業界動向
Access Accepted第689回:E3 2021ポストモーテム 〜 “ニューノーマル”に適応するパブリッシャたちの奮闘劇
日本時間の2021年6月13日から16日にかけて,完全デジタル化したゲームイベント「E3 2021」が開催された。同時期に開催が始まっている「Summer Game Fest」の前半戦とも重なり,5月末からの3週間ほどはプレス向けのプレビューイベントを含めて,筆者はずっとゲームについて考え,書き続けていた。そんな発表会の数々を振り返ってみると,デジタル化が進む“ニューノーマル”に対応したメーカーと,そうでないメーカーの明暗が分かれた印象だ。
パブリッシャイベントの中で光った“ショーケース”
26年目にして初めて完全なデジタルイベントとして,6月13日から4日間の日程で行われた「E3 2021」が終了し,11日から断続的に続けられてきた「Summer Game Fest 2021」の前半戦もようやく一息ついた。
思えば,5月に入ってからは,Paradox Interactiveの「PDXCON Remixed」(関連記事)のようなイベントが断続的に続いており,6月終盤になってようやく小休止といったところだが,この後7月19日から開催される「Game Developers Conference 2021」や,なぜか同時期にバッティングしている22日の「EA Play Live」,さらには8月のgamescom 2021や9月の東京ゲームショウなど,新作ゲーム情報は定期的にアナウンスされていくことになるはずだ。
この時期のゲームイベントとしては,プラットフォームホルダーであるソニー・インタラクティブ・エンタテインメントが足並みを揃えておらず,サードパーティのパブリッシャの発表に委ねるに留まっていたのは残念なところ。
同社は,何十タイトルもの新作を次々と発表していく夏のカンファレンスを取りやめ,特定のゲームに対象を絞り込み,1〜2か月に1度くらいのペースで具体的なゲームプレイの内容を紹介していく「State of Play」という,シリーズ化されたミニデジタルイベントにシフトしている印象だ。これもSIEがポストコロナ時代の“ニューノーマル”※に適応しようとしている表れかもしれない。
※COVID-19/新型コロナウイルス感染症の影響で変化した,以前とは異なる日常や社会慣習
では,ゲーム業界における“ニューノーマル”とはいかなるものなのか?
それは,一部のプレス向けに事前公開されていた「Day of the Devs 2021」の主催メーカーの1つ,iam8bitの創業者であるジョン・ギブソン(Jon Gibson)氏が,イベントに先立って独立系デベロッパ専用のイベントを開催することの意義を説き,「以前のDay of the Devsはイベント会場の一部でタイトルを見せ,数日間かけて1万人が興味を示してくれればラッキーだった。昨年(2020年度)にデジタル開催したときは400万人ものゲーマーが世界中から視聴してくれた」と話していたこともからもうかがえる。
Day of the Devs 2021は,20作ほどのフィーチャータイトルを1時間半,つまり1本あたり4分ほどのペースで淡々と紹介していくというわかりやすいスタイルだ。
このようなイベントは業界的には「ショーケース」と呼ばれており,すでにアナウンスされているようなものを含む,ゲームショウよりは軽めのお披露目の場だ。より多くのゲーマーにアプローチするためには有益な機会機であり,小難しいゲームシステムやストーリーなどの解説は省き,視覚的にアピールしたり,Discordなどでコミュニティへの参加やSteamでのウィッシュリスト追加を促すことに主眼を置いてきているように思えた。
より暴力的ではないインディー作品を集めて14日に公開されたデジタルイベントの「Wholesome Direct」も,そんなショーケースの1つだった。マイナーな作品も多いためかアメリカ時間の土曜日開催にも関わらず,8万人程度のライブ視聴に留まってはいたが,フィーチャーされたタイトルにはそれなりの宣伝効果はあったはずだ。
時間があれば本誌で紹介してみたいタイトルもあったので,時期をずらしてくれさえいれば……という気持ちが強いが,大手パブリッシャに多いカッコいい系ではなく,ほのぼのとしたカワイイ系のイベントとしても,他のイベントと比べて異彩を放っていたのは間違いない。
ニューノーマルにおけるゲームイベントの在り方
COVID-19のワクチン接種が,世界的に思うように進んでいなかった今年初めころの実情を踏まえ,多くのイベント主催者がデジタル発表をどのようなスタイルで行うべきかを,パブリッシャと共に熟考したはずで,その答えとも言うべきトレンドが,「消費者にわかりやすく映像で見せるショーケース」であったのだろう。
例年なら,E3のような大会場で行われる注目作のお披露目イベントは“ビハインド・ザ・クローズド・ドア”,つまりメーカーが用意した個室でデモが披露される形で行われてきた。作品の完成具合や,開発者とのインタビューの有無で時間は異なるにせよ,一日あたり数十〜数百人のメディアにデモを見せ,遊ばせ,それを起点とした情報が一般消費者に向かって伝播されていく。そういうシステムが,時間をかけて構築されてきた最善策であった。
