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印刷2022/04/11 11:00

業界動向

Access Accepted第720回:キャンセルとなったE3 2022。大きく変わる大規模ゲームイベント

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 過去,四半世紀にわたってゲーマーをエキサイトさせてきたゲームイベント「E3」が,今年は現地での開催のみならず,オンライン開催も含め中止となってしまった。パンデミック以前からパブリッシャ離れが進んでいたE3だが,昨年は何とかカタチになったという印象のオンラインイベントもメーカー側の食いつきは悪かったようで,今後の新作発表の行われ方に対するさらなる変化の兆しでもあるだろう。


“ゲームの祭典”として君臨してきたE3


画像集#001のサムネイル/Access Accepted第720回:キャンセルとなったE3 2022。大きく変わる大規模ゲームイベント
 ゲーム業界の最重要イベントの1つとして,1995年の第1回から長きにわたって開催されてきたE3(Electronic Entertainment Expo)が,2022年は現地での開催のみならず,オンライン開催も含め中止となってしまった。これは,Razor Storeの広報担当を行うウィル・パワーズ(Will Powers)氏が,「ESAからメールを受け取った」として自身のTwitter(外部リンク)で明かしたことなので,まだ運営元であるESA(Entertainment Software Association)から正式な発表があったわけではないものの,ESAの公式メンバーや過去に展示/取材ブースを設置したことのある海外メディアなどが,このメールの存在を肯定している。

 E3の名前は知っていても,ESAについては聞いたことがないというゲーマーも多いかもしれないが,ESAはCES(Consumer Electronic Show)の運営団体から分離する形で1994年に誕生した,Interactive Digital Software Associationを前身とする業界団体だ。CESでは家電メーカーの展示会の一角に新作ゲームが展示される程度のものだったが,ゲームビジネスの規模が拡大するにつれて不満が募り,また,クリスマス商戦後の展示ではほとんどマーケティングに効果がなかったことから,ゲーム業界は独自イベント開催の道を模索していたわけだ。

 成立初期のE3は,まさに「ゲームの祭典」という言葉がピッタリと似あうイベントだった。大きなスクリーンでは新作ゲームのプロモーション映像が流れ,着ぐるみのキャラクターやコンパニオンガールたちがブースを彩り,そのブースから放たれるまばゆい光はディズニーランドとラスベガスをギュッと凝縮させたようなイメージの華やかさを演出した。
 少しでも参加者の気を惹こうと音楽やマイクのボリュームを大きくするので,隣あったメーカーがボリューム合戦で不仲になったこともある。取材する我々も説明している人の声が聞こえないし,最終日には声をガラガラにさせているデモ担当者が可哀そうだと思ったことが何度もあった。
 E3は筆者のような取材陣にとっても1年の起点となる重要なイベントだったし,多くのゲーマーにとっても初夏の風物詩として,来るのが楽しみなお祭りだったのではないか。

筆者が所有している,最も古いE3エキスポフロア画像がE3 2002のもの。前年に初代XboxをローンチしたMicrosoftだが,この写真からはまだPC向けゲームが主力だったことがうかがえる
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 2010年代になるとブロードバンド化が進み,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染が拡大する以前からすでに,E3の存在そのものの意義が問われていたのは,例えば「第541回:E3 2017取材を終えて。誰のためのゲームイベントなのかを考える」関連記事)あたりの連載記事を読めばわかっていただけると思う。
 インターネットでイベントや発表の様子を同時中継できる時代となって,もはやメディアの取材を介して情報を消費者に伝達するのではなく,メーカーがファン層に向けて直接発信できる環境が出来上がったのだ。そのことは,さらに2年遡る「第464回:変革期を迎えたE3 2015を総括」関連記事)で記述したように,YouTubeなど映像ストリーミングサービスとのシナジー効果を生み出し始めた頃から顕著になっていた。
 プラットフォームホルダー規模の展示ブースを設けるためには,決して安くはない出展費をESAに支払い,それを元手にESAはロビー活動を行っていたわけだが,広告という面においては,その費用対効果が薄らいでいたのは疑いない。


