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楽しく学べるプログラミング教育とは? 岸本好弘氏が3人の識者を迎え開催した「ゲーミフィケーショントラック2022」をレポート
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印刷2022/11/11 18:30

イベント

楽しく学べるプログラミング教育とは? 岸本好弘氏が3人の識者を迎え開催した「ゲーミフィケーショントラック2022」をレポート

 日本オンライン教育産業協会は2022年11月1日から11月11日まで,「オンラインラーニングフォーラム2022」を開催している。そのイベントの9日目となる11月9日に,岸本好弘氏のオンライン講演「ゲーミフィケーショントラック2022」が行われた。

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 ファミスタの生みの親”として知られる岸本氏は,ナムコやコーエーでゲームデザイナーとして人気作に関わり,現在はゲーミフィケーションデザイナーとして活躍中で,日本ゲーミフィケーション協会の代表も務めている。また,大の「オムライス好き」としてTV出演もしたほど,多才な人物でもある(外部リンク)。

日本ゲーミフィケーション協会 公式サイト


 そんな岸本氏が,3人の専門家と共に行う今回のセミナーのタイトルは,「実践事例! 子ども向けプログラミング教育でのゲーミフィケーション活用」。主に,プログラミングスクール,学校のプログラミング授業などの関係者向けのセミナーだ。

【登壇者】
一般社団法人日本ゲーミフィケーション協会 代表
岸本好弘氏

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株式会社プロキッズ CEO
原 正幸氏

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合同会社ドリーマーズギルド 代表社員
宮城島崇之氏

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立命館小学校 英語科 教諭 / ICT教育部長
正頭英和氏

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 2020年より小学校で必修化されたプログラミング教育は,今後も加速していくIT社会に欠かせないものである。しかし,「プログラミング的思考」には得手不得手があり,うまく教えないと「プログラミング嫌い」を増やしてしまう可能性がある。
 今回の講演は,ゲーミフィケーションを活用した具体的な教育事例を紹介し,これからのプログラミング教育に必要な要素,皆が楽しく学べるプログラミング教育を実現させる方法について,ディスカッションしていくというものだ。

 「ゲーミフィケーショントラック」の開催は今回で5回目となり,4Gamerでは過去の回もレポートしている。ゲーミフィケーション活用に関する理解を深めるため,ぜひ目を通してほしい。


 さて,今回のテーマの根幹にある「ゲーミフィケーション」について岸本氏は,「身の回りのこと(学び)に,ゲーム要素を入れて,─人を楽しくやる気にさせること」と解説し,で楽しいモチベーション・メソッドであり,若い世代と親和性の高いものであると,岸本氏は述べた。
 また,岸本氏が代表を務める日本ゲーミフィケーション協会は,以下の「ゲーミフィケーション6要素」というものを定義している。

【ゲーミフィケーション6要素】
(1)能動的な参加
(2)達成可能な目標設定
(3)称賛の演出
(4)即時フィードバック
(5)成長の可視化
(6)独自性の歓迎

 では,実際にプログラミング指導者たちは,ゲーミフィケーションをどう活用しているのだろうか。今回は,3人のパネリストからそれぞれ話を聞くことができた。

■Minecraft+YouTuberの活用/宮城島崇之氏「コードアドベンチャーのゲーミフィケーション戦略」

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 宮城島氏は,北は北海道,南は宮古島まで,プログラミングスクールを全国で運営している。学習塾運営をしているうち,この分野の重要性に気づき,2021年からプログラミングの全国展開を始めた。

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 宮城島氏が活用する「コードアドベンチャー」は,子供にもなじみ深いゲーム「Minecraft」を使用し,YouTuber「いぬたぬき」氏を主役に立てた,ゲーム仕立ての教材だ。
 とある孤島でプログラミングの研究に勤しむ“いぬたぬき”が何者かに襲われ,研究の要「エナジーコア」を奪われてしまう。プレイヤー(生徒)は,プログラミングロボット“エージェント”を駆使し,残されたエナジーコアを集めるため,冒険に出かける……という物語だ。これをクリアしていく過程で,プログラミングの知識が身につくという構成になっているという。

かなりドラマティックでわくわくする導入。子供たちでなくても惹きつけられる
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 もともと「Minecraft」は,学習要素を取り入れているゲームであり,ほかの教育者の活用事例もあるのだが,まったく知らないゲームよりも,子供たちにとって身近なゲームから始めることで,教育効果が上がると宮城島氏は見込んだとのことだった。

 YouTubeの人気ジャンルである実況チャンネル「ゴラクバ!」のいぬたぬき氏を起用したことも,同様の理由だそうで,まったく知らない大人から教わるよりも,いつも見ているYouTuberから教わるほうが,学習効果は高いのではないかという見立てがあったそう。なるべく現代の子供たち好みのチューニングをした授業を構成している,と宮城島氏は語った。

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 同教室は,岸本氏から説明のあった「ゲーミフィケーション6要素」を大事にしているそうだ。具体的な取り組みとして,実際に現場で使っている「チェックシート」が紹介された。

