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岡本吉起氏が語る“ゲーム×投資”。Clubhouse上で行われたトークセッション「岡本吉起さんに聞いてみた」をレポート
岡本吉起氏 |
落合一樹氏 |
当日はゲームプロデューサーにして公益財団法人日本ゲーム文化振興財団代表理事であり,現在はマレーシアに拠点を置いて活動する岡本吉起氏と,ゲーム業界の法務を専門領域とするTMI総合法律事務所の落合一樹氏が招かれ,Clubhouseモデレーターのさーや氏の進行のもと,“ゲーム×投資”をテーマにトークが行われた。本稿ではその模様をお届けする。
なお本稿はClubhouseの規約に則り,登壇者全員の掲載許諾および完成記事の確認を行った。また当日のリスナーにも,取材経緯の告知が行われている。
一般社団法人 ゲームカルチャー協会 公式サイト
公益財団法人 日本ゲーム文化振興財団 公式サイト
ゲーム業界に幸せにしてもらったので,ゲーム業界の後輩に投資するのが目的
岡本氏が代表理事を務める日本ゲーム文化振興財団は,ゲームクリエイターに対して資金の援助支援を行う公益財団法人だ。同団体が実施する「ゲームクリエイター助成制度」では,年1回の募集によって35歳以下の若手ゲームクリエイターを募り,所属する委員の選考を経て,1件あたり最大200万円の助成額を支援している。またゲーム文化の振興に寄与することが目的とのことだ。
この制度について岡本氏は,「リターンを求めない無償の支援」ということを強調し,またゲームクリエイターを育てたいという強い思いがある中で,「国がゲームを文化として認めていないから,我々民間がやるしかない」というのが,この事業を始めた理由だと岡本氏は説明した。
こうした事業を行ってほしいと考える人はたくさんいて,もっと若ければそれを進言していたかもしれないが,自身が相応の年齢となり,資金も貯めることができたため,自分がやってもいいと思ったのが始めるきっかけとなったとのことだった。
同団体が行う支援は「投資」ではなく「寄付」であり,支援者に対してリターンは求めていない。岡本氏はこれを,「ゲーム業界への感謝の気持ち」と述べている。愛媛の高校を卒業後,大阪のデザイナー学校からゲームメーカーに入ってから約40年,余生を暮らすために十分なお金を稼ぐことができた。しかし現在の日本はクリエイターが育つ土壌がなく,若者が日々の生活費を稼ぐために,やるべきことができないジレンマに陥っている。そこに「ゲーム作りに特化できる1年間があってもええんちゃうの」というのが岡本氏の思いだそうだ。
岡本氏は「後輩が育たなければ,この後の日本はきっと面白くない」と続け,自身はゲーム業界に育ててもらって幸せになれたので,そのゲーム業界にお金を出して後輩のゲームクリエイターを育てるために立ち上がった,というのがこの活動の最大の目的と話していた。
トークに参加した落合氏は,実は岡本氏が過去に在籍していたカプコンの「逆転裁判」がきっかけで弁護士になったそうだ。「ゲームに夢を抱かせてもらった」という根本の部分は岡本氏と同じで,そのゲーム業界をサポートする弁護士として活動している。岡本氏は落合氏に「人差し指を突き出して,『異議あり!』と言ってもらいたい」と要望を出したが,「その夢は抱いているけど,ちょっとまだ裁判官の前でやる勇気はないです」と苦笑いで返していた。
手にしたお金をすべて自身の感性を磨くために投資した
「投資というのは,業界分析に基づく未来予測である」ということを前提に,このセッションのタイトルを付けたという落合氏だが,岡本氏の返答は「投資に関しては,超ど素人なんです」と意外なものだった。しかし「でも外したこともほぼないんです」とも言い,自身のことを「本能型」と語った。
岡本氏によれば自分はゲーム屋であり,いいゲームや面白いゲームという前に,まず「売れるゲーム」を作ると決めていて,これまでも何が売れるゲームなのかを常に研究してきたとのこと。投資先はゲーム業界に限定していて,他社のゲームがリリースされたときは研究のためにすぐに触り,絶対に売れるゲームを見つけたときに全力で投資をしてきたそうだ。
