもの頃からスパルタで音楽を勉強させられていたんです。それがあまりにも厳しくて,中学生の頃に音楽が嫌いになりかけていたんですけれども,そのときに「スペースインベーダー」と出会ったんです。私はその以前,もう本当にゲームの初期の頃から,電子音の効果音が好きで。
青木氏:
「インベーダー」の前と言うと……。
古代氏:
「サーカス」とか,もっと単純な「ブロックくずし」とか。
天野氏:
その頃だと音楽と言うよりリズムだよね。ピコン,ピコンみたいな。
ええ,その頃からずっと好きだったんです。それからゲーム音楽は年々良くなって,私が高校生のときに「スペースハリアー」が出て,ものすごく衝撃を受けました。最初は筐体の中にラジカセでも入っているんじゃないかと思ったくらい,すごい曲が流れていて。
青木氏:
そう言えば「アウトラン」や「スペースハリアー」は,音楽の評価も高かったですね。
古代氏:
メチャクチャ人気でしたよ。当時,レコード化されたくらいでしたから。
天野氏:
じゃあ古代さんは,もともとゲームが好きだったんだ。音楽をやっていて,それでゲームに入ってくる人の話はよく聞くけど。
古代氏:
私ももともとは音楽だったんですけれど,1回離れてゲームに行って,そこでゲームの素晴らしい音楽を聴いてまた音楽に戻ってきた……という感じでしょうか。
天野氏:
ゲーム音楽の申し子だね。
青木氏:
ゲーム音楽を仕事にしようと考えたのは,いつ頃でしょうか。
古代氏:
私自身,「ゲーム音楽でやっていくぞ」と思ったことは一度もないんです。ゲームが好きで好きで,電波新聞社の「マイコンBASICマガジン」にゲーム音楽の記事を書かせてもらうことから始まって,そのあと日本ファルコムに入社し,「イース」の曲を作って,それで一気に知られるようになった感じでしょうか。
青木氏:
「イース」と「FINAL FANTASY」は同時期くらいでしたっけ。
古代氏:
「イース」のほうが先ですね。
青木氏:
ということは,ゲーム業界では天野さんより古代さんのほうが先輩なんですか。
古代氏:
それ,よく植松さんにネタにされるんですよ。植松さんよりもゲーム業界歴が長いって。
青木氏:
意外ですね。そう言えば天野さんも,「生きるということと,がむしゃらに絵を描くということがイコールだった」とおっしゃっていましたが。
天野氏:
僕はタツノコプロに見学に行って,そのまま入れてもらったんです。ゲームのときも同じだったんだけど,よく分からないのに魅力的な世界に見えた。テレビで綺麗な絵が動いている,こりゃすごいと。だから絵描きでやっていこうなんて,まったく思わなかった。アニメ業界に入って,ズルズルとキャラクターを描いていたら,こうなったんです。
青木氏:
天野さんは「FINAL FANTASY」以前にゲームを遊んでいたんですか。
天野氏:
それこそ「インベーダー」くらいだね。もちろん「ドラゴンクエスト」の名前くらいは知っていたけど,きちんと遊んだのは「FINAL FANTASY」が初めて。だからゲームの話を聞かれると,ちょっと困る(笑)。
青木氏:
そうですよね。僕と一緒にいても,ほとんどゲームの話をしませんよね。
天野氏:
周りはゲームの話ばかりするんだけどね。
青木氏:
今の天野さんのファンは,アニメよりゲームに詳しい人のほうが多いのかも。
古代氏:
今の世代だと,そうでしょうね。私は両方被っている世代ですけれども。
青木氏:
古代さんは今でもゲームを遊ぶんですか。
古代氏:
遊ぶには遊びますが,昔ほど時間は取れませんね。
天野氏:
今のゲームはビジュアルがすごいじゃないですか。やっぱり音も昔とは違うんですか。
古代氏:
昔はチップチューンと言って,それこそ「ピコピコ」と表現されるような音でしたけれども,今は作り方も含めて普通の映画音楽と変わらないんです。
青木氏:
そうなると,ゲーム音楽を作る側も難しくなるということですよね。
古代氏:
