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Access Accepted第661回:MicrosoftによるBethesda Softworksの買収を考える
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印刷2020/10/05 00:00

業界動向

Access Accepted第661回:MicrosoftによるBethesda Softworksの買収を考える

画像集#001のサムネイル/Access Accepted第661回:MicrosoftによるBethesda Softworksの買収を考える

 Microsoftが,「Fallout」シリーズや「The Elder Scrolls」シリーズでおなじみのゲームメーカー,Bethesda Softworksの親会社であるZeniMax Mediaを買収したというニュースがゲーム業界で話題を集めた。かなりの高額買収で,しかも日本での知名度も高いメーカーであるだけに,驚いたファンも少なくなかったはずだ。しばらく大きな変化はなさそうだが,MicrosoftとBethesda Softworks,今回の買収でお互いにどのようなメリットがあるのかを考えてみたい。


Microsoftが75億ドルでZeniMax Mediaを買収


 2008年のE3直前に開催されたMicrosoftのメディアブリーフィングは,発売から2年半を経過して,コンシューマー機としての円熟期を迎えていた「Xbox 360」向けの,さまざまなタイトルが登場した注目すべきイベントだった。そのオープニングステージを飾ったのが,Bethesda Softworksのエグゼクティブプロデューサーであるトッド・ハワード(Todd Howard)氏であり,発表されたのは,大ヒットを記録することになる「Fallout 3」だ。ハワード氏がE3のプレスカンファレンスという大舞台に登壇したのは,これが初めてのことだった。

 今から34年前の1986年に設立されたBethesda Softworksだが,そのメディアブリーフィングまでは,PCゲーマーに比較的なじみのある中堅どころのメーカーという印象だった。同社は1999年にZeniMax Mediaに吸収されているが,ZeniMax Mediaを設立したのはBethesda Softworksの設立者であり,これは,Bethesda SoftworksをPCだけでなくさまざまなプラットフォームに対応させるための戦略的な措置だった。
 コンシューマ機向けの自社開発が本格的に行われたのは「The Elder Scrolls IV: Oblivion」で,2006年3月,Xbox 360版がPC版と同時発売されている。以降,「Fallout」シリーズや,「The Elder Scrolls」シリーズはコンシューマ機市場でヒットを記録し,Bethesda Softworksは躍進を遂げた。

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 北米時間の2020年9月21日,Microsoftが75億ドル(約7800億円)で,そんなBethesda Softworksを抱えるZeniMax Mediaを買収したことが発表され,ゲームコミュニティや業界内外を驚かせた。全額をキャッシュで支払うという報道もあったこの買収金額は,Activisionが2013年にVivendiからBlizzard Entertainmentを買収した際の82億ドル(約8700億円)には及ばないものの,Microsoftの買収としては,LinkedInとSkypeのケースに次ぐ規模となる。「Minecraft」のMojang(現Mojang Studios)の買収額と比較すれば,約3倍に相当する高額買収なのだ。もちろん,ゲーマーにとっては金額の多寡よりも,Bethesda SoftworksというおなじみのブランドがMicrosoftのものになったことが大きな驚きだったろう。

 発表直後のコミュニティからは,「Fallout」「The Elder Scrolls」だけでなく,「DOOM」「QUAKE」「Rage」「Wolfenstein」「Dishonored」,そして「サイコブレイク」や,今後リリースされる予定の「Ghostwire: Tokyo」「Deathloop」「Starfield」といった新規IPが,Xboxフランチャイズのエクスクルーシブタイトルになるのではないかという声が聞かれた。とくに「Ghostwire: Tokyo」と「Deathloop」は(PC版は予定されているが)PlayStation 5のエクスクルーシブタイトルになると発表されていただけに,過敏に反応したファンも少なくないようだ。

 もっとも,以前に比べれば最近のMicrosoftは「独占」についてそれほどこだわらない姿勢を見せており,例えば「Minecraft」は買収後もマルチプラットフォーム展開を行っている。今回の買収についてもファンの反応をあらかじめ予測していたようで,北米メディアのBloombergのインタビュー記事で,Xbox部門を統括するフィル・スペンサー(Phil Spencer)氏は,「Ghostwire: Tokyo」と「Deathloop」は買収前の契約を尊重すること,そして「Starfield」以降のタイトルについてはケースバイケースであると述べている。合わせて,Bethesda Softworks,id Software,Tango Gameworksなどはブランドとして名前を残したうえで,独立してゲーム開発を継続すると表明しており,少なくともしばらくは,ドラスティックな何かが起きることはなさそうだ。

Xbox Liveでトークが公開された,MicrosoftとBethesda Softworksのキーマン達。右上から時計回りに,Xbox部門を率いるフィル・スペンサー氏,Bethesda Softworksのエグゼクティブプロデューサーのトッド・ハワード氏,Bethesda Softworksのマーケティング&広報担当副社長のピート・ハインズ(Pete Hines)氏,そして,MCを務めたXbox Liveディレクターで広報担当のラリー・リブ(Larry Hyrb)氏
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Microsoft,Bethesda Softworks,双方の思惑


