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国内ゲーミフィケーション業界における今後の展望やカオスマップ作成の経緯などが語られた,日本デジタルゲーム学会のセッションをレポート
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印刷2022/09/30 12:06

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国内ゲーミフィケーション業界における今後の展望やカオスマップ作成の経緯などが語られた,日本デジタルゲーム学会のセッションをレポート

 日本デジタルゲーム学会は2022年9月4日,2022年夏季研究発表大会をオンライン開催した。本稿では,その中で行われた企画セッション「『ゲーミフィケーション業界カオスマップ2022年版』制作と公開の試み」をレポートする。

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登壇者:
セガ エックスディー 片山智弘氏
ゲーム・フォー・イット 後藤 誠氏
日本ゲーミフィケーション協会 岸本好弘氏


ゲーミフィケーション業界カオスマップを制作した背景や目的,概要,今後の課題


 セッションの前半では,片山氏がカオスマップを制作した背景から説明を始めた。

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 ゲーミフィケーションが2010年に一時的に盛り上がり,その後2020年代に入って企業のDX(Digital Transformation,デジタルトランスフォーメーション)化が推進されたり,テクノロジーの発展や顧客体験,社会課題解決分野における関心が高まったりしていることから,再び注目を集めていることを挙げた。
 またアメリカの調査会社・オーシャンズは,2027年にはゲーミフィケーション市場が世界全体で350億ドル規模になる可能性を示唆しているという。

 一方日本国内では,ゲーミフィケーション業界が新興市場として理解されているどころか,そもそも定義すらされていない状態である。片山氏自身も,セガ エックスディーの新規事業としてゲーミフィケーション事業に取り組み始めた当初,業界分析ができず困った経験をしたとのこと。そこで岸本氏や後藤氏の協力を仰ぎ,編集委員会を発足して,カオスマップの制作に取り組むことにしたそうだ。

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 本カオスマップを制作した目的は,以下の2つ。
 
・市場理解を深めて,掲載事業者との取引や協業コラボレーション等により,さらに多くの日本の事業者にゲーミフィケーションを活用してもらうこと

・社会やビジネスにとって未来の予測が困難な現代(VUCA時代)を生き抜く日本の事業者が,自社やサービスの成長促進,およびその先の顧客への価値貢献がより一層促進することや,SDGsを含む社会テーマにおける課題解決の一助になること

 これらの目的のもと集計した結果,計206社が対象となり,全13カテゴリーに分類できたという。

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 そして,次にカオスマップの掲載基準として以下の3つを挙げた。

・日本国内に本社がある事業者であること

・ゲーミフィケーションの上記カテゴリーに分類できるソリューションやサービスを,ホームページ上に価格とともに記載している,または本委員会が有償で提供していることを事実確認できている事業者であること

・本委員会メンバーから本カオスマップの趣旨から疑義がでない事業者であること


 ただしカオスマップは編集委員会が独自に制作したものであり,網羅性や正確性を完全に担保するものではないということも示された。

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 カオスマップを制作するにあたり用いたゲーミフィケーションの定義は,日本ゲーミフィケーション協会の「“ゲーム要素”を活用して(ゲーム外の)やる気を高めるもの」を採用。さらに補足として,調査会社・ガートナーの定義「ゲームのメカニズムを非ゲーム的な分野に応用することで,ユーザーのモチベーションを高めたり,その行動に影響を及ぼしたりする幅広いトレンド」を採用したことも挙げられた。

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カオスマップ制作にあたっての留意点も紹介
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 ゲーミフィケーションを使ったサービスやソリューションを扱う事業者のピックアップ方法も紹介された。それによると,まず「カテゴリー名+ゲーム/ゲーミフィケーション」を組み合わせて検索し,上記のゲーミフィケーションの定義に沿ったサービスやソリューションを集約して一覧を作成したという。
 次に,各サービスやソリューションに特徴となるキーワードを設定し,サービス料金,開発事業者,受託事業者がある場合は一覧に記載。さらにサービス一覧から,上記の定義に沿った事業者をピックアップし,追加/削除を行い,そのロゴデータを確認してカオスマップに記載する事業者を決定していったとのこと。