メーカー側にとっては信頼できるメディアを選び,プレミア感を伴えるくらいの情報の起点で抑えることがより効果的だったり,ジャーナリストやメディア側にとっては,どのタイトルの個室デモに潜り込めるか,そこでの体験をどれだけアウトプットできるかが手腕であったりという相互の関係性が“オールドノーマル”(と便宜的に呼ぶ)のイベント対応であり,動画情報が少しずつ一般的になってからも健在だった「ゲーム発表の在り方」なのだが,ニューノーマルではここが大きく変化した。そして,この変化に対するアプローチがメーカーによってずいぶん違っていたというのが,今年,今現在までのイベントに接して筆者が感じた,大まかな温度感である。
「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド 2」や「スーパーロボット大戦30」などのユニークなタイトルを武器に,今回のE3 2021ではなんと310万ビューという驚異的な数字をたたき出した任天堂の「Nintendo Direct and Nintendo Treehouse: Live」は,ある意味これまで同社が追求してきたデジタル配信を継承したものだった。一方,230万ビューを獲得したマイクロソフトの「Xbox & Bethesda Games Showcase」も,「Forza Horizon 5」や「Starfield」など傘下スタジオの新作を中心に30作を紹介し,E3らしいお祭り感の感じられるデジタルイベントに昇華させていたもので,ひと括りにオンライン配信と言ってもメーカーのアプローチは相当異なっている。番組作りというか,こういったノウハウや成果がまた積み重なって,ニューノーマルのスタンダードが磨き上げられていくのだろう。
カプコンやスクウェア・エニックスなど日本のパブリッシャが人気IPをひっさげて高いプレゼンスを示していた半面,どこか試行錯誤の途上のように見えたのがUbisoft Entertainmentの「Ubisoft Forward」で,かなりの時間をアニメ化されるIPの紹介など,本来のゲームとは直接関係ない「メディアカルチャー」全般に費やし,これが一部のゲーマーの不評を買ったようだ。
パネルセッションを行ったTake-Two Interactiveにいたっては,「今後の同社のゲームはマイノリティにもスポットライトを当てる」という内容に終始し,ゲームそのものに触れられることはなかった。
グローバルなエンターテインメント産業においては,企業カルチャーを紹介し,開発チーム内の雇用状況の改善や,ゲームキャラクターの表現で人種的・性的マイノリティにも重視することをアピールし,メーカーとしてのアイデンティティを確立していくのは重要なことであるが,これは本来ならメディア向けイベントだとか開発者会議のセッションで語られるべき内容だ。
Take-Two Interactiveのパネルセッションは30分ほどだったが,新作の1つや2つのアナウンスに絡めて行っていたら,新作情報に期待していたゲーマーたちの評価も異なるものになっていただろう。
どれがE3でどれがSummer Game Festなのか,メディア側の人間まで混乱していた今夏の発表会だが,「Phantom Abyss」のDevolver Digital,「Sable」のRaw Fury,そして「Lake」のWhitethorn Digitalのようなインディ系パブリッシャの,複数のイベントを利用した見事な立ち回りには驚かされた。
例えば「Phantom Abyss」は,「Day of the Devs」でトレイラーを公開し,その中で「6月中のリリース」を表明,自社イベントである「Devolver MaxPass+ Showcase」で6月22日のアーリーアクセス発売開始をアナウンスし,そしてSteam Nextフェスタ会期中の22日にしっかりとローンチしてしまっている。
4Gamerの対応を振り返ってみると,それぞれのイベントごとに計3回の記事を掲載しており,数百タイトルが公開されていた期間にもメディア内には定期的に情報が立てられていたことになる。こうした広報戦略は天晴れだし,これぞニューノーマル対応と思えるものだった。
最後に。こと日本においてはライブ配信時間が早朝に集中しており,相当なマニアでもなければ,徹夜をしてまでリアルタイムで情報は追わなかっただろうう。また,リアルイベントとは異なり,そもそもの1次ソースが100%メディアにも一般にも共通で解放されている状況は,メディア側にとっても試行錯誤の事態であったが,情報の咀嚼という形である程度時間を凝縮したものを,多くの読者が目を覚ませば新規の発表があふれている状況として楽しめたのではないかと思う。本誌編集部のいつも以上の努力と,国内外の同業者たちの健闘を素直に称えたい。
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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