 Microsoftのパブリッシング部門がここ数年,買収攻勢をかけているのは,本連載の読者ならよくご存じだろう。
 2000年代初めはそれほどでもなく,2001年に「Forza」シリーズのためにTurn 10 Studiosを設立したり,2002年に「Sea of Thieves」「Killer Instinct」「あつまれ!ピニャータ」などで知られるイギリスのRareを買収したりした程度だった。2007年には「Halo」を開発したBungieがMicrosoftから再独立したため,343 Industriesを設立して「Halo」シリーズを引き継がせ,また2010年にはEpic Gamesから「Gears of War」のIPを買い取って,新たに立ち上げたThe Coalitionに任せたりしている。
 2014年には「Minecraft」のMojangを買収したが,必ずしも大型タイトルの獲得にアクティブだという印象は少なかった。

 ところが2018年にはそれが一転し,E3のメディアブリーフィングで,「The Outer Worlds」などのObsidian Entertainment,「Hellblade: Senua's Sacrifice」のNinja Theory,そして「State of Decay」のUndead Labsなど,6社の買収を発表。2019年には「Psychonauts」といったコミカルなアドベンチャーゲームで知られるDouble Fine Productionsを買収している。もっとも,顔ぶれを見れば,ビッグタイトルというよりは強固なファン層を持つマニア好みの作品を作るデベロッパが多いのだが,姿勢の変化は明らかで,この時点で傘下のスタジオも15社に増えている。

Bethesda Softworks傘下の8スタジオ2支部を加え,合計で25の開発チームがMicrosoftの傘下に加わった。買収の話し合いは,2020年夏から始まっていたという
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 そして,今回のZeniMax Mediaの買収により,Bethesda Softworksのゲーム開発を担当するBethesda Game Studiosのほか,Alpha Dog Games,Arkane Studios,id Software,MachineGames,Round Studios,Tango Gameworks,そしてZeniMax Online Studiosが加わることになる。Bethesda Game Studiosは,カナダのモントリオールとテキサス州のダラスにもサテライトスタジオを持ち,これらを合計すれば,Microsoftの傘下スタジオは25社にまで一気に増えた。

 興味深いのは,これほどの陣容を誇るにも関わらず,11月の市場投入が予定されている次世代コンシューマ機「Xbox Series X」のローンチタイトルに,ファーストパーティの大型新作がほとんどないことだ。343 Industriesの「Halo: Infinite」の延期が痛いが,新たに加わったBethesda Softworks系列の作品では,マルチプラットフォーム展開されている「DOOM Eternal」のDLC「The Ancient Gods」が間に合うぐらいで,現在発表されている作品のリリースは2021年以降となる。

 こうしたことから,Microsoftの買収劇は,必ずしも「Xbox Series X」のバリューを高めることだけが目標ではないと思われている。フィル・スペンサー氏が「Xbox Wire」のエントリーで述べるところによれば,Microsoftのサブスクリプションサービス「Xbox Game Pass」のライブラリを拡充することが高額買収の意図であるようで,そうだとすれば,非常に長いスパンを見据えた投資ということになるだろう。

 一方で,今回の買収はBethesda Softworksにとってどのようなメリットがあるのだろうか。
 同社の看板タイトルである「Fallout」と「The Elder Scrolls」シリーズはこれまで,独自開発のゲームエンジン「Creation Engine」にこだわって開発されてきた。しかし,「Fallout 76」の発売当初にはバグの多さが批判されており,その影響もあってか,「Creation Engine」を使った新作「Starfield」のグラフィックスについてもファンの評価が分かれている。
 設立以来,従業員の定着率が高い家族的なスタジオ運営を貫いてきたBethesda Softworksだが,それゆえ,次世代コンシューマ機に対応できる技術を持ったスタッフを新規で雇いづらくなっているのではないかと筆者は思う。実際,この10年ほどで開発メンバーは400人ほどに成長しており,さらなる拡充はしづらいだろう。トッド・ハワード氏が今回の買収について自分の思いを綴った公式ブログを読むと,「Starfield」や次の「The Elder Scrolls」の開発について,Microsoftの助力を期待しているような節が窺える。

「The Elder Scrolls VI」の登場はまだ先になりそうだが,Xboxフランチャイズのエクスクルーシブタイトルになるのだろうか?
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 Sony Interactive Entertainment Worldwide Studiosはここ数年のうちに,「グランツーリスモ」のPolyphony Digitalや「Marvel’s Spider-Man」のInsomniac Studios,「ゴッド・オブ・ウォー」のSanta Monica Studio,「Horizon Zero Dawn」のGuerilla Games,「Dreams Universe」のMedia Molecule,そして「Ghost of Tsushima」のSucker Punch Productionsなど,絶大な人気を獲得するゲーム開発ができる強力な傘下スタジオ群を構築し,多くのファンに支持されている。任天堂も,ここに改めて書くまでもなく,強力無比な独自IPをいくつも保有している。

 Microsoftは,こうした部分でほかのメーカーに比べ戦略的に遅れを取っている印象だったが,今回のBethesda Softworksの買収で状況は変わっていきそうだ。
 プラットフォームホルダーにとって,ゲーマーを惹きつける魅力的なエクスクルーシブタイトルは何よりも重要だ。次世代コンシューマ機の先に見えるサブスクリプションサービスやクラウドゲームサービスなど,将来的なビジネスを考えても,今回のBethesda Softworksの買収はMicrosoftの戦略に大きな影響を与えるだろう。今後も注目していきたい。

著者紹介:奥谷海人
 4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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