著名クリエイターによるセミナー 「GDC 2003」スペシャルレポート #14 | - 03/10 21:33 |
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Text & Photo by 奥谷海人 さすがに最終日の早朝ともなると,前夜遅くまで続いたミーティングや連日のパーティが祟ってか,会場は非常に静かである。講義に向う人の足取りも重く,起きぬけの顔にコーヒーで喝を入れながら,自分に興味のある分野のセミナーを聴講しにいく姿が見られた。 最終日のセミナーは,まず「クラッシュ・バンディクー」の開発者として日本でも顔の知られたジェイソン・ルビン(Jason Rubin)氏による「Great Game Graphics……Who Cares」で始まった。同氏の率いるNaughty Dog社は,これまで「競合ソフトよりも,もっと楽しく,さらに綺麗なグラフィックで!」という信念でゲームを制作しており,特にPlayStation世代でゲームが2Dから3Dグラフィックスへと移行するに至って頭角を現してきた開発チームである。その彼が,"3Dグラフィックスなんてどうでもよい",と語ったのだから,これは非常に興味深いといえよう。 ルビン氏が高品質なグラフィックスへの追求を捨てたのは,「もはやゲームプレイへの影響はなくなった」という認識が大きな理由だという。テクスチャを何枚も重ね合わせてニキビやシミを模倣しようが,体毛の数を何万本も生やして見せようが,ゲームそのものとはまったく関係のない次元での進化でしかなくなってしまったからだ。 これは,過激な発言にも聞こえるかもしれないが,至極真っ当な意見だともいえる。綺麗なグラフィックだけで売れる時代が終わったことは,より実写風のCG映画が,技術的にはそれほどでもないものよりも集客力があるとは限らないことにちょっと似ている。ルビン氏は「今後はゲームプレイに重点を置き,グラフィックの美しさだけでゲームを売ろうと考えるべきではない」と締めくくった。(写真:左) そして我々の前に久々に顔を出したのが,リチャード・ギャリオット氏の右腕として「Ultima」シリーズを引っ張ってきた,スター・ロン(Starr Long)氏である。彼は「Online Product Development Management:Methods and Madness」というセミナーの中で,どうやってオンラインゲームの開発チームをまとめていくか,という講義を行った。 ロン氏は,Origin System社で「Ultima Online 2」の開発を行っていたものの,経営のテコ入れによってプロジェクトがキャンセルされた後はギャリオット氏と合流。現在は韓国のNC Soft社の元で,新世代のMMORPG「Tabula Rasa」を開発している。Tabula Rasaの新しい情報を期待したのだが,同氏は開発チームの責任者としての手法や対策の話題に終始。残念ながら,25人規模の少数精鋭チームで開発している,という以外のことは語られなかった。 また興味深いのは,Tabula Rasaの企画書は1ページ半のフィーチャーリストしか作られず,後は開発者の間で綿密な話し合いを断続的に行いながらゲームとしてまとめているということだ。 ロング氏は,「チーム内で人間関係がギクシャクしている開発者を孤立させずに,彼らの間で心を開いて対話させることによって解決することが重要だ」とし,俗に"クランチタイム"と呼ばれるハードなスケジュールでゲーム制作を続けるより,家庭環境や個人の精神面での安定を図ることも心掛けるべきと語った。(写真:中) ここ数年は恒例になっているようだが,GDCの最後を締めくくるのはイギリスの奇才ピーター・モリニュー(Peter Molyneux)氏である。今回は「The Good or Bad:A Second Chance」とタイトルで,前作の「Black & White」での反省を,時期発売予定の「Black & White 2」ではどのように生かしているかを語る内容だった。 講義の中でわかり得たBlack & White 2の内容は,別の記事にて後述するが,モリニュー氏は,前作Black & Whiteについて,「世界で200万本販売されたものの磨きのかかっていない作品だった」とし,ユーザーインタフェースを否定したことの失敗や,もっと分かりやすい形でのクリーチャーとのインタラクション,さらにはストーリーを絞り込むべきだったと語った。Black & White 2では,悪(Black)と善(White)をより明確にし,はっきりとしたルールによってゲームが進められていくようになるらしい。 Lionhead Studios社では,現在Black & White 2のほかにも,Xbox専用の3D RPG「Project Ego」や,映画制作会社をシミュレートする「The Movies」など複数のプロジェクトを抱えており,E3では大忙しになりそうだ。 モリニュー氏といえば,イギリス国内の若くて有望な開発者たちにチャンスを与え,"サテライト"というLionhead Studiosに服属した独立系の開発会社を運営している。その名声ばかりかゲーム業界にも多大な貢献をしている彼は,やはりセミナー後には多くの開発者に囲まれて質問を浴びせ掛けられていた。(写真:右) |