「Flyyff Online」

Nam, In Hwan氏 ■Nam, In Hwan氏プロフィール■
1970年,韓国ソウル生まれ。高校3年生の頃に韓国初の"ハングル版RPG"である「神剣の伝説」(Apple用)を一人で開発して販売したという,伝説的な人物。エンターテイメント全般に大きな関心を寄せており,「Homo Videocus」という映画に主演したことも。1995年にRPG「神剣の伝説2」を開発,1998年にはディアブロ風SFアクションRPG「Alien Slayer」を開発してアメリカなど海外へも進出する。そして2001年からはMMORPG「Arcane」を開発/サービスしてMMOのノウハウを培い,2004年に「Flyff Online」をサービスインし,好評を博す。現在Aeon Soft社のCTOを務めている。

韓国で最初の商用ゲーム開発者が
自信を持って送り出す,
"空飛ぶMMORPG"という意欲作

 日本と比べてゲーム産業の歴史が浅い韓国において,17年間ずっとゲーム開発に携わってきたというのは,驚くべきことだ。高校生の頃からゲームを開発し,今でもゲーム業界の最前線で活躍しているNam, In Hwan(ナム インファン)氏は,日本の中村光一氏(初期の"ドラゴンクエストシリーズ"や"トルネコの大冒険シリーズ"で有名な中村氏も,やはり高校3年のときに「ドアドア」を開発して話題になった)と比較されることも多い。
 幼い頃に"ウルティマシリーズ"の面白さに魅せられたNam氏は,高校を卒業後,大学に進学するという平凡な生活を諦めて(編注:韓国は日本以上の学歴社会で,大学進学率はここ数年常に6割を超えている),当時韓国では未踏の地だったゲーム開発者の道を選んだという,バイタリティ溢れる人物。彼は,自分のことを"監督"と呼ばせる。ゲーム開発者でなければ映画監督になりたかったという彼は,ゲームも映画のように制作するという意味で,"Nam, In Hwan監督"と称しているのだ。
 韓国ゲーム業界屈指のカリスマであるNam監督は,いつも自分の作品に大きな自信を持っている。そのため普段はあまりゲームの説明を行わず,ゲーマー達に対しては「とにかく一度プレイしてほしい」と言うだけだ。そんな彼に,新作MMORPG「Flyff Online」(フリフオンライン)に関して語ってもらった。

Flyff Onlineが,
"空を飛ぶMMORPG"になったわけ
〜"空"という縦軸にある空間を使わなければ,
本当の意味で3Dを表現できないと思うんですね〜

Kim, Dong Wook(以下,4G):
 お久しぶりです。確か2001年に「Arcane」のサービス中に会って以来だから,3年ぶりですね。その間も,いつもNam監督の動向には注目していましたよ。

Nam, In Hwan(以下,Nam):
 こんにちは。お久しぶりです。

4G:
 いつも独特のゲームを企画するNam監督ですが,"空飛ぶMMORPG"という新作「Flyff Online」の開発を始めるきっかけはなんだったのでしょうか?

Nam:
 実のところ,その当時,発表されるMMOがどれも似たようなコンセプトを持つことに,呆れていたんですよ。そこで私自身も,"真の3D MMORPG"ということについて,深く考えてみました。そうするうちに,次のようなイメージが頭に浮かんできたんです。

 とある放浪者の前に,突然,巨大な飛行艇が"ドカン!"と落ちてくる。放浪者は考える,この飛行艇はどこから来たのだろうか? 誰が乗っているのだろうか? どうして墜落したのだろうか? どこへ飛ぼうとしていたのだろうか? 私もこの飛行艇に乗ることができるだろうか……。

 この,"初めて見る飛行艇に魅せられた放浪者の考え"のイメージから,すべての企画を始めたんですよ。

4G:
 実にNam監督らしいイメージですね。

Nam:
 既存の多くのMMORPGが,"3D MMORPG"を標榜しています。しかし私は,"空"という縦軸にある空間を使わなければ,本当の意味で3Dを表現できないと思うんですね。そこで私は,この"空"を利用した,従来のMMORPGとは違う"新しい3D MMORPG"を追い求めたんですよ。

4G:
 なるほど。監督らしい明確なコンセプトがあって,開発がスタートしているのですね。確かにここ最近,明確なコンセプトのない,似たようなMMORPGが多すぎた気がします。しかもその手のものは,ほとんどは失敗してしまいましたね。

Nam:
 ええ,そうですね。ただ私達は,成功するためには,独特のコンセプトを打ち出すだけではなく,同時に大衆性も維持しなければならないと考えました。既存のMMORPGと明確に違う"特徴"と,受け入れられやすい"大衆性"の両方を満足させることが,現在の韓国オンラインゲーム市場で成功するキーポイントだといえるからです。

4G:
 この,一見相反する二つの要素は,どんなバランスで取り入れているんでしょうか?

