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教育にeスポーツを取り入れる,現場の声が語られた「eスポーツ×(日本+世界)=教育の可能性」聴講レポート
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印刷2021/03/23 16:10

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教育にeスポーツを取り入れる,現場の声が語られた「eスポーツ×(日本+世界)=教育の可能性」聴講レポート

 北米教育eスポーツ連盟 日本本部(NASEF JAPAN)は,2021年3月20日に「NASEF JAPAN 国際教育eスポーツサミット2021」を開催した。クロストークセッション「eスポーツ×(日本+世界)=教育の可能性」では,eスポーツを教育現場で活用した実例について語られた。

 北米教育eスポーツ連盟 日本本部(NASEF JAPAN)は,教育手段としてのeスポーツ活用を支援していく団体だ。
 次世代を担う若者の育成を目的とし,eスポーツを通じてSTEAM(科学,技術,工学,芸術,数学)スキルやコミュニケーション能力の開発を行っていく。「コミュニティの形成」「カリキュラムの開発・提供」「部活動の活性化・支援」といった側面で活動を続けており,アメリカ47州で1330以上のクラブが加盟しているのに加え,国際パートナーも11か国に存在している。
 NASEF JAPANは2020年11月に設立され,2021年4月から本格的に活動を行っていくという。これに先だって行われた「NASEF JAPAN 国際教育eスポーツサミット2021」では,NASEF JAPANの代表と,既にeスポーツを教育現場で活用している関係者が集い,これまでの活動や今後の課題などについて語り合った。

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●登壇者一覧
・パネリスト
笹原圭一郎教諭:クラーク記念国際高等学校
小松 実教授:阿南工業高等専門学校 創造技術工学科 電気コース教授
大浦豊弘理事:全国高等学校eスポーツ連盟(JESEF)理事
松原昭博代表:北米教育eスポーツ連盟日本本部(NASEF JAPAN)代表

・ファシリテーター
内藤裕志氏:北米教育eスポーツ連盟日本本部(NASEF JAPAN)

写真左から,NASEF JAPANの松原昭博代表,クラーク記念国際高等学校の笹原 圭一郎教諭,全国高等学校eスポーツ連盟の大浦豊弘理事,阿南工業高等専門学校の小松 実教授(リモート参加)。提供:NASEF JAPAN / NASEF
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NASEF JAPANの内藤裕志氏
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教育現場におけるeスポーツの実情


 最初のテーマは,教育現場におけるeスポーツの実情である。
 クラーク記念国際高等学校の笹原教諭は,eスポーツに取り組むことで分析力や思考力,コミュニケーション能力といった,実社会でも必要な力が伸びると考えているそうだ。学校で取り組むのだから,単にゲームを遊ばせるのではなく,リアルスポーツ同様のコーチングが不可欠であるとするのが教諭の考え方。大会で勝って結果を出すことや,地域密着型イベントによる地方創生といった側面も重視しているという。
 また,配信技術者ならば情報・メディア系技能,企画運営は経済を学んでいくというように,eスポーツを通して実社会に通用するスキルを身に付けることで生徒の可能性が広がっていく。世界を目指す語学力の育成と合わせ,社会から求められる人材育成に役立つと考えているという。
 保護者の中には,eスポーツを教育に取り入れることに懸念を示す人もいるものの「リアルスポーツの選手も皆がプロになるわけではなく,人生に必要な技術や経験を得るためにスポーツを使っており,eスポーツでも同じである」と説明することで理解を得ているそうだ。

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 阿南工業高等専門学校では,学生が仮想社会人となって模擬会社を起業する「電気技術イノベーション実習」(関連リンク)を行っている。2年生は4年生が起業した模擬会社に“就職”し,その後は独立も可能。加えて,給与や仕入費など諸費用の調達・管理も仮想通貨で体験するという,実社会さながらの体験ができる取り組みだ。この実習において,eスポーツの企画・運営を行う模擬会社が起業。模擬会社とはいえ学園祭でeスポーツ大会を開催し,生中継を行った。eスポーツを通した社会参加を学内で体験し,通信技術や社会人としての基礎力,コミュニケーション能力に向上が見られたというわけだ。
 学生からは「大会を通して社会とつながりを持てた」「eスポーツをしなければ,社会性が乏しいただのゲーマーだったかも知れない」といった,効果を実感する声も上がっているという。今後も同校では,ゲームリテラシーやeスポーツビジネスを授業科目として取り入れていくとのことだ。

