[E3 2003#029]ジョン・カーマック,DOOMIIIを語る - 05/16 19:18

 「DOOM」や「Quake」の開発によって,アクションゲームの新境地を切り開いたid Software社のジョン・カーマック(John Carmack)氏が,モデレーターの質問に答えるという形式の公演を行い,自らの口から新作「DOOMIII」について熱く語った。彼が何を考えてDOOMIIIを開発しているのかがか伺えるような言動も見られ,FPSファンならずとも興味が沸く。「DOOMらしい爽快感がない」とか「シングル専用なんて」などという質問にもしっかりと答えてくれたのだ。

 DOOM IIIの素晴らしさは,すでに当サイト「こちら」にもアップされているムービーデモを見ても分かるように,去年公開されたムービーのクオリティのままで,実際のゲームプレイが行われていることであろう。面白いことにカーマック氏が言うには,DOOMIIIのグラフィックエンジンについての構想を描き出したのは,今から6年前のことであるらしい。なるほど考えてみればその通りで,「Quake」シリーズはDOOMと同じく第2作めで完結しているはずだった。商業的な理由と加熱するネットワーク対戦などの諸事情により,「QuakeII」のグラフィックエンジンを再利用して,ネットワーク部分を重点的に強化して作られたのが「QuakeIII:Arena」であったわけで,このソフトが発売されるずっと以前から,DOOMIIIとして結実したプログラムは開発されていたのである。
 その最新グラフィック技術も,そもそもDOOMIIIを作ることを念頭に制作されていたわけではなく,2年前のE3での「Return to Castle Wolfenstein」の好評価にバックアップされたid Software社のほかの首脳陣が,カーマック氏の反対を押し切ってプロジェクトを通したという経緯は記憶に新しい。それでも,カーマック氏は
「6年前に予想したグラフィック環境が,ほぼ思い通りのスピードで進化している」
と語っており,どんなゲームプレイであるか以上に,テクノロジーサイドからDOOMIIIの開発進行を見守っているような彼らしい言動が多く見られた。
 実際,去年初めて映像を公開して以来,DOOMIIIにはいわゆるDOOMらしさが欠如しているという,ファンやメディアからの批評も良く耳にしていた。これについては「ゲームのペーシングが遅いのは,ホラー性を強調したゲーム(デザイン)を意識したからではなく,飽くまでも技術的な判断だった」のだとカーマック氏は話す。もし,彼が数年前から現在のグラフィック環境を予想していたのであれば,爽快感やスピード感の欠如した新作DOOMの開発に反対したカーマック氏の言動も,十分に理解できるはずだ。

 そんな顛末があったにも関わらず,カーマック氏自身はDOOMIIIにおけるゲームデザインに批判的なのではないようだ。
「現在の時点でも,グラフィックはほとんどの観衆には許容できるレベルに達しており,この以上の進化はゲームプレイにはいかなる価値ももたらさない。我々のソフトウェアをエンターテインメントとして考慮した場合,ゲームデザインの面でも,技術の披露という意味合いでも,プレイヤーにはただ単に,一つ一つのシーンをじっくりと見てもらいたいんですよ」
と,フランクに話すのが興味深かった。
 カーマック氏はさらに,「(DOOMIIIは)フォトリアリスティックなものにするのではなく,ゲームで表現されているものが一つの世界として完全にまとまったグラフィックにしたいのが目標だった」と続ける。確かに,スペキュラーハイライティングやラジオシティーライティング,さらには反映やバンプマッピングなどのテクスチャ技術をふんだんに利用してはいるが,モデリングやアニメーションが突出して優れているわけでもなく(有能な人材によって手塩がかけられているが,id Software社はマンパワーが圧倒的に不足しているのである),カーマック氏自身も「物理やAIなどは並のデキくらいじゃないかな」と告白している。
 つまるところ,"一つの世界として完全にまとまったグラフィック"の達成という目標は,光と影をどれだけコントロールできるか,ということに集約されているのではないだろうか。それは,シングルプレイヤー専用のDOOMIIIをやり終えたときに初めて,我々ユーザーが理解できるものなのかもしれない。(奥谷海人)


友達にメールで教えよう!
←Back to Daily News
←Back to News Archive