Text & Photo by トライゼット西川善司
■ATI Technologies 新RADEONシリーズ発表。
某N社をノックアウトするパーティを開催 ATI Technologies(以下ATI)は米国現地時間3月5日,RADEONシリーズとなる三つのニューモデルを発表した。発表会は
「ATI TKO PARTY」と題され,華々しい演出のもとにパーティ形式で進行された。
TKOはテクニカル・ノックアウトの略であり,すなわち
「打ち負かす」の意味が込められている。"打ち負かす"相手といえば……聞くまでもない,競合相手のグラフィックスチップメーカー
NVIDIA社のことだ。
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赤い胴着のATI戦士が,襲いかかる悪者(NVIDIA?)を薙ぎ倒すという寸劇から発表会が始まった | ATIのRick Bergman(Senior Vice President)も舌軽やかに,「うちのは"あそこ"のとは違う」というような問題発言を連発 | 会場はサンノゼコンベンションセンター近くの倉庫のような場所。「TITLE CLUB」は映画「ファイトクラブ」のもじりだ |
■再び最強の座を奪った(?)「RADEON 9800PRO」 NVIDIAのTKOがあるとすれば,その鍵を握るのはコードーネーム"R350"といわれていた
「RADEON 9800PRO」(以下,9800PRO)だ。
9800PROは,簡単にいってしまえば「RADEON 9700PRO」(以下,9700PRO)の高速版にあたるもの。しかし,9800PROの製造プロセスルールは0.15μmと9700PROと変わらない。総トランジスタ数も,明らかにはなっていないものの,ほぼ9700PROと同じだという。
ただし9800PROは物理設計が最適化されており,より高クロックでの動作に成功している。実際のスピード値は今回の発表会では明らかにされなかったが,だいたい400MHz前後といわれている。この日カードベンダが配布した9800PROのカタログには,380MHzと記載されているので,おそらくはこの付近の値になると思われる。
さて,9800PROが9700PROの単なる高クロック版かというと,そういうわけではない。いくつかの機能拡張が施されているのだ。より詳しい内容については追ってレポートするが,
(1)プログラマブルシェーダの拡張
(2)Fバッファの搭載
(3)フル浮動小数点実数精度のピクセルシェーダと,上記の三つが9800PROの拡張点として挙げられた。
(1)についてだが,実は"命令セットは一切拡張されていない。よって,プログラマブルピクセル/頂点シェーダの仕様は9700PRO同様に"2.0"ということになる。拡張されたのは,"ピクセルシェーダプログラムのプログラム容量"の制限が取り払われたという点だ。
(2)はそのシェーダプログラムのプログラム容量の制限をなくすための機能に関するテクノロジーだ。9700PROには"ピクセルシェーダプログラムは最長96命令"という制限があったが,これを取り払うものと考えればいい。
具体的には,Fバッファに演算結果をストアし,その結果をもとに,続きのシェーダプログラムをプログラマブルシェーダユニットのプログラム実行領域に読み込んで実行させる。このプロセスを繰り返していけば,実行領域にプログラムを読み込むオーバーヘッドこそ生じるものの,プログラム容量の制限を事実上なくすことができる。ちなみにFバッファの"F"とはフラグメント(Fragment)のこと,フラグメントとはシェーダプログラムのことだと思ってもらっていい。
(3)は9700PROとなにが違うのか分からないという人も多いだろう。実際何も変わっていない。
9700PROでも,実数ピクセルフォーマットとして128ビット実数(32ビット実数ARGB),64ビット実数(16ビット実数ARGB)はサポートされていた。ただ,9700PROは内部演算精度が最大96ビット(24ビット実数ARGB)であり,本当の128ビット実数ではなかった。GeForce FXは内部演算精度も128ビットであり,おそらく9800PROはこれに対抗する意味合いもあるのだろう。内部演算精度も128ビットに引き上げたのではないか? と推察したのだが,9700PRO同様,演算精度は内部96ビット仕様に据え置きとなっている。
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RADEONシリーズは,プログラマブルシェーダを「SMARTSHADER」という名称で呼んでいるが,そのバージョンは2.0から2.1へと上がっている。9800PROは単なる高速バージョンではないのだ | アンチエリアス機能「SMOOTHVISION」も強化 | Zバッファアクセラレーション「HYPERZ」も強化。「SMOOTHVISION2.1」,「HYPERZIII+」,共にメモリパフォーマンス向上の恩恵を受けての機能強化だ |
■「RADEON 9800PRO」の性能は,