 生徒は毎回授業でこれを使うのだが,まずは動画を見ずに進めるか,動画を見るかを選んでもらうところから授業を始め,「課題のクリア」「出来たあとすぐ先生を呼んだ」「動画を見て答え合わせをした」「綺麗なコードを組んだ」という4つの項目をチェックする。
 このシートが進行表も兼ねているので状況を可視把握できるうえ,課題をひとつクリアすれば4回褒めてもらう機会がある。まさに「ゲーミフィケーション6要素」の考えが取り入れられているのだ。

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 これらの発表について,岸本氏からは,「たくさん褒める機会を設けることによって,生徒が伸びていく仕組みが素晴らしい」とのコメントがあった。

■ゲーミフィケーション手法の活用/原 正幸氏「オンラインスクールにおけるゲーミフィケーション活用」
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 続いての原氏は,ゲーミフィケーション協会の理事を務めたり,名古屋工業大学で教鞭を執ったりする傍ら,“子供の未来の選択肢を拡げる”ことを目的とした中高生向けプログラミングスクール「プロキッズ」を設立・運営している。オンラインでの小中高生向けプログラミングスクールの先駆けだそうだ。
 ほかにも,オンライン授業のノウハウを生かし,愛知県豊川高等学校でリモートでのデジタル部活動のサポート,大手企業とのコラボイベントも行い,精力的に活動しているとのこと。

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 さて,原氏は,学習効率を上げるにあたり,学習とゲーム要素の関係・割合を重要視しているそうだ。その理由は,学習者のモチベーション,主体性にはばらつきがあるからだそう。モチベーションの低い人でも学習したくなる仕組みを取り入れ,個人に合った学びの形が重要なのだ。

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 主体的で学習効率のよい学びを学習者が獲得できるよう,ゲーム要素のバランスを整え,子供たちのやりたいことを阻害せず認め,失敗を責めず,次の挑戦につなげられるように導くことが必要だと原氏は語る。

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 それだけでなく,個人の学習進度に応じたサポートも重要だ。タイミングよくサポートしていくことで,学習者のアウトプットは増え,じょじょに主体的な姿勢になってくる。主体的な時間が長いほど楽しさを感じられるので,なるべく受け身の時間を短くし,達成感を感じられるように指導を行っているそうだ。

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 具体的には,生徒から「こういうものを作りたい」,「資格を取りたい」,「学校の授業についていきたい」などの目標をくみ上げ,それまでの学習データと照らし合わせ,授業をカスタマイズする。個人のカルテなども作り,細やかなサポートを行っているとのこと。マンツーマンのオンラインレッスン形式という強みだろう。

コンテストなどへの挑戦,世界の子供が参加する発表の機会を設けるなど,「成長の可視化」にも力を入れている
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 また, 社内の仕組みへのゲーミフィケーション活用にも力を入れているそう。例えば授業レポートの記載量を増やすため,打ち込んだ文字数を表示させるシステムを取り入れ,メンターのモチベーションを上げているという。子供に対する教育だけでなく,あらゆるところでゲーミフィケーションは活用できると原氏は語った。

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 原氏の発表に対し岸本氏は,「ゲーミフィケーションはあくまで楽しい手段。子供たちが主体的に学び始めることがゴールで,大事なことだ」と同意のコメントを寄せた。

■公教育での楽しさ/正頭英和氏

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 最後の登壇者は,立命館小学校教諭で,2019年に教育界のノーベル賞と言われる,グローバルティーチャー賞Top10に,日本人教員として初めてノミネートされた正頭英和氏だ。企業とタッグを組み教育を作っていくというEdutainment Educationの代表も務め,いろいろなアプローチで子供の教育に尽力している。

2019年の授業の様子。マレーシアのマハティール首相が見学した
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 グローバルティーチャー賞にノミネートされた具体的な授業内容はゲームを使用したもので,2019年ではまだまだ珍しいことだった。また「Minecraft Education Edition」(教育版のMinecraft)に関しては,2016年ごろから使用しているそうで,かなり長い導入実績を持つ。また,企業との取り組みとして,数々の教育コンテンツを正頭氏は制作している。

 正頭氏がプロデューサーを務めた「桃太郎電鉄 教育版〜日本っておもしろい!」は,2023年4月から,学校向けに無償提供されるそうだ。ゲーム自体を授業に取り入れるだけでなく,作り出しながら教育に生かしていることが説明された。

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 次に,立命館小学校の授業で行った取り組み,「僕たちの街京都を世界に紹介しよう」という学習プログラムの紹介がなされた。これは,PCを使ってプログラムをする,というだけではなく,海外の人々に向けて京都の観光案内をするというもの。
 まず京都の歴史を調べ,実際に調べた場所に出かけ見て学び,それをもとに,「Minecraft」で京都の街を作成する。そして,観光ガイドロボットをプログラムするという,多くのスキルが鍛えられる内容となっている。

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 子供たちには観光客を案内した経験がないので,実際に観光ガイド体験も行い,海外の人からフィードバックをもらう。そして内容をブラッシュアップしていく。それを,ほかのカリキュラムもこなしつつ,1年かけてじっくりと学んでいくそうだ。

