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Access Accepted第674回:ゲームが牽引するメタバースという近未来
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印刷2021/02/01 00:00

業界動向

Access Accepted第674回:ゲームが牽引するメタバースという近未来

画像集#001のサムネイル/Access Accepted第674回:ゲームが牽引するメタバースという近未来

 映画「マトリックス」や「レディ・プレイヤー1」など,「仮想空間」を舞台にした映画や小説は数多い。そうした仮想空間がさらに進化した「メタバース」は,「インターネットの次にやってくるもの」とも言われており,もしかすると,実現する日はそう遠くはないかもしれない。今週は,そんなメタバースの未来像を考えてみたい。


開催された「メタバース」専門のイベント


 北米時間の2021年1月27〜28日,IT関連の情報を専門に扱う海外メディアVentureBeatが主催するデジタルイベントが開催された。「Into the Metaverse」と題されたこのイベントは無料公開されていたが,FacebookやUnity Technologiesなどをスポンサーとする中身の濃いものだった。すべて英語なうえに,ほとんどスライドを使わないマイクロイベントであり,新型コロナウイルス感染症の拡大がなかったら,小さなイベントスペースにさほど多くない業界関係者を集めて行われていたはずだ。

IT情報サイトのVentureBeatでゲーム関連情報を扱うセクションGamesBeatは,ゲーム業界でよく知られる日系アメリカ人ジャーナリスト,ディーン・タカハシ(Dean Takahashi)氏がプロデュースを担当し,上の写真のように,2019年までイベント「GamesBeat Summit」を開催していた(2020年はオンラインで開催)。新型コロナウイルス感染症拡大の影響で,「Into the Metaverse」のようなマイクロイベントが増えている
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 「Into the Metaverse」のテーマは,タイトルどおり「メタバース」だ。ゲーマーである読者の皆さんに今さらメタバースを説明するのは釈迦に説法だが,「メタ」(meta)とはもともと,「後に」を意味する古代ギリシャ語に由来する言葉で,そこに「別次元の」「高次な」といった現代的な意味が付け加えられるようになった。「バース」(Verse)は「ユニバース」の意味で,つまり,現実を超えたもう1つの世界という感じだ。近い意味を持つ「サイバースペース」は,一般用語化して「インターネット」の同義語として使われることが増えたため,ゲーム/IT業界関係者はメタバースのほうを好んで使っている。

 メタバースという言葉が最初に使われたのは,1992年に発表されたSF小説「スノウ・クラッシュ」で,それはインターネットに作られた仮想空間だったが,やがて「インターネットの次に来るもの」といった意味に拡大されていく。著者のニール・スティーヴンスン氏は,当時すでに公開されていた「ハビタット」を知らなかったようだが,小説が発売された数年後には「ウルティマ オンライン」(1997年)を嚆矢としてMMORPGというゲームジャンルが急速に立ち上がっていく。MMORPGが「スノウ・クラッシュ」のメタバースにかなり近いコンセプトであるのは間違いなく,ある意味,ゲーマーは過去20年間以上にわたってメタバースを誰よりも早く享受していたわけだ。

メタバースという言葉と未来のソーシャルネットワークのコンセプトを生み出した小説「スノウ・クラッシュ」は,現在HBOでドラマ化が進められている
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 今のところメタバースに明確な定義はないものの,それが「現実的で継続性を持つ世界」で,「すべての人が共有できる体験とコミュニティ」が存在し,ミッションをこなしたり自分のサービスを提供したりすることで,「生活できる世界」ならメタバースっぽい,というイメージを多くの人が持っているのではないだろうか。

 さて,「Into the Metaverse」の座談会形式のセッションを聞いていると,現在の業界関係者が考えるメタバースはさらにハードルが上げている印象で,「robust simulation(堅牢なシミュレーション)が実現すれば」という表現が幾度も使われていた。VentureBeatのゲームセクションであるGamesBeatの以前の記事を読むと,robust simulationという言葉は,既存の「Physic Simulation」(物理シミュレーション)を超えた,まだ実現できていないアイデアや技術を含むシミュレーションの方法,といった文脈で使われているようだ。


メタバースの実現を阻むハードルとは?


