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Access Accepted第717回:Activision Blizzardの買収合意に絡みインサイダー取引疑惑が浮上
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印刷2022/03/14 11:00

業界動向

Access Accepted第717回:Activision Blizzardの買収合意に絡みインサイダー取引疑惑が浮上

画像集#006のサムネイル/Access Accepted第717回:Activision Blizzardの買収合意に絡みインサイダー取引疑惑が浮上

 2021年にカリフォルニア州政府から,セクシュアルハラスメント疑惑に絡んで訴訟を起こされたActivision Blizzardは,半年後の2022年1月にMicrosoftとの巨額買収合意をアナウンスした。しかし,自殺した元従業員の親族から告訴されていることに加え,今回インサイダー取引の疑惑までが報道されるなど,まだまだ混乱は続きそうだ。


連邦政府がインサイダー取引疑惑で調査を開始


 2022年1月18日に,Activision BlizzardがMicrosoftと約687億ドル(約7兆8742億円/同日時点)という巨額で買収合意に至ったというニュース(関連記事)が駆け巡った。一株あたり95ドルとして見積もられての計算となり,下手をすると小国の国家予算規模の金額を捻出できるMicrosoftの財力にも驚くばかりだ。
 法的に買収が認められるのは,SEC(米国証券取引委員会)による審査の完了時期となる2023年第2四半期(4〜6月)ごろになる予定だが,カリフォルニア州政府によるセクシュアルハラスメントなど劣悪な労働環境について訴訟を起こされて以降は,一株60ドル前後に低迷していた株価が,この買収計画発表後に一気に80ドルを超えるほどに跳ね上がった。

2023年には「コール オブ デューティ」シリーズの新作がリリース「されない」かもしれないという報道もあるActivision Blizzard(関連記事)。20周年となる記念の年だが,その動向が気になるところだ
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 この株価の急上昇に関連して,アメリカ財界の名士3人が,インサイダー取引に絡んで,アメリカ連邦政府からいくつかの疑惑に関する調査を受けていることが,ウォール・ストリート・ジャーナル(英語オンライン版)などで3月8日に報じられた。対象になっているのは,バリー・ディラー(Barry Diller)氏アレクサンダー・フォン・ファステンバーグ(Alexander von Furstenberg)氏,そしてデイヴィッド・ゲフェン(David Geffen)氏だ。
 ディラー氏は,四大ネットワークの1つであるFOXの創設に携わった人物として知られるメディアタイクーンであり,フォン・ファステンバーグ氏はドイツ貴族(母は有名ファッションデザイナー)直系の投資家,そしてゲフェン氏はゲフェン・レコーズの創設者であり,ドリームワークスをスティーヴン・スピルバーグ監督と共同設立しているなど,そうそうたる顔ぶれである。

Activision Blizzardの株価の推移 (3月11日まで)。過去,アタリショックが発生する1983年の直前に,Atariのワーナー・コミュニケーションズ(現ワーナーメディア)による買収に関してインサイダー取引が取り沙汰されたことはあるが,疑いは後に晴れており,ゲーム企業間の買収に際して実際に刑事事件になったケースは筆者の記憶にない
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 記事によると,3人はActivision Blizzardの買収合意が発表される直前の1月14日に,J.P.モーガン・チェイスの特別取引により,Activision Blizzard株を一株あたり40ドルにて大口購入し,合計で6000万ドル(約69.6億円)の利益を得たとされる。現在のところ,ディラー氏は「ラッキーな投資に過ぎない」と一切の関連を否定し,フォン・ファステンバーグ氏は以前から行っていたActivision Blizzard株の買い増しに過ぎないことなどをメディアに対して発言しているが,ゲフェン氏はディラー氏と年齢も近い旧友であることは知られ,フォン・ファステンバーグ氏はゲフェン氏の娘婿であるなど,互いの関係はかなり近い。