 教育を語るうえで一番大事なのはモチベーションだが,今はモチベーションが腐りやすい時代になっている。選択肢が多い時代のなかで,ひとつのことをやりつづけるのは難しい。だからこそ,ゲームを教育に使うということは,ひとつの選択肢として大いにありだが,それはあくまで手段であるのだと正頭氏は語る。
 教育者は,子供の学ぶ欲求の解像度を上げることが重要で,「調べてみよう」「作ってみよう」など,それに合わせた声かけをすることが有効だそうだ。逆に,それらをかなえられる教材が良いものであるとも正頭氏は説明していた。

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 これからの教育は,「表現する」力がもっとも重要になってくる。その土台になるのは思考力だ。プログラミング教育は,プログラマーを育てるものではなく,体験の幅を広げるもの。また,今の子供たちのモチベーションは,物語,人のため,景品(情報含む),アイテム感であるとした。

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この発表を受けて,ゲーミフィケーションがすべてではなく,「子供たちを動かすにはどうしたらいいのかを考え,新しく作り出すことが我々の役目である」と岸本氏は語っていた。

 セミナー後半の登壇者への質問タイムでは,教育者だけでなくメディアからの質問が多数寄せられた。
 中でも印象的だったのは,小学校のIT支援員だという参加者から,「全国学力テストにプログラミングの問題が出たが,試験対策ではプログラミングが面白くなくなってしまう,どうバランスをとればよいのか」という,リアルな現場ならでではの質問だ。

 これについて正頭氏は,「基本的に対策は不要と答える。テスト対策をすることでプログラミングを楽しんで学ぶきっかけになるならそれも良いが,土台は思考力。それが本筋にならないように注意し,長い目で子供たちを見ていってほしい」と述べつつ,「しかし,現場の苦労は重々わかる」と,答えた。

 宮城島氏も「正頭先生の意見に近い」と前置いたあと,プログラミング教育が叫ばれる一因として,今の学歴社会へのカウンターがあるのではないかと見解を述べた。そして,「暗記教育に対して思考力を育てようというものなので,旧教育的なやりかたでは本末転倒。特に中学生くらいまでは,楽しんで学ぶことが大事で,無理して対策をすることはないと思う」と,コメントした。

 原氏は,「今のプログラミング教育の目的と,テストという形式のちぐはぐ感を感じる。子供たちが自由に考え,試行錯誤して問題解決まで進んでいくというやりかたは,テスト以外の方法で広まっていく必要があるだろう」と,教育の仕組みに関しての意見を語った。

 最後には,岸本氏と登壇者のパネルディスカッションが行われたので,その内容を掲載し,本稿の締めとしよう。

――ゲーミフィケーションを知ったきっかけは?

宮城島氏:
 もともとゲームが好きで,ゲームの要素を取り入れる考えかただということは知っていた。プログラミングスクールの普及を考えたときに,ゲーミフィケーションが適していると考え,学ぶことにした。

原氏:
 子供たち向けのイベントを開催したとき, micro:bit(イギリスのBBCが主体となり制作された教育向けのマイコンボード。 日本でも普及が進んでいる)を使って,ゲーム要素を盛り込んだイベントを開催したときに手ごたえを感じた。

正頭氏:
 マインクラフトに子供たちが夢中になる姿,これが教育に有効だという肌感覚を,もっと多くの教員に伝えたいと思った。当時はマインクラフトを誰もが遊べるような環境ではなかったが,このエッセンスをつかんで届ければ応用が効くのでは? と考えていた時にゲーミフィケーションに出会った。

――行ってきたトライ&エラーは? 失敗談などもあれば教えてください。

正頭氏:
 失敗したことは,大きく分けてふたつ。ひとつは「優勝を競わせること」。競わせると,早い段階でやる気をなくしやすい。ご褒美は後出しのほうが良いとわかった。
 もうひとつは,教育コンテンツに寄せすぎて失敗したこと。ゲームからスタートしたはずなのに,プリントを出したり,あれもこれも教えなきゃ……と教師側がコントロールしたりといった時間が長いと,あまりよくない。

原氏:
 生徒がアウトプットを出している時にモチベーションが上がることを経験した。そのため,アプトプットをし始めたら生徒を止めずに待ってあげることが大切。

宮城島氏:
 小学校低学年の子供たちの行動特性を理解するのが難しかった。たとえば,その年代の多くの子供たちは,ものを貰うことにそこまで価値を感じていないので,競わせて報酬をあげるような取り組みにはあまり前向きにならない。コンテストの参加賞,入賞者のためのプライズ,とふたつ用意すると良かった。もうひとつは,プログラミングの先生へ教育するとき,いかにゲーミフィケーションの要素を学んでもらうかについて。実は今も試行錯誤している。

――みんなが楽しく学べるプログラミング教育を実現させる方法とはなんだと思いますか。

宮城島氏:
 「自分が」楽しく学ぶこと。実際にやってみることしかないと思う。

原氏:
 学習者が主役だということを間違えないこと。 生徒の学びを支えるのが教育。

正頭氏:
 「楽しく学べないプログラミング教育」の実例集を作り,それらをやらないことだと思う。

「オンラインラーニングフォーラム2022」公式サイト

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