 ニール・スティーヴンスン氏でさえ,「スノウ・クラッシュ」から10年も経たないうちにMMORPGの全盛期がやってきて,さらにその後,VR対応のヘッドマウントディスプレイを使った没入性の高い世界が楽しめるようになるとは想像できなかったように,今後,どのような形でメタバースが実現していくのか,予測するのは至難の業だ。

 とはいえ,我々ゲーマーはすでにMMORPGやVRゲームだけでなく,例えば「Pokémon Go」「Minecraft」「Microsoft Flight Simulator」といったタイトルで現実世界に隣接するメタバースの一端を体験し始めている。ゲーム以外でも,FacebookやTwtterといったSNSに広がる世界も現実世界に影響を与えるメタバースだろう。最近はあまり話題にならないようだが,2000年代に大きな注目を集めた「セカンドライフ」は,参加者が専門的な講義や美術鑑賞,お色気イベントなどを自由に楽しめたほか,スポンサー企業のマーケティングが行われ,数多くのイベントが開催されていた。
 直近では2020年4月,外出自粛を強いられるゲーマー達を盛り上げようと,Epic Gamesが「フォートナイト」でコンサートを開催した。人気ラッパーのトラヴィス・スコットさんが出演し,巨大サイズのスコットさんを参加者全員が特等席で楽しむというシュールな世界が繰り広げられたが,バトルロイヤルゲームとはまったく異なる趣旨のイベントを,1230万人もの人々が楽しんだのは,1つの大きなマイルストーンだろう。

2020年4月に「フォートナイト」で開催された,トラヴィス・スコットさんのコンサート。2019年にも,DJのマシュメロさんのコンサートが行われ,このときも1000万人以上のプレイヤーを集めている。ゲーム世界をゲーム以外の目的で使うことは,「フォートナイト」以外にもあちこちで行われている
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 もちろん,バラ色の未来だけが我々を待っているわけではない。「サイバーパンク2077」のベースとなったテーブルトークRPG「サイバーパンク 2.0.2.0.」を制作したマイク・ポンドスミス(Mike Pondsmith)氏は,「Into the Metaverse」のインタビューセッションで,「SNSで検閲が行われる現状から見て,“ブレインダンス”を行う準備はまったくできていない」と述べる。ブレインダンスとは,記憶さえ収められた他人のメモリーチップにアクセスし,他人の記憶を疑似体験するというサイバーパンク世界のテクノロジーで,ポンドスミス氏は技術面ではなく,とくにモラル面での準備不足を挙げていた。
 ポルノ映像に別の女優の顔をAIで埋め込むディープフェイク(フェイクポルノ)が世界的に問題視されているが,不正アクセスやこうした悪用をいかに防止するかという仕組みも同時に作られていかなければ,メタバースの普及は難しくなるはずだ。

 「Into the Metaverse」では,Epic Gamesのティム・スウィーニー(Tim Sweeney)氏が別の角度からメタバースのあるべき姿を提起している。スウィーニー氏は「(メタバースに入ってくる)個人から大企業まで,誰もが平等に参加できなければならないでしょう。私達の暮らす民主国家の基本原則に基づいた仮想空間を構築していかなければ,永続的な自由や自由な経済活動を手に入れることはできないはずです」と話す。つまり,MMORPGや「セカンドライフ」がメタバースではないのは,そこが運営企業の所有物である閉鎖的な空間だからだという。

「Into the Metaverse」に登壇したEpic Gamesのティム・スウィーニー氏(右)。「メタバースが実現して,ブロックチェーン化された個人情報を自分で管理できるようになればいいね」など,思いつきとも呼べそうなアイデアが次々に飛び出し,なんとも想像力をかきたてられた
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 スウィーニー氏は,2017年からメタバースについて盛んに語るようになってきた。背景には,その年にリリースされた「フォートナイト」が当初,4人のゲーマーが参加できるクローズドなCo-opだったのに対して,直後に導入されたバトルロイヤルモードの参加人数が多かったこと,さらにクロスプラットフォームに対応することで大きく成長したことがある。そのため,「開かれたプラットフォーム」に対しては誰よりも積極的であり,そのことは,Epic Gamesストアの利益率をライバルより下げたり,iOSプラットフォームのビジネスモデルについてAppleと争ったりという姿勢にも現れている。来たるべきメタバースも,そうあるべきだというわけだ。

 「フォートナイト」と「Minecraft」が同じ世界を共有し,誰もが等しく参加できるような世界というのは,現段階では雲をつかむような話だが,そこにビジネスチャンスを見いだして,実現に向けた努力を続ける優秀な人々がいることも事実だ。ブリーディングエッジ(超最先端)な技術を享受する消費者として,我々ゲーマーが時代の最先端にいるのは間違いない。ほんの30年ほど前にはインターネットなど夢のような話だったのだから,今後の展開にも注目すべきだろう。

著者紹介:奥谷海人
 4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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