 「インサイダー取引疑惑」とされている以上は,Activision Blizzardの内部事情に詳しい人物との関わりが焦点になっているはずだが,Activision Blizzardの現CEOであるボビー・コティック(Bobby Kotick)氏は,コカ・コーラ社の顧問の1人としてディラー氏とつながりがあることがすでに指摘されている。コティック氏を含めた4人はハリウッド周辺で長きにわたって近しい友好関係を育んでいたと思われるが,企業買収で巨額の投資が絡む際,インサイダー取引に関する調査が行われるのは珍しいことではない。そのため,今回の調査も問題はないと結論付けられることは十分にあり得る。
 しかし,コティック氏がMicrosoftに初めて買収の話題を持ちかけたのは2021年11月19日だったことは知られており,発表までの2か月間に情報が洩れてもおかしくはないと疑惑の目を向けられても不思議ではないだろう。


さまざまな訴訟問題が吹き上がるActivision Blizzardの現状


 本誌3月1日付けのニュース記事(関連記事)でも紹介したとおり,Microsoftとの買収合意に関してActivision Blizzardの同社取締役会は現在,一般株主から訴訟を受けている。上記で紹介した案件に加えて,現在までに少なくても6件の訴訟を受けており,今後は集団訴訟に発展していく可能性が高い。

1991年にActivisionを買収して以降,この“ゲーム業界最古のサードパーティパブリッシャ”を率いてきたボビー・コティック氏。まだ彼自身がインサイダー取引に関する調査を受けているわけではないものの,四面楚歌の状態になりつつある
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 株主たちの怒りはもっともだろう。先に述べたように一株95ドルという買収案は一般株主にとっても損益が最小限に留められた金額ではあるものの,問題発覚前は1株あたり100ドルを超えていたのだ。そもそもActivision Blizzardの幹部が企業体質の改善に真剣に乗り出し,カリフォルニア州政府が訴訟を起こす前に昇進や給与における男女格差を是正していれば,「コール オブ デューティ」「World of Warcraft」「Diablo」「オーバーウォッチ」,そして「キャンディ・クラッシュ」といった数々の人気作を抱えていた同社の株価も,その業績に準じてアップし,投資家を満足させる未来があったかもしれない。
 しかし,11月29日に掲載した「第706回:セクハラ問題に揺れるActivision Blizzard。BlizzardのみならずActivisionにも疑惑の影」関連記事)でも詳しく解説したように,2021年7月に告訴されて以降も,経営陣と従業員の溝が埋まることはなく,コティック氏に対する辞任要求も内外から高まっていた。

 また,上記の3月1日付けニュースのとおり,コティック氏自身は650万ものActivision Blizzard株を保有しており,その売却分だけで6億1900万ドル(約712億円)に達する。さらに,買収が正式に認められて役職から降板する際にもボーナスを受け取って辞めていくというのだから,「経営陣に金のパラシュートが与えられた」と揶揄されても仕方がない。

 Activision Blizzardはさらに,自殺した従業員の家族からも告訴されている。ワシントンポスト(外部リンク)が伝えるところによると,2017年4月に発生したとされるこの事件では,財務部で働いていた32歳の女性がホテルリゾートで自殺したというもので,彼女の上司だった男性がその場で性行為を強要して目の前で自殺を目撃しながら,警察には2人が恋愛関係にあったなど嘘の供述をしていたことが訴訟内容に記されている。この女性は社内のトイレで隠し撮りされた被害を訴えていた女性と同一人物である。

 今後,Activision Blizzardのイメージを回復していくのは,MicrosoftとActivision Blizzardに残った従業員たちの手腕と奮闘によるが,ここまで事態を悪化させた経営陣の責任は問われることになるのだろうか。仮にインサイダー取引が証明されたとしたら,それはこれまで同社を支えてきた株主たちや組織への背任行為であり,CEO退任だけでは済まされない刑事事件へと発展していくことになるはずで,今後も注目していくべき事案である。

Blizzard Entertainmentは,新規人材雇用という形式で新作の開発をアナウンス(関連記事)。マイク・イバラ(Mike Ybarra)氏体制になって以降,労働環境改善に向けた社内改革も公表されている(関連記事
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著者紹介:奥谷海人
 4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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