●Preview#36:
Elder Scroll III:Morrowind
Text by 奥谷海人
高い自由度がウリのシングルプレイ専用RPG
果てしなく広大なマップと高い自由度を兼ね備えたRPGといえば,Betheseda
Softworks社の「Elder Scroll」シリーズの名が頭をよぎる。1990年代前半に登場した同シリーズは,「Elder Scroll: Arena」「Elder
Scroll: Daggarfall」(以下,Daggarfall)と続き,その後4年に渡る沈黙を破って新作が発表されたのが,ちょうど2年ほど前のことだ。シリーズ最新作の「Elder
ScrollV: Morrowind」(以下,Morrowind)は,それまでは地味な印象だった同シリーズのグラフィックスを一新して,完全な3D世界を実現している。
それは,「バルダーズゲート2」を第一人称視点にしたようなイメージで,かつてなかったほどのインパクトを持つ非常に美しいグラフィックスだ。樹木や岩など自然界のオブジェクトも,丸みを強調した独特の雰囲気になっており,キャラクターも含めて使用ポリゴン数の多さが見て取れるだろう。表情のアニメーションこそないものの,一般的なキャラクターなら5000ポリゴンほどで表現されているという。また,DirectX
APIの性能をフルに活かしきっており,魔法や霧などの効果は当然のこと,衣服の模様も細かく描き込まれたハイレゾリューション対応のテクスチャーも素晴らしい。
Elder Scrollシリーズは,そのマップの広大さにかけては他の追随を許さない。前作のDaggarfallは,イギリス本島と同じ面積の大陸が存在し,1万以上の町や村,そして数万人ものNPCが登場するなど,まさに桁違いの大きさを持つゲームであった。ただ,その"大きさ"が問題になっていたのも事実で,例えば町やダンジョンなどの地域差が失われてしまっていた。そのためMorrowindでは,マップ自体の大きさを開発チームが管理しやすい程度まで若干縮小している。もちろん,だからといってDaggarfallファンが悲観する必要はない。Morrowindのマップには,未だに多数の町や村,そして300近くのダンジョンが存在するし,何より一つひとつの場所が非常にユニークに描かれているからだ。とくに,酒場に転がるボトルから本棚の書物に至るまで,オブジェクトの精巧な描写を実現できる3Dグラフィックスの特性を活かして,オーガニックな現実的世界に仕上げられているのは素晴らしい。
その好例となるのが,ゲームに登場するテルヴァンニ(Telvanni)族の村で,村民が巨大なマッシュルームの家で生活している。このテルヴァンニは,以前から魔法を愛するソーサラー種族として知られ,前作でもマッシュルームを使って魔法を繰り出すエピソードもあることなどから,Elder
Scrollファンならヨダレものの描写だといえるだろう。とにかく,大陸中に散らばるインペリアル軍のゴツゴツとした石の砦や家屋とは非常に異なる風貌の地域も多く,一度ゲームをプレイし始めれば,異世界に迷い込んだような感覚を得られるはずだ。
独特で自由度の高いキャラクターシステム
Morrowindの基本的な部分はシリーズの伝統をしっかりと受け継いでいて,プレイヤーは好みのプレイスタイルに沿って,自分のキャラクターを成長させていくことができる。とくにゲーム開始時点でのキャラクターメイキングはユニークで,ストーリー仕立てなのが面白い。
ゲームは,プレイキャラクターが捕虜輸送船の床に寝転がっている場面から始まる。ここで周囲の人たちと会話することが,キャラクターメイキングの代わりとなっているのだ。通常のRPGなら,基本的にこちらから話しかけて会話を進めるが,このシーンでは逆に向こうから質問される。それに対する解答によって,自分のキャラクターの名前,種族,性別,アトリビュートなどが決定していく趣向になっているのだ。
また,Elder Scrollではプレイキャラクターに13種類の"星座"の加護がつくことになっている。修行僧座(The
Apprentice)ではマジック能力に特典が付いたり,国主座(The Lord)なら体力に回復能力が加わるものの火炎系魔法に弱くなるといったような,キャラクターの能力に作用する生まれながらの特性であるといえるだろう。これによって,プレイキャラクターを育てていく道筋も,おのずと決まっていくことになるかも知れない。
もちろんひとたび地上に降り立てば,どの職業を選ぶのも自由。プレイキャラクターはどんなスキルでも学習できるし,職業による防具や武器の規制もない。ただ,生き残っていくためには,いろんなスキルを体得するのではなく,特定の職種を重点的にマスターしなければならないのは明白だ。いずれにせよ,自分の目指す職業に合ったギルドに加入し,様々な陣営の手助けをしていくことで,キャラクターを成長させたり高価な武器を買うための資金を得ることになる。プレイキャラクターの種族や,どの陣営と仲がいいかでNPCの態度が変わる趣向になっていて,これで自由度の高いゲームにありがちな緩慢な会話システムを回避しているようだ。
バード(吟遊詩人)など,戦闘的でない職種を選んだ場合はNPCと戦わなくてもいいようになっている。相手から戦闘をけしかけてきたときでも,会話することで丸め込んだり,ポーションなどで相手を戦闘不能な状態にすればいいのだ。また,NPCが見ている近くで,プレイキャラクターが無益な殺生を行ったりすれば,ガードが飛んできて逮捕されることだってある。賄賂を渡して見逃してもらうこともできるが,手持ちの金がなくて捕まってしまえば,しばらく暗い牢獄でプレイキャラクターのパラメータが下がっていくのを見ているしかないなど,ちょっとシビアな作りになっていたりもするのだ。
