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「NASEF JAPAN 国際教育eスポーツサミット2021」基調講演レポート。実社会で通用するスキルを学ぶツールとしてのeスポーツの効果
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印刷2021/03/22 14:42

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「NASEF JAPAN 国際教育eスポーツサミット2021」基調講演レポート。実社会で通用するスキルを学ぶツールとしてのeスポーツの効果

 NASEF JAPANは,2021年3月20日に「NASEF JAPAN 国際教育eスポーツサミット2021」をオンラインで開催。基調講演「ゲームを活用した次世代の世界の教育事例と潮流,そして日本での可能性」では,カリフォルニア大学アーバイン校のコンスタンス・スタインクーラー博士が,実際にeスポーツを教育現場で取り入れた際の成果について語った。

 NASEF JAPANはアメリカ発祥の「NASEF(北米教育eスポーツ連盟)」,その日本支部だ。2020年に設立され,今年4月から日本の教育機関に向け,eスポーツを教育に活かした支援プログラムなどを提供していく。「eスポーツそのものの啓蒙や選手育成が目的ではなく,次世代の人材を育成する手段としてeスポーツを使いたい」(NASEF JAPAN代表,松原昭博氏)と考える団体である。

提供:NASEF JAPAN / NASEF
画像集#001のサムネイル/「NASEF JAPAN 国際教育eスポーツサミット2021」基調講演レポート。実社会で通用するスキルを学ぶツールとしてのeスポーツの効果

提供:NASEF JAPAN / NASEF
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 基調講演ではカリフォルニア大学アーバイン校の情報学教授であり,教育現場にeスポーツを取り入れたプログラムを開発するコンスタンス・スタインクーラー博士がオンラインで登壇。これまでの取り組みについて語った。

カリフォルニア大学アーバイン校のコンスタンス・スタインクーラー博士
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 スタインクーラー博士がアーバイン校でeスポーツ研究に携わり始めたのは2016年のこと。まずはeスポーツ選手と周辺コミュニティの連携,そこで必要とされる知識とスキルを分析し,eスポーツエコシステムとして図式化したところ,学校で評価・重視されるのと同じものが多数出てきた。そこで博士は,アメリカの教育基準に基づいた形で,コミュニケーションや科学,技術,情緒的学習とeスポーツを結びつけるプログラムを作っていくことになったのだという。

図式化されたeスポーツのエコシステム。プレイヤーの周囲に「Strategists(戦略家)」「Organizers(オーガナイザー/運営)」「Content Creators(コンテンツクリエイター)」「Entrepreneurs(起業家)」といった人々が集い,それぞれの能力を活かすエコシステムを作り上げている
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 現在のアメリカでは,教師たちが学校教育を通して生徒の人生を豊かにしようとしているのに,当の生徒たちは「学校とは単に資格を習得するだけの場でしかない」と捉えるすれ違いが起こっているそうだ。こうした事態を進行させないためには,学校で学んだことが実社会でどう役立つかを生徒たちに理解してもらうことが必要。そこでNASEFでは,学校以外の場でも役に立つスキルを習得できるプラットフォームとしての「豊かなeスポーツ」を提唱,参加する全ての生徒に恩恵をもたらすプログラムを目標とすることになったのだという。

 1年目は6つの学校を対象とし,eスポーツがもたらす効果についてのリサーチを進めていった。科学,数学,英語といった分野で大きな進歩があったのに加え,社会的感情の学習と人間関係に関する議論も増えたそうだ。例えば,5人のプレイヤーがチャンピオン(キャラクター)を選んでチームを組む「リーグ・オブ・レジェンド」では,コーチが生徒のチャンピオン選択を観察し「このチャンピオンを使わないなら,どのチャンピオンを選べばチーム構成に良い影響をもたらすか」といったテーマで頻繁に話し合ったという。個人の趣向だけでなく,全体の利益を考えたチーム編成について考えているわけで,なるほどこれは実社会にも関連するスキルだ。

教育団体CASELが推進する「社交性と情動の学習(CEL)」や「メンターシップ(教師たちとの関係性)」といった項目が大きく伸びている
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 また,ある生徒は,ゲームが上手くいかないとすぐに気持ちがネガティブになっていたものの,チームの仲間がジョークなどで助けてくれたことにより,反省すべき点を冷静に見られるようになったという。やがてこうした傾向も解消され,1人のときもプレイに集中できるようになったそうだ。チーム内で助け合い,メンタルの立て直し方を学んだということで,こちらも実社会で役に立つスキルといえるだろう。

「リーグ・オブ・レジェンド」における,チーム全体の利益を考慮したチャンピオン選択(左)と,eスポーツチームメイトからメンタルの立て直し方を学んだ実例(右)
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 他にも,人混みが苦手で,学校での活動にあまり関与していなかった生徒が,eスポーツをきっかけに積極的になった例もあったという。eスポーツで自らのアイデンティティと,学校への帰属意識が高まったというわけだ。
 対象となった6つの学校の周辺環境はさまざまだが,低所得地域の学校ほど高い効果があったそうで,教育関係者としては興味深いところではないだろうか。

eスポーツの導入は,低所得地域の学校ほど高い効果があったという
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 2年目はNASEFのプログラムを受けた生徒とそうでない生徒の比較が行われた。NASEFのプログラムを受けた生徒には,STEM(科学・技術・工学・数学)教育やコミュニケーション,学校への帰属意識や大人との関係など,ほとんどの項目でプラスの結果が出ている。しかし,感情のコントロールについてだけは逆で,NASEFのプログラムを受けた生徒は,そうでない生徒に比べて忍耐力が低いという傾向があったという。前述の証言とは逆の結果が出ているわけで,こちらは更なる調査が期待される。

NASEFのプログラムを受けた生徒とそうでない生徒の比較。感情のコントロールについてだけ,プログラムを受けた生徒に低い結果が出ている
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 3年目はNASEFのプログラムを受けた・受けていないではなく,プログラムを受ける前・受けた後での比較が行われた。プログラム後の学生たちは,問題解決や分析などの分野でリーダーシップを発揮し,メンターシップ(教師たちとの関係性)も良好であったという。

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 こうした結果から博士は,NASEFにおいてはConnected Learning(メンターの助けを得た若者が個人的な情熱や興味を追求し,その成果がキャリアでの成功や社会参加にリンクする学習形式)が重要であると結論づける。
 eスポーツで使われるビデオゲームなどのテクノロジーは若者を変えていくものであり,生徒がお互いや教師から学んでいく相互作用を促進したり邪魔をする可能性があるものの,今後も研究を続けていくと述べて,基調講演を締めくくった。

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「北米教育eスポーツ連盟 日本本部」公式サイト

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