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 全国高等学校eスポーツ連盟(JESEF)は2019年の設立後3回の大会を行い,最大で194の学校が出場するという成果を挙げている。しかしながら,立ち上げ当初,教師や保護者からの反応は厳しいものであったという。高校の野球部が地域からのサポートを受けるように,eスポーツでも関係者の理解が大切である……と大浦理事は考えており,今後も啓発活動を続けて,ゲーム依存といった問題にも取り組んでいくとの考えを明らかにした。

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 松原代表はNASEF JAPANについて「eスポーツの振興や選手育成の団体なのか」と聞かれることが多いという。しかし,団体の目的は次世代を担う人材を育成することであり,eスポーツはその手段であると改めて語った。
 「海外では親もビデオゲームに理解があり,子供がプレイすることについて諸手を挙げて賛成している」とするイメージを持つ人もいるが,これは誤りであると松原氏。実際には日本と同様に悪影響が懸念されており,「できればプレイしないで欲しい」と考えている親も少なくないそうだ。とはいえ,子供たちがビデオゲームやeスポーツに大きな関心を寄せているのも事実なので,これを教育に活かさない手はないという逆転の発想がNASEFやNASEF JAPANなのだという。eスポーツを通して社会性や英語,論理思考,創造性の向上を目指し,これまでに気づかれなかった才能を発掘するなどの人材育成を目指していくとのことだ。

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高校1年生がeスポーツ部を作るために校長に直談判。eスポーツを教育現場に取り入れ,熱意が呼び起こされる


 続いてのテーマは,eスポーツを教育に取り入れた後の変化について。
 クラーク記念国際高等学校では,私立中学校で挫折した生徒がeスポーツに触れることで大きく変わった例が見られたという。当初は自分に自信がなかった生徒だが,eスポーツでコミュニケーション能力も向上,試合中にもどんどん指示を出していくなど,物事対して積極的に取り組むようになったそうだ。

提供:NASEF JAPAN / NASEF
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 阿南工業高等専門学校の場合,eスポーツを取り入れた当初は,生徒の側に「本当に学校でゲームをやっていいのか」という戸惑いがあったという。しかし,取り組みが進むにつれて生徒も積極化。全国高校eスポーツ選手権の上位にまで勝ち進んだメンバーは,毎日新聞社やサードウェーブといった関係企業の社会人と関わることにより,人間として急成長を遂げたという。「社会に出てからでもこうした機会はあったかも知れないが,学生の時点で体験できることはなかなかにないのではないか」と小松教授は語った。

提供:NASEF JAPAN / NASEF
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 JESEFの全国高校eスポーツ選手権は,他のeスポーツ大会とは異なり,高校の代表として出場するのが特徴だ。学校の公認を得るため,生徒たちがいろいろと苦労したのは想像に難くないが,eスポーツへの情熱が発揮される例も多かったという。
 ある高校では,入学からわずか2〜3か月しか経っていない1年生が,eスポーツ部を立ち上げるべく,校長や教頭に直談判したというから驚きだ。別の例では,大会に出場するには人数が足りなかったため,生徒がプラカードを持って校内を巡り,部員を募集したという。また,噂を辿ってゲーマーを探し求め「一緒にeスポーツをやろう!」と口説きにかかったということもあったそうだ。まるで映画のようにドラマチックな話で,学生たちにとって,eスポーツがいかに魅力的であるかがわかるエピソードだ。
 こうしたeスポーツをツールとして使い,学生たちの可能性をいかに引き出すかが大人の役割ではないか,と大浦理事は語った。

提供:NASEF JAPAN / NASEF
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 eスポーツはこれまでに挙がったような「感動秘話」が多いものの,なぜかゲーム依存などネガティブな文脈で捉えられることが多い……とNASEF JAPANの松原代表は語る。リアルスポーツよりもジェンダーや身体的条件などのハードルが低いeスポーツは教育的ツールとして優れており,野放しにするのではなく,ちゃんとコントロールした環境で正しく導くことが大事であると考えているそうだ。
 多民族国家のアメリカでは,英語が上手く話せないことでいじめに遭ったり,引きこもってしまう例もあるが,こうした人がNASEFのサポートにより,eスポーツで皆に溶け込めることもあるのだという。このような実例もまだまだ知られていないため,周知していきたいと松原代表は意欲を見せた。

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 eスポーツを教育に導入すると聞くと,授業がそのまま遊びになるようなイメージを持つ人もいるかも知れないが,このクロストークセッションに参加した学校においては,教育の手段,選択肢の一つとして取り入れているという認識だ。普通の授業では内気な生徒がeスポーツに触れて活発に活動するようになった例が見られる一方,保護者の側にはまだまだ疑念もある。生徒たちの情熱と,教師や保護者が期待する教育的効果が上手くかみ合えば大きな成果も期待できるはずで,今後の継続的な取り組みが注目される。

「NASEF JAPAN」公式サイト

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