ファンに直接アピールする時代の到来


 こうしたイベントの広告手段の変化に対していち早く動いたのが任天堂だった。同社は,2011年10月からデジタルイベントである「Nintendo Direct」を定期的に放送するようになり,「Wii U」が発表されたE3 2012を最後に,大型プレスカンファレンスを開催しなくなっている。“ダイレクト”と言う名前から,ファン目線を明確に打ち出した先見性を推し量ることができるだろう。

 任天堂は必ずしもE3そのものへの参加を取りやめたわけではなかったが,この流れに続いたのがElectronic Artsだった。こちらはエキスポフロアでゲームを展示するのではなく,2016年からE3と同時期に会場の近くで,(当時のE3では入場が許可されていなかった)一般来場者が自由に楽しめる専用エリアも用意した「EA Play」という独自イベントを開催している。ESAとは完全に袂を分かつ形で,パンデミック以降も「EA Play Live」として,E3とは時期をずらしてのデジタルイベントを開催している。
 さらに,ソニー・インタラクティブエンタテインメントがE3 2019への参加中止を表明し(関連記事),「ゲーム業界の進歩に伴い,我々は,より革新的でゲーマーが楽しめる手段でコミュニティにアプローチする方法を模索する」とアナウンスし,離れたことで,E3は名実ともに古いフォーマットのイベントとなった。

E3 2016に先だって行われたUbisoft Entertainmentのプレスカンファレンスの一幕。この時は同社にとっての設立30周年にあたり,華やかで楽しそうな演出が目立った。こうした劇場型のプレスイベントは次はいつのことになるのやら……
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 そんな2019年末,それまでE3でも特設イベントのホストを務め,「The Game Awards」という年末イベントをまとめ上げてきたジェフ・キーリー(Geoff Keighley)氏が,E3 2020の時期に合わせて独自のオンラインイベントの開催をアナウンスする。COVID-19によってE3 2020の開催そのものが取り止めになったことも追い風となり,「Summer Game Fest」は一気にゲーム業界の重要イベントへと駆け上がった。
 そして,昨年はE3 2021とSummer Game Fest 2021がほぼ同時に開催されるという事態になった。やはり注目を浴びるのはAAA級のビッグタイトルなのだが,「エルデンリング」の発売日がどちらのイベントで発表されたのかなど,今となっては覚えている人もそれほどいないだろう。

E3 2021のスケジュール。今年は,この多くがSummer Game Festに吸収されるか,独立したデジタルイベントとして開催されると思われる
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 この2年を超えるパンデミックの間に,ほとんどのパブリッシャはライブ配信やデジタル発表などのノウハウを蓄えており,「オンラインでやるなら金を出して他人の土俵で発表する必要もない」と考えている企業も少なくはないだろう。当然,今後さらにデジタルイベントが細分化していく可能性は十分にある。わざわざ6月の時期に合わせなくても,もっと言えば,発売の2年以上も前に未熟なアルファ版をベースにしたゲームプレイ動画を公開しなくても,より適切な時期に開発者のスケジュールにストレスを与えない形で公表すれば良いわけだ。
 一方で,注目タイトルをいくつも抱えるメーカーなら,独自イベントも成立するが,インディーズタイトルを手掛けているような,小さなメーカーはそうではない。そもそも名前も知られていないものも数多くあり,そうしたタイトルをアピールする場というのは必要だ。もちろん,小さなデベロッパでも,SNSなどを駆使して,直接メディアやゲーマーにアピールするノウハウは必要になってきており,今後はそうした発信力の高さが求められていくだろう。

 以前のような,肌で感じられるようなお祭り騒ぎが過去のものになりつつあるのは筆者としては残念なことだが,幸いにもヨーロッパでは,ドイツのgamescomに負けじと,パリ,ロンドン,ミラノ,ストックホルム,ポズナン(ポーランド)などの都市単位でGame WeekやGame Arenaと称したファン向けイベントは存続しているし,E3も2023年にはコンベンションセンターでの開催を念頭において準備を進めるという。デジタルとの差別化を図る上でも,現地での体験に特化するというのは間違ってはいないはずだが,出展を引き受けるパブリッシャたちが満足できるような内容やスケールになるのかどうか,注目しておきたい。

著者紹介:奥谷海人
 4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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