Nam:
 私達は悩んだ末,MMORPGが基本的に持っていなければならないさまざまなゲームシステムを維持したまま,何か強烈なインパクトを持つ"プラスα"が必要だという結論に至りました。このプラスαが,"空を飛ぶ"という要素になったのです。

4G:
 なるほど,従来のMMORPGを踏襲しつつ,空を飛ぶというアイデアが追加されているわけですね。それが,最初の放浪者と飛行艇イメージにつながると。この放浪者と飛行艇についてもう少し教えてください。

Nam:
 すべてのプレイヤーが,最初はこの放浪者という立場(クラス)でプレイします。放浪者は,自分が知りたいことを知るために自らを鍛錬して成長し,そのうち飛行することを覚えるでしょう。
そして空中に住むモンスターと戦うようになり,ほかのプレイヤー達と空を舞台にした大規模戦闘を行い,いずれは過去に自分の前に現れた飛行艇に関する疑問を解いていくのです。
 まぁこのあたりを詳しく知りたい人は,Flyff Onlineをプレイしてみてください(笑)。

 

これまでにない
MMORPGを作るための苦労について
〜飛行という"自由"を与えるために,
それなりの"対価"が必要だったというわけです〜

4G:
 ゲームの舞台が空にまで拡張されたことで,ゲーム自体の世界が非常に大きくなったという印象を受けます。ほかのMMORPGに比べて,やはり作りが複雑になっているのでしょうか?

Nam:
 システムやバランス,マップ構成などには,とくに苦労させられましたね。またゲームシステム自体にもたくさんの制限が生じました。飛行という"自由"を与えるために,それなりの"対価"が必要だったというわけです。
 私達は,移動に対する制限については,最初から無視しました。自由に飛行できる本作では,どこへでも行けなければならないのです。そのため単なるジャンプも,5メートル以上も可能にしたんです。
 しかし"自由"には,常に"責任"がつきものです。自由にどこでも行ける本作では,上空と地上の間のバランスを取るのが非常に大変でした。

4G:
 飛行といえば,本作では昔懐かしい"魔法使い"と"ほうき"の組み合わせで空を飛べますよね。これはもしかして,人気の「ハリー・ポッター」の影響を受けたのでしょうか? それとも何か別にインスピレーションを得たものがありますか?

Nam:
 ハリー・ポッターの影響はありますね。ほかにも,かなり多くの作品からインスピレーションを得ていますよ。代表的なのは,宮崎駿監督の映画「魔女の宅急便」を始め,「スター・ウォーズ」「ナイトメア・ビフォア・クリスマス」といった映画,それと「ファイナルファンタジー」「アリス イン ナイトメア」といったゲームですね。ただ,どれも"空を飛ぶ"というコンセプトに関する影響だけですね。

4G:
 従来のMMORPGにはない本作の特徴を挙げるとしたら,やはり「飛行」ということになるんでしょうか?

Nam:
 ええ,そうです。ほかにも特徴はたくさんありますが,どれもまだ完璧ではないので,個人的には現時点で特徴といえるのは,飛行,飛行戦闘,飛行艇戦闘など,ほかのMMORPGにはない空に関する部分です。

4G:
 私としては,"劇団"(編注:一般的なMMORPGでいうパーティ。詳しくは日本公式サイト内の「こちら」)という概念も十分特徴的だと思います。これは,Nam監督が映画に興味があることから採用したのですか?

Nam:
 いや,それだけの理由ではありませんよ。MMORPGには必要不可欠なパーティという要素を,独特に表現してみたかったのです。
 例えば一般的なRPGでパーティを組むのって,単にそのほうが"狩り"をするうえで効率がいいからですよね。本作の場合はそれより一歩前進して,パーティを組むことの利点として,劇団を組むことで使用可能なスキルというのを用意したんですよ。ただすぐにそれらのスキルを使えるわけではなくて,劇団を組んでしばらくのうちは,"単幕劇団"(最大4人)として,その劇団自体の経験を積む必要があるんです。

4G:
 確か本作の場合,劇団単位で経験値やレベルが存在するんですよね。

Nam:
 そうです。団長(パーティリーダー)が権限をほかの団員に渡さないままログオフするか,解散を宣言するまでは,それら劇団の持つ値は保持されます。で,単幕劇団がレベル10になれば,初めて"巡回劇団"(最大6人)にアップグレードでき,さまざまな劇団スキルが使用可能になるんです。
 巡回劇団になれば,スキルが使えるだけでなく劇団名を付けることもできますよ。

4G:
 その巡回劇団も,やはり団長が解散させれば,終わりなんですか?

