Text & Photo by 奥谷海人
Criterion Software社といえば,今や泣く子も黙る業界期待のミドルウェア開発会社の巨星である。今年で設立10年を迎え,ソフトウェア開発/ゲーム開発部門に200人を抱える大所帯へと成長したが,その名を有名にしたのが
「RenderWare」だろう。このミドルウェアの名前を知らなくても,「Grand Theft Auto 3」「Tony Howk Pro-Skate 3」「Everquest:The Shadow of Luclin」「ウィニングイレブン6」「SDガンダムGジェネレーションNEO」「Catan」など,RenderWareをベースにしたソフトの名前なら聞いたことがあるはずだ。
今回,イギリスを根拠にし,東京,オースティン,パリにもオフィスを構えるCriterion Software社とはどのような会社なのか? またミドルウェアとは何なのか? を最高責任者であるデイビッド・ラウ・キー(David Lau-Kee)博士に詳しく聞いてみた。
4Gamer.net (以下,4GN)
我々エンドユーザーにとっては,"ミドルウェア"が何であるかが分かっていないことも多いか思います。そのあたりも含め,「RenderWare」が何かを解説していただけますか?
Lau-Kee (以下,LK)
はい。簡単にいえば,
ミドルウェアとはゲームソフト開発者が開発したアプリケーションとOSの間に存在するソフトウェアで,ミドルウェアという一般名称も,ここに由来しています。
ゲーム開発は,ガレージで数人で作っていた古き良き'80年代は過ぎ去り,最近では独自に開発するゲームエンジンの開発や人件費だけでも,膨大な費用が掛かるようになってきました。RenderWareのようなミドルウェアを使用することで,それらの費用ばかりでなく,開発期間も大幅に短縮できることになり,ゲームソフトの制作者はその分ゲームデザインに専念することが可能になります。
またRenderWareは,PCはもとよりPlayStation 2,Xbox,GamecubeなどのハードウェアやそれらのOSに対応しているので,クロスプラットフォームを念頭においたゲーム開発にも役立つことになります。
4GN:
RenderWareには,どのような機能があるのでしょう?
LK:
RenderWareには「RenderWare Platform」と「RenderWare Studio」という二つの機能があります。
まずRenderWare Platformですが,これは我が社が開発したゲーム開発ツールのセットで,
「Graphics」「Audio」「A.I.」「Physics」というゲームに必要な四つのエンジンからなっています。RenderWare Graphicsは,ベジエ・ジオメトリやライトマップ,コリジョン・ディテクション(オブジェクトが別のオブジェクトにぶつかったときの行動制御)はもちろん,PCやXboxであればDirectX8.0世代のグラフィックのサポートや,PlayStation 2であれば高性能のパイプラインでロード時間を少なくするなど,プラットフォーム別に用意された細かい機能が存在します。
現在バージョンがVer3.4にまで進化しており,アニメーションのツールキットや,パーティクルやトゥーンシェーディング,チームや観衆処理のプラグインが追加されました。それ以外にも,ドルビーデジタルに対応したRenderWare Audioや,キャラクターから車まで広い対象を念頭に開発されたRenderWare A.I.やRenderWare Physicsによって,さまざまなジャンルのゲームソフトを作ることが可能なのです。
4GN:
基本的には,「Quake」や「Unreal」のようなゲームエンジンをライセンスしていると考えて良いですか?
