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ドレスデンのドイツ連邦軍軍事史博物館で,中世から現代までの軍事にまつわるあれこれを堪能してきた
過去,「ムンスター戦車博物館」や「コブレンツ軍事技術博物館」など,ドイツの軍事博物館に取材を行ってきた4Gamerとしてはここを素通りするわけにはいかない。
ということで,さっそく行ってきました。歴史的な建築物が立ち並ぶドレスデンの街は,何やらクリスマスで盛り上がっていたが,筆者には関係ない。
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お目当ての軍事史博物館は,ドレスデン中央駅からトラム(路面電車)で北に20分程度のところにある。最寄り駅は「シュタウフェンベルク通り」で,この名前はヒトラー暗殺計画の中心人物だったクラウス・フォン・シュタウフェンベルク伯爵にちなんでいる。日本でも,映画「ワルキューレ」などでご存じの人も多いのではないだろうか。
博物館は2011年に大規模な改築が行われたばかりで,まだ新しい。掲載した写真のように建物の外観は非常にユニークで,クラシックなデザインと前衛的なデザインが融合したような感じだ。こうした設計思想は,連邦議会議事堂など,ドイツのほかの公共建築物にも共通している。
金属の構造物は19世紀の建物を切断するように設置されている |
軍事史博物館のお隣は,ドイツ連邦軍の基地。見学は無理だった |
中世から現代まで,戦争に満ちたドイツ史の流れを知ろう
この博物館は,大きく分けて2つの区画から成り立っている。まず,照明を抑えた旧館では,1300年代から現代までのドイツ地域における戦争や軍事技術に関する資料が展示されている。普通「博物館」と聞いて想像するのは,こちらのほうだ。
戦車などの兵器の展示が主体の軍事博物館とは異なる,ドレスデンの大きな特徴は,社会的,文化的側面から見た軍事技術の変化や,ドイツ史の推移を説明している点だ。そのため「軍事史博物館」の名が付けられている。
兵器の展示に加えて,兵器にまつわる史料や社会背景が(ドイツ語と英語で,という点が日本人にはつらいが)丁寧に説明されているのだ。
活版印刷術の普及により,勝敗速報を兼ねた会戦の布陣図も各地に広まっていった |
こちらは,創傷の種類について書かれた医術書。見るだけで痛そうなイラストだ |
それにしても,中世から近世にかけての展示を回っていて強く感じるのは,ドイツ史がいかに大規模な戦争に満ちているかだ。16世紀の農民戦争や17世紀の30年戦争,そして18世紀のオーストリア継承戦争,七年戦争などは,それぞれの戦争をテーマにした博物館が建ってもおかしくない。
だが,この軍事史博物館では各出来事の展示は比較的あっさりと済まされていて,それがかえって凄みを感じさせる。しかも訪問者の多くは,この先に待ち構えているのが,ナポレオンに対する諸国民戦争,ドイツ統一戦争,2度の世界大戦など,さらにヘビーな戦争であることを知っている。
1870年の普仏戦争のきっかけとなった,エムス電報事件を知らせる当時の新聞 |
砲弾の改良や弾道学など,科学技術と絡めた展示も見られる |
第一次,第二次世界大戦の展示スペースも,これまでの区画に負けず劣らずボリューム感たっぷりだ。戦車や航空機などの大型展示物こそないものの,パンツァーファウストなどの小中型兵器や各種模型,軍服などが数多く展示されており,まずその量に圧倒される
今から100年前のミラノ万博では,当時最先端の2連装砲塔なども展示されていたらしい |
戦車の館内展示はないが,砲身は複数見ることができる |
館内展示唯一の実物戦車,ゴリアテ |
パンツァーファウスト2基を搭載した,自転車 |
2度の世界大戦で終わりかと思ったら,大間違い。この軍事史博物館は,西ドイツ連邦軍,東ドイツ国家人民軍の展示も充実しており,現代史ファンにとっても嬉しい
テーマ別展示の新館と
数多くの軍事車両が陳列された屋外展示もお忘れなく
展示はまだ続く。中世から現代までを時系列順にたどる旧館に対し,新館のほうは,時を越えてさまざまなものが陳列されている。展示品の数もさほど多くないので,真面目な内容の旧館を回ったあとでは,肩の力を抜いて鑑賞できる。
博物館の外には,東西ドイツの軍事車両も数多く展示されている。
もしドレスデンを訪れることがあれば,ぜひ足を伸ばしてほしい。かつてユネスコ世界遺産にも指定されていた歴史の街,ドレスデンの別の顔が見えてくるはずだ。
さて,クリスマスらしい写真を一枚も載せないのもどうかと思うので,最後に博物館内に飾られていたクリスマスツリーを掲載して,このレポートを締めくくろう。メリークリスマス(棒)。
研究者の目に歴史ゲームはどのように映っているのか。ドイツで行われた軍事史研究会をレポート
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