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印刷2020/04/13 00:00

業界動向

Access Accepted第643回:ValveがSteamの販売成績などの情報を開示

画像集#001のサムネイル/Access Accepted第643回:ValveがSteamの販売成績などの情報を開示

 2020年2月の段階で月間アクティブユーザー数約9500万人を誇り,約3万4000という豊富なタイトルラインナップを抱えるValveのゲーム配信サービス「Steam」。お世話になっているゲーマーも多いはずだが,これまでValveは秘密主義を貫き,例えば年間何千本もリリースされるタイトルのうち,どれくらいの本数がどれくらいの販売実績を挙げているのかといった情報はほとんど出してこなかった。そんな中,北米時間の4月7日,「ヒット」の輪郭がつかめそうなデータが開示されたのだ。


ベールに包まれていたSteamのデータ



 オンライン配信サービス「Steam」を運営するValveは,これまでSteamでの販売本数などのマーケット情報を開示してこなかったため,多くのユーザーやゲーム業界関係者はSteamで販売されるタイトルの動向について推測するしかなかった。

 そこで,Valveが公開している「Valve API」を利用して,登録されているSteamプロフィール情報から無作為に8〜9万件(1日あたり)の動きをチェックし,販売本数やプレイデータを収集するサイト「SteamSpy」が登場し,重宝されるようになった。「SteamSpy」は,統計学に詳しいフリーライターのカイル・オーランド(Kyle Orland)氏が2014年に開発した「Steam Gauge」というプログラムを使っており,その年の集計成果が発表されたGDC 2015のセッションレポートは,かなりの読者に読まれたようだ。

これまで多くのコアユーザーやゲーム開発者,広報担当者などが利用してきた「SteamSpy」。現在でもその利用価値は高いが,Valveがようやくデータ開示を始めたのは嬉しい話だ
画像集#003のサムネイル/Access Accepted第643回:ValveがSteamの販売成績などの情報を開示

 その後,「SteamSpy」の運営はEpic Gamesで東欧ゲーム市場を担当していたセルゲイ・ガルヨンキン(Sergey Galyonkin)氏に引き継がれたが,2018年に入ってValveはプライバシー保護を理由にSteamプロフィールの仕様を変更。情報開示を「フレンドのみ」または「非公開」に設定することを可能にし,その結果,SteamSpyの統計が取りづらくなってしまったのだ。
 ガルヨンキン氏は2018年4月,今後の運営が困難になったことをTwitterで述べていたが,SteamSpyは集計システムを変えながら現在も運営されている。

 このように,Steamの情報の公開については神経質なところを見せていたValveだったが,北米時間の4月7日,公式サイトに「Data Deep Dive: How are new releases on Steam performing?」(データディープダイブ:Steamにおける新規リリースの販売成績)と題した最新エントリーを公開して,Steamでは初とも言えそうな情報公開を行ったのだ。
 個々のタイトルの販売本数などを紹介しているわけではないが,さまざまなデータをかみ砕いてまとめたような内容になっており,とくに「ローンチ以降2週間」とされている新作ソフトが,どのような状況を示しているのかが明らかにされている。

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データディープダイブ:Steamにおける新規リリースの販売成績


 さて,Valveが開示した情報の話題に入る前に,ここでSteamのこれまでの状況を簡単にまとめておきたい。Steamが急激な成長を見せ始めたのは,2014年頃のことだ。当時のことは,2015年9月7日に掲載した本連載の第472回「『Steam』が世間に広めたサービスを改めて考える」で書いたが,2012年頃にアーリーアクセス(日本語版Steamでは「早期アクセス」と呼ばれる)を導入してゲーム開発途中の段階からコアなファンの支援を得たり,「Steam Greenlight」によってValveの審査ではなくファン投票で販売タイトルを決定したりなど,さまざまな施策が功を奏した印象だ。

 タイトル数で見れば,2014年には,2013年(565本)の3倍以上となる1771本の新作タイトルがリリースされている。それ以降,まさにうなぎ登りに急増し,ゲーム販売の新たな申請システム「Steam Direct」が導入された2017年には7673本。さらに2018年には1年間で8234本もの新作が発売されたとValveが発表している。
 もっとも,2019年の新作数は8290本と微増にとどまり,ようやく「濫造」とも言えるトレンドも落ち着いてきたようだ。


