Text & Photo by 奥谷海人
ここ数年,GDCにおいて大きく注目されているのが,
ゲーム課程を設立する教育機関が一同に集まるアカデミーサミット(Academy Summit)で,今年も3月4日と5日の二日間を使って,みっちりと報告会が行われた。
カリフォルニア大学バークレー校,ノースウェスタン大学,ミシガン大学,アート・インスティテュート・オブ・カリフォルニア,ジョージア工科大学,マサチューセッツ工科大学(MIT),カーネギーメロン大学,デジペン・インスティテュートなど,公立,私立,専門学校を問わず,さまざまな教育機関が参加したほか,
オランダやイギリス,香港など海外からの参加もあり,広い室内が満席という状況の中,白熱した討論会が行われていた。
日本ではまだ「いつまでもゲームしてないで勉強しなさい!」などという言葉が聞かれるので,ゲームと教育の関係といっても,違和感がある人も多いだろう。しかしこの二つは,実に関係が深いのである。
このサミットは,ゲーム開発に詳しいIGDAがイニシアチブをとり,
ゲームの持つ特殊な科学や社会学を適切に指導できるように長い間カリキュラムの整備を行ってきたもので,現在実質的に運営しているのは,IGDA内の副次的なグループであるアカデミー・コミッティ。ウォーレン・スペクター(Warren Spector/ION Storm)氏,ダグ・チャーチ(Doug Church/Eidos Interactive)氏,エリック・ジマーマン(Eric Zimmerman/GameLab)氏らを代表とする約15人ほどで構成されている。
これまでにも
ゲームが及ぼす心理効果やインタラクティブ性の作用を,各々の教育機関が独自に研究してきたのは事実で,とくにMITのメディアラボの存在は日本でも有名だろう。ただ,お互いがコミュニケーションを取る場がなく,研究成果をシェアする土壌がまったく存在しなかったので,効率が非常に悪いものとなっていた。
また近年では
"ゲーム学"を「映画学」のように捉える風潮が高まってきており,開発現場で一から叩き上げるのではなく,教育によって深く吸収できる下地を作ろうという動きになっているのだ。これは,戦後アメリカで映画学が創設され,ジョージ・ルーカスやスピルバーグ,さらにはジム・ジャームッシュやスパイク・リーといった人材が発掘されてきたことを思えば,理に敵った発想である。
教育機関にとってはゲーム開発者からの一時的な情報を入手できるし,ゲーム会社にとっても確かな人材を確保できるという,それぞれの利益にマッチした相互関係も築けるのだ。
チャーチ氏の話によると,本年は参加者も多く,非常にまとまった話し合いが行われたようだ。サミットを端から見ていると,各教育機関の代表者が壇上に登り,この1年の成果や新しい取り組みを,あくまでも理路整然と,それでいて熱い口ぶりで発表していく。チャーチは,「去年はカリキュラム1つ1つの賛否に始終したりしていたけど,今年は皆まとまっている気がする」と,にこやかに話していたが,それもここ数年,IGDAと教育機関が力を合わせて取り組んで来た成果であるのは言うまでもないだろう。今回のGDCには,日本からも東京大学や立命館大学の関係者らが参加しており,しばらくすれば世界規模での研究成果にも期待できるようになるかもしれない。
筆者が,サミットの内容を聞いていて一番興味を覚えたのは,何といっても,
香港のポリテクニック大学の南京大虐殺プロジェクト「Eyewitness」だ。これは,中国政府の援助によってLithTechエンジンをライセンスした本格的なFPSアクションゲームで,題名通り
第二次世界大戦における日本の南京占拠がテーマだ。プレイヤーは,従軍記者として,日本兵の残虐行為の現場を写真に収め,国際世論に訴えるというユニークなもので,
歴史考証からプログラミング,ゲームデザインやアートワークの一切を学生たちで仕上げたのだという。
ダグ・チャーチ氏も,「政府が援助してくれるなんて,信じられないほど恵まれているよね」と話していたが,
IGDAも今年だけで25人の学生に奨学金を配当するなどの活動を行っている。彼ら学生たちが,やがてゲーム業界に貢献してくれることを願って止まない。