E3 2003の最終日(現地時間 5月17日)に,日本国内で「ロード・ブリティッシュ」として知名度が高い
リチャード・ギャリオット(Richard Garriott)氏を,同氏が所属するNC Softのブースにて発見。気さくな人柄で知られるギャリオット氏だが,この日は
「この格好は今日がデビューなんだよ」と,光沢をもつ黒い革でできた"騎士"の衣装を身にまとい,我々のインタビュー要望を快く了承してくれた(ちなみに,彼は終日"騎士姿"でE3を過ごした模様)。
さてギャリオット氏といえば,自身で1983年に設立した会社"Origin Systems"の親会社Electronic Artsを解雇されたのち,兄と共に2000年4月にDestination Gamesを設立。そして2001年5月から韓国最大のゲームメーカーNC Softと提携しているわけだが,そんな彼が数年前から手掛けているのが,
コードネーム「Tabula Rasa」と呼ばれるMMORPG(こんなそっけない呼び方でいいかどうかは別として……)である。ちなみに読みは「タビュラ・ラーサ」。
Destination Gamesの最新作として登場予定のTabula Rasaは,制作総指揮を「Ultima Worlds Online:Origin」のプロデューサーを務めていたスター・ロン氏が担当。ギャリオット氏は,ゲームシステムに関する助言をするという立場で,自身のMMORPG構想の具現化を目指す。Tabula Rasaの発表当時に彼が言っていた,
「我々の目指すゲーム世界は,"現実的なヴァーチャルワールド"というよりも"インタラクティブなテーマパーク"です」
といった構想がどれだけ反映されているのか,そしてもう一つのテーマ
「シングルプレイヤーRPGとオンラインRPGの融合」
がどれだけ具現化されているのかに注目しつつ,話しを聴いてみた。
######### 以下,ショートインタビュー ########
話し手:Destination Games リチャード・ギャリオット氏(以下,ギャリオット)
聞き手:forGamer.net(以下,4GN)
4GN:
"まさにロード"といった雰囲気でこちらも恐縮してしまうのですが(笑) では早速,Tabula Rasaの開発状況について,また我々が目にできるのはいつ頃になるのかを教えてください。
ギャリオット: オーケー。Tabula Rasaの画面は,まだプレスの人にさえ見せられる段階ではありません。NC内部ではもう動いているんですけどね。(後ろのマシンをポンと叩いて)このマシンには動くバージョンがインストールされてますよ。2003年の年末にはプレス関係者を中心に発表する予定で,2004年のE3で,正式にデビューさせる予定です。もう少しだけ待ってください。
4GN:
近付いてきましたね。あと,制作コンセプトなどは何度かお聴きしていますが,実際にゲームで採用される世界観や背景について教えていただけませんか?
ギャリオット: 端的にいうと,Tabura Rasaの世界観は「剣と魔法のファンタジー世界」ではありません。かといってスペースシップなどが登場するSFでもないんですよ。そうだなぁ……,強いて言えば「Myst」が一番近い感じでしょうか。細部に渡る綿密なこだわりと哲学,要するに我々は,ユーザーの想像力の届かない,新しい仮想世界そのものを構築しようと考えているんです。
4GN:
なるほど,"ロード・ブリティッシュの"世界観ですね。では,その興味深い世界観においてどんなシステムが実装されるのかも気になるところです。そういえば,かねてよりテーマとして掲げられている「シングルプレイヤーRPGとオンラインRPGの融合」はどのように具現化されているのですか?
ギャリオット: Tabura Rasa世界は,基本的にすべてのユーザーが出入り可能なオープンなエリア「セントラル」と,個々のプレイヤーおよびグループが冒険を行うプライベートなエリアに分割されています(編注:彼は「ハブシステム」と呼んでいた)。セントラルは"大陸"というにはちょっと狭く,……そうですね,ブリテイン(UOにおける首都)程度の大きさと考えていただいて結構です。プレイの流れは,セントラルで仲間が集めるなどしつつ(オンラインRPG),プライベートなエリアを作成,その中で冒険する(シングルプレイRPG)といったプレイスタイルになるでしょうか。
4GN:
完全にコミュニケーションエリアとクエストエリアを分割してしまう,と? それだと,プライベートエリアで物語というか,グループの冒険自体が完結してしまいませんか?
ギャリオット: そこはセントラルに存在する「ゲートウェイ」というシステムで吸収するんです。ここはいわば"シナリオを購入する場所"であり,現在トライ中の"シナリオの内容を公開する"場所なのです。というのも,このプライベートエリアには,後から来たグループも入ることができます。その場合のインフォメーション,例えば"このシナリオに付きまとうリスク"などをゲートウェイに記載しておくわけです。
4GN:
ちょっとイメージが浮かびづらいのですが……。要するにプライベートエリアに関する情報がすべて,もしくはそのほとんどがゲートウェイに記載され,すべてのユーザーに公開されるということですか?