岡本氏は古い友人に「お金持ちになりたい」と頼まれ,「(ゲーム会社に投資をする)株をやれ」と勧めたという。岡本氏が面白いというゲームを探して,友人もプレイして面白いと思ったゲームの会社に投資し,さらに面白そうなゲームが出てきたらそれまでの株を売って新たに投資するということを繰り返し,300万円の元手を4年半で8.5億円まで増やした実績があると話していた。
現在の活動はそれと同じで,ゲームクリエイターとしての長い経験の中で何が売れるかの嗅覚は持っていて,さらに自身も売れなかったゲームを作ったことがあった経験も手伝い,ある程度長期的な目で判断することも身に付けたという。数字は見ないので,すぐに値段の上がる株がどれなのかは分からないが,これだという感性で買った株は半年から1年にかけて必ず上がったそうである。
何がどう売れるのかを研究するために,ゲーム以外でも売れた物はすべて買っているそうで,1990年代後半にスニーカーがはやった頃は,なんと1600足を買って,なぜ売れたのかを研究したとのこと。
岡本氏自身は「感性が鈍く,アンテナが低い」と自己評価をしているそうで,それを補うためにひたすらその中に飛び込んでいくという手法で感性を磨いていたという。そのために貯金はなく,手にするお金はすべて自分に投資したのだそうだ。
さーや氏が「何がきっかけで感性が鈍いことに気づいたか」と質問すると,岡本氏は若い頃はみんなが気づくことに気づけないほど感性が鈍い少年で,本を読んだり映画を観たりして泣くこともなく,みんなが旨いと言って食べるラーメンの味もすべて同じに感じる。それが子供の頃の最大のコンプレックスだったという。
落合氏が「ゲームに対しても感性が鈍いという理解なんでしょうか」と尋ねると,岡本氏は「同じです」との返答だった。ゲームにもあまり興味がなく,ゲーム会社に入社するまでゲームセンターにもほとんど行ったことがなかったが,ビジネスに関して理解はしていたそうだ。入社後に過去と現在のゲームを見て,「これを遊んでも,時間もお金も無駄になる。だから時間も金も無駄にならないようなものを作ろう」と考え,「せめてこういうふうに遊べるものがあったらいいな」という思いが,その後のゲーム製作に込められていたと語っていた。
作りたいものが売れるものなら,必ず誰かに届く土壌が現在はある
本対談において,落合氏から岡本氏にいくつかの質問が投げかけられた。
「投資先のゲーム会社を選定するにあたり,どのような基準で判断しているのか」という問いには,岡本氏は「たくさんの判断基準のポイントを,俯瞰で見たときのバランスで取っている」と回答。もちろん厳正に審査をしてそのゲームの悪いポイントは細かく指摘するが,最終的には全体のバランスを判断基準にするとのこと。ただし岡本氏が「これは来る」と思うハードルは結構高めだということも付け加えられた。
「開発資金あればいいプロダクトができる」と考えているスタートアップ系のゲーム会社は,一体どうやって開発費を調達すればいいか,という質問へは,「僕はお金を集めたことがない」と返した岡本氏。言えばお金を出してくれる人がいる環境で常に仕事をしており,一方で「ドツボにはまった」と自虐したゲームリパブリック時代は,誰もお金を出してくれなかったと語っていた。仮に当時どんな素晴らしいものを見せたとしても,恐らくお金は出してくれなかっただろうとのことだ。
実際,「モンスターストライク」を開発するとき会社ごと買ってほしいと何社かにプレゼンをしたときもうまくいかなかったそうで,その理由は岡本氏がカプコンを退社してからの8年半,実績がなかったことが理由と自身で分析したという。むしろ重要なのは「大事なことは過去がないこと」であり,それはちょうど競走馬の仔を買うときに似ているのだそうだ。また競走馬の場合は血統が大事だが,ゲーム業界では代わりに「モック」が大切だといい,Unityで簡単に作ったものでいいので,それを見るべき目を持った人に見せるべきだと話していた。
さらに岡本氏の持論によれば,「ゲームを作るときに守ってほしい4つ」というものがあり,それは「聞いてオモロイ,見てオモロイ,遊んでオモロイ,繰り返してオモロイ」と説明した。その中で資金調達のためのモックに必要なのは「聞いてオモロイ,見てオモロイ」までだそうで,そこさえクリアできれば資金調達は難しくない。それが本当に当たるものなら,必ず投資をしてくれるとのことだった。
では誰に見せればいいのか。気になるのは企業側に資金調達のプレゼンテーションを受け入れる体勢があるかという点だが,落合氏が質問したところ,岡本氏によればそうした体勢は「ない」とのこと。しかし,現在の環境なら2クッション程度の人づてを通せば,誰とでもつながれると考えているという。