Steamでの成功の目安は「2週間で1万ドル」


 さて,Valveが公開したグラフの1つ「収益別ゲーム数」を見てみると,発売後の2週間で1万ドル以上を獲得する作品が2019年に初めて1000本を上回ったことが分かる。この「2週間で1万ドル以上」というのが「ヒット」の最低基準だとValveは見ているようだ。このレベルに達したゲームは,その後の12か月でさらに2万ドル〜6万ドル以上の利益を得るという。
 今回の情報を補完するドキュメントも公開されており,それによれば,2019年に2週間で5000ドルを売り上げた作品は約1450本で,5万ドルは約600本,10万ドルは約420本となっており、25万ドル(約2700万円)の売り上げを得た作品は約290本とのこと。こちらも,年を追うごとに右肩上がりで本数が増えている。

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 Free-to-Playの対戦ゲームなどは,もっと長いスパンで見る必要があるかもしれないが,ここで気になってくるのが,Valveが新作を「2週間以内の成績」で判断していることだ。パッケージが主体だった頃のゲーム市場では,発売から「6週間以内」が新作ゲームの定義だった。毎日数十本ものタイトルがリリースされるSteamでは妥当な期間なのかもしれないが,ゲーム開発者が数年もかけて作った作品の旬がわずか2週間とは,なにやら切ない話だ。このあたりの事情については――自分の書いた記事の引用ばかりで気が引けるのだが,2019年3月22日に掲載したGDC2019のセッションレポートに詳しいので,目を通してほしい。

 25万ドル以上を売り上げた約290本のうち,「ひと山当てた」インディーズゲームの割合なども気になるが,残念ながらそれは発表されていない。ヒットの大半は,大作をリリースするような大手パブリッシャや,”ちょっと気になる“人気シリーズを抱える中堅のパブリッシャが占めていて,インディーズゲームはそれほど多くはないのかもしれないが,グラフを見ると,2014年以前のトレンドから予想される数の倍以上の成功作品(下のグラフの緑色の部分)が生まれていることになり,少なくともヒット作の数は増えているはずだ。また,25万ドル以上の利益を得たゲームの数は,2013年と比較して3倍以上にも達したと述べられている。

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 個人でゲームを作る場合,本格的な作品に仕上げるには数年はかかるし,アートワークやBGMを外注した場合の経費やSteamに支払う費用も必要なので,例えば1年間で6万ドルを得られたからといって,楽に生活できているとも言い切れない。
 GoG.comやitch.lo,Epic Gamesストアなどでのリリースも必要になるだろうし,スマートフォンやコンシューマー機向けの移植を考える必要もありそうで,インディーズゲームの開発者は,優れたゲーム開発者である以上に,優れたビジネスマンであることが求められているのかもしれない。

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 ただ,Valveによれば,2019年にリリースされたゲームの「最初の2週間の売り上げ中央値」は,2018年に比べて24%上昇したとしており,収益そのものは増えてるいるようだ。また,2013年以前のデータと比較しても,タイトルのジャンルが大きく異なっているため,そのまま数字だけを比較することは無意味であると説明する。そのうえで,2018年と2019年で,24%も中央値が上昇したのは,「Steam Direct」という新しいシステムがユーザーに受け入れられ,より魅力的なゲームが販売されるようになったからだと述べている。

 新型コロナウイルスの感染拡大による外出禁止や自粛要請,休校などによって,人々がゲームをプレイする時間は増えており,Steamでは,2019年9月の段階で同時アクセス者数が1415万人だったが,2020年2月以降は飛躍的に伸びており,2020年3月には同時アクセスユーザー数が2000万を突破,直近の4月10日には2300万人に達している(関連リンク)。
 Valveは,今後もこうした統計を積極的に開示していくとのことで,彼らの持つビッグデータが我々に何を伝えてくれるのか,非常に興味深い。

著者紹介:奥谷海人
 4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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