ギャリオット: そういってもいいですね。例えばこのエリアの対象レベルはいくつで,出現モンスターはこれだとか。またPvPの有無や,そこで冒険者が死んでしまった場合のペナルティなどが閲覧できると想像されるとよいと思います。
4GN:
リスクの高いPvPエリアではこんなにレアなアイテムが入手できる,とか?
ギャリオット: そうそう,そういうことです。PvPエリアで冒険者が死ぬと,アイテムをごっそり落として,ほかのプレイヤーに身ぐるみを剥がされる(笑)
4GN:
なるほど,これまでゲーム外で,それも有志などがまかなっていた情報部分をすべてシステム側でサポートする,と。……既存のMMORPGに対しては極めて挑戦的なコンセプトですね。そしてストーリーそのものはゲートウェイをもつセントラル側にあり,しかもプレイヤーはプライベートエリアで冒険をこなすうち,意識せぬままにメインストーリーに絡んでいっていると。
ギャリオット: そういうことです。それがTabula Rasaの核心であり,最も大きな特徴だといえるでしょう。
4GN:
ストーリーといえば,以前我々のインタビューで「シングルプレイヤーRPGで体験できる最高の要素をMMORPGに」とおっしゃっていましたよね。また,MMORPGでストーリーを体験できる作品は一つもない,とも。ある意味それを具現化したと考えてよろしいのでしょうか?
ギャリオット: よく覚えていますね。それはまさにそのとおりです。
ストーリーに関してもう少し言及すると,例えば既存のMMORPGを見た場合に,あまりにもストーリーとプレイヤーがかけ離れている,というかストーリーを意識しているプレイヤーなどほとんどいないとは思いませんか? まぁこの問題は,今年のE3を見る限りどのゲームもそれなりに対処していますが,……我々にしてみれば,EQ2もMythicaも所詮ごく一部での対処であって,"付け焼刃"のようにしか思えません。
その点,Tabula Rasaは全システムにおいて,「プレイヤーとストーリーの関連付け」を意識した作りになっていると自負できます。でもそれはゲームをプレイすれば分かると思いますよ。
4GN:
なるほど,非常によく理解できます。
ギャリオット: またエリアの話しですが,先ほどの二つとは別に,ユーザーのホームポイントとなるエリアも存在します。このエリアではペットなども飼えるようにするし,内装なども自在に変更できて,家具なども……まぁ,それはまたいずれ(笑)
4GN:
楽しみにしています。では時間も押してきましたので,前から気になっていたことをお聞きします。最近お気に入りのゲームはなんですか? また一番気になっている(期待している)MMORPGは?
ギャリオット: 最近はToonTownをよく遊んでます(笑)。関係ないけど,僕のキャラクターはめちゃくちゃレベルが高いんだよ(笑)。そして気になるMMORPGはやはり(Tabula Rasaと世界観が近いであろう)Myst Onlineでしょうか。
4GN:
な,なるほど。それはそれで興味深いというか……。では最後に,4Gamer読者と日本のPCゲームファンに対して,カメラにメッセージをお願いします。
−−−−追って,ギャリオット氏自らのメッセージムービーをUp予定−−−−
4GN:
本日はお忙しい中,ありがとうございました。Tabula Rasaの完成を楽しみにしています。
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このインタビューでの,そしてTabula Rasaのポイントとなるのは,間違いなく
オープン/プライベートエリアの分割による恩恵と弊害についてだろう。確かに,既存のMMORPGでいうAnarchy Onlineなどのように,クエストを受けるたびにプライベートエリアを生成するというのは,グループ間の狩場の取り合いをなくすだろうし,サーバーシステム的にも負荷を分散できることだろう。
しかし(既存の)MMORPGにおいて
"なにが楽しいか"と問われると,"いざこざ"をも含めたユーザー間のコミュニティだったり,システムの不備をカバーするプレイヤー間のローカルルールだったりするのではないだろうか(その辺り,もう少し詳しく聴く時間がなかったのが残念)。
また,これまで有志による攻略Webサイトなどでまかなっていた情報を,すべてシステム側でサポートしてしまうゲートウェイシステムも,興味深い半面,
情報が錯綜するMMORPGの"混沌とした"魅力を失いそうで,いささか不安である。まぁ彼のことだから,ただの挑戦に終わるとは思えないが……。
さて,そんなこんなで終始気さくに,そして情熱的に語ってくれたリチャード・ギャリオット氏。日本のユーザーのこともかなり気にかけているようで,日/米プレイヤーの趣向の違いないなどもキチンと研究しているとのことだ。
ともあれ,
いましばらく"陛下"の動向に注目しようではないか。(Gueed)