難しさの種類が違いますね。今はコンピュータの性能がいいのでどんな音でも作れますが,その分選択肢が増えているので組み合わせに悩むことが多くなります。一方,昔はやれることが限られていたので,その中でどうやっていい音楽を作るかを考えていました。
天野氏:
アニメや映画のような映像の作り方に近づいている感じだね。昔は映像と音楽はまったく別の作り方をしていたけど。
古代氏:
そうですね。今はほとんど一緒です。
青木氏:
今と昔と,どっちが楽しいですか。
古代氏:
それも楽しさの種類が違いますね。制限の中で追い込んでいく楽しさと,自由に使える中でどういう色を出していくかという楽しさ。それぞれを較べても意味がなかったり。
青木氏:
天野さんは絵を描いてきた中で,そうした作業や楽しさなどの変化はあったんでしょうか。
天野氏:
僕はただ絵を描いているだけだから。でもファミコン,スーパーファミコン,PlayStationと進化して,今やゲームのビジュアルはリアルと遜色なくなっている。ゲームは世の中の進化に一番敏感で,その中でもビジュアルは最たるものだと思います。
青木氏:
そういった中,天野さんは「ジビエート」でアニメという,ご自身からするとデビュー当時に手がけたコンテンツに帰ってきて,しかも世界に向けて配信するわけですけれども。
天野氏:
僕にとっては10年ぶりのアニメだし,世界同時配信という試みはとても新しいと捉えています。また日本を舞台にしたアニメを日本から世界に発信することは,インターナショナルな側面から大きな意義があると思いますね。今の日本人が客観的に見た日本と,古典的なもののバランスを海外の人達がどう受け止めるのか,興味があります。
青木氏:
“和”を前面に打ち出して,オープニングもすごく格好いい仕上がりですからね。
天野氏:
ぜひ広めていきたいですね。
青木氏:
古代さんはオープニングを聴きましたか。
古代氏:
ええ。素晴らしいです。私は事前に吉田兄弟(吉田健一,吉田良一郎)とSUGIZOさんが組むと青木さんから聞かされていて,お互いの持ち味を出してくるだろうとは思っていたのですが,それをどう融合させるかまでは予想できなかったんです。実際に聴いてみたら,メロの感じはSUGIZOさんそのままだし,そこに入ってくる三味線のリフはパワー感があって吉田兄弟らしいなと。予想していたよりも馴染んでいて,勢いがありました。
唯一予想できなかったのが,ダンスミュージックっぽいところです。「こう来たか!」と。
青木氏:
僕のオーダーは疾走感と,斬ったりするアクション沿うものだったんです。おそらくダンスミュージック的な部分は,斬るアクションに合わせた結果,生まれたものかもしれませんね。
古代氏:
よく聴くと生ドラムも入っているのでバックは完全にロックなんですが,表面的には4つ打ちの音が入っていたのが,すごく意外でした。
青木氏:
先日,吉田兄弟のライブで「ジビエート」のオープニングが初披露されたんですが,会場はその日一番盛り上がっていました。「ジビエート」なんて知らない,普通のお年寄りも喜んでいましたよ。
古代氏:
幅広い層に受け入れられたんですね。
青木氏:
それでは古代さんにもぜひ,「ジビエート」というアニメを世界に向けて発信するにあたっての意気込みを語ってほしいのですが。
古代氏:
ステレオタイプなものにはしたくないんですね。アニメはこういう感じ,とか“和“のテイストはこういう感じということを,皆さんはだいたい想像できると思いますが,そこをしっかり超えて,世界の皆さんに新鮮な感覚を与えたいと考えています。“和“の楽器をただポンと入れるだけでなく,融合要素を入れていきたい,それがアニメとシンクロすればなおいいですね。
(収録日:2020年1月15日)
アニメ「ジビエート」公式サイト
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