Morrowindは,第1人称視点ばかりでなく,プレイキャラクターの全体像を背後から追う第3人称視点のカメラモードでもプレイできる。また,基本的にはキャラクターの進行方向によって武器の振り方が変化するようになっている。さらにマウスボタンを押し続けることによって,フルチャージの状態で剣を振り下ろしたり,ナイフなら連続して"突き"を出せるのだ。ただし,激しい攻撃を続ければスタミナが消耗して動けなくなるので,敵の攻撃もかわせるように防御のレベルも上げておくべきだろう。
Morrowindのマジックシステムは,Daggarfallと同じような仕組みで,例えば攻撃用の魔法と,範囲などの効果を指定する魔法を組み合わせるようになっている。魔法には宗派の概念があり,破壊(Destruction),変形(Alteration),幻想(Illusion),祈祷(Conjuration),神秘(Mysticism),復活(Restoration)の6派が存在する。マジックユーザーを目指すなら,この中の一つの宗派に属さねばならず,それによって魔法の得意不得意が出てくるのだ。ゲーム中に用意されている魔法は130種類程度で,さらにスペル系やポーション系などに別れている。
作り込まれた世界への旅
本作のタイトルにもなっているモロウィンド(Morrowind)とは,巨大帝国(The
Empire)に支配されたタムリエル(Tamriel)大陸の北東に位置する地域の呼称で,古くからダークエルフ族が闊歩してきた土地である。
実際の冒険の多くはモロウィンドで行われることになるはずだが,シリーズ伝統のノン・リネアー(一本道ではない)形式のストーリーはより洗練されていて,タムリエルのどこへ行くのもプレイヤーの自由だし,行く先々にクエストも用意されている。"アドベンチャー外伝"と呼ばれる1999年発売の「Elder
Scroll: Redguard」の舞台,帝国の中西部にあるハマーフェル(Hammerfell)などシリーズではお馴染みの懐かしい場所を探検してまわるだけでも面白いだろう。
モロウィンドの地勢についても説明しておこう。北部地方を占めるのがヴァーデンフェル(Vvardenfell)という島で,中央部はレッドマウンテン(Red
Mountain)という火山を擁した過酷な火山島である。最近になって,この島の南西部にある第一の都市ヴィヴェック(Vivec)が近代化し,中央地域との文化交流が始まったという設定だ。また,すでにこの地域にはインペリアル軍の勢力も伸びているので,あちこちで植民地や砦を守る衛兵たちの姿を見ることができる。プレイヤー自身も,インペリアル軍には比較的受け入れられやすく,軍下に属する職業ギルドに入隊して仕事を得ることが可能である。
しかし,ヴァーデンフェルは未だに固有文化に守られた,排他的な民族習慣も持っている。アッシュランダー(Ashlander)と呼ばれる放浪民族がいるばかりか,"ダンマーの偉大なる家系"と名付けられた王族が幾つも存在しており,彼らの信用を勝ち取ることも必要になってくるだろう。これらの家系には,好戦的なロドラン(Rodoran)家や,先に記載したソーサラーたちによるテルヴァンニ家,そして自由貿易などで国力の向上が目覚しいハール(Haalu)家があり,この地域では彼らを中心にした政治が運営されているようで,ヴィヴェックの市内も王家の勢力によって細かく分断されている。ヴィヴェックは,街中を歩き回るだけでも1日はかかろうかという大きなものになっており,改めてMorrowindのスケールのデカさを思い知らされる。
さて,ゲームの大まかなストーリーはというと,ヴァーデンフェル島で発生したカルト教団を中心に展開していく。この力をつけ始めた教団が,レッドマウンテンの火山を利用して強大な魔力を呼び起こそうという企みを,プレイヤーが阻止しなければならないのだ。このメインストーリーのみで,クリアするのに40時間ほどの時間が費やされることになるはずだが,そのほかにも無数のサブクエストも用意されており,プレイヤーを飽きさせない。もちろんこれらのサブクエストは,メインストーリーが終わってからも続けることが可能だ。エンディングの後は火山の爆発によってタムリエル大陸の広範囲で地形や気象状態が変化してしまうそうなので,まったく違うゲームのように感じられるかもしれない。
それに加え,Morrowind発売時には,自分でシナリオなどを作ることができるツールが公開されることになる。これは,The
Elder Scroll Construction Setと呼ばれており,新しいマップを作ってMorrowindの世界を拡張したり変形させるばかりでなく,新しいダンジョンや,パターンを組み合わせることで何億種ものプレイキャラクターやモンスター,マジックアイテムなどを作成することも可能だ。Windows用のプログラムなので,カットやペースト,アンドゥなどもメニューから行えるなど,初心者でも使いやすくなっているのも魅力。この,RPGには珍しいツールの実装には,多くのファンが歓喜しており,すでに「指輪物語」や「Everquest」をテーマにしたMODを作成しようという有志グループもできあがっているほどなのだ。
そのスケールの大きさがに期待されているElder ScrollV: Morrowindは,アメリカでは4月中の発売が見込まれており,大きなヒットとなりそうな予感もある。公式ガイドブックなどが付いたコレクターズエディションに加え,Xboxでも発売される予定だ。シングルプレイ専用ゲームながら,自由度の高さとゲーム作成ツールが,今後どのように支持されていくのかは見物である。
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