 本カオスマップ制作の進行は,基本的に制作の主旨をすり合わせたのち,事業者リストを確認して精緻化を行い,ディスカッションで具体的に内容を詰めていったという。

編集委員会運営上の留意点も示された
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 完成した本カオスマップは,大きく「BtoBソリューション」「BtoB受託」「BtoC,BtoBtoC」に分類され,さらに細かく全13カテゴリーに分類される。

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 最後に片山氏は,カオスマップを制作したことにより,浮かび上がってきたゲーミフィケーション業界の市場を発展させるための論点を以下のように示した。

1.特定カテゴリーや分野にも成長ポテンシャルがあるのではないか(日本でも教育分野でゲーミフィケーションがよく使われている)
2.有償ではない事業者事例のコストも入れれば市場規模の試算も可能か?
3.ゲーミフィケーター(プレイ側で盛り上げる人)も市場を作る上で重要なのではないか
4.本カオスマップの制作手法が,海外でも応用できるのではないか


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今後のゲーミフィケーション業界の市場拡大に何が必要なのか?


 セッションの後半では片山氏,後藤氏,岸本氏により,「今後のゲーミフィケーション業界の市場拡大に何が必要なのか?」と題したディスカッションが行われた。
 最初のテーマは,カオスマップの制作にあたって,大変だった論点について。片山氏は「掲載しない事業者の選定」を挙げ,例としてPlay to Earnサービスの事業者に関しては,編集委員会全体で「掲載しない」という方向性で一致したが,具体的な理由は編集委員各自で異なっていたこと,またそもそも掲載しないことが正しいのかどうか検討する余地があったことを紹介した。

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 岸本氏は,日々ゲーミフィケーション事例の収集や研究を行っているが,それでも初対面の編集委員が存在したことを紹介した。編集委員はそれぞれの考え方でゲーミフィケーションを定義しており,編集委員会全体であらためてゲーミフィケーションおよび業界の定義をしたことは大変勉強になったと語った。

 また後藤氏も,編集委員会に参加したことで,ボードゲームにゲーミフィケーションが応用されている事例が多くあり,しかもビジネスになっていることなどを知れたとのこと。そうしたボードゲームを学校教育や企業研修などに応用できるのではないかといったように,考え方が広がったと話していた。

 次のテーマは,編集委員になってみてどうだったかというもの。片山氏は,国内の有識者が一同に会したことにより,一致団結して業界を良くしていこうという強い意志を感じたという。有識者委員会は時にはポジショントークに陥ってしまうこともあるとのことだが,今回はそれがなく,建設的な議論ができたとも述べていた。後藤氏も,普段交流のない人と議論を交わせたことにより,見識が広がったことを挙げた。

 岸本氏は,大手広告代理店出身の片山氏が国内でゲーミフィケーションが費用対効果の指標を作らなければ,ビジネスが成立しないと述べたことに感銘を受けたという。

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 続いてのテーマは,今後の注目カテゴリーについて。片山氏はヘルスケア,DX,幼児向け教育を挙げた。
 それを受けて後藤氏は,今回制作したカオスマップに掲載されている企業のサービスやソリューションには,クライアントとなる企業や自治体に合わせて多少カスタマイズするだけで対応できるものが多いことを指摘。そうしたビジネスモデルにしないと,ゲーミフィケーションをビジネスにするのはハードルが高いと語った。またカオスマップを作ったことにより,企業同士のコラボもやりやすくなるのではないかと展望を述べた。

 加えて後藤氏は,今後の高齢化社会に向けて,政府がヘルスケアなどの分野に資金を出して拡大していることに触れ,そうした助成金を受けられるサービスおよびソリューションに企業が集まっていたり,企業の社会貢献の指標となるCSR(Corporate Social Responsibility,企業の社会的責任)やSDGsにゲーミフィケーションを採用しようとする事例が増えていたりすることも紹介していた。

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 最後のテーマは,本ディスカッションのタイトルでもある「今後のゲーミフィケーション業界の市場拡大に何が必要なのか?(学術界との連携も含めて)」。片山氏は岸本氏が触れた費用対効果の指標を挙げ,「ゲーミフィケーションで社会課題がこれだけ解決できる」「DXにゲーミフィケーションを使うとリテンションがこれだけ変わる」といったことを学術界から裏付けられるといいと語った。
 また後藤氏は自身の経験から学術界とのコラボを挙げ,「企業側から研究費を出して,大学などに研究してもらうと大きなビジネスを狙えるのではないか」と話していた。

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日本デジタルゲーム学会公式サイト

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