Nam:
 そうなります。劇団はギルドではなく,あくまでパーティですからね。基本的にはその日のプレイごとの存在なんですよ。
 またパーティプレイでちょくちょく問題になる経験値やアイテムの分配に関しても,本作の劇団では細かく設定可能で,プレイヤー達の不満が最小限に抑えられます。これらのことは,私にとってはさほど大したことではないのですが,一応特徴といえるかもしれませんね。
 ちなみに韓国版では現在,巡回劇団とは別にちゃんとしたギルドシステムも実験中です。こちらもお楽しみに。

4G:
 こういう特徴をサラッと「大したことがない」といえるのは,Nam監督だけですよ(笑)。ところで,Nam監督のこれまでの作品を見ると,少し宗教的というか,哲学的な思想がゲーム中に込められていたと感じます。また,監督が敬愛するウルティマシリーズの雰囲気も感じ取れたのですが,このFlyff Onlineではどうですか?

Nam:
 正直にいえば,過去の作品(パッケージゲーム)は私の好みに合わせて自由に作っていた部分が強いですね。しかしオンラインゲームの時代になって以降は,私が好きな芸術的な趣向にこだわっていては,一般には受け入れられにくいと判断しました。
 そのため,本作の企画の初期段階は,私のスタイルとはそぐわない部分もあって,とても大変でした。最終的には,一般層にアピールでき,かつ私自身も納得できるラインを見つけることができたんです。

4G:
 なるほど,ずっとゲームを作り続けてきたNam監督ならではの苦労があったわけですね。では,Flyff Onlineの開発で,一番苦労した部分はどこですか?

Nam:
 やはり,"空を飛ぶ"ことを具現化する部分と,それによるゲームバランスを取るところです。

4G:
 これまでに例のないことを行うわけですから,大変ですよね。ちなみに本作の開発には,どれくらいのスタッフと予算がかかっているんでしょうか?

Nam:
 開発スタッフは,企画担当が3人,グラフィックス担当が12人,プログラム5人,テクニカルサポート3人の計23人で,開発費用は今までで約20億ウォン(約2億円)にのぼりますね。
 うちのスタッフには,昔から私と一緒にゲームを開発してきたベテラン開発者が多く,チームワークの良さではどこにも負けませんよ。

 

日本でも8月18日から正式サービス開始!
〜韓国のオンラインゲームの持つ無限の可能性を,
本作を通じて,日本でも証明したいと思っています〜

4G:
 さて,日本でも8月18日から正式サービスが始まりますが,日本でのサービスインに向けて重点を置いた部分はどこですか?

Nam:
 日本のゲーマーは,演出や雰囲気といったものにこだわる人が多いのではないでしょうか。そのため日本サービスにおいては,演出部分(音声バージョン,松原秀典氏によるイラストなど)に重点を置いて作業しました。こういう部分は,完全に日本に合わせたローカライズなんですよ。

4G:
 日本のゲーマー達は古くからコンシューマ機のゲームに親しんでいますから,演出も重要な要素なのは間違いないですね。ところでNam監督は,日本のゲームには詳しいのでしょうか? 何か好きなゲームはありますか?

Nam:
 日本のゲームでは,任天堂の"ゼルダの伝説シリーズ"が一番好きです。あれは,本当に凄いゲームですよ。何せ,短所を見つけられないですからね(笑)。

4G:
 韓国の開発者達が,日本の開発者に比べて不足している部分があるとしたら,どこだと思いますか?

Nam:
 韓国の開発者達に足りない部分というか,日本のクリエイター達の凄いところは,ゲームの企画力と,その演出力,そして一番重要なのが,ゲームをあらかた作ったあとの"仕上げ"の能力です。これらは,韓国の開発者達が学ばなければならない部分だと思っています。

4G:
 なるほど,よく分かりました。それでは最後に,本作に期待している日本の読者にひと言コメントをお願いします。

Nam:
 韓国のオンラインゲームの持つ無限の可能性を,本作を通じて,日本でも証明したいと思っています。これからも,日本市場に合うように十分にローカライズを行っていくことを約束します。
 みなさんが飛行艇に乗って,空で大規模な攻城戦を繰り広げるところを想像してみてください。これは,夢ではありません。もうすぐみなさんの目の前で実現するんです。ぜひ期待して待っていてください。

4G:
 ありがとうございました。

 

 韓国で最も長くゲームを開発してきたNam氏は,同時に,韓国で最も長くゲームについて考えてきた人物といえるだろう。その彼が自信を持って送り出すFlyff Onlineが,ようやく日本でも正式サービス開始となる。
 韓国を代表するゲームクリエイターといえるNam氏のゲームが,日本でどれほど受け入れられるか,同じ韓国人としても非常に気になるところだ。空を自由に飛べる,真の意味での"3D"MMORPG。機会があれば,ぜひ一度遊んでみてほしい。

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