「S.T.A.L.K.E.R. - Oblivion Lost」(以下,Stalker)は,E3会場の地下部分にあるKentiaホールにあるGSCブースで展示されていたが,そのスペースに比べて17インチのモニター1台の展示と寂しい限り。期日中は技術デモのムービーが流されているのかと思いきや,同じマシンにはプレイアブルなバージョンも存在していたのである。
これは,GDCの開発陣が同言語(ロシア語)を話す背広軍団に見せていたもので,筆者は彼らが商談に去った後ですかさずチェック。残念ながら敵は用意されておらず,工場の隙間を歩き回るだけだったが,モデリングやテクスチャの細かい技を確認するには十分だったのは言及しておく。さらに,筆者の背後で「最近,僕らの間では注目してるんだよね」と会話していた男たちを見ると,「Half-Life 2」のレベルデザイナーとプログラマが立っていたのも,Stalkerの注目度の高さを物語るには十分なエピソードだろう。
さて,このゲームのタイトルで気づく人もいるだろうが,Stalkerはロシアのストルガツキー兄弟の同名小説を映画化した,ソビエト政権からの亡命者としても著名だったタルコフスキー監督の作品からアイデアを得ているという。ストーリーは,それに未来的なサイエンスフィクションのエッセンスを加えたものだが,実際にまだ生きているストルガツキー弟のほうとも連携を取りながら制作しているのだという。
ゲームの世界観は,大地に突如として直径30kmという謎の空間"ゾーン"ができ,中にいる人間たちとは交信が途絶えてしまった。軍部による20年の隔離政策の後,ゾーンの中は樹木とミュータントで覆われてしまっているのだが,そこには軍部の研究施設も点在したままだ。その中で新しい知識を得ようと密行する科学者や,残された残骸を売り払って生活しようというディーラーらが後を立たず,そんな人々の要求を請け負う"ストーカー"と呼ばれる案内人まで存在している。プレイヤーは,このストーカーとなって,実際にゾーンの中で20年前に何が起こったのかを探ることになるのだ。
後で開発者に聞いたところによると,Stalkerの世界にはミッションによるマップの区別はされておらず,一つの大きな場所でプレイすることになるらしい。つまり,FPSなのに「The Elder Scroll」のような広大な世界が再現されているのである。実際にタルコフスキーの映画がゾーンという未知の空間で「核爆発」を暗示していたように,Stalkerでの60%のマップが,チェルノブイリ事故のあった核溶炉周辺の建物や地形を模しているのである。
ゲームでは,ゾーンの中でプレイヤーが好きなように動き回り,行く先々でミュータント化した動物と戦ったり,科学者やディーラーたちからミッションをもらって活動することになる。本格的なFPSを期待しているファンにはちょっと残念かもしれないが,シューティングアクションの本流とは一線を画したゲーム性で,「Dues Ex」のような感覚になるのではないだろうか。ストーカーはプレイヤー1人ではなく,ほかにも多数存在しているらしく,ときには同じミッションで競い合ったり,協力してミュータントの一団に立ち向かわなければならない。ステルスや待ち伏せなども駆使した,さまざまなゲームスタイルが集約されているのである。
技術的にレベルが高い本作品は,nVIDIA社が提唱したCgシェイダー言語を使って開発されているらしく,GeForce GPUでは滑らかで美しいグラフィックが楽しめそうだ。発売はTHQで,欧米で第4四半期に行われる。(奥谷海人)