実際にClubhouse上で行われたこのセッションに居合わせたなら,岡本氏とは間にクッションを挟むことなくつながれるとも言える。そうでなくても2クッション程度を挟めば大概の人には届くので,その人に向けたプレゼンのためにモックを作るのだと,岡本氏は述べていた。もしその人に決定権がなかったとしても,本当に売れるものなら必ず決定権のある人に届くものなので,それが叶わないのなら,作ったものに金を生み出す力がないのだと考えるのがいいそうだ。
続いての質問は「経営もクリエイターが行う場合,あるいは経営については経営の専門家に任せる場合,どちらがよりゲーム会社にとって適切か」というもの。岡本氏は「どっちでもいい」と答えつつ,小さい会社にいたときは資金繰りの話で銀行に行くことが非常に無駄な時間だったと語っていた。経営もクリエイターがやるべきと思っている人を否定することはないが,「面倒くさいうえに,自分でなくてもできる仕事なので,経営の人に任せた方が会社全体のためになるのではないかと個人的には思う」との返答だった。
岡本氏がゲームクリエイターとして復活を果たした「モンスターストライク」についての話題では,立場上あまり詳しくは話せないと前置きしつつ,想定どおりに売れるものが作れたと自負しているとのこと。岡本氏が持つ「95%の法則」に基づいて,すべてを新しいものとはしなかったと語っていた。新しいものを作るには勉強コストがかかるので,95%の部分は既存の何かをモチーフとし,残り5%で新しい興奮をしてもらう作り方をしているという。
日本のゲーム業界は世界の潮流から遅れつつあるが,何かのきっかけでもう一度世界を引っ張る可能性もある
セッションの締めとして主催者である松岡氏が用意したのは,「今後のゲーム業界の未来予想」という質問だった。
これに対して落合氏は,現在はクラウドファンディングなどの新しい資金調達方法が確立されているので,スタートアップ系のゲームデベロッパにはそうした手法を含め,さまざな資金調達法があることをもっと知ってほしいと述べていた。より豊かなゲーム開発環境を整えるための方法があるので,それを活用し,自分のような誰かの人生に影響を与えられるようなゲーム作品が出てきてほしいとのことである。
一方で岡本氏は,「現在の日本のゲーム業界は孤立しつつあって,世界の潮流から遅れている」と語った。その昔は先頭を走っていたことがあることが,さらに遅れる予感がするとのことである。
今後コンシューマやアーケードのゲームは潮流から外れ,市場はよりスマートフォンゲームに移行していくとというのが岡本氏の予想だ。その中で,日本のスマホゲームはまだ通用しているが,近年は開発コストが非常に高くなっていることに危機感を感じているとのこと。岡本氏がかつてスマホゲームに夢を感じたのは,少額投資でもリターンを得られると思ったからであり,現在のような高コストをつぎ込む方向性には違和感を覚えているという。
また岡本氏によれば「eスポーツにはまだ日本にも金脈がある」という。日本人がオリンピックの陸上短距離で金メダルを取るのは難しいが,eスポーツなら金メダルを取れる。若手がゲームで世界に立ち向かい,頂点を目指せる時代の到来を感じているといい,それはプレイヤーのみならず,ゲーム開発者も同じだそうだ。マーケットには,まだほじくれるところがたくさんあり,「何かのきっかけで日本がもう一度世界を引っ張る可能性がゲーム業界にはある」とトークを締めくくった。
約1時間のセッションながら非常に密度の濃い内容だったが,岡本氏は「まだまだ話し足らない」とのことなので,また同様の機会を設けたいということだった。岡本氏自身もClubhouse内で情報発信を行っており,また松岡氏が代表理事を務めるゲームカルチャー協会も,土曜の13:00(未定)を目安に,ゲーム業界関係者との刺激的なClubhouse対談を企画していくという。岡本氏の話をもっと聞いてみたい人や,今回のような専門家とのコラボレーションに期待する人は,岡本氏を始めとした今回のトークセッション登壇者のアカウントをフォローしておくといいだろう。
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