「RADEON 9700PRO」に対して10%〜20%程度の向上 9800PROは高クロック化だけでなく,"ビデオメモリコントローラの最適化"も施されおり,メモリバンド幅の実効性能も向上し,トータルなパフォーマンス向上に結びついているという。なお,ビデオメモリはDDR2ではなく,DDR1である。
ATI発表のテスト結果では,3DMark03のスコアは
「GeForce FX 5800Ultra」の1.5倍をマーク。ただし,このテスト結果は初期のGeForce FXドライバを用いたもののようなので,鵜呑みにしないほうがいいだろう。また「最速GPU」とはいっても,同じグラフで9800PROと9700PROのスコア格差が15%程度しかない。実際にモノを試してみないと最終的な決断は下せない。今のところ,GeForceシリーズに対して,"TKO"というよりは"判定勝ち"程度になりそうだ。
9800PROの発売時期はなんと今月中(を予定)。価格は399USドルとなる見込みだ。256MBも登場予定で,こちらは4月出荷を予定している。
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「RADEON 9800PRO」対「GeForce FX 5800Ultra」のベンチマーク結果 | ビデオメモリ256MB版も登場予定で,こちらは4月出荷予定(価格は未定)となっている |
■「RADEON 9600」は0.13μmプロセスルールを採用,
表現力は上位の「9800」そのまま 「RADEON 9600」(以下,9600)は,コードネーム"RV350"として知られてきたGPUで,製品型番からも分かるように「RADEON 9500」(以下,9500)の後継モデルとなる。ただしコアは9500ベースではなく,ましてや9800ベースでもない。9500は9700と同一コアで,ピクセルパイプライン本数やビデオメモリバス幅を制限したバージョンだったわけだが,9600はオリジナルコアのGPUなのだ。
とはいえ,基本的なコアデザインは9700PROベースで,9700PROの頂点シェーダ2基に抑え,さらにレンダリングパイプラインを4本構成にしたものが9600シリーズの正体ということになる。
製造プロセスルールは0.13μmを採用,トランジスタ数は約7000万程度とのこと。最新のプロセスルールをハイエンドGPUの9800PROではなく,メインストリーム向けGPUの9600の方に採用しているのが興味深い。クロックスピードは現時点では非公開だが,400MHz前後の見通しで,コアクロックスピードだけならば9800PROよりも高くなる可能性があるという。もちろん頂点シェーダユニット数,レンダリングパイプライン数が9800PROの半分なので,実効パフォーマンスは兄貴分には及ばない。ただマーケティングの視点から見ると
「高クロックのGPUが安く買える」というイメージをユーザーに与えるわけで,都合はいいだろう。
気になる9600のフィーチャーは,9700PROとまったく同じ。「SMARTSHADER」も9700PROと同じ2.0だ。
なお,価格は現行の9500のレンジになる見込み。発売時期は4月だ。
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「RADEON 9600」と同PROがリリースされる。その違いは搭載メモリ容量のみで,コアクロックやメモリバス幅に違いはない | GeForce4 Tiシリーズとの比較グラフ。この発表会と同日に公開されるNVIDIAの競合GPU,"NV31"との性能差も気になるところだ |
■「RADEON 9200」は「RADEON 9000」のAGP8X版 「RADEON 9200」(以下,9200)は,コードネーム"RV280"として知られてきたGPUで,こちらも型番から分かるように「RADEON 9000」(以下,9000)の後継となる。プロセスルールには0.15μmを採用しており,基本的な仕様は9000から変わらない。コアクロックは250MHz〜275MHzで,9000シリーズと同じになる見込みだ。
表現力はDirectX 8.1ベースで,この点も9000と同じ。頂点シェーダユニットは1基,レンダリングパイプラインは4本とこれも変わらない。「N-PATCH」機能を提供する「TRUFORM」にも未対応で,
AGP8X対応が最も目立った9000に対する相違点ということになる。
9200は既に出荷済みで,発売は数日以内とのこと。価格は100USドル前後とのことだ。
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RADEON 9200シリーズも,「RADEON 9200PRO」と「RADEON 9200」の2ラインナップ。その差はビデオメモリ搭載容量とコアクロックスピード。PROが275MHzで,9600が250MHzといわれている | GeForce4 MXとの性能比較。こちらも同日発表されるNVIDIAの"NV34"が登場してからが本当の勝負となる |