LK:
それはあくまでもRenderWare Graphicsという部分との競合に限定されますね。RenderWareはグラフィックス以外のエンジンも揃えていますし,グラフィックエンジンや物理エンジンを切り売りするような他社の製品を比べて,RenderWareはジャンルは何でもこなせるうえに,2Dや3Dに関わらず広い範囲に対応した,見た目がまったく異なるソフトを制作することを可能にしています。
4GN:
なるほど。
LK:
そして,もう一つのRenderWare Studioですが,これは開発チーム内での協力体制を強化するための開発システムで,プリプロダクションから品質管理までをこなすことで時間の無駄遣いを軽減させます。RenderWareは,基本的にプラグイン構造になっていますから,RenderWare Studioでもアーティスト側なら「3D Studio Max」や「Maya」を,プログラマー側なら「CodeWarrior」などのデバッギングツールをエクスポートさせることが可能なっており,レベルデザイナーもボタン一つで実際の実際のゲーム画面を表示させることができたり,オブジェクトはドラッグ&ドロップで設置できるなど,アセット管理で力を発揮します。また,違うロケーションにあるオフィスでも,それぞれの開発者が回線を使って制作できるようなことも可能なのです。
4GN:
凄いですね。なんか開発者の負担が減ってしまって,プログラマーたちを閑職に追い込むような勢いですが(笑)。
LK:
いえいえ。
時間短縮で効率が良くなる分だけ,開発者は細かい部分のチューンナップをしたり,ゲームデザインやバランスに集中して期日通りに出荷させることができるようになるのです。こうして,実際にゲームを遊ぶユーザーでさえ,間接的に恩恵を受けることができるわけなんです。
4GN:
Criterion Software社は,今年で丸10年になりますね。我々ゲーム業界の人間にとっても,ミドルウェアという言葉が頻繁に交わされるようになったのは,特にPlayStation 2がミドルウェアサポートを表明してからだと記憶していますが。
LK:
そうですね。それ以前にもPCプラットフォームをメインにミドルウェアの供給は続けてきましたが,我が社が急激に成長することになったのは,ここ4年ほどのことだと思います。
4GN:
キヤノンの100%子会社だというのには驚きましたが。
LK:
意外でしょ? 元々Criterion Software社の前身は,私と,現在技術部門を統括しているパートナーの2人が中心となっていたCannon Research Center Europeというリサーチラボだったのです。Netscape社の「Netscape Navigator」の基礎なども,我々が手掛けたのですよ。
でもCannonの方向性とは異なる分野での研究や開発だったので,1994年に完全に独立して,技術力では相棒にかなわない私が経営を任されることになりました。そして,その後しばらくしてからソニーさんからお声がかかり,PlayStation 2へのサポートを依頼されることになったというわけです。
4GN:
現在では,エンジンライセンスでは最大のシェアを誇るまでになりましたが,そのへんは先見の明がありましたね。
LK:
そういって頂けると光栄です。去年発売されたソフトの17%(タイトル数の比率ではなく,世界で販売されたソフトの割合という意味?)が,我々のミドルウェアを基礎技術に使って制作されたものなのですよ。これまでに,
150社以上で500プロジェクト近くの使用実績となります。
4GN:
例えばPlayStation 2にしろ,ゲームを開発するのに数億単位での費用が必要になるといわれていますが,それを緩和できるミドルウェアに将来性はあるのでしょうね。
LK:
最終的には,65%から75%くらいのソフトが,何らかのミドルウェアを利用して開発されていくことになるんじゃないでしょうか。
4GN:
RenderWare Platformには,まだネットワークエンジンへの対応がありませんが,今後ネットワーク方面への拡張は考えられますか?
LK:
はい。
次世代のコンシューマ機では,ブロードバンドが必須条件になっていたりするでしょうし,我々もリサーチをすでに始めています。
4GN:
ということは,ソニーもすでにアプローチを掛けているということですか?
LK:
これまでと同じように,非常に親しい連携を取り合っています(といって,後は笑顔で何も答えない)。
4GN:
自分なりに想像しておきます(笑)。最後になりますが,貴社では開発者へのサポートも綿密に行っているようですね。
LK:
ミドルウェアの会社というのは,販売会社と開発会社の中間にいるような,特殊な存在ですからね。すでに,GameOn!という開発者向けのサービスイベントをやっていて,可能性のありそうな無名タイトルを販売会社に紹介するというサポートは始めているんですよ。今後は,
資本の必要な中小開発チームへの協力とか,RenderWareのライセンスの形態を柔軟なものにすることも考慮しています。
今後,ますます開発費や開発力で差ができていくのは否定できない事実ですから,その間に介在できるのが我々Criterionの任務だと思っているのです。
4GN:
どうも,お時間をありがとうございました。
ラウ・キー氏も話していたように,ミドルウェアとはOSとソフトアプリケーションの中間に位置するハードウェア・ニュートラルなソフトウェアだ。エンドユーザーの我々にとっては必ずしも深い縁とはいえないが,間接的には非常にポジティブに働いているのはご理解できただろうか。ゲーム業界でも急成長の分野であり,そのトレンドを引率するCriterion Software社からは,しばらく目が離せそうにないのは確かなことだろう。